ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/12/25(土)00:52:54 No.879711494
※幸運のスペvsクリーク妄想・かなり長いです(約4000字) ※凡ミスがあったのであげなおし
1 21/12/25(土)00:53:23 No.879711662
私の唯一の不運は、ほかの誰かを救えるほどの幸運を持ち合わせていなかったことです。 ――――偉大なる魔法使いスペシャルウィーク
2 21/12/25(土)00:53:38 No.879711760
ホグワーツ炎上から一週間。 焼失したホグワーツ生徒の共同葬儀が終わり、崩れたガレキと消し炭だらけの跡地に一つの碑が建てられた。 それだけで、ホグワーツ炎上事件は終結したのだと、言われたようだった。 きっと、残る当事者の数が少なかったからだろう。 誰だってどんな凶悪な事件でも、自分の身にふりかからない限り受け流して生きていける。 そんな楽観的な世間の目は、すでに闇の魔法使いの次なる動向を追っていた。
3 21/12/25(土)00:53:52 No.879711836
「……マヤちゃん。私、忘れてないよ」 全てが青い炎に焼き尽くされた日。私が、マヤちゃんの手を、離してしまった日。 その手を離したときの冷たさが、今もこびりついている。 だからここに、再び足を運んだんだと思う。 「あれは……」 均されたガラクタのなかで、今なお立ち続ける壁に目を向ける。あの場所は――
4 21/12/25(土)00:53:56 No.879711857
急に消えたからびっくりしたわ
5 21/12/25(土)00:54:02 No.879711886
「――やっぱり。ここ、カフェ先生の部屋の壁……」 一年生のとき、マヤちゃんと一緒に叩いた隠し部屋へと続く扉だった。こんこんと叩くと、懐かしさが跳ね返ってくる。 全く、カフェ先生はどんな魔法をかけたんだろう。先生が死んでも、闇の魔法で焼かれても、この壁だけは綺麗な、あの学び舎の姿を保っていた。 こんこんと、慣れた手つきで壁を叩く。 マヤちゃんと、ずっとこの壁に挑戦してきた。背伸びをしたり、肩車してあげたり。 入学したての私たちは今よりもずっと背が小さくて。どんどんマヤちゃんと仲良くなっていった。 こんこんと。 二人で力を合わせて。それでも、93回の壁は気が遠くなるような作業に思えた。 だけど今は。頭を空っぽにして挑めるこの壁が、とても愛おしい。
6 21/12/25(土)00:54:27 No.879712006
目の前の壁がふっと消えてしまって、暗い地下へと続く階段が現れた。薄い壁に思えたそれは視覚に作用する魔法で隠された秘密の部屋だった。 私は『ルーモス』を唱え、カフェ先生の守った最後のホグワーツに足を踏み入れる。すぐ背後にまた壁が現れて、外に吹く風の音が遠くなった。 冬の朝のような、透き通った空気だった。 カフェ先生のことだから、不良教師達の酒タバコクラブ(会員一名)みたいにコーヒー臭かったりタバコ臭い部屋を想像していたけれど。 ここは、なにもない部屋だ。酒や賭博にまみれていた私たちから切り離された聖域だ。そう感じた。
7 21/12/25(土)00:54:40 No.879712078
杖の光を頼りに、階段を下りて全貌の見えない部屋を進むと、机らしきものに到達した。 机の上には白い手紙が置いてある。私がその表面を撫でると、まるで吼えメールのように手紙が立ち上がり、私の耳元までばさばさ飛んでくると『5点あげます』なんて、カフェ先生の声で囁いて燃え尽きた。 一週間ぶりに聞いた先生の声に、泣き出してしまいそうになった。 でも、私は前に進まないと。
8 21/12/25(土)00:54:50 No.879712121
事件があったあと、お母ちゃんにまた魔法を教わることにしていた。それは闇の魔法使いたちを一人残らず殺すためだ。 そのために、過去に浸って泣いてしまうような私はここに置いていかなければならない。そんな甘ったれた精神では、炎に包まれた皆の無念を背負うことなんてできない。 お母ちゃんみたいな、常に冷静でかっこいい闇祓いになるために。
9 21/12/25(土)00:55:03 No.879712185
こんこんと。 私以外いるはずのない部屋でなにかが響く。私の遥か後方から音がする。 それに私は、言い知れぬ恐怖を感じた。別にここのことを覚えていた生徒がいても不思議ではない。だけど私は、私よりも手慣れたリズムで壁を叩くヒトに心当たりがなかった。 『ルーモス』を消し、光源のない暗闇で杖を構える。こんこんと響く音よりも小さく呼吸する。 90、91、92――――
10 21/12/25(土)00:55:15 No.879712247
