21/11/04(木)00:44:07 「っ――... のスレッド詳細
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21/11/04(木)00:44:07 No.863093217
「っ――?」 天皇賞を勝って、一番人気に押されて出場した宝塚記念。 第3コーナーに差し掛かったとき、ライスは足に違和感を覚えました。 今日は朝から調子が悪くて、レースがスタートしても、とてもじゃないけど勝ち負けという状況じゃなかったんだ。 それでも、ヒールと言われ続けてきた間。 ずっと心を削りながらライスを支えてくれたお兄さまやファンのみんなのためにも。 ライスは、このレースから逃げることはできませんでした。 お兄さまから何度、今日は回避しよう、と言われても。ライスね、嘘をついてでも、今日の宝塚記念だけは走りたかったんだ。 そして、第3コーナーを回っているとき。 「ひぐっ……!?」 足に走る激痛。それでもなんとか、完走だけはしようとしたんだけど。 京都レース場は、ライスにそれすらも許してくれなくて。 次の瞬間……痛みに耐えかねたライスは、前方へ倒れ込みました。 そのとき脳裏に過ぎったのは、レースの結果や、自分の身の無事なんかじゃなくて。 きっと、この瞬間を見てしまっているであろう、ファンの人々や、お兄さまのことで。
1 21/11/04(木)00:44:26 No.863093300
ごめんなさい、ファンのみんな。ライス、みんなを幸せにしてあげられなかった。 ごめんなさい、お兄さま。ライス、不孝者だ……。 景色がスローモーションのようにゆっくりになって、じわりじわりと芝が眼前に近づいてきて。 あれかな……事故に遭う時やプロボクサーは、感覚が云々って言うの。視界の中心に、光の帯がいくつも放射状に見えました。 その帯の一つ一つに、色々な思い出が詰まっていて。その帯が、ライスの身体を包み込んで。……これが走馬灯っていうの……? ああ、ライスは死んじゃうのかな。意外と率直に、そんなことを思いました。 帯の中を覗くと、本当に色々なことがあって。 嬉しかったこと、怒ったこと、哀しかったこと、楽しかったこと。 ずっと、みんなを幸せに、って思ってたけど。 ライスは、幸せだったのかな……? 目を瞑り、暗くなった世界の中で。 どこからか、お兄さまがライスの名前を叫ぶ声が、聞こえた気がしました。 ******************
2 21/11/04(木)00:45:05 No.863093490
暗い暗い世界。そこにライスはひとり、座り込んでいました。 何度も見たことがある気がする、何もない世界。その遥か彼方に、何かの光が輝いていて……。 「……そこに、誰かいるの……?」 光が少しずつ、ライスに近付いてきます。 やがて光は、三つに別れて。ライスを囲むように、周りに三角形を作りました。 『ライスシャワー』 聞き覚えのない、けれども知らないわけじゃない気がする、三つに重なった女の人の声が聞こえました。 「ライス……変な夢見てるのかな……」 寝てるときって、時々、こういう支離滅裂な夢を見るよね。もしかしたら、さっきの宝塚記念も……。 『ライスシャワー、これは夢ではありません』 「え?」 『本当は、分かっているのでしょう?』 そう言われて、左脚を擦ります。 「っ……」 響く痛み。思い出される、倒れる瞬間。それらはあまりにも生々しくて。とてもじゃないけど、きっとライスの夢なんて都合のいいものではなくて。
3 21/11/04(木)00:45:22 No.863093563
「夢じゃ、なかったんだ」 『はい』 「ライスは、レース中に脚を痛めて」 『京都レース場にて、その身を沈めました』 三つの光が、辛そうに、哀しそうに、労るように。ライスに語りかけてきます。 「ライス、死んじゃったのかな」 『いいえ、まだ亡くなってはおりません』 「え……」 ライス、まだ生きてるの……? てっきり、もう駄目なんだとばかり……。 『ここは、生と死の境目。そして、ウマ娘の魂が、世界を越えて交わる場所』 「境目……」 境目、ってなんだろう。三途の川とか、そういうのを想像してたんだけど、そういうのは何もなくて……。 『私たちは、機会をお伝えするためにここへ参りました。再び生の世界で生きるための、一度きりの機会です』 「!」 戻れる? みんなのいる場所へ?
