ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/02/10(木)22:34:07 No.895800431
早朝。山間から太陽が顔を覗かせ、斜面やその間に漂う雲などを照らしています。 ツンとするような冷たい空気の中、色づく山々を崖から眺める一頭の馬がおりました。 名をマカヒキといい、若い頃はダービーを勝ち、年を重ねても走り続けたことで有名でした。 今はもう引退したとはいえ、朝日に照らされる体はツヤツヤと輝いています。 太陽がその丸みをハッキリと見せるまで登ったのを認めてから、マカヒキは森の中へと歩いてゆきます。 木々の間を通り抜けて、緩やかな坂を下ったところには大きな丸太小屋がありました。 その扉を開け、馬の彼でもでも十分広い廊下を進むマカヒキ。 彼が横切る壁際には大きなキャビネットがあり、たくさんのトロフィーが並んでいます。 「日本ダービー」、「菊花賞」、それに「有馬記念」...... 身を滑り込ませた開きっぱなしのドアの先には、ベッドで眠る女の人がいました。 「人」といっても、その頭にはマカヒキと同じ形の耳があります。 マカヒキは愛おしそうに顔を近づけ―― 「ダイヤくん、朝だよ」
1 22/02/10(木)22:34:20 No.895800511
そう言って鼻先で彼女の体を揺らしました。 ダイヤくんと呼ばれた女の人は寝返りを打って少しもぞもぞと動いた後、ゆっくりと起き上がります。 「おはよ......マカヒキくん♪」 マカヒキの頭を一撫でして、ダイヤはそのまま軽くキスをしました。 早起きなマカヒキが毎日こうして起こしにくるのは、ここで住むようになってからずっと続いています。 それぞれ競走馬と種牡馬から引退した後、牧場を抜け出して二人は一緒に暮らすようになりました。 人間の女性として生きることにしたダイヤは時折人里に降りてお金を稼いだり、山にはない物を持ち帰ったり。 馬のマカヒキは山を散策したり、力仕事を手伝う事が多いようです。 そしてこの日、一月二九日は二人にとって大切な記念日なのでした。 「それじゃあ行ってくるね、マカヒキくん。今夜はお祝いだね!」
2 22/02/10(木)22:34:36 No.895800611
お互いの誕生日が近いので、その間の日である今日でいっぺんに祝う事にしたのです。 おみやげをたくさん買ってくるのでしょう。 車に乗ったダイヤは窓から身を乗り出してそう挨拶をすると、山を下る道を降りてゆきました。 マカヒキは車が見えなくなるまで見送り、そして反対に、山を登る道へと駆けてゆきました。 (せっかくのお祝いの日、僕もなにかダイヤくんに贈りたい) そう、マカヒキには考えがありました。いつしか鳥たちが話していたのを聞いた「山頂の花園」の噂。 そこには色とりどりの花が一年中咲いているといいます。 きっといい贈り物を持って帰れる、そう思ったマカヒキはダイヤに内緒で山のてっぺんを目指すのでした。 * * * まだ肌寒い森の中を走っていたマカヒキは、さっそく問題に直面しました。 ほとんど絶壁と言っても良いような斜面が行く道を阻んでいるのです。
3 22/02/10(木)22:34:49 No.895800692
「やあ、お困りかな?」 振り返ると、大きな角のある白い山羊がそこにいました。 「山の頂上に行きたいのに、この斜面に阻まれてしまったんだ」 「それなら儂が登り方を教えよう。こんな壁みたいなのも案外登れるものだよ」 すると山羊は目を見張るような動きで斜面を登ってゆきます。 山羊のアドバイスを聞きながら、わずかな凹凸を頼りにマカヒキも壁にとりつきました。 「こ、こうかな......あ、うわーっ!?」 何度か落ちてしまいましたが、なんとかマカヒキは登りきることができました。 鹿毛の馬体には、少し傷が見えるようです。
4 22/02/10(木)22:35:00 No.895800754
二頭が山頂を目指す道を歩いていると、今度は目の前に川が現れました。 山羊によるとここを渡るのが近道らしいのですが、今日は流れがとても強いようです。 「これでは泳いで渡れないぞ」 「なら僕の背中に乗るといいよ。そんなに深くないみたいだし、足がつくと思う」 背中に山羊が飛び乗ると、マカヒキは川へと入ってゆきます。 水の冷たさに耐えながら、流されないように一歩一歩、確実に踏みしめてゆきます。 白い息を鼻から吐きながら、一歩一歩。 途中背中まで水位がやってきたので、山羊はマカヒキの首まで登る必要がありましたが、無事に向こう岸にたどり着きました。 * * *
5 22/02/10(木)22:35:10 No.895800820
二頭はそれからもいくつか崖を越えたり、時には迷いながらもなんとか山頂の近くまでやってきました。 マカヒキが出発したころにはまだ東に低く構えていた太陽は、西で朝焼けとはまた違った色で空を染めています。 そしてマカヒキは山羊ともう一つだけ丘を越えました。 「わぁ......!」 そこに広がっていたのは、冬の日とは思えないほど一面に咲き誇る色とりどりの花。 白、紫、赤が、夕焼け空と合わさってとても綺麗だとマカヒキは思わずにはいられませんでした。 さっそく花園へと駆けこんだ彼はじっくりと品定めをし、満足げに笑いました。 「色が良い!......それに味も良いや」 「それで、これをどうするんで?」 むしゃむしゃと花を口に含むマカヒキに山羊が問いかけます。