『ステューピファイ!!』 正面の階段から強烈な光が差し込むと同時に、私は失神の呪文を唱えた。青白い閃光は紙一重で避けられる。 「懐かしくて、安心する匂い。甘い水タバコの匂い…………でも少し、ネズミ臭いですね」 その声の冷たさにゾッとした。 なぜ、出会い頭に呪文を飛ばされてなお平静を保っていられるのか。 その声音に宿る覇気だけで、私の杖腕は萎縮してしまっていた。 「その服はグリフィンドールの子ですね。黒髪で片目を隠した可愛い子とおんなじ」 「スーパー……クリーク…………!!」 カフェ先生の忘れ形見がそこにいた。
11 21/12/25(土)00:55:28 No.879712338
『ディフィンド!!』 クリークはゆっくりと、一歩一歩を踏みしめるように階段を下りていた。すでに壁が出口を塞ぎ彼我の距離が正確に掴めなくなっていたとしても近づいてくる足音と私の杖先が呪文を放つたび生まれるか細い光が彼女の存在を際立たせている。 「破れたローブの縫い方がところどころ違いますね」 『コンフリンゴ!!』 避けられる。私がありったけの呪文を浴びせるなかで、彼女は杖を構えさえしない。 「お母さんにも縫ってもらったんでしょうか。それともお友達?」 『イモビラス!!』 この戦いかたは、自分語りが大好きなカフェ先生から聞いていた。恐れず、相手の呪文を紙一重で躱し続け、平然と敵に近づく。それだけで敵は焦り心を乱され実力をうまく発揮できなくなる。シリウス先生の正体を見破ったあとカフェ先生も同じ手法を用いたという。 しかし並の魔法使いができる芸当ではない、いわばカフェ先生の十八番だった。
12 21/12/25(土)00:55:40 No.879712400
「私、お母さんに拾われてからも、独りだったんですよ」 『……っインセンディオ!!』 「お母さんは忙しかったんです。あのサンデーサイレンスを倒した偉大なる魔法使いだったから」 息を吐きながら、諦めたようにそう零す。 その言葉に聞き覚えがあるような気がして、次の呪文を紡ぐはずの口が硬直した。 しかし、先生はそんなに―― 「あの人はそんなに忙しそうに見えませんでしたか? そうですね。貴女の記憶のなかにいるお母さんは、物凄く楽しそう」 開心術! なにもしていなかったように見えたクリークは私のなかに入り込んでいたのか! 私にはその素振りさえ、見えなかった…………。 「貴女も、私と同じなら、わかりませんか。誰もいない部屋で積み木を積んでいくむなしさが」 わかってしまう。仕方ないとわかっていても、誰からも愛されていないんじゃないかという不安。それを誰に打ち明けることもできずに、胸の奥で膨らませていく苦しさが。 わかってしまう。
13 21/12/25(土)00:55:51 No.879712474
「……だから、殺したんですか」 「いいえ。そんな小さなことひきずってなんていません。もっと大事なことです」 階段を下りて、彼女の声がまっすぐ届くようになる。それだけで、ぐっと距離を縮められたように感じてしまう。 『インペディメンタ』を唱えても、呪文はもはや発動さえしてくれない。 「決別したんです。彼女に縛られたままでは、先に進めなかったから」 私には、その言葉の意味がよくわからなかった。 その言葉には、これまでにあった覇気を感じられなかったから。 「貴女はただ、カフェ先生に見てもらいたかっただけなんじゃないですか……?」
14 21/12/25(土)00:56:02 No.879712535
足音は止まらない。きっとあと二、三歩でつま先が触れ合ってしまうだろう。 「カフェ先生が死ぬなんて、思ってなかった」 これは呪文さえ唱えられなくなった私の最期のあがきだ。『スーパークリークが私と同じだったなら』そんな憶測から出たでまかせだ。 でも、奇跡が起きるなら、この言葉が届いてください。 「貴女は!! カフェ先生を縛り付ける学園を――」 私の胸元に、杖が置かれる感覚があった。奇跡なんておこらなかったのだと、色を失う。 『プロテゴディアボリカ』
15 21/12/25(土)00:56:13 No.879712588
青白い炎が杖先から吹き出し、私の身体を抱くように燃え広がる。 と、同時に。これまで相対していた敵の全貌をようやく視認した。 こいつが、この学園をめちゃくちゃにしたのかと、今更ながら思う。 マヤちゃんと、オグリ先輩と、ニシノちゃんと、スカーレットさん。みんなと同じ炎に焼かれるまで、私はあろうことか仇敵に対し共感してしまっていた。 甘さを、捨てきれなかった。
16 21/12/25(土)00:56:23 No.879712660