4 21/11/04(木)00:45:36 No.863093621
「ど、どうすればいいの!?」 『ライスシャワー、あなたは今、この世への"未練"を引っ掛けるようにして、何とか踏みとどまっている状態です』 ライスの、未練? 『自分は、本当に幸せだったのだろうか?』 その言葉に、ずきっと、胸が痛みました。ああ、それは、あの瞬間、ライスが考えていたことだ。 『あなたが抱いた強い想いは、私たちの元へ届きました』 『今、あなたがやるべきことは、その想いの"答え"を見つけることです』 『その未練を、"まことの幸せ"へと昇華させてください。心の奥底からの、本当の幸せへ』 『願いを叶え、まことの幸せを知ってください』 『弱気は、死への近道です。幸せを知り、心より渇望する事で、生への執着、活力としてください』 「え、えっと」 三方から代わる代わるかけられる言葉に、ライスは混乱してきちゃって。 頭の中で声がぐるぐると回って、ふらふらとしてきちゃった……。
5 21/11/04(木)00:45:52 No.863093703
『そして、注意していただかねばならないことがあります』 「な、何?」 ま、まだあるの!? そろそろストップしてくれないと、許容量オーバーだよ……! 『この夢の世界へ引き止めることができたとは言え、それはごく限られた時間です』 『あなたを引き止めていられるのは"今日限り"』 『日の境目を越えてしまったら、私たちと言えど、為す術はありません』 『何としてでも、今日の内に願望を叶えてください』 「リミットは……今日限り」 零時ピッタリ、なのかな。シンデレラの魔法みたい……。万が一間に合わなかったら……あぅ……。 『そして、ただいま申し上げたように、ここは夢の世界。真実と虚構が混じり合っています』 『偽物と本物が入り乱れ、時に誘惑し、時に諭すでしょう』 『見極めなさい。それが私たちがあなたにしてあげられる、限界です』
6 21/11/04(木)00:46:06 No.863093772
「……ありがとう。ここまでしてくれただけで、十分だよ」 あとは、ライス自身が頑張らなきゃいけないこと、なんだよね。 ライス自身の幸せを、見つけるために。 『幸運を祈っています』 三つの光はそう言い残して、暗闇から消えてしまいました。ライスは一人取り残されて、ぼーっとする他なくて。 「どうしようかなぁ……幸せなんて急に言われても分からないよ……」 こんなとき、お兄さまがそばにいてくれたら、どれだけ心強かったのかな。ライスひとりじゃ、何にもできないよ……。 そんなことを思ったとき、急に辺りが明るくなって。気がつくと、いつもお兄さまと一緒にいる、トレーナー室のソファーに座っていました。 すぐに、がちゃり、とドアが開いて。 「お、ライス。今日はオフじゃなかったのか?」 「あ……お兄さま!」 うぅ、お兄さま……! お兄さまを見たら、つい色々な感情がこみ上げてきちゃって、思わず駆け寄って。 「うわぁっ! ど、どうしたんだライス、いきなり抱き着いて来たりして」
7 21/11/04(木)00:46:23 No.863093852
「おにっ……お兄さまぁ……!」 「な、泣いてるのか?」 「う、ひっく……泣いてない、よ……」 「……よしよし」 いきなりこんなじゃ、お兄さまもびっくりするはずだよね。 でも、涙が止まらないライスを、お兄さまは優しく撫でてくれます。優しいなぁ、お兄さまは……。 「ご、ごめんなさい、いきなり……」 「何か辛いことでもあったのか?」 「う、うん、辛いと言えば、その、色々あって……」 ひとしきり泣いたら落ち着いてきて、すると今度は一気に恥ずかしさがこみ上げてきました。ライス、何やっちゃってるの……!? 「言い辛いなら無理に話さなくても大丈夫だよ。ちょっとソファーで休んでな」 「うん……」 お兄さまはデスクに座ると、書類を取り出して何やら書き込み始めました。 ライスはというと、内心まだ動揺が収まり切らず、ココアを入れて飲みながら、ぼーっと考え事をしていました。 ライスの幸せって、なんだろう?