6 22/02/10(木)22:35:22 No.895800895
「そのまま持って帰えるより、レイにしたいな」 自分の名前の由来があるハワイに伝わる首飾り。 この花で作ったレイを首にかけるダイヤの姿を思い描きながら、マカヒキはそう答えました。 しかし、どんなに引き抜いた花を結び合わせようとしても、彼の口ではうまく編むことができません。 「もっと簡単だと思ったのにな......」 山羊も試しましたが、やはりダメでした。このまま帰るわけにもいかず、二頭はうんうん唸って悩みます。 すると、さっきまで静まり返っていた花園の上を何かが横切りました。 「ありゃ、花がいっぱい咲いているから春だと思って出てきたのに」 冬ごもりがら目覚めてしまった燕でした。 山頂の上をぐるりと飛んでから着地した燕に、マカヒキが駆け寄ります。
7 22/02/10(木)22:35:33 No.895800967
「どうか僕のためにこの花で首飾りを作ってほしい、大切な人に贈りたいんだ」 話を聞いた燕は二つ返事でマカヒキたちが持ってきた花を、どの色がいいか注文を聞きながら器用につなぎ合わせてゆきます。そして日がほとんど沈み、夜が訪れる頃。 「はい、完成したよ」 ちょうど人間が首にかけるのにちょうどいい大きさのレイができていました。 いつしか本で見たハワイの花とは少し違うけれど、大輪の花を連ねたそれは文句のつけようがありません。 「すごい......ありがとう!ダイヤくんもきっと喜ぶよ!」 「いいってことよ」
8 22/02/10(木)22:35:48 No.895801051
マカヒキはレイを噛んでしまわないように唇でくわえ、そろそろ家に戻ろうと思いました。 しかし不幸なことに、変わりやすい山の天気がそれを許しませんでした。 北風がやってきたのです。 雨雲を引き連れた北風は花園を一瞥すると、手に持った革鞭をひゅう、と打ち鳴らします。 冬らしからぬ一面の花に許せないものを感じたのかもしれません。 痛いほど冷たい風が吹き、雨雲は雹を降らせました。 花園には隠れられるような岩や木はまったくありません。 マカヒキはとっさに、燕と山羊をかばうように体を寄せました。 無愛想な顔つきの北風は山全体を見下しながら、何度も握りしめた革鞭を打ち鳴らします。 ひゅう、ひゅう、ひゅひゅう。 風は次第に強くなり、飛ばされないように燕と山羊は必死でマカヒキにすがりつきます。 体に打ち付ける大粒の雹に耐えながら、マカヒキなんとかレイを失わないように前足で押さえつけました。 「やめてくれーっ!」
9 22/02/10(木)22:35:59 No.895801119
必死なマカヒキの叫びも北風には届きません。 だんだんと鬣も凍り付いてゆき、息をするたびに喉が痛くなります。 もう自分たちではどうしようもないと悟り、いつしかマカヒキは泣き出してしまいました。 そんなマカヒキたちを、雲の隙間から月が見ていました。 山のてっぺん、空に近いここだから気づいたのかもしれません。 可愛そうに思ったのか、月はめいいっぱい光を放ちます。 光は雨雲を切り裂き、雹が止まります。 突然の事に恐れをなした北風は西へと逃げてゆきました。 「止まった......?」 体を起こしたマカヒキは状況が理解できませんでしたが、ふと下に目をやるとそんなことも忘れて安心にため息が出ました。 彼の前足はしっかりとレイを押さえていたのです。
10 22/02/10(木)22:36:10 No.895801189
また天気が変わったらいけない、とレイをくわえたマカヒキは仲間たちと足早に下山を始めました。 すっかり晴れた空には、静かに月が巡るばかりです。 * * * 「マカヒキくん......どこ行っちゃったんだろ......」 すっかり夜も更け、ダイヤが帰ってきてからかなりの時間が経ちました。 心配になった彼はもしかしてマカヒキがもう帰ってこないのかもしれないと、ひどく心配しています。 懐中電灯でも持って山に探しに行こうと思ったその時。 扉がぎぃ、と開いたのをダイヤは聞き逃しませんでした。 不安そうな顔はぱっと笑顔になり、足早にドアへと向かいます。 「マカヒキくん!?」
11 22/02/10(木)22:36:21 No.895801255
たしかにそこに立っていたのはマカヒキでした。 しかし、いくつもの生傷と泥に覆われたその姿にダイヤの顔はまた心配の色を浮かべました。 どこに行ってたのとか、どこでケガしたのかなど、出かかったいくつもの質問はマカヒキが差し出した物により遮られます。 「これを......」 口にくわえた、可愛らしい花の首飾り。それが何なのかを知らないダイヤではありません。 「......私のために?」 「似合うと思って、えへへ......」 事情を聴かなくても、このプレゼントのためにマカヒキがいくつもの困難を乗り越えてきた。 その事を理解したダイヤの目にはじわりと涙が浮かびました。
