21/12/20(月)01:24:28 秋。... のスレッド詳細
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21/12/20(月)01:24:28 No.878148109
秋。それは実りの秋であったり、読書の秋であったり。とはいえ我々トレーナーとウマ娘にとってはスポーツの秋というのがやはり一番馴染み深いだろう。 俺自身もまだ若手のトレーナーではあるが、幼い頃からスターのようなウマ娘を見て、その姿に憧れて過ごして来た。 とはいえ。 「はーっはっは! トレーナーくん、見たまえよこのテイエムオペラオーの御業を!」 そこら辺の屋台で景品を根こそぎ取り漁っている担当ウマ娘のテイエムオペラオー。 彼女ほど何もかもが"強すぎる"存在とこんな若手の自分が巡り会うことになるとは、思ってもいなかったが。 「おいおいオペラオー、まだ祭りは始まったばかりだぞ。……小遣い、そんなに渡してないと思うが」 今日は秋まつり。トレセン学園で云うところの秋まつりといえば聖蹄祭が一般的であるが、今回はファン感謝祭であるそれとは趣が違う。 『全てのウマ娘が幸福になれる世界を』を標榜する生徒会長であるシンボリルドルフの提案らしく、この秋まつりは一般参加者厳禁で、トレーナーとその担当ウマ娘たちが羽を休めるためのイベントだとか。
1 21/12/20(月)01:24:58 No.878148230
なかなか粋な、貴重なコミュニケーションを図る場であるのは疑いようもないのだが、今の自分にとっては少し悩ましいものかもしれない。 本当に、そのまま。このまま、俺は前に進めるのか。それすらわからなくなっているのだから。 「……さて、トレーナーくん?」 「どうしたんだ、オペラオー」 先程まで無双の限りを尽くしていたテイエムオペラオーは、いつのまにか戦利品をどこかにしまって俺に話しかける。 「……君、まさか」 「まさか?」 「まさか、このボクとの」 ごくり。まさか、勘付かれたのか。 「……祭典が! この程度で! エチュードで! 終わるなんて思ってるんじゃないだろうね!」 ……そんなわけはなかった。俺の担当ウマ娘はいつでも自信満々で。やはり俺とは違うのだ。 「まさか。君がこの程度で満足しないことなんて知ってるよ、オペラオー」 そういうと、オペラオーは上機嫌で。 「いいだろう! ボクに付いてくるといい! ……いいかいトレーナーくん。ボクたちは最強でなければいけない。だから、遊びであっても最高でなければいけない」 「つまり、今日は遊び呆けると」
2 21/12/20(月)01:25:15 No.878148285
「……やれやれ、相変わらずトレーナーくんの言葉遣いは風情がないね……だがそれもまた良し! 今日はボクが君をエスコートしてあげよう!」 女性が男性をエスコートするというのはなんだかあべこべだ。とはいえオペラオーにそんな常識が通じないのは百も承知だ。 彼女はそう、何もかもが規格外であり。それゆえにそこに砂をつけるとしたら、つけてしまったのは。 「というわけで、トレーナーくん」 急に落ち着いて、オペラオーは掌を差し出す。なんだろう。 「……財宝がなければ裸の王様同然!」 「ああ、お金ね」 少し申し訳なさそうに彼女は回りくどい言い回しでお金を無心して来た。問題はない。一緒に祭りを回るのなら、金ぐらいは出してやるつもりだったし。 それくらいしか、俺には出来ないし。
3 21/12/20(月)01:26:07 No.878148457
ずんずんと前を行くテイエムオペラオーを追いかける形で、ぎこちなくも俺たちは秋まつりを回っていた。 こうやって振り回されるのが嫌なわけではない。それが嫌だったら、とっくの昔に彼女のトレーナーを辞めているだろう。もちろん彼女も同じで、俺といるのが嫌なわけではないだろう。 けれど、性格面の相性だけでトレーナーと担当の全てが決まるわけではない。トレーナーはあくまでウマ娘の勝利を支える存在なのだ。故に、その存在が勝利に寄与していない、それどころか邪魔さえしているのなら。 「トレーナーくん、見たまえ!」 ついつい思索に耽っていると、オペラオーが俺を呼ぶ声がする。当然振り向く。自分は彼女にエスコートされているらしいから、離れ離れになるわけにはいかない。 ……そこにあったのは、いつもよりも。いつもより、数倍。正確には七色に光る、俺の担当ウマ娘がいた。
