ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/01/26(水)05:57:21 No.890630477
[不定期] 会社から逃げて、幼女に拾われようシリーズ [成分] ・きりゆか ・コッショリ ・年上誘い受け
1 22/01/26(水)05:57:38 No.890630491
目を開く。 薄暗い部屋の中、ぼんやりと見える天井を見上げながら息を吸ってゆっくりと吐き出す。 窓の外から覗く朝日はまだ登りかけている最中で、薄暗い暗がりを割くというよりは染み渡るように明かりをこぼしていた。 辛うじて見える部屋の中に目線を彷徨わせると、私の手を握りながら隣で眠りについている少女が目に映る。 ……まあ、まだ寝ているか。 そんな事をぼやきながら、体を捩って空いている手を少女の頭に手を伸ばす。 彼女の柔らかな髪の毛を手で撫で下ろしながら、寝息に耳を立てた。 すぅ……すぅ……という規則正しい音の感覚を聞いて、目を瞑る。 静かに響く少女の寝息と、手のひらに伝わる温もりを感じながら暫し身を預けた。 躍動するものは心臓だけで、ただ感じるのは呼吸の静かな音の響き。 それだけなのに落ち着く。 他人と居てそう思ったのは何時ぶりだろうか。 少なくとも思い出せる限りでは、家族と一緒に過ごした時以来か。 そんな事を思いながら、静かに意識を揺蕩わせる。
2 22/01/26(水)05:58:01 No.890630511
……眠い。 久しぶりに湧いた気持ちを受け止めて、静かに思考を止めていく。 部屋の中では彼女の寝息と、私の呼吸の音だけが響く。 それが心地よくて、また私は微睡みの中に溶けていくのだった。 ─── 音が響いていた。 耳にとどくというよりは、脳に響くように音の発信点は見つからない。 雑踏の中を歩くような、無秩序に響くなにかの音。 それが人の声だと気がつくのに、酷く時間がかかったような気がする。 何を言っているのかは分からない。 だけど妙に不安で、不快な気分になる。 声の主は誰だろう、そう思うが心当たりは無い。
3 22/01/26(水)05:58:20 No.890630528
……暫く周囲を見渡すが、何かが居るような気配はしない。 そう思って周囲の様子を伺うが、何時もの自分の部屋だ。 外は夕暮れがとうに終わって、深夜の時刻。 寝ないといけないのに、夢に微睡む気分にもなれない。 仕事。 そう明日の仕事の為に体を休めなければいけない、そうだと思った。 だが寝床に浸かろうとすると、不安になるのだ。 脳裏に響く無秩序な声の渦が、私の無能をなじっているような気がする。 そう思うと、明日の出来事が今起きているような気分になった。 仕事にいきたくない。 そんな事を思いながら、静かに座っている椅子の上で身を竦めた。 ……落ち着かない。 ここに居るべきではないような、そんな気持ち。 早く寝るべきなのだろう。 明日も書類整備に、システム導入点検の作業が待っている。
4 22/01/26(水)05:58:43 No.890630542
時計を見れば、時間は既に25時を回っていた。 それでも、気持ちが落ち着かないのは何故だろう。 ……喉が乾いた。 そう思って手を伸ばそうかと思ったが、体が動かない。 その間にも体がじわじわと干からびていく。 ああ……またこの夢か。 そんな事を思い目を瞑ろうとした。 だが瞼は動かない。 夢の制御が効かないのは、私の精神のせいだろう。 理想の自分は海に投げ捨てた筈なのに、それを恨むように根付いた今までの価値観が私を苛み続けている。 仕事をして人の役に立つ、そんな曖昧な自分の中の理想が何時から自分を締め付ける首輪になったのか。 それは分からない。 だがその理想は、果たせないならば死ぬしか無いとばかりに自分の自殺願望を掻き立てた。 何時からか、自分の理想は夢の中でも私を苛み始める。 決まって見るのは仕事の夢、それは理想の自分というものを見つけられず日々終わらない仕事に苛まれる自分の姿。
5 22/01/26(水)05:59:17 No.890630577
