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21/12/29(水)20:04:23 「ぎゃ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1640775863455.jpg 21/12/29(水)20:04:23 No.881392885

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!! くるな! くるなぁ! あっちいけぇ!」 肝試しをするには季節外れの寒空の下。 真夜中の墓地に、1人の少女の悲鳴とも怒号とも取れるけたたましい絶叫が響き渡っていた。 アイゼングラート中央軍所属、特鉄隊の一員でもある軍人の少女『シャンハイ』の声である。 「待てシャンハイ! そっちは崖だぞ!」 その声を追いかけるようにして叫ぶのは、同じくアイゼングラート中央軍所属のペイジン。 保護者役ともいえる彼女は、混乱状態に陥りあちこち走り回るシャンハイを必死な形相で追いかけていた。

1 21/12/29(水)20:06:00 No.881393604

…とはいえ、車掌である自分も他人事ではない。部下の監督責任がある以上、暴走しているシャンハイを止めなければならない。 それに義務を抜きにしても、単純にこんな暗いところをむやみやたらに走り回ったら危険である。 シャンハイのためにも、なんとか追いついて落ち着かせなければ…。 そもそも、なぜこんな状況になってしまったのか───

2 21/12/29(水)20:06:39 No.881393856

─── 「車掌…今日の昼、ちょっと付き合ってくれないか」 すっかり年末ムードになり、どことなく緩い雰囲気が漂う学園の早朝。 受け持ちのクラスの授業を行うため教室に向かっていると、背後からペイジンのややヒリついた声が聞こえてきた。 確かに今日の昼は少し時間があるが…どうかしたのか。 「最近、『秘密基地』の近くの民営墓地で不審な人物や怪奇現象の目撃証言が出ているんだ。調査に協力してほしい」 『秘密基地』というのは、ペイジンが運営している孤児院の名称である。その近くに墓地などあったのか。 「『秘密基地』といっても1つじゃないからな。今回問題になっているのは町外れにある、車掌も行ったことがない基地の近くだ」

3 21/12/29(水)20:07:52 No.881394335

それにしても…墓地で怪奇現象が? いったいなにがあったというのだ。 「夜な夜な少女が泣く姿や皿が割れる音が聴こえると噂になっていてな…基地の子供達も怖がって近づけなくなってしまっているんだ」 それは大変だ。幻霧や魔物が蔓延るこの世界においては、ちょっとした怪奇現象であっても決して無視できるものではない。 仮に幻霧などが原因だった場合…放置すれば被害は噂に留まらず、時間をかけ必ず大きなものになる。

4 21/12/29(水)20:08:05 No.881394433

結界内だからといって完全に安心とはいかないのである。 「ああ、しかも件の墓地は民営だからな。あまり金がかけられないから土地代の安い郊外に立っている。つまり結界にごく近いところだ」 なおのこと危険だな。それは早急に調査せねば。 「じゃあ、今日の昼。私の研究室の前に来てくれ」 ああ、了解した。

5 21/12/29(水)20:08:37 No.881394652

─── その後2人で件の墓地に行ってみたが、芳しい成果は得られなかった。 やはり昼間では意味がないのだろうか。 「そうだな。目撃証言は夜に集中しているし…今夜改めて調査した方が良いかもしれない」 そのことについてなのだが…もし仮に今回の事件に幻霧が関係しているとしたら、この2人で乗り込むのは危険なのではないだろうか。

6 21/12/29(水)20:09:17 No.881395022

「む…まあ、確かに。私は前線に出るようなタイプの軍人ではないし、戦力として不安を覚えるのは仕方がないか」 ペイジンのことはもちろん頼りにしている。だが万全を期すべき状況なのは間違いないだろう。 「そうだな、テンシンも連れて行くことにしよう。あの子は夜目も利くし…夜中に起きれるかどうか心配だが」 また深夜に合流するということで、その場では一旦別れお互い通常の業務に戻ることになった。

7 21/12/29(水)20:09:44 No.881395235

─── 「すまない車掌。テンシンはちょっとやらかしてしまったみたいで…今日は来れそうにない」 そして深夜、約束していた場所で待っていたのはペイジンと…シャンハイの姿であった。 やらかしたって…いったい何をしたのだ。 「テンシンのやつ、校舎の屋根裏に張り付いた蜂の巣を取ろうとしたらしいんだが…シーイェンと競争になってしまったらしくてな」 なるほど…それだけで大体の想像はつく。おおかた張り切りすぎて窓ガラスを割ってしまったとかだろう。 「だいたい合っているな。壊したのはガラスじゃなくて、壁だけど」 っ!?

