ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/11/13(土)20:45:19 No.866293579
天高くウマ娘肥ゆる秋。学園内の紅葉が深まり、落葉も見かけるようになった頃、ジェンティルドンナのトレーナーはトレーナー室でパソコンとにらめっこをしていた。 「……」 打鍵をしては消し、少し悩んでまた打鍵する。そんな動作が続けられているパソコンの画面には大きな文字で『太り気味解消用トレーニングメニュー』と記されていた。どうやら彼の担当であるウマ娘、ジェンティルドンナが太り気味となってしまったらしい。 彼女に理由を聞けばただのやけ食いと誤魔化されるばかりだったのもあって、メニューの構築に少し悩んでいるようだった。 「………がーっ！！！休憩だ休憩！！！」 だが悩みに悩んだからなのか、トレーナーはパソコンを勢いよく閉じて立ち上がった。眠気を飛ばすように頬を叩いた後に淹れていた紅茶を飲み干して、ぐっと伸びをする。 「はぁ、ドンナのヤツ……どうしてやけ食いとかしちまったんだよ珍しい。確かゴルシんとこも同じようなこと起きてたけど何かあったのか？」 ぶつぶつと呟きながら、気分転換にと本棚から一冊の本を取り出すトレーナー。
1 21/11/13(土)20:45:36 No.866293688
紅茶事典というタイトルが記載されたそれは、最近紅茶の勉強をし始めた彼が買ったものであり、そしてジェンティルドンナも時折読んでいたものだ。ティータイムでのマナー程度は熟知しているはずの彼女が読む理由は、巻末にある世界の紅茶カタログを読むのが丁度いい暇つぶしになるかららしい。 トレーナーは何処まで読んでいたかなとページをめくっていると、ふと一枚の折られた紙があることに気が付いた。 「ん、なんだこれ」 紙を開いてみると、何やら文章が書いてあった。筆跡はジェンティルドンナのものであり、綺麗で、どこか女性らしさを感じる文字だった。 トレーナーは何かのメモかと何の気に無しに文章を読み始めた。
2 21/11/13(土)20:45:59 No.866293838
「えぇと何々───── 『春の訪れとはこのことを言うのですね。どんな言葉も、手ぶりも足らないほどに輝いて見えてしまいます。 何時しか、私の胸には春嵐のごとく温かく、しかし激しい感情が住み着いたまま離れてくれません。 常に力強く、だけど優しいそのお姿が、生命の息吹を感じさせて太陽のように見えました。 何度貴方様の隣に立って、同じ世界を見たいと願ったことか数え切れません。 ──────ラブレターか？」
3 21/11/13(土)20:46:13 No.866293927
しかしこれはメモではなかった。恐らく居るのであろう、思い人に向けてのラブレターだったのだ。 トレーナーは思わず面食らってしまった。 何せあのジェンティルドンナが、である。一に優雅二にレース、三四は筋肉五に紅茶の彼女がだ。 かの貴婦人も色を知る年頃か、と感慨深げに呟いたトレーナーであった。相手は誰であっても何ら問題はない。トレーナーとしてはただ担当の恋路を応援してやるというのが筋だろう。 それはそれとして手紙の続きを読み始めた。
4 21/11/13(土)20:46:53 No.866294158
──────ですが、隣に立った時に何か想像も出来ない恐ろしいことが起きてしまうかもしれないと思ってしまって怖いんです。 許してください、こうして手紙を通さなければ貴方様と話せなくて。 本当は面と向かって話したくても、言葉にしようとすると、形にしようとすると、どうしても、どうしても覚束ない。 だからこうして、紙へ言葉を紡ぎ届けたいのです。優しく包み込んでくれる陽だまりのような貴方様へ。 私の心内にある想いは可笑しくなるほどに沢山あって、本当は喉が枯れるほどに叫びたいのです。 けれど口に出そうとしたら胸に痛みが走って、とても辛くて深く惑い恋焦がれてしまいます。貴女様の心に橋を架ける大事なものなのに。 それはどうしようもなく悲しいことです。だから、待っててください。 どうか、私がほんの一握りの勇気を持てる迄。きっと、必ず私は貴方様のもとへ参りますから』 「……ふぅん、なるほどなぁ」 当のジェンティルドンナは、相当相手を慕っているらしい。だが実際に会う勇気が出てこないからこうして手紙を綴ったようだ。それも相当に拗らせているようにも見える。
5 21/11/13(土)20:47:27 No.866294367
あのウマ娘が惚れこむ相手なんて一体誰なんだとトレーナーは考えた。流石にトレーナーと生徒の関係である以上、自分の可能性は排除するとして、外部の人間だろうか？ 「───まさか許嫁か？」 トレーナーは一つの可能性を見出した。ジェンティルドンナは確か良家の出身だったはずで、それならば縁談の話は何かと出てくるだろう。それに彼女はトリプルティアラを始めとした数々の成績を持っている。名だたる名門だって黙っているはずがない。 それで偶々良い人に出会って惚れた……といったところだろう。 「にしても情熱的だなこの手紙……羨ましいな」 ぼそりと、嫉妬に似たことを独り言ちたトレーナー。 ジェンティルドンナは自分にとって相棒と呼べる存在だった。数年苦楽を共にして、彼女の走りに魅了されてしまった。今後担当するかもしれない子の走りを、彼女と比較してしまうかもしれない程に。 そんな子が何処の誰とも知らぬ───自分自身も同じようなものだが───相手に夢中になるというのは、少しだけ悔しく思ってしまう。
