ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/01/20(木)06:12:13 No.888629222
[不定期] 会社から逃げて、幼女に拾われようシリーズ [成分] ・きりゆか ・コッショリ ・年上誘い受け
1 22/01/20(木)06:12:28 No.888629229
朝食の卵粥を啜ってから、一日が経った。 まだ長い間動かなかったツケが回ってきているのか、少し動いただけなのに全身が痛む。 「……っく」 筋肉が軋んで思わず漏れる声に小さく悪態をつきながら、布団の中で小さく伸びをした。 骨と皮のみの体の節から、小気味良い骨の鳴る音が響く。 まさかお風呂に入っただけで筋肉痛になるとは思わなかった。 そう思いながら、厚いカーテンをめくりあげて外を眺める。 遠く、山際に白く残る雪の跡が麓に近づくと茶色い土に変わっていく。 合間に生える木々の葉が残っていないのは、冬に近いのか春に変わりゆく姿か。 荒涼とした景色を眺めながら、あの木の枝は私の手に似ていることに気がつく。 だが、彼らは精一杯冬を生き延び、また春に夏に葉を伸ばし太陽を浴びるだろう。 ……私とは違うものだ。
2 22/01/20(木)06:12:38 No.888629239
「ん……」 腰の付近から小さく声が響いた。 ……起こしてしまったか、そんな事を思いながら目元を掻く少女の様子を静かに眺める。 「……あ、起きたんですね」 そう言って、その少女は寝ぼけ眼を手のひらで擦りながら体を起こした。 私は小さく頷きを返す。 そんな私を見ながら、彼女は布団を出て私に手を差し伸べる。 ……それを一瞥した後、手を布団についてゆっくりと立ち上がった。 全身が痛むのを感じるが……痛いだけだ、痛みは慣れる。 「あ、あの……大丈夫ですか?」 「へぃき」
3 22/01/20(木)06:12:48 No.888629244
そう言ってこちらを見上げる少女に、少し掠れた声を漏らす。 少しだけ声の引っ掛かりを覚えるが、吐き出した声はギリギリ声の形を以前よりは保てている。 ……徐々に回復はしているのだろう。 だが、まだ治りかけといった風にも捉えられる。 「……えっと……そう、ですか」 そう言って彼女は手を静かに下ろした。 手を付きながらであっても、早く歩けるようにならなくては。 そんな事を思いながら、布団から立ち上がった私は部屋のドアへとゆっくりと進んでいく。 背後で付き添うように歩く少女を一瞥した後、私はふとあることに気がつく。 ……彼女は学校へ行っていないのだろうか? 年齢は……わからないが、小学生から中学生頃だろう。
4 22/01/20(木)06:12:59 No.888629252
そんな少女が、私にばかり付き合って、学校に行かずに居るというのはなんとも変な感覚だ。 何か理由でもあるのだろうか。 ……不登校とか? 違うだろうか、それとももっと別の……何か理由でもあるのだろうか。 そんな事を思いながら、ぼんやりと歩く。 「今日は……いえ、今日も消化に良いものを食べましょう」 台所につくと、少女は私の方を見ながらそう言って微笑む。 声の方に振り向きながら、私はさっきのなんとも言えない声を出すのを躊躇い、小さく頷きを返した。 ……掠れた声では、意味も伝わりづらいだろう。 木の椅子を引くのに苦労していると、少女が手で引いて私が腰掛けるのを促す。 少し苦い顔をして、彼女が引いた椅子に腰掛けると少女は朝ごはんを作りに台所へと向かっていった。
5 22/01/20(木)06:13:14 No.888629260
「……ふぅ」 たったこれだけの事さえ、こんなに苦労するとは。 情けないというか、申し訳ないというか。 ……それとも、みっともない自尊心でも傷つけられたというのだろうか。 自分の手で椅子さえ引けないのを、少女に手伝って貰ってようやく椅子に座る事に恥を覚えたとでも。 ……やめよう。 気落ちするような考えの渦を流して、私は不意に顔を上げる。 台所では少女が朝ごはんのお粥を作っていた。 ……お粥ばかりでは飽きるだろうに。 そんな事をぼんやりと思う。 もちろん私の話ではない。 食べ物の味もまだいまいち、水っぽい程度しか感じない私が何を食べたところで、大した違いなどないのだから。
6 22/01/20(木)06:13:25 No.888629269
