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21/12/19(日)23:19:42 遠いと... のスレッド詳細

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21/12/19(日)23:19:42 No.878101317

遠いところに行った。 どこかもわからない、遠い遠い場所へ。 最低限の防寒をして、帽子を深く被って、ふらふらと目的地もなく、電車に運ばれて只々彷徨った。 仕事もやめて、命も残り僅かの今。全部どうでも良くなって、全部どこかに投げ捨てたくて、死に場を探すように。 辿り着いたのは知らない海が見える場所だった。 誰もいない海辺で、月の明かりを微かに反射して揺れる海面を眺めた。 ゆらゆらと、暗くて、寒くて──怖い。そこに入れば、全部失くなる。 すぐそこに求めた場所があると思った。 「どこ行ってたの」 でも出来なかった。 怖かったから、全てを失うことに怖気づいたから。 またそこからふらふらと、明るくなるまで彷徨って、辿り着いたのは結局ここだった。

1 21/12/19(日)23:20:14 No.878101610

「……でも良かった……戻ってきてくれて本当に良かった……」 リビングに足を踏み入れた瞬間、強く抱きしめられた。 心配したという声と、啜り泣く声が聞こえた。 冷たい空気にさらされていた身体が、腕に包まれて温められていく。 『……諦めせてくれよ』 『諦めるなんて、絶対にしないから』 お前さえ、せめてお前が見捨ててくれたら、もっと楽に失うことが出来たのに。 『もう俺なんか充分だろ、もっと良い女の所にいけよ』 『君じゃなきゃ駄目』 お前さえいなかったら、ここに戻ってくることもなかったのに。

2 21/12/19(日)23:20:27 No.878101712

『……なんなんだよ』 全部、お前のせいだ。 『お前なんか……お前なんかを』 初めから間違っていたんだ。 こんなことになるなら、最初からお前のことなんか── 『好きならなきゃ良かった』

3 21/12/19(日)23:21:24 No.878102080

────── 誰かが言った、独りになりたくなければ、ウマ娘とは恋愛をするな……と。 言葉の意味はそのままで、寿命的にほぼ確実に先立たれるからやめておけという意味。 そしてその寿命が約45から50年──この約半世紀の時間が、生まれた瞬間にウマ娘に与えられた命の期限。 それに対して人の寿命は約80年。 4世紀ぐらい昔なら人もウマ娘も同じぐらいだったらしいが、今じゃウマ娘とは30年の差が出来てしまった。 平均的とはいえ倍になった人と、さほど変わらないウマ娘……比べ物にならない身体能力と端正な顔立ちの代償か、または単に自分たちが脆いだけなのか、どっちにしろ、この世界はどことなくウマ娘の寿命を延ばしたくないように見えてしまう。 中には本当にそんな与太話を信じて、過激な思想を生み出したやつが──居るとか、居ないとか。 ……ただまあ、それが分かり切った現代でも、ウマ娘と人の恋愛や結婚は依然として少しずつ増え続けている。 そもそもが無計画で、考える余力を奪うもの、それが恋だから。

4 21/12/19(日)23:22:02 No.878102425

『もう31歳、か……』 『丁度9年前のこの日だったよね、付き合ったの』 『付き合ってない』 『もう流石にそれ言うの厳しいと思うよ……?』 今日の日付は6月13日。 9年前、今日と同じ日、同じソファの上で確かに俺は思いを告げた。 あの日の出来事は、今でも思い出せるくらいには鮮明に記憶に残っている。 二人だけの秘密と子供みたいな約束をしたこと、2時間ぐらい泣き止むまで抱き合ったこと、そのままの勢いでベッドに移動したこと……今でも、これからも、決心したこと含めて全部忘れるはずがない。 忘れることは無い、けれど……あの時は何か変わると思ってたんだけどな…… 『……結局あんま変わらなかったな』 『家具と家電はちょっと高いものに変わったじゃん』 『それほぼ何も変わってねえだろ。ロマンチックを求めた俺がバカだったよ』 『そんなの今更言われても……もう30代だし』

