ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/01/22(土)01:43:06 No.889251959
『二人っきり! 少しいい雰囲気じゃない?』 『もしかしてクリスマスデートかな?』 『うわー、なんか真っ赤』 クリスマスの夜。トレーナーさんと出かけた先で、そんなファンの声を聞いてしまって。赤面して互いに何も喋れなくなってしまい、それ以来、ギクシャクした関係が続いていました。 「お疲れ、カフェ。今日のトレーニングはここまでにしよう。まだまだ寒いから汗流したあと、身体を冷やさないようにな」 「はい、トレーナーさん……あの」 「ん?」 「よろしければ、その……」 このあとお仕事を終えて、少しお時間はありませんか。一緒に近くをお散歩か、リラックスして珈琲でも飲みませんか。あの日以来、そんなこれまでなら簡単に口に出来たような、日常的なお誘いも出来なくて。今日もそれ以上先の言葉を口にできず、私はそのまま無言で俯いてしまいました。 「……なんだい?」 「いえ……なんでも……」 「そっか……えと、その……しっかり、休んでね」 「はい……」 トレーナーさんからも、これまであった珈琲タイムのお誘いがなくなってしまって。トレーニングに支障はありませんが、時々視線が合うと、ふいと逸らされてしまいます。
1 22/01/22(土)01:43:21 No.889252017
あのクリスマスにかけられた言葉。トレーナーさんには、ご迷惑だったのでしょうか。もう私は、アナタの隣にいてはいけないのでしょうか。 こうして距離を置かれてから、私は初めて気付きました。 当たり前のようにいつも傍にいたせいで、常に満たされていたせいで、気付くのがこんなに遅くなってしまいましたが。 私はきっと、ずっと前から。この人が隣にいなくてはどうしようもなくなってしまうくらい、心がアナタという星の重力に、この瞳にそっくりな満月のように、強く強く惹かれてしまっていたのです。 「……空き教室で珈琲でも飲んでから帰ります」 「分かった。門限は守ってね」 これまでのように、一緒に飲もうかな、とは、もう言ってくれないのですね……。 そんな事実を突きつけられて、私はつい、こみ上げる気持ちを堪えられなくて……。 「……ぅ……」 「どうした、カフェ……?」 ついみっともなく、小さな嗚咽が漏れてしまって。 「……失礼します」 「カフェ!?」 私を呼び止める声を無視して。 独り、身と心を守れる牙城へと、走り逃げました。
2 22/01/22(土)01:44:50 No.889252362
空き教室に籠もり、数時間前に淹れて既に冷めた珈琲をそのまま口に運びます。ただただ苦く、渋く、情けない涙顔にお似合いな寂しい味がしました。 すると、ガラリと扉が開きました。まさか、トレーナーさんが……。 「……おや、タイミングが悪かったみたいだね」 「タキオンさん、ですか……」 「すまないね、トレーナーくんではなくて」 「いえ……今、来られても……」 私の言葉に、タキオンさんは何となく私の気持ちを察したようでした。積み上げられた研究資料を手早くまとめ、鞄に押し込むと。 「今日は、一人にしてください……帰っていいですよ……帰ってください……」 「ああ、今日はモルモットくんのトレーナー室で研究するとするよ。……寮長に一言、言っておこうか?」 「いえ……これを飲んだら、寮室に戻ります……」 「そうかい。なら、今夜はしっかり寝たまえ、カフェ」 そう言い残し、タキオンさんは空き教室をあとにしました。再び独りぼっちになった私。いえきっと、私はまたずっと、独りぼっちで……。 涙が溢れそうになったとき。再び空き教室の扉が開きました。 「忘れ物ですか、タキオンさ――」 「ちょっといいかい、カフェ」
3 22/01/22(土)01:45:02 No.889252415
その、声は……。 会いたくて会いたくて仕方なかった、けれど今だけは会いたくなかった、トレーナーさんでした。 「っ……なんの、用ですか……」 涙を拭いながら咄嗟に、突き放すような色の声が漏れます。 何をしているんですか、私……本当は名前を呼びながら、抱きしめてほしいと思っているくせに……。 自己嫌悪に染まりそうになっている私の横に、トレーナーさんが腰掛けました。 わずかに、トレーナーさんとは反対側へ数センチ、離れるように座り直してしまいます。私は、本当に……。 「ごめんな」 何を話したらいいか分からない私の横で、トレーナーさんが最初に口にしたのは謝罪でした。 「……何が、ですか……」 「俺、カフェのことを避けてしまってた」 ずきり、と胸が痛みました。 やはり避けられていたんですね、私は。 それはそうです。私みたいな魅力もなく暗くイメージの悪いウマ娘と噂になったりしてしまったら、今後の担当契約等、お仕事にも悪影響が出てしまうでしょう。 トレーナーとして、当然のこと……。
4 22/01/22(土)01:45:18 No.889252476
