虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    22/02/06(日)22:55:11 No.894526464

    「なあーちょっと見てくれよ!」 部屋のドアが軽快に開閉したかと思うと、ウオッカの浮かれた声。 予習中でノートに目を落としたままのダイワスカーレットは、呼びかけにため息をついた。 こういう声色の時は決まって『カッケェ』なものに関する時だ。 それがバイク雑誌か、ヤンキー入ったアクセか。 とにかく、こちらの感性にはまるで合わないものに違いない。 「……何?こっちは今勉強中なんだけど」 「いいからこっち見ろってば」 「もう……」 これ以上食い下がられても面倒なので観念し、ダスカは向き直り── つい反射的にポカンと間抜けに口を開けてしまった。

    1 22/02/06(日)22:55:25 No.894526566

    何やらわざとらしいキメポーズを取るウオッカ。 その服装は体格がしっかりと分かるスリムなメンズスーツだったのだ。 「……ホストのバイトでも始めたの?」 「バカ、ちげーよ」 バカとは何よと切り返しそうになるダスカ。 が、格好の理由が気になり思い止まって視線で答えを促す。 「ほら、俺ってなんかバレンタインにチョコいっぱいもらえるだろ?  で、フジ先輩とかオペラオー先輩とかの同じくやたらモテる人らと揃って  今年はこの格好で受け渡し会開こう、みたいな話になったんだよ」 なるほど、明るい焦げ茶色のそのスーツはチョコのイメージらしい。 だとすれば赤のネクタイはリボンだろうか。 「正直、受け渡し会自体はめんどいし恥ずかしーんだけどよ。この服はカッケェーだろ!」

    2 22/02/06(日)22:55:42 No.894526682

    「……そうね」 やっぱりの『カッケェ』に呆れながらも、ダスカはそこは素直に認める。 スレンダーな体型はメンズスーツとしっかり噛み合って仕立ての品の良さを際立たせているし、 自然な着崩し方も男性的な魅力を出すのに一役買っている。 正直、本当に男で街中で見かけたならしばし注目してしまうだろう。 「様になってるじゃない」 「よっしゃ!手厳しいお前がそう言うなら間違いはねえな!」 グッと拳を握って破顔するウオッカ。 自分のコメントにそんなリアクションを取られ、 なんだか照れ臭くなったダスカはぷいと目線を逸らす。 「──あ」 そしてその目が時計を捉えると、書きかけのノートを閉じた。

    3 22/02/06(日)22:55:57 No.894526798

    「ん?予習中だったんだろ?」 「今日はもうおしまい。取り寄せ頼んどいたアロマオイルを引き取りに、街に行かなきゃ」 「んじゃ、俺も行く」 「ハア!?なんで!!」 「当日動きやすいよう、ある程度着慣らしとけって言われてんだ。  なら部屋でジッとしてるより歩き回った方がいいだろ?」 けど一人で歩いても退屈だしな、と付け加えながらウオッカは早くもドア前に行く。 そして「行こうぜ」と親指を立たせてドアを指す。 「あ~~もうっ!支度するから待ってなさいよ!」 なんでそっちが仕切ってんのよと思いつつも、ここでゴネて出遅れることを危惧し ダスカは忙しくなく外出の準備を始めるのだった。

    4 22/02/06(日)22:56:12 No.894526891

    「キャーーッッ!!ウオッカ似合う~~♪♪!!」 「それっ、例のバレンタインのだよね!?」 街へと向かう道中、学園生の黄色い声があちこちから飛んでくる。 「おう!ありがとなっ」 ウオッカがそれに応えると、ますます歓声はトーンを上げて。 「……ウケてるじゃない」 「みんなカッケエーのに理解あんだよな。うれしいぜ!」 「いや、違……わないかしら。微妙なところだわ……」 と、ふいにウオッカは二・三歩先に進んでダスカの反対側に回り、再び歩調を合わせる。 「ウオッカー!今年もチョコ用意しとくからー!」 「ありがとーッス、先輩!」 手を振って応えつつしばらく歩くと、また数歩前に出て反対に回った。 「あ、あの!写真撮ってもいいですか?」 「イベント中に撮影タイムも作るらしいから、そんときまで待っててくれよ」 「分かりました!楽しみにしてます……!」

