虹裏img歴史資料館

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22/02/05(土)00:30:47 「ん……... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1643988647348.png 22/02/05(土)00:30:47 No.893820060

「ん……こんなものかしら」 早朝。キッチンに立ち、コンロにかけた小鍋の味噌汁の味を見る。私は普段もっと薄味で作るけれど、トレーナーは濃い味の方が好きだから。 大根にお麩、小さく角切りにした豆腐を入れて。お米は炊き上がり、炊飯器からは湯気が昇っていい香りが漂ってくる。だし巻き卵も焦げずに上手くできたし、グリルの紅鮭ももうすぐ焼き上がる。 ここまでは完璧、じゃないかしら。 「いい匂いがするね、アヤベさん」 そんな言葉と共に、後ろから誰かに抱きすくめられた。 腕の太さ、抱きしめる強さ、服越しに伝わる体温、鼓動のリズム。 後ろを向かずとも、声を聞かなかったとしても、今いる場所を考えなくても。それが誰なのか一瞬で分かるようになってしまったのね、私は。

1 22/02/05(土)00:31:06 No.893820166

「ちょっと……起きてたのなら声をかけて、トレーナー」 「ごめんね、アヤベさんを驚かせたくて」 「火を使ってる時は危ないわよ。遊びは他の時にして」 「……はい……ごめんなさい……」 ちょっと申し訳無さそうに、トレーナーは私を抱きしめる腕を放そうとした。けれど私は、その手を握って逃さない。 「もうやってしまったものは、今更仕方ないでしょう」 「もしかしてアヤベさん、ちょっとこういうの期待してた?」 「……時と場所を考えれば、ね」 こんなやり取りをするようになって、もうどれくらい経ったのかしら。私も本当に甘くなったものね。 「ならもう少しだけ……本当にいい匂いだ」 「朝ご飯ならもうすぐ出すから、もう少し待って」

2 22/02/05(土)00:31:23 No.893820265

「違うよ、アヤベさんの髪の香り」 「……莫迦。あなたが使っているトリートメントの香りでしょう」 トレーナーの手を握る私の力が強くなる。そのまま彼の手を自分の顔の前へやって。 「私も、あなたの匂いを嗅ぐと何だか落ち着くの。まるで小さい頃……両親に抱かれて安心していた時のような……」 「うーん、複雑な気分だな」 「褒め言葉よ?」 「アヤベさんには恋仲の気持ちでいて欲しいから」 トレーナーの言葉に、頬が少しだけ熱くなる。 そんなこと当たり前じゃない。私だって、心の中でいつも……。 「ん……」 「何してるのアヤベさん、俺の手に頬を擦り付けたりして」

3 22/02/05(土)00:31:56 No.893820422

「何って、私の匂いをつけてるのだけれど」 「ッ……」 背中に伝わるトレーナーの鼓動が早くなった。 ここまで話していて、トレーナーの顔は一度も見ていない。でも、どんな表情をしているのか、どんな色をしているのか、もう手に取るように分かるようになってしまった。 「何を驚いてるの? 私にだって独占欲ぐらいあるわ」 「いや、その……アヤベさんらしからぬと言うか、なんと言うか」 「昨夜のことを思い出しても、まだそんなことを言える?」 トレーナーの鼓動がどんどん、面白いくらい早くなっていく。 そんな様子がまるでトレーナーを手のひらの上で踊らせているようにも思えて、少し意地の悪い高揚感を覚えてしまった。私も大分、悪い女になってきてしまっているみたい。 「あなた……本当にそれでも年上なのかしら」 「アヤベさんが大人すぎるんだよ……まるで……」

4 22/02/05(土)00:32:10 No.893820495

そこまで言って、トレーナーは口を噤んだ。言おうとしていたことは何となく分かるわ。まあ、同期のトレセン生たちからもよく言われるから。 「ええ、そうよ。私はどうせ小姑みたいな――」 「……新婚の奥さんみたいだ」 「ッ……いきなり、何を言って……」 今度は私の鼓動が早くなる番だった。 そんなことを言われてしまうと、身の回りのものが全てそんな風に見えてしまう。 お揃いで買ったエプロン。 早朝にトレーナーの部屋で朝ご飯を用意する風景。 抱き締められる私と、抱き締めるトレーナーの赤面。 微かに身体に残る、昨夜の熱。 「……そんなこと、言わないで……」

