虹裏img歴史資料館

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21/11/21(日)18:32:48 目が覚... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1637487168390.jpg 21/11/21(日)18:32:48 No.868874113

目が覚めると俺は蛾だった。いや、以前からそうだった気もするし、もっと這いずって動く存在だった気もするし全く違う何かだった気もする。 わかるのは背中に翅が生えており、空を飛びたいという気持ちで頭がいっぱいだという事。飛ぶのは初めてだと思うが飛び方はわかる。力を入れ翅を動かすとふわりと浮かび上がる。 ―――――――ぽとりっ ふと見ると、下半身がもげ落ちていた。無機質で透明なパイプに繋がれていた上半身と下半身。脆弱な身体が飛翔に絶えられなかった様だ。力が抜けて俺も落ちていく。 届くと思った空は遥か遠く。くらいくらい闇に飲み込まれていった。 目が覚めた。見慣れた天井。ソファーから起き上がる。先ほどまでの不思議な夢の残滓が脳裏によぎり、意識がまだぼやけている。 「やぁ、お目覚めかなトレーナー君。起きて早々悪いが紅茶を入れてほしい」 「……タキオン?」 「やけに呆けた顔をしているがどうしたんだい」

1 21/11/21(日)18:33:40 No.868874397

「それは『死への羽ばたき』だね」 先程まで見ていた夢の内容を伝えたところ、タキオンは俺が淹れた紅茶を飲みそう答えた。 「蝶や蛾をいった昆虫は幼虫と成虫とで劇的に姿を変えるだろう?さなぎの中で大半の組織がドロドロに溶け、がらりと体を作り変える。それこそ一度融解させた金属を新たな鋳型に注ぎ、鋳造し直す様にね」 子どものころの事を思い出す。よくアゲハの幼虫を捕まえて飼育しては羽化させたものだ。緑色のさなぎを破り、黄色と黒の翅を携えて孵化する様は子供心ながらに感動したものである。 「……ふうん、興味深いね。キミの子供時代について今度色々教えてくれたまえ。で、だ。1942年、昆虫の変態のメカニズムを解き明かそうとアメリカでとある実験が行われたんだ」 「同じ年齢の蛹を複数用意し、一つは上下半分に切断しそれぞれの断面にプラスティックの板をかぶせた。もう一つは切り離した蛹の上下をプラスティックの管でつないだ。」 「蛹の中で成虫の身体を作る様に命令するホルモンは、頭部と胸の辺りに存在する。その為、切断しプラスティックの板をかぶせた蛹は上半身の部分だけ変態し、下半身は蛹のままだった」

2 21/11/21(日)18:34:22 No.868874659

「さぁ、ここで問題だ。では、上半身と下半身を切断した後プラスティックの管でつないだ蛹はどうなっただろう?」 「……管を経由して上半身と下半身の両方が成虫になったのか?」 「ご名答」 タキオンは楽しそうに笑っている。 「切断時の傷は回復し、体組織の一部が管を通り上半身と下半身を橋渡しした。透明の管に接続された、上半身と下半身が成虫へと変態を遂げた蛾が孵化したんだ」 「で、その蛾は羽ばたこうとした。しかし管の中で発達した組織は非常に脆弱で、下半身がちぎれそのまま落下死してしまったんだよ」 「それが死へのはばたき、か……」 なるほど、合点がいく。管でつながれた体、ちぎれ落ちる下半身。先ほど夢で見た内容そのままだった。 「なあトレーナー君。ちょっとした思考実験なんだが」 タキオンは二杯目の紅茶で満たされたカップを見つめている。

3 21/11/21(日)18:35:50 No.868875193

「キミには羽があり空を飛べる。しかし、羽ばたいたら確実に命を落とすとわかっていたら。キミはどうする?」 先程の夢の光景を思い返す。眼前に広がる無限の可能性。それを実現する力を持つ一方、それに耐える事の出来ない身体。矛盾に満ちたその身体は―――――ああそうか。 『―――つまり私の脚はいつ走れなくなってもおかしくない状態だった』 思い出すのは菊花賞後。彼女が今まで懸命にもがいていた事を知ったあの日の事。 「飛ぶことを選ぶだろうなぁ」 「ふうん……?」 「君と一緒に限界の先を見たい。この想いはずっと変わらないよ」 「おいおい、別の話とごっちゃにしていないかい?」 「いいや、間違ってないよ」 先を見たい。可能性の向こう側へ。それを求める渇望は止められない。例えまわりから自分勝手だ狂人だと言われたとしても。独りではたどり着けないとしても。 「俺も泥臭いんだ」

4 21/11/21(日)18:36:25 No.868875413

「くっ、ハッハッハ!何だいそれは?……しかし困ったなぁ、そうやって危険なフライトをされてキミに何かあったら、私の世話を誰がするんだい?」 「可能性の向こう側を追い求め、その為にあらゆる方法を検討し、それを最後まで無事にやり通す。それが実現できるのがタキオンだし、そのための俺だろう?」 彼女の瞳をじっと見つめる。 「ああ、本当にキミの瞳は狂った色をしているねぇ……そうだな、なら一生私の面倒を見てもらおうか」 「途中で投げ出したりしないさ。任せとけ」 ティータイムを終えた彼女とトレーニングコースへ向かう。夢の様に羽ばたく翅は無いが、タキオンとならどこまでもいける、改めてそう確信した昼下がりだった。

5 21/11/21(日)18:37:27 No.868875831

なんか難しい事言いながらイチャついてる…

6 21/11/21(日)18:37:53 No.868875983

『死へのはばたき』って実験はタキオンと相性よくね?と思って書きました

7 21/11/21(日)18:38:04 No.868876038

☕️完全に…二人だけの世界に入っていますね…

8 21/11/21(日)18:41:47 No.868877382

ちゃっかり将来の約束しやがって

9 21/11/21(日)18:42:03 No.868877464

>『死へのはばたき』 ググってみたけどなかなかぶっ飛んだ実験だなこれ…絵面がやばい

10 21/11/21(日)18:44:57 No.868878574

素晴らしかったけどタキオンと死へのはばたきは少しズレてるんじゃないかな 脆い体で飛び立とうとして一度は諦めて、でも最終的に羽ばたいていったカフェシナリオのタキオン見るとちょっとそう思っちゃう

11 21/11/21(日)18:45:22 No.868878732

疑問に思うのは分かるけど実行するのは頭おかしいとしか言えない実験来たな…

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