6 21/11/13(土)20:47:49 No.866294490
「とは言っても、俺は飽くまでトレーナーだしなぁ」 しかし教育者である以上、教え子の私情に口を挟むのも可笑しな話だ。せいぜい冷やかしてやる程度だろう。 トレーナーは本を閉じて本棚へと収めた。そして手に持っていた手紙を来客者用のテーブルへと置いた。 「……後でドンナに手紙のこと聞いてみるか」 「トレーナーさん、いらっしゃいますか？」 「お？丁度良かったなドンナ、何か用か？」 しかしトレーナーが椅子に座ろうとしたタイミングで、ジェンティルドンナが訪ねてきた。 彼女はトレーナー室に忘れ物をしたということを伝え、本棚を探り始める。恐らく、読もうとしていた本を忘れてきていたのだろう。 2、3分ジェンティルドンナは本棚をじっと見つめていたが、何か諦めたかのようにため息を吐いた。
7 21/11/13(土)20:48:00 No.866294554
「はぁ…何処に忘れたのかしら……？」 「本じゃないのか？」 「はい。何と言いますか、一枚の紙を……あーーーーーーっ！！！！！！」 「ど、どうしたドンナ！？」 「そ、それですわ！！！」 くるりと、ジェンティルドンナが振り向いた瞬間、いきなりトレーナーの手元を指して叫んだ。何事かとトレーナーは自分の手がある所を見ると、そこには先ほど置いた例の手紙があった。 ジェンティルドンナはコンセントレーションもかくやな速度で手紙を手に取って、引きつった笑顔でトレーナーを見た。 「あー、ドンナ？」 「あらあらあらオホホホ……今日もご機嫌麗しゅうございますわね、トレーナーさん」 「誤魔化すの下手すぎやしないか……読んでしまったのは謝るぞ？」 どうにも見られては不味かったらしく、いつもの彼女らしくないひどく焦った態度で下手な誤魔化しを始めてしまった。 しかし直ぐに無駄だと気付いたジェンティルドンナは、手紙を懐に入れて椅子に力なく座って頭を抱えた。 相当に凹んだようだ。
8 21/11/13(土)20:48:44 No.866294829
「あぁぁあぁ……これでは生きてる意味がなくなってしまいますわ……どうしてこんなことにぃ……」 「……青春してるな」 「今回ばかりは何も言わないでくださいまし……」 ジェンティルドンナは見るからに絶不調に陥ってしまった。 当たり前と言えば当たり前だろう。自分の想いを込めた渾身の手紙を他人に見られてしまったのだ。恥ずかしくて辛いのは痛いほどに分かる。トレーナーにも若いころポエムに似た恋文を友人に見られてしまい揶揄われた記憶があったからかいたたまれない気持ちになった。 だがこのままでは不味いと、トレーナーは彼女のフォローへと入る。 「まぁ、その……ごめんな、ドンナ」 「……トレーナーさん」 「ドンナの想いを勝手に見たこと、謝るよ。これは恥ずべき行為だ」 「トレーナーさん…！」 先ほどの様子とは一変して、ジェンティルドンナの表情が明るくなった。 平和に終わりそうな空気の中で、ただまぁ…と、トレーナーが一言付け加える。
9 21/11/13(土)20:48:54 No.866294891
「お前が好きなヤツって多分鈍感だよな」 「まっっっっっっっっったくその通りですわね！！！！！！！！！！」 「どうした急に」 彼の言葉に、ジェンティルドンナは急に不機嫌となりトレーナー室から出て行ってしまった。 一人置いてかれたトレーナーは、ただ呆然とするほか無かったのであった。 「……トレーナーさんのおバカ」 この後、トレーナーは彼女のご機嫌取りに追われ、複数名の同僚からは念朴人のウマ娘バカと罵られてしまったらしい。 どうやらジェンティルドンナにとって、前途多難な恋路であることは間違いない様だ。
10 21/11/13(土)20:49:25 No.866295057
ジャストレ「流石にそれはない」 ゴルトレ「こいつギルティだよ」 バリトレ「当てつけか貴様」 メノトレ「青春だねぇ」 オルトレ「元気やなぁ」 多分各トレーナー色んな感じの反応してると思うんですよ それはそれとして何時もとは違って手紙に想いをしたためるお嬢は可愛いと思います ジェントレも流行ってほしいですね……ジェントレ同好会でした fu522155.txt
11 21/11/13(土)20:49:25 No.866295058
いいね…
12 21/11/13(土)20:49:40 No.866295159
素晴らしいです……
13 21/11/13(土)20:49:58 No.866295266
素敵な幻覚をありがとう...