8 21/12/29(水)20:10:11 No.881395426

横から挟まれたシャンハイの言葉に戦慄する。いったいなにがあったら蜂の巣駆除でコンクリートの壁を破壊できるのだ。 前々から思っていたが、あの2人は少し行動が破壊的すぎる。ペイジンのほうから言って聞かせてあげられないだろうか。 「私も注意はしてるんだ。でも身についた癖と生活習慣というものは中々変えられるものじゃない」 やはり、テンシンとシーイェンには特別なカリキュラムを組む必要があるかもしれないな。今度オハナに相談して合宿の計画でも立ててみるとしよう。 「とにかくそんなわけで、テンシンとシーイェンは泊まり込みの補習…もとい補修で来られなくなった」 …それで代役のシャンハイというわけか。 「む。なんだ車掌、わたしじゃ不満って顔してるぞ!」

9 21/12/29(水)20:10:37 No.881395664

いや、不満というわけではないが…ドンパチする可能性が僅かでもある以上、小柄なシャンハイでは多少の不安がつきまとう。 「なんだとぅ! わたしだってもう子供じゃないんだ! 隊員! 特鉄隊員! 魔物でもなんでもかかってこい!」 龍を象った特殊な魔具を浮遊させながら憤るシャンハイ。主にその子供っぽい部分が不安だと言っているのだが…。 それに今回はゴロツキでも魔物でもなく…幽霊といった類の可能性もあるが、大丈夫なのか? 「ゆ、幽霊…?」 事前に話は聞いていたと思っていたのだが、『幽霊』というワードを聞いた瞬間に宙に浮かべていた魔具を取り落としてしまった。 「幽霊って…あの?」 そうだ。死後成仏しきれなかった魂が霊体や思念体となってこの世を彷徨い、怨みつらみや呪いを振り撒く…あの『幽霊』だ。

10 21/12/29(水)20:11:00 No.881395862

「だ、だいじょうぶだいじょぶ。幽霊なんて怖くないぞ!」 ペイジンの袖を力一杯掴みながら叫ぶシャンハイからは、説得力を微塵も感じない。 というより、調査はなにも今晩じゃなくとも良いのではないか? 後日、テンシンたちも交えて全員で行けばそれが1番安全だ。 「それは嫌だ…」 こちらの提案に被せるように否定の言葉を発したのは、ペイジンの横腹に頬を押し付けるシャンハイ。 その様子を見たペイジンはやれやれとため息をつくと、こちらに簡単な事情を説明してくれた。 「実は『秘密基地』の子供の中に、ご両親の命日が近い子がいるんだ」

11 21/12/29(水)20:11:12 No.881395956

…なるほど。その子のご両親が眠っているのが、例の怪奇現象の噂が立っている墓地というわけだな。 「そうなんだ! だからはやく問題解決して…安心してお墓参りしてほしいんだ! ね、おねがい車掌」 …そんな事情があるのなら、仕方がないだろう。 それに、あの怖がりなシャンハイが自らやりたいと言っているのだ。教育者として、生徒にはなるだけ成長の機会を与えてあげたい。 「決まりだな。それじゃあ、出発しようか」 こうして、季節外れの肝試しが始まった。

12 21/12/29(水)20:12:20 No.881396488

─── 「う…おおぅ…おおぉ…」 やはり真夜中の墓地というものは雰囲気がある。 これまで任務で地獄のような光景は幾度となく見てきたが…そのどれとも違う、本能に這い寄りジワジワと侵食してくる独特な不気味さを醸し出している。 大の大人である自分ですら少し足が竦むのだから、シャンハイなど立っているのがやっとの怖がり具合だろう。 「しゃしょ~、ペイジ~ン。ぜ、絶対わたしから離れるんじゃないぞ! 絶対だぞ!」

13 21/12/29(水)20:12:47 No.881396672

案の定シャンハイは全身を震わせ、顔を青くしていた。 セリフだけを抜き取れば頼もしいことこの上ないのだが…。 「オイルランプは持ってきているから、コイツで照らしながら進むぞ」 ペイジンは相変わらず冷静に、淡々とランプに火をつけ前へと進んでいく。 「うぅ…こ、怖くない…怖くない」 シャンハイは1番前を歩くのは当然として…1番後ろを歩くのも嫌なのか、自分とペイジンの間に入る形で進み始めた。