4 21/12/20(月)01:26:51 No.878148612
「……どうだいトレーナーくん! 七色の虹がまるでそう、かの伝説のビブレストのように! あるいは黙示録の七つの喇叭が鳴り響いているかのようにさえ!」 「……うん。物理的に光ってるな、オペラオー」 いつも輝いていると自分のことを言っていたが、とうとうその輝きが俺にも見えるようになってしまったか。テイエムオペラオーというウマ娘はどこまで出鱈目な……いやいや。 「どうなってるんだ、その光」 「いい質問だねトレーナーくん! いやなに、そこに怪しい屋台があったのでね……覇王として見過ごすわけにはいかなかったのさ」 「なんで……だよ」 「安心したまえトレーナーくん! 覇王は謎の液体の試練を掻い潜り、見事王の証を手に入れた! そう! この輝きこそが」 「わかったわかった、そんなに眩しい理由はわかった」 「おっと! トレーナーくんにもついにボクの煌めきが理解できたのかい?」 会話が微妙に噛み合っていない気がするが、なんとかそのまま言いくるめる。……レインボーな光は収まる気配がまるで見えなかったが。
5 21/12/20(月)01:27:04 No.878148651
「……目立つなあ……」 「目立つ! そうだろうそうだとも、ボクと一緒にいたら目立つ! なんと言ってもボクだから!」 「……」 いつでもこうなのは正直羨ましい。もちろん自分とは違う存在なのはわかる。それでも羨んでしまうのが人間で、そういった憧れからトレーナーになるのだってありふれているはずだ。 ふと秋の空を見上げると、オペラオーの光とは対照的な黄昏が広がっていた。俺はせめて、あれくらいの存在になれるだろうか。なれていないだろうか。おそらくそれを確かめるために今日がある。あの菊花賞から大した間もなくこういった行事があることに、俺たちなりの意味を見出すならば、きっと。
6 21/12/20(月)01:27:33 No.878148739
それからもオペラオーの発光と高揚は留まらず、周りの注目は自然と猛烈に此方へ向いてくる。 ……この目線は好奇だけではない。あるいは不審、あるいは嫉妬。何度もオペラオーと共に受けて来た視線と本質的には同じものだ。 「はーっはっはっは! 見たまえ、この七色に光り輝くボク!」 オペラオーはそういうけれど、それは強者の台詞なのだ。きっと、俺とは違うのだ。 そうして遠目に眺めていると、オペラオーが誰か他のウマ娘に声をかけるのが見えた。……あれは。 「おっと! そこにいるのはゼンノロブロイ君じゃないか? はっはっは、なんという幸運なんだ! ちょうどいいところに!」 そう、ゼンノロブロイだ。返す言葉は聞こえないが、どうやらオペラオーはゼンノロブロイを探していたようだ。……たまたま目に入ったからさも探していたかのように言っているだけかもしれない。
7 21/12/20(月)01:28:16 No.878148875
「ああ、詳しい話はこっちで話そう! トレーナー君たちはそこで待っていてくれない か?」 いつのまにか誰かとセットにされていた。……ああ、ロブロイのトレーナーさんか。しっかり担当ウマ娘と二人三脚でやって来たのだということが、去りゆくゼンノロブロイが向ける彼への視線でわかる。若手という言葉に甘んじて、テイエムオペラオーの強さにおんぶに抱っこで。そんな俺なんかよりも実力はあるのだろう。 オペラオーたちが他所へ行くのを了承して待っている間、自然と二人の会話が始まった。 「……相当元気なウマ娘を担当してらっしゃるんですね」 「あれでも実力は伴ってるんですよ、ご存知かも知れませんが」 そういえば、ゼンノロブロイとテイエムオペラオーは普段からたまに会話しているのを見かける気がする。仲の良い友達がいるのならいいことだと思う。それはトレーナーに縛られず、充実した生活ができているということで。