5 21/12/19(日)23:22:35 No.878102633

『お前はウマ娘じゃないだろうが……というか何の番組なんだこれ』 『動物のドキュメンタリーみたいだけど』 『面白くない。他に変えろ』 期待外れというか、ある意味期待通り。 より一層踏み込んだ関係になるかと思えば、大した変化は無かった。 無かったというか、踏み込みすぎていたんだろう。あの日以降の生活だって、それまでのいつも通りを、そのまま引きずってきたようなものだった。 いつも通り一緒に過ごして、一緒に仕事して、一緒に寝る。何もかもがいつも通り。 言ってしまえば、わざわざあんな恥ずかしい真似をしなくても今と同じ未来になると思えてしまうくらい……何も変わらなかった。 二人だけで出かけたり、意味も無く二つ同じネックレスを買ったり、それこそ最初の方は恋人らしくないと言われたところを変えようとはしていたが、最終的にはやっぱりらしくないからと振出しに戻っていた。 お互い人が多い場所が苦手で、若干めんどくさがり……まるでこのだらけた生活がお似合いとでも言われている気もする。

6 21/12/19(日)23:23:10 No.878102851

それが別に悪いとはさほど思わないけれど……周りが目まぐるしく変わっていく中で、二人だけがこうやって変わらないままで居るのは、なんだか不思議に感じだ。 『……もうあれだ、お前よりリョテイが飼ってる猫と過ごす方が幸福度が高いかも知れん』 『ステゴもこっちも懐いてるで言えば同じだけど?』 『あの猫そんな名前だったか?』 『リョテイが飼い始めたときにステイゴールドって自分が付けたんでしょ……』 一人随分と懐かしい名前が出た。 教え子の全員覚えているとはいえ、やはり残った印象には多少の差がある。 あいつはどんなやつだったか、どんな賞を取ったか……例えばクラシックを一つでも取れば名前とや走法や作戦の印象が残り、逆にそいつに対する印象が薄ければ薄いほど、必然と名前だけ覚えていると言った状態に近づく。 でもキンイロリョテイ……こいつは、俺の中ではその状態と真反対に位置している。 能力だけは一級品の小っちゃい体と図々しさを兼ね備えた無駄に小賢しい脳みそ。 チームを始めた時に席を用意してやって、約5年間も呑気に居座ったとんでもないやつ。 不真面目で単純にやる気がない。

7 21/12/19(日)23:23:27 No.878102966

これらは今だってまだまだ言い足りない文句の一部でもあり──悔しいが良さを助長する言葉でもある。 文句さえも良さに変えてしまう破天荒さや、名脇役の声を覆して主役に躍り出たフィナーレ、その一つ一つの特徴やストーリーが、もはや脳裏にこびり付いていると言っても良い。 要は全部ひっくるめてトレーナーとしてはやりがいにおいては申し分ないウマ娘だったということだ。 勿論他に担当したやつがやりがいを感じず悪いという訳じゃない。ただ相対的に見て、誰が一番印象に残ったかの答えがこいつなだけ。ただそれだけ。 二度と担当はしたくないが。 あいつが連れてこなかったらこんな破天荒は仕事で絶対に関わるはずは無い。 『会いたいなら呼んでこようか?割と近くに住んでるみたいだし』 『いや……この時間じゃ迷惑だろ』 『だから夜更ししないほうが良いって言ったのに』

