ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/11/15(月)00:20:22 No.866747277
耐え続けてきた。 何も食べずに過ごしても尚、際限なく胃の中から放り出される液体に喉を痛めつけられながらずっと耐え続けてきた。 真っ白なベッドな上で、少し寒い病院の一室の中で、カーテンで更に狭まれた空間の中で、ずっと耐え続けてきた。 意識も、身体も、人生も、この苦痛から逃れるために全部投げ出したいなんて思いに苛まれながらも……それでも、俺は医者の言葉を信じて諦めなかった。 何日も、何時間も──見ず知らずの医者が言った『絶対に助かる』という根拠も無い言葉にずっと縋り付き、必死に耐えて、諦めなかった。 それなのに、それなのに何で── 『もういい加減にしてくれ……俺は降りるからな』 『……は?お、降りるってなんだよ』 『点滴ぐらいは残してやる、逃げ出すもそのまま野垂死ぬも後はお前の好きにしろ』 『いや……待ってくれよ……な、なぁ、さ、流石に冗談……だよな?』 『……じゃあな』
1 21/11/15(月)00:20:46 No.866747423
──言葉が出なかった。 心の中で必死に叫んだ助けてくれと言う言葉でさえ出てこなかった。 喉の痛みも、自分の鼓動も、周りの話声や音も、すぐそこにあったはずなのに今は何も頭が処理できない──周りは何も違わない、俺の方がおかしくなったんだ。 医者は俺を見捨てた。しかし病室から出て行く薮医者を目で追いかけても、この時は不思議と殺意や憎しみが湧かなかった。 見捨てられて、死を明確に意識して、縋り付いていた唯一望みさえ断たれた何も残らない絶望的な現状と向き合うのに精一杯だった。 『は……ははは』
2 21/11/15(月)00:21:04 No.866747522
きっとこれから死ぬんだ、何も成し遂げずに、誰にも助けられずに、独りで──そう思うと何故か笑いが込み上げてきた。 意味も無く笑った。訳も分からずに笑った。嘲笑う声を、突き刺さる視線を無視して笑った。笑って、笑って、笑って、笑って──ただひたすらにずっと、泣きながら笑い続けた。 所詮俺の人生なんて、死ぬのをただ待つだけのこんな醜く短いものだったんだ──信頼なんて無い、希望なんて最初から無い、神なんていない。 きっと、そういう運命だったんだ。 きっと、救いようのない運命なんだ。 きっと、どうしようもないんだ。 きっと、きっと、きっと── ──なぁ……誰か、助けてくれよ
3 21/11/15(月)00:21:29 No.866747630
────── 幼い頃の記憶──もうとっくに過ぎたものが未だに夢に出てくることがある。毎回忘れた頃にやって来て、それも毎回最後は決まって助けを求めて目が覚める。 夢ごときじゃ何も残らない癖に目を覚ませば当然気分は悪く、その日一日の少ない活力が失われる──わざわざこの寝起きがおまけで付いて無くても嫌いだ、この悪夢も、昔の俺も。 何かの呪いか、それとも何かの戒めなのか……ヒントがほとんど無しの状態では何が目的なのか分からない。 果たしていつになればその助けというのが来てこの悪夢に終わりが── 「いたいいたいいたい!!!し……死にそうだからそんなに強く抱きしめないで……」 『ああ……すまん』 いつの間にか強く抱きしめていた背中から腕を解いて謝った後、外の青い薄明りが照らす時計を見れば、午前4時半ぐらいを指していた。 今日も平日で仕事があるというのに、普段の起床時間より一時間半も早いというなんとも中途半端な時間帯に起こしてしまった事には流石に同業者として少し罪悪感を覚えてしまた。
4 21/11/15(月)00:21:49 No.866747737
『どうしたの?』 いかにも眠そうな顔で、少し話せばそれで二度寝に入るのが当たり前のように、咳き込んでいた背中を今度は反対側に向けて問いかけてきた。 もっとも、悪夢を見たなんて子供じみた理由で起こしたなんて言いたくはないからその方が俺にとっては好都合だが。 別に夢の話の相手にされたって今更俺の過去のトラウマは何も解決しない。そんな理屈っぽい考え方で、この夢の話をこれまで話してこなかった。むしろ話す必要なんてない──そう考えていた。 ただ、この時だけは心持ちが変わった……なんというか、あの忌まわしい悪夢をここで話せば楽になるような──気のせいかもしれないが、不思議とそんな感じに思えた。 『……昔の夢を見た』 『そうなんだ』
