虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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21/11/06(土)00:54:36 「トキ... のスレッド詳細

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21/11/06(土)00:54:36 No.863714928

「トキちゃん、ごめんね。大事な時にいつもいなくて」 手術も終わり、リハビリも兼ねて私があの人に会いに行くと、開口一番にそんなことを言われました。 そんなことはない。と言いたかったけれど、その前に私は彼女を見た時の驚きによって言葉どころか体さえも動かすことができませんでした。 快方に向かっているとトレーナーさんからは聞いていたのに、むしろ肌は白くなっていて、今にも消えてしまいそうな雪のような儚さを身にまとっています。怪我をする前だってトレーナーさんとお見舞いに来た時はとても元気そうだったのに。なぜ。 「一体、どうして……元気だって、トレーナーさんも」 「えへへ、ちょっと間に合わなかったべ」 なにが、と聞く前に、病室のドアが開いて、あの人の友人らしいウマ娘さんが化粧道具と共に入ってきました。 「……いいの?」 「うん」 そのウマ娘さんは私を一瞥すると、道具一式と共に彼女に化粧を施していきます。

1 21/11/06(土)00:54:58 No.863715051

「ごめんねいつも。私、下手くそだから……」 「おバカ。そんなこと気にしなくていいの、今日も彼来るんでしょう? 完璧にしてあげるから」 化粧というものは凄いものです、上手い人がやればみるみるうちに肌にも生気が宿ったように見えます。化粧に騙されたという男性が多いのも納得です、私さえ騙されていたのですから。 「どうして……どうしてそんなことをするんですか!? あの人は、なにも……知らないん、ですか?」 病室だというのに思わず声を響かせても、彼女は弱弱しく微笑むだけで化粧を施されていきます。 「今の私を見たら、きっとトレーナーを止めてでも一緒に居ようとしちゃうから」 「それでいいじゃないですか! それで! 何も知らないよりずっとそっちの方がいい! あの人はあなたのために、あんなに頑張ってるんです! 私は一人だって……!」 「本当に?」 そう言って、真っすぐとこちらの眼を見る視線に、私はぐっと喉を閉められたように声が出なくなりました。彼女の綺麗な目は何もかも見抜いているような気がして、分かっているんだぞと言われているような気がして。 私の強がりも、悲しみも、醜い恋心さえ。

2 21/11/06(土)00:55:10 No.863715116

「それにね、私はずっと、ずーっと彼を追いかけさせてきちゃったべ。色んな未来が会ったのに、私のせいで私の夢のせいで」 「それって日本一のウマ娘……」 私の言葉に、彼女は首を振りました。 「でも後悔しちゃいけないし、後悔もないの。でも、彼だけには昔のような元気で明るいウマ娘でいなくちゃいけない、ううん、いたいの。彼がまた夢を見れるように……」 「それで誤魔化せなくなったら? げ、元気な姿を見せられなくなったら! どうするんですか?」 泣きそうになりながら私がそう言うと、化粧が終わって、何の病気もないような姿になった彼女はその言葉にただ儚く微笑み、化粧が落ちないように涙をこらえるのでした。

3 21/11/06(土)00:55:23 No.863715191

〇 夢を見ました。お父ちゃんとお母ちゃんと手を繋ぎながら、実家の道を歩いている夢です。 何気ない、テストの点数とか、かけっこで勝ったよなんて、たわいのない話で盛り上がって、でも笑い合えて。暖かくて、嬉しくて、いつまでもこうしたいっていう夢。 でも自分でも何処かそれは夢だって分かってて、そう思った瞬間お父ちゃんだけが前で背中を見せていて。 どうして一緒に歩いてくれないの。と聞いてもお父ちゃんは前で歩くばかり、振り向いてくれない。どうしてお母ちゃんと一緒にいてくれなかったのといっても、ただ歩くばかり。 そうして立ち止まったと思ったら言うのです。 「どうでもいいじゃないかそんなこと」 と。