8 21/12/19(日)23:23:46 No.878103122

頭を軽く撫でられると同時に、説教が上から聞こえた。 思い出に浸って懐かしさを覚えたというところで、少し期待させておいてからの説教……親しい相手に対して偶に苛つきしか感じない言動をするのは、昔から変わってない。 俺が説教を嫌っていることは……流石に分かっているだろう。 でもその説教を犬を扱うように頭を撫でて上手く中和出来ていると思っているなら、思いっきり違うぞと言いたい。 『夜更しに付き合う方もどうかと思うぞ』 『なんのためにチームを後輩に預けて長期休暇取ったと思ってるの』 『誰かに残りの時間は好きにしろって言われて好きに生きてるんだけどな。あと頭を撫でるな、俺は猫じゃない』 『それは言ったけど……身体を大事にして一日でも多く生きてほしいっていう気持ちも自分にはあるよ』 まただ、また始まった。始まってしまった。 放っておけば良いものを、一体どうしてそうやって現実を見させようとうするのか。 未来の話だとか、残りの時間の話だとかの話はもう聞きたくない。 だからこうやっていつも通りを過ごして紛らわしているのに、何故引き出してしまうのか。

9 21/12/19(日)23:24:12 No.878103297

『……やめろ』 『あ……ごめん』 俺だってもっと生きたかった。 こんな中途半端なところで終わらずに、ずっと一緒に居られるものだと信じてた。 後15年ぐらいはこのいつも通りの生活を繰り返して生きて、寿命を全うするものだと思い込んでいた。 でもそれはもう叶わない。 物語の終点が、すぐそこに迫っていると知ってしまったから。 結末はいかにも物語のありふれた最期みたいな、訳のわからない病をいつの間にか患って、気づいた頃には手遅れ。あとは終わりを待つのみ。 元々こんな悲惨な人生を辿る運命だったのか、それともこれは──あまりにも重すぎる、恋をした代償なのだろうか。

10 21/12/19(日)23:24:57 No.878103617

『なんのために俺が入院しなかったのか、分かるだろ?』 膝を枕にして寝そべっていた身体を起こし、着ていたルームウェアと下着を脱ぎ捨て始め、さっきまで消したテレビの画面に向けられていた視線がこっちに向いたまま、だんだんと素肌が晒されていく。 9年前にと比べてしまったら、身体は引き締まってないし、脂肪も少し増えて魅力は劣るかもしれない。 ただそれでも、ウマ娘の老けにくいという特徴のおかげで見窄らしくは見えないだろう。見向きしてくれる人が居る、今はそれで充分。 そして裸体を露わにしたその次は、今にも泣き出しそうな、日を重ねるごとに少しずつやつれていったその顔の唇に、啄むような口付けをした。 『……今日は寒いな』 この誘いの合図を出すのももう何回目か。 無慈悲で救いようがない現実から目を背けるため、逃げるように自ら快楽に溺れる。 行為を終えたら眠って、目が覚めたらまた何事もないいつも通りだと思い込む、それでまた現実に目を向けてしまったら、また身体を重ねて忘れる。 そんな現実逃避の繰り返し。

11 21/12/19(日)23:25:16 No.878103749

年月が経っても、結局俺は何も変わってなかったんだ。 9年前と同じ、言葉にできずに、こんな行為を頼るしか伝えられない我儘のままだ。 『温めてくれなかったら……また勝手にどこかに行くかもな』 やっぱり好きにならない方が、ずっと良かった。

12 <a href="mailto:sage">21/12/19(日)23:26:32</a> [sage] No.878104287

次で終わるかもしれないし終わらないかもしれない これまで fu630895.txt

13 21/12/19(日)23:29:19 No.878105587

お疲れ様です

14 21/12/19(日)23:32:29 No.878106958

完結するところが見たいが終わってほしくない気持ちもある

15 21/12/19(日)23:32:50 No.878107162

待ってたよ…

16 21/12/19(日)23:35:29 No.878108434

俺は辛い耐えられない…

17 21/12/19(日)23:36:39 No.878108979

お辛い...

18 <a href="mailto:s">21/12/19(日)23:56:09</a> [s] No.878117583

小ネタ的なあれなんですけど 日付にもちょっと意味があったりするので暇だったら調べてみてね

19 21/12/20(月)00:04:06 ID:17mDnbcI 17mDnbcI No.878120510

スレッドを立てた人によって削除されました 髪の毛に精液かかってる…

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