8 21/11/04(木)00:46:42 No.863093949
「あ、なんだかんだでもう昼なのか」 「そうだね」 「……よし、ちょっと待ってろ」 お兄さまはスマートフォンを取り出すと、どこかにかけ始めました。後ろを向いて、ぼそぼそと何かを話してる……仕事の連絡かな? 「よし、終わりっと。じゃあ、今日は昼食を奢ってやるか」 「ほんと!?」 「現金なやつだな……言ったとたん元気になって」 「ふふっ」 だって、嬉しいものは嬉しいんだよ。 ファミレスかな、ラーメン屋さんかな。お兄さまと一緒にお昼を食べられるなら、ライス、どこでも嬉しいよ。 「ほら行こう、お兄さま!」 「おいおい、そう急かすなよ。今案内するから」 案内? ******************
9 21/11/04(木)00:46:56 No.863094016
「お、お兄さま……ここって、高級ホテルだよ!?」 連れて行かれた建物に入ると、おしゃれなクラシックが耳に入ってきました。 きっと趣味が良い、のかな? そんな雰囲気の、アンティーク調のテーブルやイス。 とてもじゃないけど、いつもお財布が寂しいお兄さまからは考えられないようなところ。そんな、無理しなくていいのに……。 「ライスだって女の子なんだから……やっぱり、エスコートするならそれなりじゃないと、ね」 「え、エスコートぉ!?」 つい、素っ頓狂な声を上げちゃいました。 お、お兄さま! いきなり、どうしたの!? 「どうしたんだ、ライス?」 「う、ううん……」 「ほら、席に行こう。すみません、予約を入れていた――」 お兄さまが近くにいたウエイターさんに声をかけると、奥の席に連れて行かれました。 座席には『予約席』と書かれたプレートが置いてあって。 ウエイターさんが椅子を引くと、お兄さまはライスに座るように促しました。
10 21/11/04(木)00:47:12 No.863094098
「こ、こんなおしゃれなところでお昼だなんて……」 「あ、すまん。お気に召さなかったか?」 「う、ううん、そんなことないよ!」 そんなわけないよ、お兄さま。お兄さまとお食事できるだけでも嬉しいのに、こんな立派な場所で……。 「給料入ったばかりだから、遠慮しなくていいぞ」 「えへへ、じゃあ……遠慮せずに食べちゃうね!」 「あぁ、なんでも好きなものをお食べ」 何がいいかなぁ……って、すごく高い!? どれも一品だけで、ライスが夕ご飯をちょっぴり贅沢した時よりも高いよ……? 飲み物だけで千円近く……お水も有料で……。 「俺は……このランチコースにするかな」 「ひ、昼間から豪華だね……」 「ライスも好きなもの選びなよ。エスコートする側が気を遣わせたんじゃ、笑い話にしかならないからね」 「じゃ、じゃあライスもそのコースで」 お兄さまは事も無げに注文すると、ライスを見てにっこりと笑いました。でも、いきなりどうしたんだろう……何かいいことでもあったのかな。
11 21/11/04(木)00:47:24 No.863094157
「ライスもトップのウマ娘になるんだから、こういう場所にも慣れていかないとな」 「な、慣れる必要があるなら自分で食べに来るよ……?」 「それに、俺がライスをエスコートしたかったんだ。迷惑だったかな?」 「そそそ、そんなことないよ!」 うわぁ、うわぁ、うわぁ! 今ライス、絶対にお顔が真っ赤だよ! 嬉しいな、どうしよう! 「えへへっ、すっごく幸せだよ!」 「そうか、良かった良かった」 そう言いながら、お兄さまはにこにこ笑いました。幸せだなぁ……。 ……幸せ?
12 21/11/04(木)00:47:39 No.863094225
ウエイターさんが順番に料理を運んできます。 一つ一つがきらびやかな宝石みたいで、手をつけるのすら躊躇われるようで。 えっと、でも……しばらくしたら気にせずに食べ始めちゃったんだけど。 「最近のライスは――」 「うん、ライスね、それは――」 お兄さまはこちらの様子を窺いながら、邪魔にならないタイミングですっと話題を振ってくれます。 大人の余裕、だなぁ……ライスが答えづらい、話しづらい話題は一つもなくて。 本当に楽しい昼食。完璧なエスコート。 お兄さまと一緒の、天国のようなひと時。 でも、何故だか会話の内容は頭に残らなかったんだ。 ライスは、本当に幸せなのかな? ******************
13 21/11/04(木)00:47:52 No.863094281
食べ終えてホテルを出ると、お兄さまがライスに訊ねてきました。 「お口には合ったかな?」 「えっと……あんな高いもの食べるの初めてだから、うまく言えないけど……美味しかったよ!」 「そっか、良かった」 お兄さまは僅かにほっとしたように笑いました。 そこで強気に出ない辺り、やっぱりお兄さまらしくて。そんなところが、お兄さまのいいところ。 「お兄さまは、この後はどうするの?」 「ん? 仕事はあらかた終わったからなぁ……久々にのんびりしようかな」 そう告げるお兄さまは、どこか手持ち無沙汰なようで。もし、帰っても特にやることがないなら……。 「だ、だったらお兄さま、このまま、で、で、で……」 「で?」 勇気を出して、ライス! が、頑張るぞー! 「お兄さま! ら、ライスとデートしませんか!?」 「で、デート?!」 うわぁ、言っちゃったぁ!
