虹裏img歴史資料館

1 21/12/21(火)22:18:12 No.878717812

「年末年始ッスか…まぁ、オフならゆっくりぐだぐだしてたいッスねぇ。最近はやたら疲れたッスから」 「帰省とかはしないプイ？他のみんなも」 「ウチはしないッスね。エールちゃんは年越しはこっちでするけど、年始の休みのうちに一度は帰らないといけないらしいッス」 「あー、あの子はそういうの大事にしそうプイ」 大事にしそうなのか、大事にしないといけないのか。詳しいことは知らないが、それなりに立派な家の生まれらしいエールちゃんは恐らくこういう時は帰ってこいコールが凄いのではないだろうか 親戚もわんさか集まるらしいし、普段離れているそういった人付き合いも山ほどあるのだろう。もしかしたら時々垣間見えるプレーンエールちゃん全開の姿が見れるのかもしれない いやどっちがプレーンなのかは知らないが…ああ 「なるほど、そういう…」 「え、何プイ。その目は何プイ」 「いや、悪いことじゃないッス。ただふっと納得したというか」

2 21/12/21(火)22:18:26 No.878717901

エールちゃんがこの変な先輩の奇行にも平然と付いていき態度も我々に対する普段のそれと変えないのは、そういうことなのかもしれない 英雄と呼ばれるこの変な先輩が、散々このプレハブに来て愚痴っていた普段のあれこれ 大仰な異名を背負わされて、周囲に期待という名の重圧を押しつけられて。興味も無い場への臨席を要請され、話したくも無いお偉いさんとご歓談し、したくもない立ち居振る舞いを望まれる 自分のままで過ごせない。そんな息の詰まる日々を送ることの閉塞感と退屈を身を以て知っているとしたら、なるほどエールちゃんはこの先輩の理解者だ 言葉にはせずとも、少しでも自然体でいられる時間を大切にしてあげたいと思っていたとしてもおかしいことではない だとしたら、ああ全く…優しい子だ

3 21/12/21(火)22:18:41 No.878718023

「…自分が疲れなきゃいいんスけどね」 「突然どうしたプイ？」 「いえ、なんでも。そうそう、魔女っ娘は間違いなく帰省しないッスよ。毎年帰ってこいって実家からの電話に反発しまくってるんで」 「あー。いつもの、やぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁってやつプイね」 「そうそう、ゲート入り拒否ってる時と全く同じッス」 ある意味一番語るまでも無かったか 「刀剣ジャンキー先輩は…例年だと年越しは寮ッスけど年始に大体出かけてるッスね。寒稽古でもしてるんじゃないッスか？」 「ある意味健全プイ。おねーちゃんは？」 「姉貴が帰るわけないでしょうに。自室でダラダラしてるかここ来て他の誰かにちょっかいかけてるかッス」

4 21/12/21(火)22:18:58 No.878718171

実際、一度「たまには帰省しないんスか？」と聞いてみたことがある 返答はジェスチャーだった。真顔で中指おっ立ててきた。ここまで来ると最早流石だ 「姐御はどうなんスかね、ちょっとわからないッス。他の面々は、まあそろそろわかると思うッスよ」 「あ、こらみかん塔崩しちゃ駄目プイ」 プイ先輩がコタツの上で縦に積み上げていたみかんを一つ拝借。そういえば貰い物のリンゴもあった。あとで切ってくるか トレセンに来るウマ娘なんて、申し訳ないが個性やアクが強い子がひっじょーに多い。年末年始には欠かさず帰省して両親と過ごす子もいれば、何かしらの理由でそれを絶対に拒む子だっている 中には、年末に必ずお祭りに向かう子達もいるらしいが…これは深く触らない方がいいだろう 他にも思い返せば、カレンの姐御を追跡する気全開の例のアレに、年越し芦毛ウォッチングとかいう謎のサバトしてる変態に、年始から歌会やるとかいう不吉な予感しかしない会に、様々すぎて考えたくない 自分だって寮でダラけるつもり満々である以上、他の子達に何か言うつもりも無い むしろ、気になるというならこの話を振ってきた目の前の張本人だ

5 21/12/21(火)22:19:13 No.878718284

「ちょっとリンゴ切ってくるッスよ」 「ウサギさんがいいプイ」 「はいはい、ちゃんと剝きますって」 大した手間でも無いからいいが。席を立って、リンゴを二つばかり取って手早く剝いていく みんなリンゴは好きなくせに自分で剝こうとしない人が多すぎる。みかんと違って席を立って道具を使うのは確かだが、流石にものぐさがすぎるだろう 姉貴なんて丸かじりがデフォだ。自分だって人の子とは言えないが女子力は死んだのか 「そういう先輩はどうなんスか。また今年もあちこち挨拶回りで忙殺ッスか？」 リンゴを皿に盛りつけてヨウジを刺し、コタツに戻って聞いてみる んあ、とか口を開けやがった。食わせろと。仕方ないので、ヨウジを持って一回だけこのナマケモノの口に入れてやる

6 21/12/21(火)22:19:29 No.878718415

「んー、美味しいプイ」 「そりゃよかったッス」 「今年はお休みプイ」 「え？」 「お休みプイ」 素直に間の抜けた声が出てしまった。いや、流石にそれは予想外だ 普段からこういった時期の行事などには常に参加を強いられててその愚痴をこぼしに来るこの人が、まさかの休みとは 本人としては願ったり叶ったりなんだろうが、よくそれを他が許したものだと 「残念ながら完全にじゃないけど大半はお休み分捕ったプイ」 「…よく許されましたねそれ」 「お正月以降の来年のアレコレを人質にとったプイ」

