ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/01/06(木)19:20:36 No.884185440
サウナ、それは人類が作り出した文化の一つ。 室内の温度を高温に保ち、健康のため、あるいは刺激を求めて、あるいは我慢強さを誇示するため皆一様に汗を流す。 かつて愛され、人類の滅亡とともに失われた文化は復活の兆しを見せていた。 スチールライン地獄訓練inサウナの開催である。 訓練を三日後に控えたこの日、二人のバイオロイドがサウナで汗を流していた。 一人はゴールデン・フォン・サイエンス社製廃棄物処理用バイオロイド・イグニス。高温環境への慣れ、豊満な肉体による断熱能力、そして我慢強さが評価され試験役を務めている。 もう一人は三安産業製キッチンメイド型バイオロイド・炉端のポルティーヤ。彼女もまた豊満な肉体による断熱性を活かした試験役……ではなく、肌からの放熱能力を活かした室温維持役だ。 二人はレッドフードからの依頼を受け、地獄の灼熱サウナ生成に従事していた。 熱気立ち昇る室内、滴る汗、容赦なく上昇する室温。 すでに並のバイオロイドには耐え難い熱さまで到達しているが、当の二人はそれ以外のことを気にしていた。
1 22/01/06(木)19:21:05 No.884185585
「……」 「……」 会話がない。何を話していいか分からない。 本来サウナは話す場ではなく、周囲への迷惑を鑑みれば黙々と汗を流すだけでも何ら問題はない。 しかし両者ともそんなマナーは知るはずもなく、さりとて気の利いた話題を提供できるほど話し上手でもなかった。
2 22/01/06(木)19:21:30 No.884185731
「……あの、ポルティーヤさん」 「は、はいっ!」 「あ、えっと、以前鉄虫退治でご一緒しましたよね?その後は大丈夫でしたか?」 「鉄虫退治…あっ」 イグニスは共通の話題を出して会話を試みる。一月ほど前、火の攻撃が有効な鉄虫を駆除した時の話だ。 自分とポルティーヤ、ポックルの三人で赴いた鉄虫退治。火を点けたら爆発する性質に怯えていたポルティーヤのことを思い出したので、話を振ってみる。
3 22/01/06(木)19:22:11 No.884185944
「ああああの時はすみませんでした……ご迷惑をおかけして……」 「いえそんな、あの鉄虫は厄介でしたし……。ポックルさんも二度と相手したくないと言ってました」 「で、でも……うぅ……私、戦闘では役立たずで……戦いに消極的だってよく怒られますし……」 ポルティーヤは見るからに沈みこみ背中を丸める。
4 22/01/06(木)19:22:46 No.884186114
自分に相談を持ちかける者もよくこうした縮こまり方をするため、イグニスには見慣れた光景である。 何よりイグニスはポルティーヤの悩みには心当たりがある。人類が生存していた頃、生命体を殺すことに拒否感を覚え戦争に参戦しなかったのは他ならぬ『イグニス』自身だ。 体験したのは当時のイグニスで自分は記憶しか持たないものの、イグニスはポルティーヤの苦悩がよく理解できた。 「戦いが本来の仕事ではありませんし、消極的なのは仕方ないと思います。私も……戦いは嫌いですから」
5 22/01/06(木)19:23:05 No.884186214
「でも、イグニスさんは普段から戦闘に出られてますよね?皆さんにも頼りにされて、すごいなって思います……」 「それは……今の私がやるべきことが戦うことだからです。今は燃やすべきものはありませんから」 「そ、それじゃあ、やっぱり私もそうあるべきでしょうか……」 「いえ、ポルティーヤさんは戦う以外の方法で皆さんのお役に立っています。こうやってサウナを作ることもそうですよ」
6 22/01/06(木)19:23:21 No.884186296