14 21/11/04(木)00:48:41 No.863094526
ライスが思い切って言うと、お兄さまは流石に驚いたようで、小さく叫びました。 そして、暫く悩むように天を仰いでから、ちょっと照れくさそうに。 「……そっか、分かったよ。今日はずっと、ライスをエスコートする」 「ほ、本当?!」 えへへ、勇気を出して言ってよかったぁ! 照れくさそうにしながらも、お兄さまも満更じゃない表情! ……な気がする。 「あ、じゃあちょっとここで待っててくれ。仕事の手続きで払い込みだけしなきゃいけないから、済ませてくるよ」 「うん、待ってるね!」 お兄さまは小走りでコンビニへと向かっていきました。 一人残されたライスは、またまたぼーっと道路を見ていて。 「今お昼過ぎだから……あと、十時間強、かな」 何ともなしに時計を見ます。一日の終わりはまだ遠いように思えるけれど、人生の終わりだと思うと……途端に身震いがしました。 「……あ」 赤信号で車が走っていない道路を、ウマ娘の女の子が一人歩いていました。 少し広い車道の真ん中に差し掛かったところで、車の信号が青になって。
15 21/11/04(木)00:49:12 No.863094675
「っ……危ないっ!」 一瞬、ライスも怖くて身が竦んじゃった。でも、止まってちゃダメだよ、ライス!ここで動かなかったら、もう前を向いて歩けないよ! 「こっち!」 車道に飛び出して、咄嗟に女の子を抱き抱え、一気に走り抜けました。わっ、クラクション鳴ってる! ごめんなさい! 「ら、ライス!」 さっきまで居た辺りから、お兄さまがライスの名前を叫びました。その時には無事、反対の歩道に辿り着いていて。 女の子の顔を見て、少し驚きました。 「アヤベ、さん……?」 でも、アヤベさんはもっと大人びていて、かっこよくて。 なにより年齢がどうみても……。 車への恐怖から嫌な汗をかきながら、ライスは女の子を放しました。 「大丈夫?」 言葉もなく頷くと、怒られると思ったのか、そのまま走り去っていっちゃった。ライス、怖かったかな……。 「ライス、大丈夫か!?」 横断歩道を渡って、お兄さまが追い付いてきました。
16 21/11/04(木)00:49:40 No.863094824
大丈夫だよ。でも、心配してくれるのは嬉しいな。 「平気だよ、お兄さま」 「でも……顔、真っ青だぞ……?」 「……えっと」 うぅ、死んじゃうかも、って思ったショックをまだ引きずってたのかな……。平静を装ってるつもりだけど……。 「女の子が轢かれそうになってて……」 「でも……本当に心配だったんだ」 「……うん」 それは……ごめんなさい。 ライスだって、お兄さまがあんなことしたら、心配しちゃうよ。 「あの子は?」 「もう行っちゃった……怒ったりしないのに……」 「ともあれ、二人とも無事なら良かった。さ、行こうか」 「うん!」 そう答えた時、後ろから声が聞こえました。振り向くと、知らない人たちが数人、ライスたちのことを見ていて。
17 21/11/04(木)00:49:55 No.863094901
『もしかして、ライスシャワーさん、ですか?』 ちょっと派手にやりすぎちゃったかな……? もうこれ、完全にバレてるよね……お兄さまと一緒だし、変に隠すと逆に大変かも。 「う、うん、そうだよ……」 『えっ、ホンモノ?!』 『ねぇ、ちょっとちょっと! ライスちゃんだよ!』 『ウワーッ!? カワイイ!』 『ねぇねぇ、写メらせてよ!』 えっ、ど、どうしたの?! 前よりはヒールって言われなくなったけど、ライスなんてまだまだ、マックイーンさんやブルボンさんみたいな人気者じゃなくて……。 『横の人、彼氏!?』 「いや、彼女のトレーナーで……」 『やばい! 生で見るとテレビの百倍可愛いよ!』 ら、ライスは今、とっても動揺してます。 これまでも、中には可愛いって言ってくれるファンの人もいたけど……。こんな……街中でみんなから声援を浴びるなんて、初めてで……。
18 21/11/04(木)00:50:13 No.863094970