7 21/12/21(火)22:19:41 No.878718525

ニタァと、普段しないようなシニカル気味な笑みと共に犯行声明 要するにボイコットを匂わせて有無を言わさなかったと。よほど本気で休みをもぎ取りにいったらしい。ボイコット宣告された側の顔面蒼白具合が目に浮かぶ もしも来年以降の行事をボカスカ逃げられたりでもしたら大惨事だ。それこそだれも責任なんてとれやしない そう考えてみれば、よくもまぁ今までこの手を使わなかったものだという思いと、この手段がどれほどまでに凶悪なのかを思い知る 恐らく今後、強硬手段に出られてしまうのではないかという恐れが常につきまとうはず 向こうにも事情はあるとはいえ、まあ流石にこのプイッとした先輩の鬱憤を溜め過ぎたという事だ こちらも散々愚痴を聞かされた身ではあるし、あえてやめとけとは言わない

8 21/12/21(火)22:19:53 No.878718630

「ま、たまにはこういうのも許されるべきプイ」 「それは否定しないッスけどね」 「そういうわけで、帰省しないなら付き合ってもらうプイ」 「はい？」 「年越しこっちならエールちゃんも来れるプイね」 「いや待ってくださいッス。何の話進めてるんスか怖いッス」 半分溶けたスライムみたいにニヨニヨ笑いながら悪戯っ子は何か突き出してくる 確か姐御が買ってきて置いて行った雑誌だったか。そこに適当なメモ用紙のしおりが挟まれている。ここを読めという事か 「…初詣スポット特集？」

9 21/12/21(火)22:20:05 No.878718724

こっちが内容を確認したのを見て、三分の一くらい溶けていた先輩がプキュッと姿勢を戻して身を乗り出してくる あ、またなんか変な提案する気だこの人 「二年参りって一度もやったことがなくて憧れてたプイ。お堅い連中もいないし、みんなで一緒に行くプイ♪」 …休みを分捕る計画を立てたのと、二年参りの計画を立てたのがどっちが先かはわからない ただ一つ分かることがある 「…寝正月しようと思ってたんスけどねぇ」 どうやら今年の暮れも、来年の始まりも。静かに過ごさせてはもらえないらしい ここ最近やたら押しが強くなった気がするプイ先輩はすでに勝利を確信したドヤ顔。なんかムカつくので鼻を摘まんでおく 「プキュイッ」

10 21/12/21(火)22:20:21 No.878718830

こんなオモチャあったなぁ…なんて考えて、お鼻を解放し一つため息ついて覚悟を決める 「エールちゃんと、姐御には連絡回しておくッスよ。一応、他のメンバーにも」 「うんうん！絶対人数多い方が楽しいプイ！」 「わからないッスよ？エールちゃんの帰省のスケジュールによっては夜更かしさせられないッスから」 「そこは祈るプイ。それでそれで、この辺りだとどこがいいプイ？」 「知らないッス。カレンの姐御に一緒に聞いてはみるッスよ」 「屋台が多いところ希望プイ！」 「あ、食べ歩く気満々ッスね」

11 21/12/21(火)22:20:32 No.878718921

少し前、この人は何を生き急いでいるのかと思ったことがあった。それくらい唐突で、強引で、周りを容赦なく巻き込んでいくから でも最近はなんとなくわかる。この人は嬉しいだけだ。肩肘張らずにプイプイ言っててもいい場所を得て、今まで我慢した分を取り戻したいだけ 生き急いでるんじゃなくて、ひたすら強欲。ひたすら貪欲。楽しい事を、一つたりとも取りこぼしたくないだけ レースではまさに君臨という言葉が似合う最強の一角のくせに、普段はまるで子供そのものだがそれもそうだ 自分達はまだ子供だ。学生という天下無敵の身分だ。少しばっかり、やる事多くてキツいことが多くて目指すものがあるだけの、子供なんだ だからきっと、これも悪いことじゃないだろう 「詳しい事は明日話す方がいいッスね。そろそろ帰らないと門限破りになるッス」 「じゃあここ出たら分かれ道まで併走するプイ？」 「勘弁してくださいッス完全に明日潰れますから」

12 21/12/21(火)22:20:48 No.878719035

冬はますます深まっていき、師走の時は語源通りに忙しなく流れていつしか過ぎ去る 師走で無くてもただでさえ忙しない日々を送る自分達が、大人になっていつか何かの拍子にふと振り返った時に思い浮かべるのはいつの思い出なのか ひたすら栄光を目指し挫折しそれでも足掻いた日々の情景の合間に、馬鹿ッスねなんて笑って言える何でもない日がいくつかあったなら 「じゃ、帰りますか」 「うん。また明日プイ～」 それはちょっとだけ ちょっとだけ、誇らしいものになるかもしれないから

13 21/12/21(火)22:21:05 No.878719145

以上。酒が回ったので舎弟した

14 21/12/21(火)22:23:17 No.878720152

ありがてぇ…

15 21/12/21(火)22:24:29 No.878720653

最近毎日酒飲んでるな…

16 21/12/21(火)22:24:29 No.878720654

「ディープインパクトはねプイｐ」 「次からその言い方したら一回につき10回イベントも臨席もボイコットするから。」 「！！！？？」

17 21/12/21(火)22:25:18 No.878721001

>年始から歌会やるとかいう不吉な予感しかしない会 有馬の結果次第で恐ろしいことに……

18 21/12/21(火)22:26:11 No.878721404

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