ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/11/26(金)00:24:50 No.870309859
2000人のウマ娘の腹を今日も満たすトレセン学園のカフェテリアでは時折、コラボメニューがその献立に乗ることがある。 「やぁ~~りましたわぁ! 『劇場版プリファイ・54本の花束と私の宝物』の限定メニュー! なんと花束型ペンライト付き! テンションブチあがりでしてよ!」 今日のコラボメニューは人気アニメプリファイの劇場版公開記念として、作中に出てくるお弁当を模されたメニューであった。その自他共に認める大ファンであるカワカミプリンセスは、提供開始の一時間前から待機して、カフェテリアのおばちゃんがメニューを変えた瞬間に突撃していった。 あまりに力強い突撃だったので近くの皿が一つ二つ宙に浮いたが、この甲斐もあってかプリンセスは無事特典まで掴んで、上機嫌で席を探していた。 「って、何処も席が一杯ですわね……」 が、何処も席が埋まってしまっている。コラボメニューを待っている間に混雑してしまったようである。
1 21/11/26(金)00:25:22 No.870310003
「う~、これではせっかくのプリファイメニューが冷めてしまいます……あっ!」 プレートを持ってうろうろとしていると、ふとカフェの隅に二人用のラウンドテーブルの席が空いていた。これはラッキーとこれまたプリンセスはびゅっと飛び込むようにして席に座って、食事が乗ったプレートを宝物ようにそっと降ろすと、ふぃーっと息を吐く。 「……ってあらら?」 吐いたところで目の前に何やら白い山があるのに気づいた。よくよく見ればそれは山ではなく巨大な丼ぶりにこれでもかと盛られた白米であり、その横に並ぶのは空になって詰まれた皿たちである。 カワカミが首をかしげていると、その横からひょこっとウマ娘の顔が彼女を覗いた。葦毛のウマ娘である。 「君は……?」 「んっ、えっ? ほぎゃーーっ!? オグリキャップさん!?」 ビビンと尻尾を立てて、カワカミは立ち上がる。オグリキャップと言えば、大先輩であり偉大な功績を残したウマ娘。その席にいきなりドカッと座り込んだのだ、エアグルーヴから説教されるときのように顔が真っ青になった。
2 21/11/26(金)00:26:10 No.870310259
「も、も、申し訳ございません! すぐに違う席に!」 「大丈夫だ、一緒に食べよう。今日はタマもクリークもトレーナーもいないから、一人でご飯を食べていたんだ」 「えっ、あっ、あの……じゃあ失礼いたしますわ……」 此処までいわれたのだから、断るのも失礼と思って腰を下ろすとオグリキャップはニコリとカワカミに笑顔を向けた。聞いた話のイメージとは違った柔らかい表情は、プリンセスの緊張を解くには十分で、すぐに二人は言葉を交わしながら食事をする中になった。 プリンセスは聞く方も楽しい豪快な喋り方だし、オグリキャップは良くそれに返事をして頷いてくれる。どこか元気な後輩と落ち着いた先輩の図が出来上がっていた。 「やっぱり、ご飯は誰かと笑い合いながら食べるのが一番だ」 「同じ釜を食った仲って言葉もありますから! 私もトレーナーさんと、トレーナーさんと……」 ふとその中で、カワカミプリンセスがトレーナーを口にするとしゅんと耳を垂れたので、オグリは五杯目のどんぶり飯をおいて心配そうな目を向けた。
3 21/11/26(金)00:26:27 No.870310326
「どうしたんだ?」 「いや、その……この頃、トレーナーさんの元気がなくて。その、私の前ではいつもあの人なのに、いつも目の端では悩んでるような顔をしていたり、ため息をついていたり……」 「それは……心配だな」 「原因も分からなくて、聞いても答えてくれなくて。もしかしたら、私が原因ではないかもしれないと……」 半分まで食べたプリファイのランチを見つめながら、カワカミがため息を吐く。それを見ながらオグリキャップはふと、その目に過去を映した。映して、少し微笑む。 「きっと、大丈夫だ」 「えっ……?」 「すぐに、君のトレーナーは元気を取り戻す」 そしてオグリが視線を移したので、カワカミをそれを追ってみるとそこにはカワカミのトレーナーがいた。もう一人のトレーナー、オグリキャップのトレーナーと一緒に少し遠くの席に座っている。 「あっ……」 思わず、カワカミは隠れるように身を縮こまらせるが、トレーナーの浮かない顔を見てその耳を立ててそちらに向けた。ウマ娘の耳は大きく勝手が聴く、調整すれば器用に聞きたい人間の会話だって聞くことができる。 オグリをそんなカワカミを見て同じように耳を向けた。
4 21/11/26(金)00:26:51 No.870310464
「すまないな。相談を聴くのにこんなところで」 そう言ったのはオグリキャップのトレーナーだった。落ち着いた、まだ若いというのに喜も哀も味わってきたような貫禄のある声だった。 「いえ、ちょうど腹も減っていましたし……それに、こういう所の方が目立たなくて済むと言いますか……」 返したのはカワカミプリンセスのトレーナー。まだ新人特有の堅さも残る、真っすぐさが分かる良い声だった。 「しかし意外だ。君を可愛がっているキングヘイローのトレーナーの方が相談しやすいんじゃないのかな」 「その……今回ばかりはちょっと大先輩の方に聞いてほしいと言いますか……聞きたいことがあって……」 「何かな?」 「こういうと怒られるかもしれないけど、その、自分は担当に相応しくないって思ったことがありますか?」 カワカミのトレーナーの言葉に、オグリキャップのトレーナーは静かに彼に視線を合わせた。 「自分にも後輩が入ってきて、その後輩も凄い奴ばかりで……ふと、思ったんです。もし、カワカミが俺の担当じゃなかったら。って。もし、もっと他の奴が担当したら、彼女をもっと上手く、悲しい思いをさせずに導けたんじゃないかって……」