14 21/12/29(水)20:13:04 No.881396802

…まあ確かに、後ろに誰もいないのはかなり怖い。背中側がなにか寂しいのだ。 後ろから何かが近づいているのではないか…何かに見られているのではないか…そんな錯覚が出てくる。 もしかしたら、先頭を歩くより怖いかもしれない。 しかし、自分が怖がっていてはシャンハイを不安にさせてしまう。ここは堂々と大人の男として、表情を固めて恐怖などお首にも出さず歩き始めた。

15 21/12/29(水)20:14:01 No.881397219

─── ニャアッ 「うわっ!? …て、猫じゃないか! お、驚かせるんじゃない!」 ガサッ 「ひぃっ!? 今なんか動いた!? 動いたよな!?」 ヒュオォォォォッ! 「ぎゃあ!? 今、風に混じって変な声聴こえなかったか!?」 …10分ほど歩いてみたが、今のところ特に何事もない。

16 21/12/29(水)20:14:23 No.881397362

「何事もないことないだろう! さっきからおかしなことが起きすぎだ!」  「いや、さっきからシャンハイが過剰に反応しすぎなだけだと思うが…」 こちらを振り返ったペイジンが、困り顔で正論を突く。 後ろでシャンハイが叫ぶたびに、そちらの音で驚かされるのだ。彼女としてももういい加減にしてほしいという心情だろう。 「いいや…きっとこの墓地に潜んでる怨霊がわたしたちを脅かそうとしてるんだ…アーメン! ソーメン! シャンタンメーン!」 聖職者の見よう見真似でめちゃくちゃな十字を切るシャンハイ。明らかにメンタルの限界である。

17 21/12/29(水)20:14:36 No.881397437

まあ、こればかりはシャンハイが情けないとも言い切れない。 正直こんな寒い中、こんな暗く物寂しい場所にいては精神の消耗が激しすぎる。 なにも起きないようだし、一旦引き返しても良いんだぞ? 「あ…い、嫌だ。ここまでおちょくられて黙って帰れるか! 絶対ゆゆゆ幽霊を見つけてやるんだからな…!」 明らかに怖がっているのに、帰るという提案だけは頑なに拒否してくる。 「…そうか。なら、もう少しだけ様子を見よう。車掌、すまないがまだ付き合ってもらえるか?」 あ、ああ…。ペイジンが良いと言うなら、こちらは構わないが。

18 21/12/29(水)20:15:32 No.881397833

─── それから、さらに10分ほど経過した辺りだろうか。 シャンハイもようやくこの暗闇に慣れ始めた次の瞬間、ソレは突如として訪れた。 ───パリンッ! 「きゃあ!」 ガラスか…陶器か。なにか固いものが割れる音が鳴ると同時に、ペイジンの持っていたはずのオイルランプの火が消えてしまった。

19 21/12/29(水)20:16:00 No.881398035

どうした!? ペイジン! 「…わからない。突然、ランプが割れてしまった。これじゃあ使い物にならないぞ」 「ひぃやぁぁぁぁ…!」 光に目が慣れてしまってから突然それを奪われると、本当に真っ暗で何も見えなくなってしまう。 シャンハイは小さく押し殺すような悲鳴を上げる。顔を見ることはできないが、おそらくその色は真っ青に染まっていることだろう。 ───パリン

20 21/12/29(水)20:16:22 No.881398238

さらに…混乱したこちらに追い討ちするように、皿の割れる音が墓地の中に響き渡った。噂で聞いていたとおりの現象である。 これにはさすがに、自分もペイジンも…その場にいた全員の心臓が跳ね上がった。 さらに…。 ──パリンッ ───パリンッ 続け様に皿の割れる音が響く。 いや…これはむしろ割れているというより、誰かが悪意を込めて『割っている』とも言えるような…。

21 21/12/29(水)20:16:56 No.881398494

「…おい、車掌」 前方からペイジンの声が聞こえてくるが、その姿は未だにうっすらとしか確認できない。 「この音…だんだん大きくなってないか?」 …なに? ───パリンッ! 「っ!」 …確かに。少しずつだが、確実に大きくなっていっている。 いや、それも少し違う。

22 21/12/29(水)20:17:27 No.881398763

───パリンッ!! 音が大きくなっているのではない。 「そうだな。これはまさか、だんだん…近づいてきている…のか?」 ───パリィンッッ!! しかし、気づいた時にはすでに遅い。 明らかに悪意の…否、『殺意』の籠ったその音はついに─── ───パリィィィンッ!!! シャンハイのすぐ足元で鳴り響いた。