5 21/11/15(月)00:22:02 No.866747806
『小さい頃に見捨てられて死にかけたが、結局死ぬことは許されなかった──多分そのときぐらいだ、俺が、小さい頃の俺に呪いをかけられたのは……あの時の絶望を忘れさせないような、憎たらしい呪いを』 『それはまた……随分と厄介な呪いみたいだけど……』 『……やっぱりこの話はやめにしよう。お互い得しない、それにお前もまだ眠いだろ』 『……それ以上は聞かないでおくよ』 そしてこいつはありがたいことに相変わらず物分かりだけは良いようで、余計なことは詮索せずに、おやすみとだけ言って再び目を閉じた。 楽になると思ってとりあえず話してみたものの、正直この時は何も変わらなかった。結局振り出しに戻るようにあの時に刻まれた傷は消えないままで、やっぱり直感なんてものは何の薬にもならず、気のせいだった。 ──でもどこかでほんの少し、こいつに話して正解だったと思える自分もいる。 『腕、貸してくれ』 『……風邪でも引いた?』 『お前がそう思うならやめておくか』 『いやそういうつもりじゃなくてさ……ただ珍しいと思っただけで──』 『冗談だ……腕枕なんて何回も言わせないでくれ』
6 21/11/15(月)00:22:22 No.866747921
いや、そもそも正解なんて無いのかもしれない。 正解じゃなくたって、少なくとももう今は昔じゃない。死にかけることも、誰かに見捨てられることも無い──もっとも、相手が見捨てる度胸が無い、と言った方が正しいかもしれない……根拠なんて無いけれど、ただなんとなくそういう風に思えてしまう。 生憎とこの心情がどういうものなのか分からないが、そんな感じに思える人が居るなんて今まで出会ったことも無かった上に、誰も教えてくれなかった。 そしてそう考え始めた途端、自分の振り返ってもどうしようもない過去を、歯止めが効かないぐらい思い返し始めてしまった。 もしあの時、信じることを諦めていなかったら。 もしあの時、もっと素直になれていたら。 もしあの時、こんな風に思える人がいつか現れると、思っていたなら── 『──もっとましな生き方……出来ただろうな』 『何か言った?』 『……いや別に?ただ寝心地の悪い枕だと思ってな』 『じゃあやめる』 『そんなに拗ねるなよ……』
7 21/11/15(月)00:22:36 No.866748009
後悔が口に出たところで無駄な振り返りはやめた。 いつまでも昔に文句を言うなんて、らしくないことを続けてもしょうがない。心配しなくてもいつか時間がどうにかしてくれる。 きっと今まで通り、過ぎたものだと割り切っていくしかないんだろう。 『……まだ辛うじて寝られるから、このままにしておいてくれ』 ……それに今は──今さえ良ければ、それで良い。
8 21/11/15(月)00:23:13 No.866748227
長い間休んでしまった上にいつもより文の量が少なくなってしまってごめんなさい ちなみに書いてて思ったんですけどウマ娘の場合腕枕の姿勢って耳に息が吹きかかりそうですよね これまで fu526232.txt
9 21/11/15(月)00:27:14 No.866749582
ありがたい……
10 21/11/15(月)00:27:34 No.866749690
待ってたよ… 耳にくすぐったい息を受けてブルッちゃうSSさん見たいですわね
11 21/11/15(月)00:40:50 No.866754211
更新ありがたい…
12 21/11/15(月)00:43:26 No.866755070
待ってた…ありがたい…
13 21/11/15(月)00:43:41 No.866755145
まってた
14 21/11/15(月)00:57:44 No.866759593
こういうの私好き…
15 21/11/15(月)01:11:37 No.866763177
やっと来たか…待ってたぞ…
16 21/11/15(月)01:12:40 No.866763399
これしれっと半分同棲してるよね…?
17 21/11/15(月)01:18:54 No.866764712
待ってたぞ
18 21/11/15(月)01:22:01 No.866765386
スレッドを立てた人によって削除されました ウマムスマーdel