ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/01/23(日)00:14:10 No.889567163
ヒシアマはそそっかしいなって、初めはただ笑ったのだ。 指先から煙を出す単純な手品は種も仕掛けも分かりやすいから、繰り出すタイミングと文脈が大切。つまりは演出。そのために必要なのは、やっぱり基礎的な反復練習だ。 人気のない校舎裏で、手癖のごとく手の動きを反復する。ペン回しとか落書きと一緒。そこへ、どこから見ていたのかヒシアマが走ってきて「グレたのか!?」って。 思わず笑っちゃった私に、面倒見が良くてちょっと先走りがちな姐さんは憮然として、小麦色の指先で脇腹をつっつく。 「アンタ、最近たまに煙草の匂いさせて帰ってくるからさ」 「え? あぁ、それは、私のトレーナーさんが吸う、から……」 説明しようとして、思い出すのはぼんやり気だるげに煙草をくわえる彼の姿。学校の敷地は禁煙だから、彼の部屋にお邪魔したときだけ見る表情だ。 ちょっと前まで、彼は私に喫煙者だってことを隠していた。未成年の前で吸うものじゃないし、真似したら困るって、私のことをまるきり子ども扱いして。
1 22/01/23(日)00:14:30 No.889567282
それが、私が彼の部屋に入り浸るようになって、休みの日なんて寮の外出時間いっぱい一緒にいるようになったものだから、とうとう我慢できなかったみたいで。 「煙草吸ってきていい?」 ってお伺いを立てる様子は、トイレを見つけられないちっちゃな子どもみたいだった。 今はどうか知らないけれど、私がいた頃の劇団には喫煙者がたくさんいた。喫煙所には近寄らないように言われていたものの、大人の人の服に染み付いたタールのにおいには同年代の子たちに比べると耐性がある。 うなずけば「キッチンで吸ってくるから近づかないで」と言い置いて、もといた部屋から出ていってしまった。 そうやって、彼の家で過ごす時間に「煙草休憩」が挟まるようになって――寂しくなった。 お恥ずかしいことに、せっかく一緒にいるのに放置されるのがなんだか我慢できないのだ。近づくなって言われているのに換気扇の回るキッチンへついて行った。
2 22/01/23(日)00:14:52 No.889567414
もちろん、はじめはトレーナーさんも許してくれなかった。キッチンの入口で私が話しかけるのに苦笑いしながら、急いで一本灰にして、濃い匂いを残したまま手を引いて部屋へ戻る。 でも、ルールなんて一度変更すればどんどん緩くなっていってしまうものだ。結局トレーナーさんは私にキッチンへの侵入を許し、それからずるずるとなしくずしに、いまでは私の前で普通に煙草を吸うようになっている。 「せめて電子タバコにしないとなぁ」 ずーっとそう言ってるけど、忘れん坊の彼が新しい買い物をするまでにはいつも時間がかかる。ひと月後くらいには切り替わっているかもしれないけど、それまで休日の私には副流煙が染み付いているはずだ。 ――そんな経緯を、全部話してしまったような気がして口ごもる。実際は、私のトレーナーさんが喫煙者であることと、私からする匂いは彼のものであることを認めただけなのだけど
3 22/01/23(日)00:15:08 No.889567518
「ああ、やっぱり不良だ」 ヒシアマには、それだけで通じてしまったんだろう。もしかしたら事実以上のことが伝わっているかもしれない。 「やっぱりフジはグレちまったんだ! あーあー!」 「ちょっと、やめてよっ!」 ニヤニヤしながらほっぺをつまんで、嬉しそうにからかわれる。勘弁してほしい。この顔の熱が引いたら、絶対やり返してやるって思いながら、この上なく楽しそうな彼女の声を聞いていた。
4 22/01/23(日)00:15:39 [s] No.889567781
ホーム台詞可愛いなって思った
5 22/01/23(日)00:16:20 No.889568101
寮長はうまぴょいしたんだ!
6 22/01/23(日)00:17:00 No.889568449
>寮長はうまぴょいしたんだ! (どっちだ…?)
7 22/01/23(日)00:31:44 No.889574520
仲良さげな寮長もいいですね
8 22/01/23(日)01:00:33 No.889585855
いい…
9 22/01/23(日)01:03:20 No.889586638
いいね...
10 22/01/23(日)01:04:22 No.889586947
そりゃえっちな方の寮長がだよ!
11 22/01/23(日)01:04:31 No.889586980
しゅきぃ…