ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/01/21(金)06:31:36 No.888937900
[不定期] 会社から逃げて、幼女に拾われようシリーズ [成分] ・きりゆか ・コッショリ ・年上誘い受け
1 22/01/21(金)06:31:46 No.888937909
『仕事』 そんな事をポツリと呟きながら、無為な行為と思いつつも私は指を動かしてキーボードを打っていた。 叩きつける指の先から、文字に変わりディスプレイの中のシートに文字の皺を形作っていく。 仕事とはこういうものだと、先人たちは皆言っていた。 毎日出社し、何の意味があるのかわからない文字を打ち、仕事のための仕事をこなす。 目的のためではなく、手段のための手段を打ち込んでいるような感覚を覚えながら、毎日叱咤を繰り返す上司の顔を見ながら手を動かした。 誰がためではなく、結果のための文章。 誰かが引いた線を、なぞるように毎日似たような数値と文字を並べて、延々と生産性というものに懐疑的になっていくような事を繰り返す。 『打つのが早くなったな』 『もうミスもしなくなったし、成長したな』
2 22/01/21(金)06:32:15 No.888937933
そう言っている上司の顔には、久しく代わり映えのしない表情しか映らない。 この行為の意味を考えると、本当に意味がある行為なのかわからなくなる。 誰がやったとしても、求める結果が同じであるならば私でなくても良いだろう。 そんな事をつぶさに思った。 口には出さないが、きっと皆そう思っているのだろう。 そんな事に成長などと……同じことを繰り返すことに成長など、あるはずもない。 だから私は嫌になった。 そしてこの行為はもう止めたはずだ。 飽きたのだから、誰でも良いのだから、そう断じてここに来ることを止めたはず。 そう思うと、床が抜け落ちて重力が溶けて出していく。 ……地獄とは、きっとこのような無味無感想なものなのだと思う。 代わり映えもせず、毎日をただただ繰り返し老化していく。 目はかすみ、体は衰え、そしてふとぼやけた視界の中ふとテレビを見た時に思うのだ。 私も年を取ったな、と。
3 22/01/21(金)06:32:36 No.888937954
そしてふと自分が成した事、やり遂げたことを振り返った時に胸を張っている人間はごく一握りだ。 だからきっと誰しも思うのだ。 もう少し、別のことをすればよかった、なんて。 ─── ほのかに漂う冬の残滓と引き攣るような筋肉痛を感じ、目をゆっくりと開く。 見上げる天井に変わりは無く、隣で私の体に沿うように眠る少女から漂う暖かな気配も昨日と変わらない。 変わったのは私の彼女に対する捉え方かもしれない。 昨日の少女は、どうにも私に親しげであった。 私が口も聞けないのに、彼女は拙いながら自分の思い出を色々と語ってくれていた。 そんな少女の様子を見ていると、何となくその光景は私が眠っていた間にも繰り返されていたのではないのかと思う。 私が眠っていた期間がどれくらいなのか、それは未だに分からない。 だが、それでも少女は毎日私が目覚めるまで、話を読み聞かせていたのだろう。
4 22/01/21(金)06:32:50 No.888937967
……それが大人の行いであればゾッとするような光景なのだが、子供がやっているのかと思うとやりきれない。 やっている事自体は調査もされていない道端に穴を掘って、井戸を掘り当てる行為と大差はない。 いつかその穴に水が並々と湧き出すのを信じて、毎日スコップを振るう行為。 これが病院だとか、集団であればまた違うだろう。 何時起きるのか分からない患者が、いつか目覚めると信じて医療行為を振るえるのは一人ではないからだ。 周囲の人間と同調し、互いに行う行為を正当化し合う小さな社会が生まれていれば、人は何時までも同じことでも繰り返せられる。 他人から与えられた意義であったとしても、無意味ではないと誰かが慰めてくれるのだから。 だがこの少女は、それとは隔絶された場所でそれを行う事ができた。 一種の狂気にも似た感覚を覚えるが、それが彼女にとっての日常となっているのだから、誰も違和感を覚えはしない。 ……この歳で? そんな事を、ぼんやりと思いながら隣の少女に目線を動かした。 少女は今も私の隣で、静かに寝息を立てている。
5 22/01/21(金)06:33:02 No.888937978