踵を返す仇敵の、その髪のたなびきさえもゆっくり見える。 私の足が、燃え尽きて崩れていく。 ああ、苦しい。こんな苦しさのなか、マヤちゃんたちは死んでいったのか。 不安だっただろうな。 もっと生きたかっただろうな。 マヤちゃんを見捨てて逃げる私も、マヤちゃんにはゆっくりと映っていたのかな。 どうせ同じ結末なら、あのとき手を握ったままでいればよかった。 そう思った。 死の運命を、受け入れてしまった。
17 21/12/25(土)00:56:38 No.879712744
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18 21/12/25(土)00:56:50 No.879712807
碧の光線が一層強く、仇敵の輪郭を捉えた。 すでに学園を焼いた悪霊の守りは消え失せている。燃え尽きたはずの身体もなぜか、傷一つなく再生していた。 意表を突かれたスーパークリークは振り返るとともに、あっけなく崩れ落ちた。 「はあ……っ、はあ……っ」 仇敵を倒したにしては、あっさりとしていて。実感はまだわいてこない。 だから、全てをめちゃくちゃにした憎むべき死体に向かって―― 「さようなら。愛を受け入れられなかった私」 ――決別の言葉を使った。
19 21/12/25(土)00:57:00 No.879712869
「スペ!」 『ルーモス』を携えたお母ちゃんが勢いよく現れた。 「闇の魔法の反応があったが」 「クリークさんの守りの呪文です。ほらそこ」 私が足元を指さすとお母ちゃんは飛びついて死体を取り押さえながら強引に瞼を開かせ『ルーモス』を向けた。 「……生命活動は停止している…………死の呪いを使ったのは、仕方がないか」 「スペペペ勝っちゃいましたよ私!ほめてください!」 「調子に乗るな」 「へへぇ…………そういえばどうしてここに入ってこれたんです? お母ちゃんが開け方を覚えてるとは思えないんですが」
20 21/12/25(土)00:57:15 No.879712968
「私よ、スペちゃん」 「スズカさん!?」 「私、物覚えはいいほうなの。スペちゃんにも勉強を教えてあげたとき、あったでしょう」 「スズカとは職場が同じでな。お前の学園生活のこともよく聞いている」 「お、お手柔らかに……」
21 21/12/25(土)00:57:27 No.879713032
「まあまあ。スペちゃんは偉大な魔法使いさんですから。スーパークリークの後処理や報告は私にまかせて、ねぎらってあげてください」 「……それもそうか。スペ、肉食うぞ」 「ええ……今のスペちゃんにそれはちょっと」 「高いやつですか!?食べます!!」 「スペちゃん!?」
22 21/12/25(土)00:57:39 No.879713106
カフェ先生の隠し部屋から出ると、解放感たっぷりの空が迎えてくれました。あまりのまぶしさにくらりとしてしまいます。 よろけて不安定な私を、お母ちゃんが抱きとめてくれました。それはいままで目にしたどんな魔法よりも温かくて、安心する匂いがしました。 「……私の一番の幸運は、ほかの誰でもない、お母ちゃんに拾ってもらえたことです」 「……そうか」 いつのまにか、私の目は光を受け入れていました。でも少しだけ、お母ちゃんに身を寄せながら、歩くことにしました。
23 21/12/25(土)00:58:46 No.879713520
※拡張子を入れ忘れていてログで上手く表示されなかったのであげなおしました これでちゃんとログのほうが見やすくなっているはずです
24 21/12/25(土)00:59:19 No.879713671
まあ確かにあれがあるのとないのじゃ大違いだな 年の瀬に良作が多すぎる、ありがたい…
25 21/12/25(土)01:00:27 No.879714029
スペだけ生き残ったの美しすぎた…
26 21/12/25(土)01:10:40 No.879717062
剛運スペの怪文書ありがたい…
27 21/12/25(土)01:25:02 No.879720770
効く…
28 21/12/25(土)01:29:47 No.879721959
※なんかまたログで見れないんですがこれ以上立て直すのもあれなのでこのまま置いときます ちょっと横になるね……
29 21/12/25(土)01:31:50 No.879722446
悪霊の護りが不発だったのはスペの一回だけ生き残れるスキルが発動したのか… 本編では使わずに生き残ったんだから本当に強運だったよね
30 21/12/25(土)02:00:26 No.879729458
>※なんかまたログで見れないんですがこれ以上立て直すのもあれなのでこのまま置いときます >ちょっと横になるね…… あそこってあぷ小は問題なく表示されるけどあぷはなんか対応されてないっぽいんだよね