23 21/12/29(水)20:17:46 No.881398932

「ひっ…いやぁぁぁぁぁ!」 その音を聞いた瞬間、今までギリギリで保っていたシャンハイの理性が完全に崩壊。 「ぎゃあぁぁぁぁぁ!! くるな! くるなぁ! あっちいけぇ!」 絢爛な装飾の施された自慢の魔具も取り落とし、あらぬ方向へと一目散に駆け出した。

24 21/12/29(水)20:18:20 No.881399177

「待てシャンハイ! そっちは崖だぞ!」 1度下見に来ていたペイジンはこの墓地の構造を完全に記憶したのか、シャンハイが走り始めた方向に崖があることを把握していた。 普段のクールキャラもかなぐり捨て、シャンハイの声が移動した先に必死になって叫ぶ。 「うわぁぁぁぁぁんっ!」 しかしパニック状態に陥ったシャンハイにその声が聞こえるはずもなく、ただ体力の続く限り走り続ける暴走機関車と化していた。 「く…っ!」 暗闇の中ただ夢中でシャンハイの声を追い続けていると、自分もどこを走っているのか分からなくなってしまう。

25 21/12/29(水)20:18:41 No.881399354

なにか視界の中に動くモノが映ったため、シャンハイだと判断して必死にソレに手を伸ばすと─── 「「 あ 」」 シャンハイの腕を掴んだ自分とペイジン。 そして2人に腕を掴まれたシャンハイ。 3人仲良く、墓地の外側に聳える崖の下へと落ちていった。

26 21/12/29(水)20:19:07 No.881399540

─── 「い…ったぁ…くない?」 「いたた…て、車掌! 大丈夫か」 一瞬の浮遊感のうちに走馬灯のようなものが見えた気がしたが…どうやら全員生きてはいるようだ。 6m前後の低めの崖であったことと、崖の真下が草垣になっていたことで助かったらしい。 「はは、は。無傷というわけには…いかなかったみたいだが」 足首を抑え苦悶の声を上げるペイジン。 大丈夫か? まさか…折れているのか?

27 21/12/29(水)20:19:35 No.881399781

「いいや、軽く捻っただけだ。少し休めば…歩けるようにはなるさ」 声こそ落ち着いているが、ペイジンはその場から動こうとせず崖に背を預け座り込んでいる。 本当に大丈夫なのだろうか? 「あ…ああ…」 先ほどまで荒れに荒れていたシャンハイも崖から落ちたショックで一瞬にして冷静さを取り戻した。 「ペ、ペイジン…? だいじょうぶ? 痛くない? ごめんな…わたしのせいで…」 しかし…幽霊への恐れとはまた違う恐怖心が、今のシャンハイの意識を支配してしまっていた。 自分のせいで大切な友人を怪我させてしまったという、重い重圧である。

28 21/12/29(水)20:19:44 No.881399840

長い…

29 21/12/29(水)20:19:52 No.881399896

「ごめ…ごめん…ごめんなさい…うぅ、ごめんなさぁい」 「大丈夫さ、大したことない。お前も少し落ち着け」 ペイジンは、自身に縋り付くようにして座り込んだシャンハイを抱き抱え、両腕で優しく包み込んだ。

30 21/12/29(水)20:20:26 No.881400169

─── 「うぅ…グスン…」 ペイジンの胸に顔をうずめしばらく啜り泣いていたシャンハイだったが、人肌の温もりに体を預け身も心も暖まり…次第に落ち着きを取り戻した。 「…やっぱり、わたしじゃ足手まといだったかな」 落ち着いたと同時、小さく放たれる薄弱な言葉。 「わたしが弱いから…怖がりだから迷惑かけてばっかりだ…」 …たしかにここまでの事態になったのは、はっきりいってほぼシャンハイが招いた結果だ。 この状態の彼女をあまり責めたくはないが、強く否定するのも違う気がする。

31 21/12/29(水)20:20:49 No.881400358

どう声を掛ければよいか分からなくなり立ち往生していると、不意にペイジンがシャンハイの頭を優しく撫ぜた。 「…ペイジン?」 突然の行動に思わず顔を上げるシャンハイ。 ペイジンはそんな彼女の耳元に口を近づけ、小さく呟いた。 「たしかにシャンハイは怖がりで泣き虫で…すぐ迷子になるし…幾度となく苦労させられたよ」 話す内容は非難の言葉。しかしその声色には怒りも、失望も、悲しみも感じない。

