ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/12/24(金)22:21:11 No.879648334
「マッチはいりませんか。マッチを買ってください」 こんこんと雪が降るクリスマスの夜、寒さに震えながら マッチ売りのウマ娘の少女は道行く人々にマッチを売り歩いています しかし、きょうは誰も買ってくれる人はいませんでした お金が手に入らないとパンの1つも買えません このままでは、ひもじさできっと雪の中に倒れ込んでしまうでしょう そんな時、ひとりの紳士が少女に声をかけました 「そのマッチ、全部買わせてもらおうか」 これは、普通にマッチを求めに来た人の買い文句ではありません マッチ売りのもとにくる、特別なお客さんだけが使う暗号でした ウマ娘の少女もそれを理解し、やはり決められた秘密の返事でこう答えます
1 21/12/24(金)22:21:33 No.879648533
「お買い上げありがとうございます。しかし、かごいっぱいのマッチをどう持ち帰られますか」 「では、家まで案内するから、君はマッチを持ってついてきてくれ」 「わかりました。よろしくおねがいします」 取引は成立しました。言い終えたマッチ売りの少女が寄り添うと、 紳士は少女の腰に手をまわし、そのまま彼の家へと連れていきました 暖かい暖炉や飾り付けられたクリスマスツリーのある トレーナーさんの部屋に着いたマッチ売りの少女が、紳士といっしょにディナーを食べ 身じたくをととのえると、いよいよ今夜のお仕事がはじまります 「では、マッチに火を着けさせていただきますね」
2 21/12/24(金)22:21:52 No.879648689
シュッ、シュッ、シュッ マッチ売りの少女は、両手でマッチを何度も何度も優しく擦ります 「雪でぬれて、しけってしまっているかもしれませんので 火がちゃんと燃え上がるように、マッチに息を吹きかけますね」 ふーっ、ふーっ 赤くて大きなマッチに、勢いよく火が付きました。マッチ売りの少女の目の前で マッチの熱が起こしたかげろうがゆらめいています 「はい、無事に着火できました。とても熱くて、マッチのリンの匂いもすごいですね では、続いてロウソクにも火を灯させていただきます」 マッチの火はろうそくの先っぽへと移され、こちらもゆらゆらと焔がたなびきます
3 21/12/24(金)22:22:09 No.879648855
「お客さま、いかがでしょうか?体はあたたまっていますか?…それは何よりです あっ、ロウソクからロウが垂れてしまっていますね 床を汚してしまわないよう、お皿で受けさせていただきます」 暖炉の炎と、ロウソクの火だけが照らす薄暗い部屋の中で 紳士と少女の影はまるで重なったりしっぽの先まで揺れ動いているようにも見えます そうしてあっという間に時間は過ぎ、ろうそくの寿命も残りわずかとなってしまいました 「それでは、そろそろ限界のようですので、火を消させていただきますね こちらに、小さいですがコップを用意しましたので お手数ですがマッチを中に入れていただき、濡らして下さい 大丈夫ですよ。中のお水がこぼれてしまって、私のしっぽが濡れてしまっても 自分で拭きますから」
4 21/12/24(金)22:22:27 No.879649006
「マッチが奥まで浸かってジュッ、としましたね これで安心です。ところで、お客さまがお買い上げになったマッチはまだまだございますが いかがしましょう。…夜が明けるまで照らそうと。かしこまりました きっとこのお水で満たされたコップも、トレーナーさんのマッチの熱が移って どんどん熱くなってしまうでしょうが、お気になさらず おもむくままにマッチを擦って、ロウソクを垂らして下さいね フラワーは全部受け止められますからね」 そうして2人はふわっと浮かび上がり、天高く上るような気持ちになりました 朝になると、少女は紳士に寄りかかり、ほほえんですやすやと寝てしまい動かなくなっていました その手には、まだ燃えカスみたいになった紳士のマッチがにぎられたままでした