ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/01/14(金)03:19:27 No.886667942
窓を開けることすら億劫になってくる。それくらい、窓際は冷え。そしてなにより。曇りきった窓を拭えばそこにはしんしんと降り積もる雪がちらちらと見えるからだ。 雪がうれしかったのは最初の一日だった。無垢たる氷晶が舞い降りる。その景色をデンジとパワーは眺めていた。 「雪じゃ!雪じゃぞ!」 パワーは大はしゃぎで雪玉を丸めてデンジにぶつける。こんなのはアキとの墓参り以来だ。 「やめろよパワー、それより雪だるまつくろうぜ!」 「そうじゃのぉ…これだけあれば雪だるまさんの一つや二つできるかのぉ」 「できるさ、パワー。きれいな雪だけ集めろよ、灰色の雪とかはなしな!」 二人、いそいそと雪を丸めはじめる。できた雪玉を試しに噛んでみた。 氷の味しかしない。まずくはないがうまくもない、微妙な味だ。
1 22/01/14(金)03:19:47 No.886667970
パワーも負けじと雪にくらいついてるが「冷たい!食えんはこんなもの!」と吐き捨てている。 こうして二人の歯型付きの雪だるまができあがった、目とか手はそこらへんの木から折ってつけた。瞳にあたるどんぐりがま枝に残っている事に何かしらの奇跡を感じた。 「デンジ、もう雪はイヤじゃ、寒くてかなわん!」 パワーはいそいそと自宅へ戻ろうとする。そう考えてみれば俺の指も感覚がなくなるほどちべてぇとデンジは思う。 「そうだな、戻るか。あったかいもの食べよう」 ふたり、雪だるまをお別れをつげ家路につく。 卓上ストーブを炊き、コンロに火をつける。昨日作ったおしるこの汁がまだ残ってる。 餅は・・・パワーが無計画に買うから尋常じゃない量余っていた。毎日餅を食っても一年は持ちそうなほどの量である。 コンロでコトコト煮詰まる餡をみながらデンジはパワーに問う。
2 22/01/14(金)03:20:10 No.886668001
「そういえば、昔の話だけど」「なんじゃ?」 「雪ってあまりいいイメージなかったな、寒くて凍えて。死ぬんじゃないかっていっつもポチタと寒い部屋で凍えてたっけ」 デンジは昔ばなしをポツリ、ポツリを打ち明けだした。明日生きる糧すらなかった時代の事、ポチタと拾ったハンバーガーを食べたとかそういう暗い話ばかりがでてきて自分の中でもうんざりしていた。 「わるいな、長々と喋っちまって。パワーにとって冬はどうだった?」 「うーん、寒いのは嫌じゃ。ニャーコもワシも凍え死ぬからのぉ…」 「どうしてた?」「南じゃ、南に向かってひたすら歩いておった、南にいけばそれだけ暖かくなるんじゃ、動物が小さくなって食い甲斐がないんじゃがのぉ…」 パワーなりの処世術があるんだとデンジは知った。野生で生きるにも知恵が必要なんだという事を。 「それよりもな」「それよりも?」デンジは聞き返す。煮えきった鍋から火を落とすと少し焦げた小豆の香りが二人の狭いアパートを包み込む。
3 22/01/14(金)03:20:53 No.886668042
「雪を見るとアキを思い出すんじゃ…ほら冬に行ったじゃろ。墓参り」 「ああ行ったなぁ。お前全然野菜食わなくて困ったよ、パワ子餅何個食う?」 「2個じゃ、」「控えめだな」「じゃあ3つ」「わかったよ」 デンジはトースターで炙っておいた餅を椀に入れ、そこへトロトロの餡をかける。 そしてどこかで習ったしおこんぶ部長をパラっと一握り添える。甘いものにしょっぱい物をかけると美味しいらしい。 そして、こたつに二人向き合うように座り、「いただきます」と礼儀ただしくいただく。 パワーとの生活の中で唯一変わった点かもしれない。次第にこの習慣が馴染んできた。 もちろんはじめたのは早パイ、アキの教育からである。 「思うにのうデンジ」「なんだよ」「冬はつまり死の季節なんじゃ、あの後、アキも死んだ。 冬にいい思い出、あんまりないのぉ」しんみりとパワーは呟く。たまにシリアスになるパワーを見るとデンジは少しドキっとする。生命倫理に関してはパワーにも一言あるらしい。
4 22/01/14(金)03:21:16 No.886668070
「まぁ冬は…なんか死んでばっかりだな、でも雪だるま作ったじゃん、雪の中、水の染みない靴で歩くのも結構楽しいぜ、電車止まって公安休みになったりよぉ…悪い事ばかりじゃないと思うぜ」 デンジは餅を伸ばしながらそう語る 「そういうもんかのぉ…」「そういう事にしておこう、これ以上は俺とパワーが開けちゃダメな扉があると思う。臭いものには蓋じゃないが。今は冬を楽しんで…一緒に暮らせれば、俺はそれでいいかな?と思っている。」 「そういう事にしとくかのぉ」「パワ子、おしるこ冷めるぜ、早く食べろよ」 「食べる、食べるわ!あっつ!!!あっついのぉ!!!!」 そういいながらパワーはガツガツあっという間に平らげた。正月を過ぎても冬は寒い