8 21/12/20(月)01:28:30 No.878148926
「ええ、ゼンノロブロイから話は聞いてます。そのトレーナーのことも、たまに」 「……俺の、話ですか」 少し予想外だった。オペラオーにとって自分は手鏡ほどの価値も必然性もないのではないかと思っていた。 「ええ。それこそ……おっと、これは本人には言わない方がいいですね」 あからさまに何かを隠された。オペラオー本人に聞け、という先輩トレーナーからのアドバイスなのだろう。 「ありがとうございます……おっと、あちらも話が終わったようですね」 そうして、何やら意気投合した様子の2人のウマ娘と合流し。 軽く挨拶をして、ゼンノロブロイたちと別れた。気づけば空はもう深黒。ああ、確か。 花火が上がるのは、これくらいの時間だったな。
9 21/12/20(月)01:28:51 No.878148993
「ふう……遂にボクの威光も終幕か……」 「光ってるのは確かに綺麗だったが、花火の時間だしな。タイミングが良かったと思おう」 そういえば。そうやってオペラオーに先程生じたばかりの疑問をぶつけるのは簡単だ。きっと彼女は肯定して、真っ当な返事、あるいは大仰な返事をくれるだろう。それがいつも通りで、それから進めない。 そう、できている。 「……トレーナーくん」 そう、できていて。 「トレーナーくん?」 そう、それよりは───。 「トレーナーくん!」 がばっ。いきなり力を込めて、後ろに倒される。当然力では勝てず、冷たい地面に倒れ込む。そのはずだった。柔らかい感覚で、閉じた目を開くまでは。
10 21/12/20(月)01:29:10 No.878149066
「……こほん。どうだい、トレーナーくん」 「どうっ、て……」 「覇王の身体を枕にした感触は!」 「へ!? な、なにをいっとんのや……!」 あ。 「……ぷっ。あっはっは! ……はーっはっは! ……ああ、ようやく君の西部訛りが聞けたね」 しまった。ずっと、きちんとしたトレーナーにならなければいけないと思っていた。それこそ言葉だって、標準語を使うのが当然だと。だからずっと、ずっと。 「これは関西弁だよ。……西部訛りなんていうのは君だけだ」 「西部といえば、トレーナー君は『ウエストサイド・ストーリー』を観たことはあるかな? ミュージカルでも、映画の方でもいい」
11 21/12/20(月)01:29:33 No.878149141
……話を聞いていない。 「えーと、確か敵同士の男女が恋をする話だったかな」 「さすがボクのトレーナーだね。そうとも、カラーギャングの抗争とそこに抗う悲恋の物語だ……ラストでは、別離が描かれる」 「ああ、悲しい話だよな」 俺に膝枕をしながら話しかけるオペラオーは、なんだかいつもより落ち着いて見えた。 「……Tonight,tonight.」 わずかに口ずさむ、テイエムオペラオーの歌声。それはいつもの高らかなそれとは違っていたけれど、はっきりと聞き取れた。そして、その続きを俺が繋げる。 「Tonight the world is wild and blight.……だった、かな」 「そうだよ、トレーナーくん。ウエストサイド・ストーリー、そのもっとも有名な一節だね。世界は素晴らしく、光輝いている。二人の男女が、何物にも縛られない永遠を願う言葉。たとえ周囲が何であろうと、世界は素晴らしいのだから」 「……何が、いいたいんだ」 「これは覇王からの命令ではなく、一人のウマ娘として愚直に願うことだ。……トレーナーとは、別れたくないものだよ」
12 21/12/20(月)01:30:14 No.878149260