5 22/02/05(土)00:32:29 No.893820604

「嫌だったかな」 「違うわよ、そんなわけないでしょう」 その逆よ。私はトレーナーの腕を強引に解いて振り返る。 そこにいたのは、私が怒っているんじゃないかと思って、少し怯え気味な表情をしているトレーナー。本当にあなたは、ちょっと情けないんだから。 でもそんなあなたを引っ張りながら歩いていくのは、割と性に合っているのよ。同期と一緒だといつも振り回されがちだけど、あなたといる時は自分のペースでいられるから。 「だって、そんなこと言われたら……」 迫る私。一瞬、気圧されて目を瞑るトレーナー。 その隙に首元へと顔を近づけ、静かに痕を残す。瞬間、トレーナーは私の唇の柔らかい感触に、熱のこもった息を吐いた。 「……我慢、できなくなっちゃうでしょう?」 「それはこっちの台詞だよ……」

6 22/02/05(土)00:32:57 No.893820758

耐えきれなかったのか、トレーナーが私を再び抱き締めた。その胸の中に、私の頭はすっぽりと収まる。 私の鼻孔が彼で一杯になる。その陶酔感に少しクラクラとしながら、少し身体をずらして耳を胸元に当てた。 これまでで一番早い音がする。私の下半身を少し押すような感触に、本能に駆り立てられて彼の身体を血液が巡る気配がする。 「……駄目よ、こんな朝方からは」 「ええ……それは、酷いよアヤベさん……ここまでしておいて……」 「どうせ明日も休みなんだから」 私は顔を上げると、追い打ちのように唇を奪う。 どんどん呼吸が荒くなっていくトレーナーの口内に舌を滑り込ませて絡めると、彼は一層深く私を抱き込み、抑えきれない欲をぶつけるように私の口内を蹂躙し始めた。 いつの間にか立場が逆転し、いつもは控え目で私におずおずとついてくるような彼になすがままにされ、私も徐々に身体の力が抜けていく。 普段とは違う、彼に従わされる感覚に、私も蕩けて溺れていく。

7 22/02/05(土)00:33:31 No.893820941

欲求に任せたトレーナーの激しさに、私も理性を失っていって。このまま彼に全てを委ねたなら、どんな世界が見れるのかしら……そんな誘惑に、心が揺れる。 そんな、堕落した蛇の魅惑を、僅かに残った理性で断ち切って。 「……ぷぁ」 私は何とか口を離す。 双方の口元からは長く細く引いた糸が煌めき、トレーナーは熱い視線で私を見る。 「アヤベさん……」 「駄目、だってば」 「我慢できないよ」 「夜まで……夜まで、待って」 「無理だよ、一日中このままは……」 「でも」

8 22/02/05(土)00:34:03 No.893821143

私は再び意地の悪い顔をして、悪い大人と背伸びする子どもが入り交ざったような切ない顔をするトレーナーに誘いをかける。 「これを耐えた後の夜はきっと、これまでの何よりも暑くて……熱帯夜、なんてものでは済まないわね……?」 だから一日かけて、たくさんたくさん、私にぶつける欲情を溜めて。 そして全部、私に頂戴。 そんな想いで見つめると、トレーナーには全部伝わったようだった。 トレーナーは辛そうな、でも陽が落ちたのちに訪れるであろう熱狂を期待するような視線で私を見て、抱き締めていた手を放した。 「……分かったよ。でも……その時は、俺も何をしてしまうか分からないよ」 「ふふ、大丈夫よ……どんなあなたでも、私は受け入れるから」 未だに収まらない互いの呼吸音を耳にしながら。ふと、嫌な匂いが鼻についた。

