ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/12/09(木)23:19:21 No.874746584
抜剣したメラニーは迷わずイシルへ切っ先を向けた。狭い操縦席で予想だにしない行為にイシルは後ずさる。本来であれば背も低く体力的にも技量的にも劣るメラニーがイシルに挑むのは正気の沙汰ではない。しかしこの狭い空間が小柄なメラニーに優位を与えていた。 「メラニー、落ち着こう、ね。ね?」 「じゃあ私を殺してください隊長、もう隊長しかいないんですから!」 イシルには勝手に追い詰められたメラニーの心象など知る由もない。 「私は正義の味方なんかじゃないから、メラニーを殺せないよ?」 「いいえ、隊長は優しくて私を裏切らるつもりもない。そして強い立派な人ですよ?」 「私は歌しか興味ないダメな女だよ?」 「それがいいんです、純粋で、決して穢れを感じませんもん!」
1 21/12/09(木)23:19:37 No.874746652
半ば焦点が定まらない瞳で、必死にイシルの姿を追いメラニーはにじり寄る。 「メラニー、砦を出てからの行軍で疲れてるんだよ。鬼面の影に追われてたからね。結論を急ぐ必要あるの?」 「いや、だって私、塔の騎士に殺されるって決めてたんですよ。塔の騎士が目の前でぶち壊れたんですよ!?」 「う、ぁ、ぁぁ?」 叫ぶメラニーの声に呼応してか、操縦席後部の空間に放置していたナルヤがうめき声をあげた。 イシルと目が合うと、目をらんらんと輝かせイシルへ腕を伸ばし、掴みかかろうとする。
2 21/12/09(木)23:19:54 No.874746739
「てめぇ隊長に何するッスか! ウチの隊長は私を殺すんです!」 「二人とも、離れて、はーなーれーて!!!」 メラニーがナルヤの腕をひっつかみ、イシルはメラニーの剣を奪おうとし、女三人がティラントーの操縦席で揉みくちゃになる。 その最中、メラニーの剣が、イシルの服の腹部を掠める。そして大きな古傷を持つ、細く白い腹が露になる。 「私とお父さんの秘密を見たな?」 メラニーの注意がナルヤに向かったおかげで、身体強化と『詩』を歌うだけの余裕ができた。 術式を伴う旋律の『詩』に甘く誘うような声で完成した『歌』はするすると二人の『魔法演算領域』に侵入する。ミナス・ディンガーの理屈では『幻晶騎士』が人を模した存在であれば、『幻晶騎士』に出来ることは『人間』に応用可能なのだ。例えば『魔導演算機』ではなく『魔法演算領域』を操作し肉体を操ること、『幻晶騎士』に組み込まれる装置を小型化して人体に組み込むこと。
3 21/12/09(木)23:20:24 No.874746889
メラニーは幸せそうな笑顔を浮かべたままその場に倒れこむ。イシルもよく知らないがこれは脳内の幸福を感じるらしい物質を増幅させ、無力化、尋問、手術を行うための『歌』だ。それでもナルヤの方はメラニーの剣を奪い、イシルへと躍りかかろうとする。ナルヤは気絶する前にイシルの歌で魔法演算領域をごちゃごちゃにかき回されており、今度の歌が十分に効果を発揮していないらしい。 イシルは杖を抜き、魔力を流す。ミナス・ディンガー謹製の『人間用魔導兵装』だ。先端の結晶触媒が光り、紫電がナルヤが掴んだ剣を襲う。 「お父さんが作った歌が、不意打ちの一つや二つで破れると思わないでね?」 下級の魔法だが、弱ったナルヤを鎮圧するには十分だったらしくすぐにナルヤは意識を失う。 「メラニーは一晩放置すれば正気に戻るでしょ。ナルヤは、もう何をされても文句はないよね?」
4 21/12/09(木)23:21:45 No.874747279
貴重な戦力のメラニーを今失うわけにはいかない。 『鬼面』の騎操士のナルヤはいくら痛めつけても良心が痛むことはないだろう。 「ナルヤを隊員たちの慰めものにでもすれば、メラニーの私が正義の味方とかいう妄想が覚めるかも?」 ナルヤは想像以上に厄介であるため口には出したもののこの提案は即座に却下される。 「私の思い通りに動いてくれるのはキミ達だけだよ、ありがとうね、『おいてけぼり』」 自らのティラントーに語り掛ける。 「お互い、長い付き合いになるといいね?」 結晶筋肉が甲高く唸る。 「キミは私に何もくれなくていい。キミを通してお父さんを思い出すだけで、私の心は暖かくなって、何にでも立ち向かうことが出来るから。ただ側にいてね?」
5 21/12/09(木)23:22:03 [s] No.874747346
めでたし めでたし