14 21/11/13(土)20:51:21 No.866295741
にぶトレがよぉ…
15 21/11/13(土)20:51:49 No.866295897
オルトレは反応からして同類か…
16 21/11/13(土)20:51:59 No.866295957
トレーナーの筋肉はキレキレなのに脳はニブニブなんだなぁ
17 21/11/13(土)20:54:24 No.866296873
みなさんありがとうございます 初めは気ぶりお嬢がトレーナーに猛烈アタックされてしどろもどろになるお話とか考えていたんですけど米津玄師の春雷を聴いた瞬間インスピレーションを受けまして…お手紙を書くお嬢が生まれました 恋には遠回しなお嬢は可愛いですよ
18 21/11/13(土)20:55:22 No.866297223
結局太り気味の原因とは？
19 21/11/13(土)20:56:49 No.866297718
筋肉のためには増量してから絞るのも大切なのですわ～！
20 21/11/13(土)20:56:51 No.866297729
>結局太り気味の原因とは？ あぁっ！完全に回収し忘れてました……そこは脳内保管でお願いします…
21 21/11/13(土)20:58:36 No.866298389
>トレーナーの筋肉はキレキレなのに脳はニブニブなんだなぁ 脳のスペック全て担当の為に使ってるから仕方ないね…
22 21/11/13(土)21:00:04 No.866298933
>>結局太り気味の原因とは？ >あぁっ！完全に回収し忘れてました……そこは脳内保管でお願いします… まあ原因が何であろうとトレーナーが恋文発見するから問題ないぜ！
23 21/11/13(土)21:05:38 No.866301039
今日も感想スレがたつかどうかこっそり楽しみにしている私がいます……
24 21/11/13(土)21:06:01 No.866301191
貴婦人どんな声なんですかねドンナだけに とりあえず脳内で暫定で田中敦子が喋っていますが
25 21/11/13(土)21:07:34 No.866301845
>貴婦人どんな声なんですかねドンナだけに >とりあえず脳内で暫定で田中敦子が喋っていますが 個人的には井上麻里奈ですかね
26 21/11/13(土)21:08:54 No.866302408
巷じゃ最有望株をシリウスシンボリに持ってかれたと言われていますね
27 21/11/13(土)21:12:50 No.866304100
>オルトレは反応からして同類か… そのせいかジェントレと仲が良いと思う
28 21/11/13(土)21:13:12 No.866304244
>今日も感想スレがたつかどうかこっそり楽しみにしている私がいます…… きっと立つことを願いましょう…！
29 21/11/13(土)21:18:06 No.866306244
素晴らしい幻覚を見た…
30 21/11/13(土)21:23:09 No.866308207
クソボケがーっ！！
31 21/11/13(土)21:23:43 No.866308420
ｷﾀ━━━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━━━ !!!!!
32 21/11/13(土)21:23:53 No.866308482
>にぶトレがよぉ… 中々アピールに気づいてくれないからジャスタたちに愚痴をこぼすお嬢が見える見えた
33 21/11/13(土)21:25:58 No.866309306
>No.866308420 絵「」ャスタ！ありがとうございます ジェントレが凄く強そうで…けどやはりクソボケ…！！
34 21/11/13(土)21:33:32 No.866312181
ｷﾀ━━━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━━━ !!!!!
35 21/11/13(土)21:35:38 No.866313042
>No.866312181 お嬢……おいたわしや……
36 21/11/13(土)21:38:09 No.866313975
>No.866312181 ジェントレこれ殴られても文句言えないのでは？