5 21/11/26(金)00:27:49 No.870310765
思わずトレーナーの元に駆け寄ろうとするプリンセスの腕をオグリが掴んだ。驚いたのはプリンセスであるが、さらなる驚愕はオグリキャップの腕を振り払えないということだった。まるで大地に根を張っているように大樹のように力強い。腕を動かせない。 オグリキャップは驚くカワカミに、「大丈夫」とただそう言って座らせた。向こうではオグリのトレーナーが口を開いているところだった。 「ある。というより、君のその考えはトレーナーの通過儀礼のようなものだ。症候群とでも言おうか」 「しょ、症候群?」 「トレーナー症候群。これはそう、優秀なトレーナーが才能あるウマ娘を持つほどかかりやすい」 「お、俺は優秀なんかじゃ……だから……」 カワカミのトレーナーは少しだけ目を伏せる。その姿は自分の担当のしぐさによく似ていた。 「ふとした時にもっとふさわしい誰かがいたんじゃないか、もっと輝かせることができたんじゃないか。いろんな考えが浮かんできては消えて、自分を信じられなくなってくるんだ」 「…………はい」
6 21/11/26(金)00:28:21 No.870310920
「そしてそれが頭から離れなくなる。自分が無能と謗られるより、一人の少女の人生を台無しにしてしまったんじゃないかという恐怖が、担当の眼を見ることさえ難しくさせる。だが変なことじゃない、自分が一番のトレーナーなんて大声で言える人間は少ない」 オグリキャップのトレーナーは、目の前の後輩が何故キングのトレーナーに相談できなかったのかその理由を分かったようだった。 「誰かと比べなくていい、その誰かもきっと同じように悩んだ。君もまた立派なトレーナーだ、自分の風評も気にせず彼女のことだけ気にしてきたじゃないか」 「……病気の治し方……ありますか?」 「根本的にはない。だが対処法はある」 そういうと、オグリキャップのトレーナーはカワカミたちの方に顔を向けて微笑んだので、プリンセスは驚いて目が右往左往してしまった。オグリから微笑みを返されたトレーナーはまた後輩に向き合うと、自分の胸にそっと手を当てた。
7 21/11/26(金)00:29:07 No.870311145
「信じればいい」 「えっ、でも……俺は……」 「自分をじゃない、自分のウマ娘を。カワカミプリンセスのことを信じているかい?」 「それはもちろん! 彼女は素晴らしいウマ娘です! だからそれで悩んで……」 「カワカミプリンセスは君を信じてくれている?」 「信じています……信じています!」 そう言ったのはプリンセス自身だった。呟くように、彼に届くように。トレーナーもまた、それに無意識に答えるように頷いた。 「じゃあ、それでいいじゃないか。君が信じるカワカミプリンセスが君を信じている。これ以上君の能力を保証してくれるものがあるかい?」 「プリンセスが……信じる……俺……」 「それが君以上のトレーナーがいないことの証明だよ。それでも不安になってしまったら……一緒にご飯でも食べて話し合うさ。ちょうどいいしね」
8 21/11/26(金)00:30:10 No.870311451
そうして、おもむろにオグリのトレーナーが席を立ったのでカワカミのトレーナーが目を丸くすると、間髪空けずにカワカミプリンセスがそこに座った。 驚いたトレーナーが先輩を見ると彼は後ろ手に手を振りながら、向こうのオグリの席へと腰を下ろした。 「どんな人よりも、信じています」 カワカミは向かい合いながら、何よりも潤んだ瞳で真剣にそう言った。トレーナーは自分の頬が少し熱くなるのを感じながら、ただ頷いた。
9 21/11/26(金)00:30:54 [s] No.870311672
ドチャクソ長くなっちまいましたわ…しかし悔いはありませんわ!
10 21/11/26(金)00:31:26 No.870311837
なんだよトレーナー症候群て...
11 21/11/26(金)00:33:26 No.870312409
トレーナー症候群とはトレーナーが陥る症候群である
12 21/11/26(金)00:36:58 No.870313415
いい…
13 21/11/26(金)00:38:18 No.870313815
スレッドを立てた人によって削除されました 長文なのに中身が全くなくてつまんね…
14 21/11/26(金)00:41:22 No.870314717
久しぶりに見たわ相席シリーズ意外な組み合わせ考えるの大変だと思うけどまた見れて嬉しい
15 21/11/26(金)00:42:16 No.870314978
素晴らしいですわ!
16 21/11/26(金)00:44:37 No.870315672
でもこういう考え方もっちゃいそうなトレーナーいそうだよなぁ…
17 21/11/26(金)00:52:05 No.870317851
良い話だ... 文章の書き方もすき
18 21/11/26(金)00:55:25 No.870318823
普段見ない組み合わせだしトレーナーも好感が持てるキャラでありがたい…
19 21/11/26(金)00:57:58 No.870319548
逆もあるとすればジョーダンは優秀…?
20 21/11/26(金)01:06:05 No.870321563
パイセンがパイセンしてる…
21 21/11/26(金)01:31:26 No.870327180
先輩が良い大人してるのいいよね…
22 21/11/26(金)01:31:35 No.870327205
K2かな?
23 21/11/26(金)01:35:25 No.870328035
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