9 22/02/05(土)00:34:45 No.893821374

「あれ、アヤベさん……この匂い……」 「……あっ!」 慌ててグリルの火を止め、中を見る。そこには真っ黒に炭化した、紅鮭が二つ並んでいた。 「やってしまったわ……」 「ごめん……」 「ううん、忘れてた私も悪かったから……」 仕方ないわね、今日の朝ご飯は品数少なめで頂きましょう。そう、トレーナーに言おうとしたら。 「あのさ、アヤベさん、その」 「なに?」 「お腹、空いちゃいそうだから……夜食、お昼過ぎから食べちゃわない……?」 「何を上手いこと言いながらかこつけて……」

10 <a href="mailto:おしまい">22/02/05(土)00:35:05</a> [おしまい] No.893821500

少し呆れて叱ろうとしたのだけれど。 トレーナーの、甘える子どものような顔を見たら、私も我慢ができなくなってきて。 「……そうね、流石にお昼過ぎにお夜食は早いけれど」 「そんなぁ……」 「でも、その代わりに」 私は、年下にも見えてしまう彼の頭を優しく撫でながら。 「一日かけて……色んなスパイスで、しっかりと味付けをしてあげるから」 私の言葉に、再びトレーナーの瞳と息は期待に熱を帯び始めてしまって。 そんな恋人を優しく抱き締めて、今夜は彼好みの、これまでにない濃い味の料理を囲むことになりそうね、なんてイケナイことを考えてしまった。

11 22/02/05(土)00:35:27 No.893821608

ヒソヒソ…覇王世代…

12 <a href="mailto:s">22/02/05(土)00:35:42</a> [s] No.893821696

アヤベさんって一回心を許して想いを抱いたらどこまでも陶酔して二人の世界に染まってしまうタイプだと思うんだ つまり結婚して毎日甘やかしてあげるから甘やかしてほしい そんなトレーナーに私はなりたい

13 22/02/05(土)00:35:50 No.893821761

大作だな

14 22/02/05(土)00:38:09 No.893822618

覇王世代は爛れてるな…

15 22/02/05(土)00:39:09 No.893822942

アヤベなスケベさん怪文書助かる…

16 22/02/05(土)00:39:17 No.893822990

アヤベすぎる...

17 22/02/05(土)00:44:58 No.893825110

ハ 風

18 22/02/05(土)00:49:38 No.893826734

イチャイチャいいね

19 22/02/05(土)00:50:17 No.893826952

ねっとり甘い…いい…

20 22/02/05(土)00:51:28 No.893827474

>ハ >風 お前だって温泉で囁きプレイしてただろ!

21 22/02/05(土)00:51:33 No.893827521

>「もうやってしまったものは、今更仕方ないでしょう」 >「もしかしてアヤベさん、ちょっとこういうの期待してた?」 >「……時と場所を考えれば、ね」 ちょっとアヤベ過ぎないです?

22 22/02/05(土)00:53:48 No.893828244

>そんな風に見えてしまう。 >お揃いで買ったエプロン。 >早朝にトレーナーの部屋で朝ご飯を用意する風景。 >抱き締められる私と、抱き締めるトレーナーの赤面。 >微かに身体に残る、昨夜の熱。 そんな風に見えるとかじゃなくてこんなんもう新妻じゃん!

23 22/02/05(土)00:54:45 No.893828586

ちょっと意地悪なアヤベさんいいよね…

24 22/02/05(土)00:58:05 No.893829742

「また覇王世代よ...」 「何であれで結婚してないのかしら...」 「むしろ不健全よ...」

25 22/02/05(土)01:06:00 No.893831955

こんなんされて一日も耐えられる自信がない

26 22/02/05(土)01:10:08 No.893833072

この夜はめちゃくちゃ燃えただろうな…

27 22/02/05(土)01:23:10 No.893836267

スパイスって昼間から何するつもりなんですか

28 22/02/05(土)01:38:12 No.893839355

詩的ですごい(小並感)

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