32 21/12/29(水)20:21:10 No.881400514

「でもね、あんたは絶対に『弱く』はないよ。それは私が保証する」 「え?」 予想外の台詞に、吐息ともつかない小さな疑問符がシャンハイの口から漏れ出た。 「あんたは墓地を歩いてる最中、些細なことで何度も驚いてたよね」 「うっ」 痛いところを突かれたシャンハイは顔をくしゃりと歪ませ、瞳に涙を溜める。 しかしペイジンは、構うことなくすぐに次の言葉を投げかけた。

33 21/12/29(水)20:21:29 No.881400656

「でも…絶対に『やめる』とか、『帰る』とか、そんな言葉は口にしなかった」 ───確かに。 それどころか、こちらから『一旦引き返すか?』と提案をしても、シャンハイはそれを突っぱねた。 小さなことですぐに怖がり精神も限界に来ていたにも関わらず、目の前の困難から決して逃げようとはしなかったのだ。 「それもこれも全部、『秘密基地』の子供たちのためなんだよね。いや…それだけじゃない」

34 21/12/29(水)20:21:54 No.881400841

今まで部下でも、娘でも、弟子でも、生徒でもなく…対等な『友人』としてシャンハイと接してきたペイジンが、彼女に触れ、見続けてきたペイジンが、確信をもって告げる。 「噂の元になった『幽霊』のことも心配して、必死に食らいついてたんだよね」 「…」 シャンハイからの返事はない。 しかし、側から見ているだけでもわかる。シャンハイを取り巻いていた卑屈な雰囲気が、少しずつ消えていっていることが。 ペイジンの紡ぐ言葉に揉まれ、緊張の糸が解れていく様が。

35 21/12/29(水)20:22:16 No.881401058

そうか。そういうことだったのか。 最初にシャンハイに『幽霊』の話をした際、大層怖がっている様子だったが…。 もちろん、恐怖もあっただろう。しかしそれと同時に、この世に無念を残した幽霊に対する憐れみ、早く助けてあげたいという思いやりが、同時にシャンハイの心に芽生えていたのかもしれない。 「そもそも…何かを怖がっているから弱いなんて、そんな考えが間違っている。恐怖は生物が生き残るための立派な機能だ。怖いなんて、当たり前なんだよ」 今までおっとりと言い聞かせるような優しい口調で話していたペイジンが一転、おどけたような軽い語り口になる。

36 21/12/29(水)20:22:34 No.881401206

「病気が怖いから、薬を作る。雨風が怖いから、建物を作る。夜道が怖いから、灯りを作る。ここまで生活が豊かになったのはひとえに…人類が恐怖に打ち勝つすべを身につけようと、逃げずに向き合ったゆえだ」 「シャンハイだってそうだろう? いっぱい怖い思いをした。何度も泣いた。叫んだ。でも絶対に逃げずに、恐怖に向き合い続けたんだ」 それは単なる怖いもの知らずとも、無鉄砲とも違う。 誰よりも恐怖を感じつつ、しかしその先にある目標のため歯を食いしばり耐えた。 自分ではない他の誰かのために、恐怖を克服しようと立ち向かったのだ。 その姿を見て、シャンハイを『弱い』と断ずることが、果たしてできようか?

37 21/12/29(水)20:22:56 No.881401380

「…ペイジンにも、怖いものってあるのか?」 唐突に…シャンハイが小さく口を開く。 今まで無意識にペイジンを『偉大な存在』として、怖いものなどない存在として認識していたのか。 そんな偉大な彼女が『怖いなんて当たり前』などと言うものだから、困惑してしまったのだろうか。 「…ペイジンが兵器を作るのは、魔物が怖いから?」 その質問に対してペイジンは…少し困ったような、気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。 「そうだね。魔物そのものよりも…その魔物によって命が失われるのが怖い」

38 21/12/29(水)20:23:17 No.881401533

当たり前のように言い放つが、自分自身への被害よりも世界全体を見回すこの思考は、いかにもペイジンらしい。 「家族…子供たち…仲間…車掌…テンシン…シーイェン…」 ゆっくりと、1つ1つを大切に愛でるように…愛おしそうに名前を連ねる。 「もちろん…シャンハイも。君たちがいなくなってしまうのが、本当に怖い」 無意識だろうか…シャンハイを抱きしめるペイジンの腕の力が、少し強まった。 「だからみんなが無事に帰ってこれるように、1人でも多くの命を救えるように、好きでもない兵器を開発し続けている」