バイオロイドは生み出された時からすべき事が決まっており、それは須く人間と社会のため。 そのため社会がなくなったことで本来の仕事を失ったバイオロイドも多い。イグニスもその一人だ。 自分もポルティーヤも戦いに向いた性格ではないが、ポルティーヤは戦闘以外で役立てられる能力がある。オルカでは本来の仕事に従事することもできる。 その事が羨ましくもあるが、彼女が無理を押して戦うことはあってほしくない。イグニスは心からそう思った。
7 22/01/06(木)19:23:43 No.884186392
「……そうだ。ポルティーヤさん、よければ今度お料理を教えてもらえませんか?」 「え、えぇっ!?あ、もちろん……私でよければ構いませんが……」 「ありがとうございます。今の戦いが終わったらすることがなくなるので、趣味でも作ろうかと思いまして……。今から楽しみが増えました」 「戦いが終わったら…。……早く、終わるといいですね……」
8 22/01/06(木)19:24:02 No.884186481
「……本当にそうですね。そのためにもお互い頑張りましょう。ポルティーヤさんのお料理は皆さんの支えになりますから」 「へへ…ありがとうございます、イグニスさん。いろんなお料理を教えられるように、勉強しておきますね。火を使う料理以外はダメダメですけど……」 「いえ、ぜひ火を使った料理でお願いします。きっと素敵な思い出になりますから」 それから二人はいろいろな話をした。仲のいいバイオロイドのこと、汗のケアのこと、お互いの仕事のこと、司令官のこと。 取り止めのない話を続け、灼熱の部屋で一つの友情が育まれていった。
9 22/01/06(木)19:24:15 No.884186535
─三日語─ 「諸君!自らの限界を感じろ!そしてその先へ進め!」 地獄に違わぬ灼熱の中、レッドフードの檄が飛ぶ。 地獄訓練は予定通りに開催され、スチールラインはサウナに集合していた。 やはり熱源はポルティーヤであり、断熱脂肪が薄いスチールラインの面々はだくだくと汗を垂らしていく。
10 22/01/06(木)19:24:33 No.884186635
「うあ”ぁぁぁ……」 「ブラウニー…無駄口を叩くのはやめなさい……」 「レプリコン上等兵は平気なんすか……?」 「意識させないでください……それにイフリート兵長の方が……、酷なはずです……」
11 22/01/06(木)19:24:55 No.884186746
彼女たちは生産されてから初めての怒りを覚えた。どうして自分たちの断熱脂肪はここまで少ないのか、と。もちろん適材適所の結果ではあるのだが、今だけは創造主を呪わずにいられなかった。 そして臆病で甘っちょろいキッチンメイドのことも、少しだけ心の中で見直したのだった。
12 22/01/06(木)19:25:11 No.884186821
「諸君、よくぞここまで耐えた。この私、連隊長レッドフードは感動している」 「連隊長……」 「ここからはさらに過酷な段階に移る!スチールラインの不屈の精神を見せてみろ!」 「えっ」 「熱波開始ーッ!」 「ぎゃああぁぁーッ!!!」 End
13 22/01/06(木)19:26:39 No.884187322
最初の文量が多くて読みづらくなってしまった… ピョンテな身体した暖房がほしい
14 22/01/06(木)19:29:03 No.884188068
乙 熱中症にならないか不安になってしまった
15 22/01/06(木)19:31:04 No.884188789
会社やチームの枠組みを超えて友情が生まれるのいいよね… スチールラインの地獄のような光景で駄目だった
16 22/01/06(木)19:36:26 No.884190699
イグニスみんなに慕われてるよね
17 22/01/06(木)19:40:01 No.884191995
そりゃイグニスやポルティーヤに比べたらブもレプリコンも脂肪少ないけど…
18 22/01/06(木)19:59:05 No.884199177
三日語で?ってなったけど三日後か
19 22/01/06(木)20:10:08 No.884203511
>三日語で?ってなったけど三日後か 誤字ですねはずかしい… ちなみによく怪文書書かれてる人のをけっこう参考にしてます ラスオリ怪文書割と書きやすいからふえて