枕が無いのか、それとも使わずに寝るのが習慣づいているのか、彼女は枕も敷かずに私に寄りそうようにこちらに体を向けている。 ……首を痛めるのではないか? そんな事を思いながら、ふと彼女の頭に手を当ててやる。 私が手のひらにゆっくりと力を込めると、少女は少しだけくすぐったそうな声を漏らす。 この少女の献身は何時から続いていたのだろうか? そんな事を思いながら手を動かす。 それでも少女は目覚めることはなく、ただ嬉しそうな声を漏らして眠りこけていた。 目線を動かして外を眺めると、徐々に日差しが赤から白へと変わっていく途中だった。 ……今日も一日が始まる。 だが今はまだ早いのだろう。 私自身は無味無臭の味気ない夢を見るのにも飽きが来ている。 ……だから、私は意味もなく少女の頭に手を載せて深呼吸をした。 目をつぶって、息を吐いて、吸う。 それを何度か繰り返して、暫しそのまま何も考えないように横になる。 それを繰り返していると、段々と脳に血が巡って過酸素供給気味になって息を止めていられた。
6 22/01/21(金)06:33:14 No.888937988
思考が鈍り、息が苦しくなったところでまた小さく深呼吸を繰り返す。 自傷行為の一種にも似た過呼吸と貧呼吸の繰り返し。 だがそれをしていると、考えるのを止められるので便利だ。 そうして、無理やり脳をくたびれさせてまた眠る……それとも、気絶に近いのだろうか。 まあ、どうでもいいことだ。 ─── 「起きてください」 そう言って、少女の声がして私の体が揺れる。 いや正しくは揺すられているのだろう、そんな事を思いながら目を開く。 「朝ごはんの時間ですよ」
7 22/01/21(金)06:33:27 No.888938000
彼女はそう言って、今日も手を差し伸べる。 私は布団に手を付きかけて、一度止めて目を細めてから少女に手を伸ばした。 少女は一瞬驚いたような顔をしてこちらを見返していたが、促すように彼女の差し伸べた手をとると、私の手を引いて体を引き起こした。 私が軽すぎるのか、それとも彼女が思っていたよりも力持ちなのか、体がふわりと浮く感覚を感じる。 それから布団から起き上がると、目の前の少女が私の顔を見ながら笑みを漏らす。 「……えへへ、それじゃあ行きましょう」 そう言って、彼女は私から手を離した。 ……彼女に握られた手のひらが、少し赤くなっている。 なるほど、想像以上に彼女の力が強かったらしい。 そんな事を思った後、私はゆるゆると少女の後を追った。 寒さの残る廊下を渡って、洗面台の前に立つ。 それから少女が昨日用意してくれた歯ブラシを使って、口の中の汚れをかき出した後に流しに吐き出す。 コップを拾って、水を注いでから口の中を濯いでもう一度吐き出した。
8 22/01/21(金)06:33:42 No.888938011
「今日も……お話は難しそうですか?」 そう言って、私が葉を磨いている間に顔を洗い終えた少女が口を開く。 何かを少しだけ期待するように、毎日こちらを見る少女に私は口を開いて言葉を発してみる。 「あ」 少し掠れているが、辛うじて言葉のようなものが口から吐き出された。 少女はそれでも嬉しそうに、私の方を振り返る。 ……大して聞き取りやすい言葉でもなかっただろうに、そんな事を思いながら少女の顔を眺めた。 「え、えっと……自己紹介は、出来そうですか」 「……結月、ゆかり」
9 22/01/21(金)06:34:00 No.888938027
そう言って、私はなんとか肺を絞って自分の名前を吐き出した。 呼吸機能も弱っているらしい、声に抑揚はなく出された言葉は平坦だった。 「え、えっと……わ、私は……東北きりたんです」 少女は自己紹介に遅れまいと、そう言って私を見つめ返しながら口を動かした。 ……思えば久しく人の名前を聞いていない気がする。 感覚的なものだが、以前も聞いて口に出していたはずなのに。 「……東北、きりたん」 「そう、そうです」
10 22/01/21(金)06:34:15 No.888938039
彼女の名前を確かめるように繰り返すと、少女は嬉しそうに頷きを返した。 どうやら暫く生活を繰り返している間に、会話を出来る程度の体力が戻ってきていたらしい。 それにしても少女の喜びようを見ていると、なんともコストパフォーマンスに優れている。 将来は看護師にでもなればいい。 「少しだけかもしれませんけど、お話出来るようになったんですね」 そう言ってこちらを見ている少女に、私は癖で頷きを返す。 少女はそれでも嬉しそうに私の顔を見上げて笑みを漏らした。 「……えっと、体調はどうですか?」 そう言ってこちらの様子を伺う少女に、私は少しだけ考えてから口を開く。
11 22/01/21(金)06:34:43 No.888938058
今日はここまで fu729830.txt
12 22/01/21(金)08:09:00 No.888945919
ゆかりさん段々絆されてるのいい….