少女はよく私の身の回りの世話をしてくれているように思う。 ……だが、彼女自身は一体何の目的で私の世話をしているのだろうか。 慈悲の心があったとしても、あの年頃の少女にはっきりとあるものでもないだろう。 あの年の子供であれば、なんらかの見返りを求めるものだ。 それとも私がそうであって欲しい、と考えているだけなのだろうか? そうであれば、私自身の罪悪感が少しでもまぎれるからか? ……恐らく両方だろう。 あの年頃であれば、遊びたいざかりであって欲しいのかもしれない。 私のような、死んでいるのか生きているのかも分からないものに浪費されるべきではないだろう。 ……一人で考え事をしていると、どうにもそんなことばかりを考えてしまう。 決して良くはない兆候なのだが、どうにもそういった事を考えるのを止められずに居る。 なるほど、回復の兆しを見出した人間が突発的に自決に至る心境とはこういうものなのだろう。 そうして内心に鬱憤のようなものを書き溜めた人々が、満足に歩けるようになると思いを果たすのだ。 それが多い時期というのが春というのも、なんとも皮肉なものだが。
7 22/01/20(木)06:13:35 No.888629279
「お粥、出来ましたよ」 そう言って少女が私の顔を見ながら口を開いたお陰で、思考が中断された。 ……あまり良くない思考だ、せめて少女の前では気丈に振る舞わなければ。 今更いい人ぶったとして、私が鞄を海に放り投げるような女であることは変わらなくても、彼女の今後に悔いが影指すことがないように。 意味があるのかは考えなくても良い。 それを決めるのは彼女の問題だし、私がここから居なくなった後に残る彼女の満足感さえ満たせれば……後は少しのお金でも置いていけばいいだろう。 ……いくらあったっけ。 そんな事を考えていると、少女が目の前に湯気を立ち上らせる粥を差し出す。 ……匂いはわからないが、黒色のタレのようなものが掛かっているから、醤油でも掛かっているのだろうか。 「それじゃあ、頂きましょう」
8 22/01/20(木)06:13:48 No.888629287
そう言って少女は静かに黙祷を捧げた。 本来であれば頂きますと言って食べるのだろうが、彼女は静かに短い時間手の平を合わせて静かに食事への感謝を捧げた。 ……恐らく、口がきけない私への配慮だろう。 どうにも居心地の悪さを感じる。 彼女の配慮があればあるほど、私というものへの異物感を感じざるを得ないのだ。 意識的か、無意識の内かではなくその両方が私の縁をなぞって指し示している。 悪気があるわけではないだろう。 だがそう思うほど、つい元の彼女の生活というものに思いを馳せてしまう。 私は目の前の茶碗に添えられたレンゲを手にとって、一口舌に乗せる。 熱さというのは舌にあるという事はわかる。 だが、それがどのような感覚なのか何となく了解しかねた。 心がやられているのだな、そんな事を食事の度に思い馳せる。
9 22/01/20(木)06:14:00 No.888629300
せめて以前感じていた匂いや、味を思い出しながら粥を啜った。 目の前の少女は私が食べ始めるのを見てから、少し安心したように粥をスプーンで掬って食べ始める。 ……そしてふと、あることに気がつく。 この子の親というのは何処に居るのだろうか。 いや、もっと早い内に気がつくべきだったのだろう。 考えてみれば今の彼女の周囲に、血縁を感じるような人影を見たことがない。 ……それでも、私には関係ないとこの考えを捨て去るべきだろうか。 彼女の居ないところで果てるという微かな目標を持ったばかりなのに、私は段々と彼女自身の事が気になり始めている。 「……あ、あの……お粥、冷めてしまいますよ?」
10 22/01/20(木)06:14:36 No.888629331
そう言って彼女は、私の方を心配げに見つめている。 その表情には、何処か心配げな色合いが混じっていた。 ……気がつくべきではなかったのかもしれない。 そんな気持ちを抱きながら、止まっていた手を動かす。 黒い……醤油のような色の混じった粥を、また口に含んでゆっくりと嚥下しながら後悔を重ねる。 体が元に……せめて、電車に乗れる程度に回復するまで気が付かなければ。 そんな事を考えるが、今はもう遅い。 「……お口にあいますでしょうか」 そう言って、目の前の少女が私に尋ねた。 その表情は少しだけ斜め前の机を、はにかみながら見つめており。 期待と、少しの不安が入り混じったような表情をしている。
11 22/01/20(木)06:15:07 No.888629358
今日はここまで fu726818.txt
12 22/01/20(木)07:24:33 No.888633918
やった新作来てた
13 22/01/20(木)07:41:06 No.888635626
きりゆかいいよね…
14 22/01/20(木)07:42:10 No.888635732
いい…