12 22/02/10(木)22:36:33 No.895801319
「マカヒキくん......ありがとう......!」 まだ鬣が濡れたままのマカヒキにダイヤは抱き着きます。 「ありがとう......でも、もう自分だけで危ない事はしちゃダメだよ?」 「ごめん......こんなに大変だとは思わなくって」 「もう、大好き」 「僕も大好きだよ、ダイヤくん」 しばらく二人はそうやって安堵と、互いを大切に思う気持ちに浸りました。 「こんなに汚れてちゃ、ごはんの前にお風呂入らなきゃだね」 「ふふ、洗ってあげるよ」
13 22/02/10(木)22:36:45 No.895801381
そう言うと、二人はお風呂場のある家の奥へと消えてゆきます。 大事な記念日は今年も無事に祝えそうです。 あの日から、トロフィーを並べたキャビネットには新しいものが並びました。 それは立派なフォトフレームに入ったマカヒキと、かわいらしレイを首に下げたダイヤの映った写真でした。
14 22/02/10(木)22:37:34 [s] No.895801654
ほんとは29日に投げたかったけど間に合わなかったやつ おまけ付き全文: fu792906.txt
15 22/02/10(木)22:39:58 No.895802545
ウワーッ!なんか凄いのが来てる!
16 22/02/10(木)22:40:21 No.895802702
力作なマカダイ!?
17 22/02/10(木)22:40:25 No.895802727
大作!
18 22/02/10(木)22:40:34 No.895802775
謎の世界線来たな…
19 22/02/10(木)22:40:41 No.895802810
童話的なマカダイだ…
20 22/02/10(木)22:41:15 No.895803053
こんな童話子供に見せられねえよ!
21 22/02/10(木)22:42:37 No.895803569
>こんな童話子供に見せられねえよ! ほのぼのしてるのに…
22 22/02/10(木)22:42:54 No.895803696
もしやこれは京都記念に勝つサインでは?
23 22/02/10(木)22:42:57 No.895803715
よかった健全なマカダイだ… > fu792906.txt ウワーッ!ウワーッ!!
24 22/02/10(木)22:43:27 No.895803902
ウワーッ!ヤッてる!
25 22/02/10(木)22:43:53 No.895804061
凄い良かった 何が良いのか混乱してるけどとても良かった
26 22/02/10(木)22:45:26 No.895804620
マカダイは童話
27 22/02/10(木)22:45:46 No.895804732
一月二九日は奇跡の日なんだね
28 22/02/10(木)22:46:01 No.895804830
>一月二九日は奇跡の日なんだね del。
29 22/02/10(木)22:46:10 No.895804878
>一月二九日は奇跡の日なんだね del。
30 22/02/10(木)22:47:37 No.895805410
言葉狩り来たな…
31 22/02/10(木)22:48:12 No.895805653
imgはダイヤちゃんのpixiv
32 22/02/10(木)22:50:15 No.895806379
童話で濃厚に愛し合っちゃダメだよ!
33 22/02/10(木)22:51:21 No.895806795
>童話で濃厚に愛し合っちゃダメだよ! いいだろ?ダービー馬だぜ?
34 22/02/10(木)22:51:46 No.895806951
純愛だから許すが…
35 22/02/10(木)22:52:18 No.895807141
だからなんでマカヒキは馬のままなんだよ!
36 22/02/10(木)22:52:40 No.895807276
神話きたな…
37 22/02/10(木)22:53:14 No.895807474
もう夢小説というか何というか…
38 22/02/10(木)22:53:35 No.895807612
良い話だったな…
39 22/02/10(木)22:54:04 No.895807776
本当はうまぴょいおとぎ話
40 22/02/10(木)22:55:09 No.895808114
私はダービー馬ではありませんがサトノダイヤモンドと一緒に森の中の丸太小屋に住みたいです
41 22/02/10(木)22:55:34 No.895808258
>人間の女性として生きることにした (なんで…?)
42 22/02/10(木)22:55:43 No.895808308
教科書に載る過程で最後らへんが省かれたんだろう