ああ、そうか。 「……なんだ、お見通しだったのか……流石だな。俺とは違う」 そう、あの菊花賞は勝てるはずだった。傲慢な物言いかもしれないが、俺にはオペラオーの強さが誰よりもわかる。勝てなかったのは、俺のせいだった。 だから、俺は何かを与えるどころか栄冠さえ奪ってしまった。……なんのことはない。新人には荷が重すぎた。……そういったことはたくさんうわさとして聞いてしまったし、自分が一番思うことだった。だから、どこか強いチームにでもオペラオーを移籍させる。それが俺の中での決定事項で、今日の秋まつりだってその決心を鈍らせるつもりはなかった。それでも。 「君は、覇王の側に立つ人間だ」 それでも、覇王は謳う。 「……側に立てていたようには思えないよ」 「周りの声が辛かったかい?自信を無くしてしまうほどに」 いつのまにか、花火が上がり始めていた。それすら気づかないほど、言葉と言葉に集中していた。 「そうだ、な。だから、俺は君のトレーナーから外れるべきだ」 「じゃあ、ボクが君とじゃなくても勝てると思うかい?」 「そりゃ、勝てるだろ。むしろその方が勝てる」 「……その答えは半分正しくて、半分間違っているね」
13 21/12/20(月)01:30:35 No.878149319
なんだろう。彼女の言葉は真剣さを帯びていた。いや、常にオペラオーはそのつもりなのだ。どんな台詞を選ぶとしても。 「もちろん、ボクは誰とでも勝つに決まっている。何故なら覇王だから……でも。そうだ、具体的な例を挙げよう」 「具体的、か。例えば全部勝てば君の言説も正しいと証明できるだろうな」 そう言うと、俺を見つめる瞳に電撃が走った。……そんなふうに見えた。 「……いいね。うん、いいね。……『年間無敗のグランドスラム』……うん、いい響きじゃないか」 「……おい、まさか」 でも、わかっている。オペラオーが言い間違えることはない。目標を違えることもない。 「そう! ボクたちの目標は決まったね! 世紀末伝説、無敵の覇王として君臨する……。目標は、あの皇帝シンボリルドルフに並ぶGⅠ七勝、年間無敗。……これくらいでなければ主役は務まらないものさ」 「……そうか」 それほどまでの目標なら、やはり─── 「だから、それを打ち立てるのは君としかあり得ないんだ」
14 <a href="mailto:おわりです">21/12/20(月)01:31:06</a> [おわりです] No.878149436
「……は?」 「誰とでも勝てる、そうかもしれない。でも、君と勝てるなら……そうとも、年間無敗は君が立てた目標で、ボクと分かち合う目標だ。 無敗なら、それ以上の勝利はないだろう? ……君以上にボクを勝たせられるトレーナーなんていないんだよ」 「……参ったな」 本当に、規格外だ。それでも彼女を奮い立たせるのが俺ならば、分かち合う勝利が俺たちのものならば。 「さて、改めて……次は有馬記念と行こうか、『ボクの』トレーナーくん?」 「ああ、俺は君のトレーナーだとも」 花火大会は終わったようで、周りで空を見上げていた人たちは既に散っていた。 ……俺がそれに気づかなかったのも無理はない。それ以上の輝きが、目の前で煌めいていたのだから。 今宵、今宵。世界は素晴らしく、光り輝いている。
15 21/12/20(月)01:32:11 No.878149664
ウワッー!力作!
16 <a href="mailto:周囲の方々">21/12/20(月)01:32:25</a> [周囲の方々] No.878149717
困った…本当にやってのける…
17 21/12/20(月)01:33:34 No.878149965
ウマ娘になってると菊花賞の敗北がトレーナーのせいって正直しっくりこない
18 21/12/20(月)01:47:38 No.878152654
ねえこのトレーナー…
19 21/12/20(月)01:53:59 No.878153772
つまんね…
20 21/12/20(月)01:59:04 No.878154666
ウッ
21 21/12/20(月)02:08:18 No.878156169
世紀末覇王できた!
22 21/12/20(月)02:10:41 No.878156537
なるほどそれでロブロイ…