    5 22/02/06(日)22:56:28 No.894527011

    「ちょっと、フラフラ位置変えないでよ」 「いいだろー別に」 そんなに見せびらかしたいか、と辟易するダスカ。 ──その時、先程スマホで撮影しようとしていたウマ娘達の声が背後から聞こえてきた。 「きゃっ、寒い!ここ風が強くない?」 「建物と建物の間が吹き込み口になってるんだよ」 耳に入ってきた会話。風?そんなの気付かなかった。 どうしてだろう?……あ、そうか。そこを通る時に、そっち側には──…… 「────!!」 ダスカの頭にある推察がよぎった。 ウオッカがまた前に出て位置を変える。建物と建物の隙間が近付くタイミングで。 「……アンタ、ひょっとして壁になって風を防いでくれてたの……?」

    6 22/02/06(日)22:56:45 No.894527134

    「バーカ、そんなんじゃねえよ」 ウオッカはダスカの質問を笑い飛ばすように身を反転させ、真正面から風を受ける。 「この冷たくて勢いのある風、バイクに乗ってる時のと似てんだよなー!  頬からピシッ!と気合が入ってよ、最高だぜ!ギュルルルンッ!ギュルルルルルンッッ!!」 そう言って楽しそうにエアバイクを始め出すけれど。 同室で世間話も口喧嘩も積み重ねたダスカにはすぐに分かってしまう。 その言葉に本音は1割。残りは照れ隠しだということに。 「なら、好きなだけ当たってればー。アタシはごめんだけど。  あ~寒ぅ……帰りに喫茶店でコーヒーでも飲みたいわね。アンタもどう?」 「え、奢ってくれんの?」 「まあね。なんとなくそんな気になったのよ」 本当に、なんでそんな気分になったのかしら。 コイツが変な恰好してるから、こっちまで調子が狂っちゃったのね。 ダスカはそう考えて納得することにした。 そうでなければ、この胸の妙なドキドキは説明がつかない。

    7 22/02/06(日)22:57:00 No.894527229

    それから数日経ったある日。 ダスカは同じ場所を、今度はトレーナーと並んで歩いていた。 冬の寒さはいよいよピークを迎え、身を切るような横風が吹きつけてくる。 「……寒いわね」 ダスカはさりげなく、トレーナーに聞こえるよう呟いてみる。 横目で見る中、トレーナーは深く頷いた。 「ああ。炬燵が恋しくてたまんないよなあ」 「~~~~~~っっ!!!」 パシーーーン!と乾いた音が響き、トレーナーが頬に手を当てる。 つい反射的に、尻尾で顔をはたいてしまっていた。 「でっっ!?」 「バカ!アンタがそんなだから、アタシは──」 そこまで言って、ダスカは口をつぐむ。 ──アタシは、どうだっていうの? なんでアイツの。ウオッカの顔が頭に浮かんでくるのよ……。

    8 22/02/06(日)22:57:16 No.894527325

    自分が分からず立ち尽くすその肩に、フワッとコートがかけられる。 「ごめんな、気付いてやれなくて。風がきつかったんだな」 クリーニングに出すのを怠った、少しよれてるコート。鈍いしまるでスマートじゃないやり方。 ちっとも様にならない。けど、いつも包み込んでくれてるぶきっちょな優しさ。 「もっと、ちゃんとしてくれなきゃ困るのよ……」 アタシがこれ以上、変な考えに引っ張られないように。 ダスカはその言葉を、口に出すわけにはいかずに飲み込むのだった。

    9 22/02/06(日)22:57:58 [s] No.894527585

    おしまい。 後回しにしてた二人の育成を終えて今更ウオダスいいよね…ってなったので

    10 22/02/06(日)22:59:39 No.894528234

    いいね…いい…

    11 22/02/06(日)22:59:43 No.894528257

    ふう…この現場にデジたんがいなくて助かったぜ…

    12 22/02/06(日)22:59:53 No.894528335

    いい…

    13 22/02/06(日)23:00:03 No.894528405

    すごい良かっただけに蛇足感ある

    14 22/02/06(日)23:00:32 No.894528575

    >フジ先輩とかオペラオー先輩とかの同じくやたらモテる人らと揃って > 今年はこの格好で受け渡し会開こう、みたいな話になったんだよ トレセンはホストクラブやないで…