そんな思いを巡らせつつ、どうして私が隣ではいけないのか。 今更ながら私はどうしてそう思われてしまうような人生を送ってしまったのか、涙をためて嘆きかけたとき。 「俺、本当に子どもだったな。あんな言葉程度で恥ずかしくなって、中学生みたいな態度を取ってしまって」 「トレーナーさん……?」 ところが、トレーナーさんの言葉は、私が思っていたものとは違っていて。 決して私のことを遠ざけるようなものではありませんでした。 「きみは毎日のように、前みたいに一緒に過ごそうとして、必死に努力してくれていたのにな」 「気付いていたんですか……?」 「時々、ここでこっそり泣いていただろう?」 トレーナーさんの言う通り、今日だけでなく、あのクリスマスの日から何度も私はここに籠もっていました。 そのたびに独り、涙を流していて。 一年以上、泣きそうなときはいつもトレーナーさんが心の涙を拭っていてくれたのに、その支えがなくなって、絶望の淵に立たされていて。 「あんな噂が流れたらカフェに良くないと思って、少し距離を置かなきゃなんて勝手に思ってしまって」 「……酷い、人です。私の気持ちを知りながら……」
5 22/01/22(土)01:45:33 No.889252528
「本当に酷いやつだったな。ごめん」 そう言ってトレーナーさんは、私の手を握りました。 その手はとても、暖かくて。 優しい力の込め方に、私はふと、トレーナーさんの心にも気付いてしまって。先程とはまた違う、温かい涙が溢れてきました。 「あの、トレーナーさん……アナタ自身は、私のことを……」 「……それ以上言わないでくれ、カフェ。俺はトレセンのトレーナーとして、それ以上のことを、きみに対して口にしては……」 その言葉を聞いて、私は、小さく微笑みました。 「それなら……私から、なら……許されますか……?」 私の呟きに、トレーナーさんは焦った表情をしましたが。 私は、それを見なかったふりをして。あるいは分かった上で、そんなこと関係ありませんよ、と告げるように。 優しく、目の前の愛しい人の唇を奪いました。 トレーナーさんは、最初は戸惑うように私を引き離そうとしましたが。私がウマ娘の力でそのまま抱き締めると、無駄な抵抗と察したのか徐々に力が抜けていって。 一、二分そのまま口づけをしていたら、後半はトレーナーさんも私を抱き締め、優しく唇を食んでくれました。
6 22/01/22(土)01:46:04 No.889252642
更に少ししてから、細い糸を引きながら唇を離して。 「……キス、しちゃいましたね」 「あぁもう……俺、クビにならずに済むかな……」 「大丈夫ですよ……」 万が一そんなことになっても。 私がずっと、アナタの隣で支えてあげますから。 「……なんか滅茶苦茶重いこと考えてない?」 「気のせいじゃないですか……?」 口づけの熱に浮かされた私は、まだ心の昂りを押さえきれなくて。そのままトレーナーさんをもう一度抱き締めると、座っていたソファーへ静かに押し倒しました。 「とれーなーさん……私、アナタとなら……いえ、私が我慢、できなくて……」 頭は回らず、吐息は深く、身体は熱っぽく。甘い声で身体を撫でながら、首元に口づけをしつつ、トレーナーさんを欲しがりました。 完全に掛かってしまった私に、トレーナーさんは必死に呼びかけました。 「いやいやいや、流石にいくらなんでも……在学中にインモラルは、まずい……」 トレーナーさんが私の身体を優しく押し退けようとします。 ……致し方ありません。初めては愛に溢れた二人の陶酔空間と決めています。無理矢理は解釈不一致なので、大人しく引き下がることにしました。
7 22/01/22(土)01:47:15 [おしまい] No.889252951
ですが、穏やかじゃない本音は口から漏れます。 「……ちっ」 「えっ、カフェ今舌打ちした?」 「いえ……気のせいじゃないですか……?」 「だよな……いい子なカフェが舌打ちなんてするはず……」 「そうですよ……オトナの階段を昇れなくて非常にご不満だなんて決して……この意気地なし……オポッサム……内心抱きたいくせに手を出せない小心不慣れ男ランキングNo.1……」 「やけに治安が悪くないかカフェえ……!?」 ――これは初心な思春期の幼い少女だった私が、インモラルで治安が悪くなるまでの物語。 お陰様でお友だちもびっくりなワイルドであだるてぃーな走りで成績が向上すると共に、これまでとはベクトルの異なるファンが増えたのは別のお話です。 私もお友だちも、ドS趣味はトレーナーさんにしかないですが……でもたまには受けもいいですよね、トレーナーさん相手だけですけど。 なかなかさせてくれませんけどね、この意気地なし。でもそんなアナタが、私はいつまでも大好きです。なのでちょっと今夜襲いに行ってもいいですか。 「駄目に決まってるだろ」 ちっ……女子高生って武器も多いですが世間体が大変だね、お友だち……。
8 22/01/22(土)01:48:06 [s] No.889253182
インモラルで治安が悪いカフェも可愛い時期があったんだね でも大体アナタのせいなので責任取ってくださいねトレーナーさん……
9 22/01/22(土)01:48:47 No.889253353
これは…リーデングサイヤーちんちんを心に持ってる方のカフェ!!