39 21/12/29(水)20:23:57 No.881401861

冗談めかして言うペイジンの目にもほんの少し、水の雫が溜まっているように見える。 「こうして逃げずに向き合い続けた結果、私は今のこの立場や権力…財力を作ることができた。病には薬を、災いには壁を、闇には光を」 「ではシャンハイ…恐怖に打ち勝つために君は、何を作る? 何を持っている?」 「わたしは…」 シャンハイはその質問に…すぐに力強く応えた。 「わたしは、仲間がいる…! わたしはまだまだ頼りないけど、情けないけど、ペイジンも車掌も、特鉄隊のみんなも! ずっとそばで一緒に戦ってくれてた。だから怖くない…」 「…いや、怖いよ。怖いけど…まだ頑張れるよ…!」

40 21/12/29(水)20:24:37 No.881402154

「そうだね。正解だ」 恐怖を認め、それでもシャンハイは戦うことを決めた。 強がりではなく、自分の持てる最大限の武器を見つけ、自らを奮い立たせた。 「シャンハイが諦めない限り、私はいくらでも付き合うよ。一緒に戦うよ。だからほら…いつまでも泣いてないで、行こう?」 ペイジンの腕の中でシャンハイは、静かに嗚咽を漏らしていた。 いつもの大きな声を上げる泣き声ではなく、噛み締めるような、自身の魂に深く刻み込むような、重く強い涙。 もはやペイジンの声が届いているのかどうかも分からない。 しかし…その思いやりや温もりは、確かに彼女の心に届いたことだろう。

41 21/12/29(水)20:26:08 No.881402810

42 21/12/29(水)20:26:35 No.881402989

終わり!?

43 21/12/29(水)20:27:28 No.881403366

なんかいい感じだけど幽霊騒動は解決してないな…

44 21/12/29(水)20:28:02 No.881403583

えっ本当にこれで終わりなの!? まあ車掌もついてきてる以上何らかの形で幽霊騒動はきちんと解決するんだろうけど…

45 21/12/29(水)20:28:59 No.881403946

時間がなく解決編書けず申し訳ございませんでした 後日書き足してうどんに投げておきます…

46 21/12/29(水)20:31:15 No.881404879

(誕生日に立てる予定だったんだな…)

47 21/12/29(水)20:32:21 No.881405362

ここまで長いならテキストファイルとかにしたほうが良いのではないかと説明する

48 21/12/29(水)20:34:11 No.881406201

>時間がなく解決編書けず申し訳ございませんでした >後日書き足してうどんに投げておきます… ここに投げるんだよぉ!

49 21/12/29(水)20:35:31 No.881406694

収集イベの前半まで読み終わったような感じだ 後半解禁待ってるよ…

50 21/12/29(水)20:36:42 No.881407198

その後――――

51 21/12/29(水)20:39:45 No.881408528

いやーいいお話だね シャンハイとペイジンの「友達」って関係性にフューチャーしてる点がすごくいい

52 21/12/29(水)20:40:09 No.881408706

この後の展開楽しみだし後半も頼むな!

53 21/12/29(水)20:41:20 No.881409212

なんだトレジャーイベの前半だったか 後半待ってるぜ

54 21/12/29(水)20:41:29 No.881409263

>その後―――― fu661211.jpg

55 21/12/29(水)20:42:08 No.881409537

なにがあったんだよ!

56 21/12/29(水)20:43:33 No.881410287

>fu661211.jpg なんでだよ!

57 21/12/29(水)20:45:29 No.881411125

シャンハイとハカセの話欲しかったからありがたい…

58 21/12/29(水)20:46:31 No.881411546

ないなら自給自足の精神 見習っていきたい

59 21/12/29(水)20:54:09 No.881414842

やっと読み終わった やっぱりもう少し…解決編ほしいよなぁ

60 21/12/29(水)20:54:36 No.881415046

>なにがあったんだよ! 例の薬がなんかアレしてシャンハイに生えてしまった!

61 21/12/29(水)20:56:49 No.881415921

>>なにがあったんだよ! >例の薬がなんかアレしてシャンハイに生えてしまった! 違うんですよねー!シャンハイとハカセはそういうんじゃないんですよねー!

62 21/12/29(水)21:00:04 No.881417278

大作すぎる…だけど足りない…

63 21/12/29(水)21:00:27 No.881417474

テソシソ先生壁の修理終わったなら助けに行ってください!

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