4 21/11/06(土)00:55:38 No.863715249

「やっぱりさ、キングの言う通りだった。スぺちゃんが納得できればそれでいいって思ってたけど。あんなになっちゃうなんて」 「終わったことよ。それに私はスカイさんが正しいって思うわ。ずっともっと、色んなことが起きてから知ったらどうなってたか分からないもの、早い方が良かった」 暖かくて柔らかい感触に包まれながら、意識を取り戻すと近くでそんな声が聞こえました。 ぼやける目で見てみると、キングちゃんたちが椅子に座って話しています。私がもそりと動いたからでしょうか、セイちゃんがこちらに気づいて手を振りました。 「おっ、お目覚め? 眠れた?」 「う……うん……ここは?」 「保健室よ」 私が体を起こすと確かに、保健室のベッドです。窓の外はもう真っ暗で、一体どれくらい眠ってしまったんだろうと考えながら今日のトレーニングの事を思い出して顔を真っ青にしてしまいます。 「あっ、れ、練習……!」 「大丈夫ですよ、私達が報告しておきましたから」 「トレーナーさん、不気味なぐらいあっさりでした! まるで知ってたみたいデース」

5 21/11/06(土)00:56:09 No.863715414

エルちゃんとグラスちゃんの言葉にほっと撫でおろしますが、そう言えばそもそも、みんなから眠らされたんでした! なしてあんなこと! 「だって、眠れていなかったんでしょう。無理やりでも眠らせないといつケガするかわからないもの。タキオンさんに作ってもらったわ、ただの睡眠導入にいいってされる香りだけどこれだけでも十分だろうって」 「その代わりエルの上腕二頭筋がへんな薬で発光する羽目になりましたけど……」 恐怖からか体をぶるぶると震わせるエルちゃんを他所に、セイちゃんが私に近づいたと思うといきなり頭を下げました。 「ごめん。スぺちゃん、全部私のせいだ。スぺちゃんはともかく、私が首突っ込むべきじゃなかった、ホントごめん」 「えっ、あっ、セイちゃん!? 大丈夫だから、気にしないで! それに、私だけでもきっとお母ちゃんを見つけようとは……したと思うから、お父ちゃんも。だから逆にありがとうって言いたい! こんなに心配してくれて、私だけじゃどうなってたか……」

6 21/11/06(土)00:56:50 No.863715651

それは本当でした。たぶん、みんなが手伝ってくれなくてもあの写真を見てしまった時点でこうなることは決まっていたんだと思います。むしろみんながいてくれなかったら私は怪我をするまで止まらなかったかもしれません。 「スぺちゃん……」 「それにね、ぐっすり……ぐっすりすぎだけど眠れたら、気にならなくなっちゃった! トレーナーさんはトレーナーさんだし、私の夢は変わらないし! どうだって、どうだっていい!」 「スペシャルウィークさん!」 「だからむしろ、むしろ私にとってはどうでもいいことだったんだよ! トレーナーさんがお父ちゃんでもそんなこと……」 絞り出すように声を出していると、ふと良い香りがして私の口が細くて綺麗な手で包まれました。グラスちゃんの手です。そっと音もなく静かに、でも少しだけ強く。 「嘘ですよ」 グラスちゃんはそう言いました。 「全部噓。スぺちゃん、嘘というのは誰かや自分のためにあるんですよ。だから誰のためでもない嘘を自分についちゃダメです。そんなことを続けていると、心がなくなっちゃいます」 ほっとするような優しい声色でした。

7 21/11/06(土)00:57:28 No.863715836

「本当はどうでも良くないんでしょう。眠れないくらい、そんなことを言ってしまうくらい。じゃあそういうべきなんです、声をあげていいんですよ。スぺちゃんは優しすぎるくらい、いい子なんですから」 目頭が熱くなって、涙浮かんできて、グラスちゃんの手が離れるとついにそれは止まらなくなってふわふわの布団を濡らしていきました。 「どうしよう……みんな、私、どうしたらいいだろう……」 いつの間にかそんなことを言ってました。声を上ずらせながら、ひっくひっくといいながら。 「わかんない、何にもわかんないんだもん……なんにも……お父ちゃん、お父ちゃんのバカ……うぁ、うわぁぁぁぁん!」 今まで溜め込んだ分を空にする様に涙が流れて、我慢した分吐き出すように声を上げると、エルちゃんがぎゅうっと抱きしめてくれました。それに続くようにみんなが抱きしめてくれて、保健室の先生がやってきてビックリするまでみんなでそうしていたのでした。

8 <a href="mailto:s">21/11/06(土)00:58:01</a> [s] No.863715980

またまた忙しくて日が空きましたがスぺちゃんのトレーナースぺちゃんのお父さん概念の続きです

9 21/11/06(土)00:58:36 No.863716143

ここでキング母が来るか…

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