……嫌だ。 そう思いながらも身動きも取れずに乾いていく目の感覚と痛みに耐えていると、体が揺れて地面に転げ落ちた。 体を強く打ったはずだが、痛みはない。 そして雑踏の中に響くような声ではなく、少女の声が響いた。 言葉の意味はわからないが、その響きは聞いていると何だか安心する。 気持ちが落ち着くのを感じながら、少しずつ目が閉じていく。 先程までの焦燥感は失せ、穏やかな気持ちが湧き出してくる。 ……目を覚まさないと。 ─── 「ゆかりさん、大丈夫ですか?」
6 22/01/26(水)05:59:37 No.890630592
私の体を揺すっていた少女は、そう言って心配そうに私を見つめている。 何かが這うような不快感を感じて首筋に手を当てると、指に汗が纏わりつく。 ……思い出せないが、悪夢を見ていたのだろう。 「……大丈夫」 彼女にそう言って言葉を返した後、汗に濡れた指を静かに握る。 ……気が付かれてしまった。 今までは先に起きていることで上手く隠せていたのだが、睡眠が浅い日が長引いていて疲れていたのだろうか。 「先に、お風呂に入られますか?」 「いえ……着替えたら先に朝ごはんを食べます」
7 22/01/26(水)05:59:49 No.890630604
私はそう言って、静かにため息を吐き出す。 ……出来るだけ疲労を隠していたのだが、失敗した。 兎に角、出来るだけ平静を装いながら布団から立ち上がる。 「そうですか……」 そう言って少女は少しだけ私の方を気にしながら、居間へと歩いていく。 時折こちらを振り向いて、こちらを見ているのは私を心配しているのだろう。 彼女の表情は少しだけ薄暗い。 ……そんな表情をさせたいわけじゃない。 そう思いながら、寝間着代わりの衣服を脱ぐ。 汗を吸って湿った下着が肌に張り付いて気持ちが悪い。 重たくなった下着と衣服を脱ぎ捨てて、少し眉を顰める。
8 22/01/26(水)05:59:59 No.890630613
少しだけ臭うだろうか、そう思って肩の匂いを嗅ぐ。 ……やっぱり、先にお風呂に入ればよかったな。 だが言ってしまったのだから仕方ない。 そう思いながら、新しい下着を取り出して履き直す。 せめて顔や歯は洗ってこよう。 そう思いながら、妙な体のだるさをそのままに脱いだ衣服を持って歩き出す。 部屋を出て脱衣所の古い洗濯機に衣服を放り込む。 そして粉の洗剤を入れて、洗濯機を動かした。 騒々しい音を立てながら動き出す洗濯機を尻目に、洗面台の前に立って歯ブラシを手に取る。 歯ブラシに歯磨き粉を載せて、口の中に入れて腕を動かす。 腕を動かす度に、気だるさが湧き上がってきた。 何処からともなく湧き上がってくる不調の兆しを感じながら、口の中の泡を洗面台に吐き出した。
9 22/01/26(水)06:00:31 No.890630650
「……はぁ……」 そして、正面の鏡に映った顔を見つめる。 青白い肌に、薄く目の隈が浮いていた。 病み上がりというよりは、まだ病人の表情に見える。 「くそ……」 まだ本調子ではないというのは分かっている。 だが、この家で起き上がってから精神のほうが段々と悪くなっているような気がする。 いや、実際に悪くなってきていた。 段々と浅くなる睡眠、体調にまで跳ね上がるような不調。 そして不意に湧き上がる強烈な死への願望。 考えてみれば分かることだ、根本的に生きたいと思えていないのだ。
10 22/01/26(水)06:00:57 No.890630670
生への渇望、それは本来生き物が全て持ち得る感覚のはず。 それが欠如しているのだから、何もして無くても自然と衰えていく。 「……どうしたものか」 そう思いながら、鏡に映った姿を眺める。 酷くやつれたその顔を見て、ため息を漏らした。 こんな時それでも良いかと思う自分と、少女に迷惑を掛けたくない自分どちらを優先するべきなのだろうか? 私は答えを見つけられないまま、水を流して両手ですくい上げるのだった。 ───
11 22/01/26(水)06:01:27 No.890630702
今日はここまで fu746089.txt
12 22/01/26(水)07:18:42 No.890635083
朝から良いものをありがとうございます