『ちょっとちょっとこっちこっち! ライスちゃんいるよ!』 『嘘!? 本当だ!』 「えっ、ちょっと、あの……」 「不味いな……ライス、行くぞ」 お兄さまに手を引かれるまま、人のいない方へ走り出しました。制服姿でお兄さまに手を引かれて……ま、まるで少女漫画の逃避行みたい! 「ふぅ……撒いたか」 「び、びっくりしたよ……」 「俺も軽率だったな……ライスくらいのウマ娘となれば、これくらいは予想してないと……」 「でも、普段のライスなんて街中じゃ、ちょびっとのファンの人が恐る恐る声をかけてくるくらいだから、仕方ないよ」 「何言ってるんだ……ライスはトレセンでも三指に入る人気だろう?」 え? ライスが? トレセンで三指に……? ライスの頭の中がクエスチョンマークで埋まっている間に、お兄さまがスマートフォンで何かのサイトを見せてくれました。 「非公式だけど、ファンが作ったウマ娘人気ランキングサイト。ライスは圧倒的な支持を集めてるよ」 「うそ……」 ライスの人気グラフが、シチーさんやカレンさんよりも上……? あは、あはは……ちょっと驚きすぎて、声が出ないよ……。
19 21/11/04(木)00:50:38 No.863095092
「俺も軽率だったが……ライスも、もう少し気をつけてくれよ?」 「え、えっと……うん……」 おかしいよ。ライスより人気の子なんて沢山いるのに……。何がどうなっちゃってるの……? 「ご、ごめんね、お兄さま。これからは気を付けるから」 「ああ……折角のデートなのに小言を言うみたいで悪いな。ここからは、しっかりエスコートするから」 そうだった。ライス、お兄さまとデートしてるんだった! ……そっか、ここ、夢の中なんだよね。ライスがとっても人気な世界……。 「嬉しいな……」 「デートが、そんなに?」 それもそうだけど、みんなに可愛いって思ってもらえてるってことは。 みんなのこと、前より幸せにしてあげられてる、ってことだよね……? でも、それってライスの幸せ、なのかな……?
20 21/11/04(木)00:50:53 No.863095176
「お兄さま、こっちに逃げてきて正解だったね」 「あぁ。こんなところがあるのは、俺も知らなかったよ」 暫く歩くと、公園がありました。 真ん中に噴水があって、鳩さんが水を飲みに来てて。ベンチもあって、横にはクレープ屋台さん。 「お兄さま、アレ食べようよ!」 「さっき昼食食べたばかりなのに?」 「甘味は別腹、だよ!」 ちょっと強引に腕を引っ張ると、困ったように笑いながらついて来てくれました。 屋台に近づくと、生地を焼くいい匂いがして。薄い円がふわりと舞う度、ライスの胸は高鳴りました。 「すみません、苺チョコ生クリームと、チョコバナナ生クリームを」 すかさずお兄さまがライスの目線で察知したのか、クレープを注文しました。 そ、そんな確認を取らずに注文できるほど、凝視しちゃってたかなぁ。は、はしたないよ、ライス……。 お金を払ってしばらく待つと、できたてほやほやのクレープを手渡されました。 生クリームの白とチョコレートの黒、そして苺の赤のグラデーションが、必要以上にライスの食欲を掻きたてます。
21 21/11/04(木)00:51:08 No.863095266
「いただきます!」 「頂きます」 近くのベンチに腰かけて、並んで食べる、出来立てクレープ。シンプルで、どのお店もあまり味は変わらないけれど、変わらず食べ続けたいこの味。 「ふふっ、やっぱり甘いものって美味しいね!」 「あはは、美味しそうに食べるライスも可愛いよ」 「えっ……」 「あ……い、いや、なんでもない」 お兄さまは慌てたようにクレープを食べ始めました。ど、どうしたの、その反応……? 「あ……お兄さま、クリームがお顔に付いてる、よ?」 「えっ、どこどこ?」 大人だけれど、時々子どもっぽい一面も見せるお兄さま。そんな姿が可愛くて、つい。 「ほら、ここだよ」 指でお兄さまのお顔のクリームを拭い取って、そのままぱくり。 「んー! やっぱり甘くて美味しいね!」 「……」
22 21/11/04(木)00:51:23 No.863095344
「……あれ、どうしたの、お兄さま?」 「いや、その……」 「?」 「ライス……その小悪魔ムーブは無意識的かな……?」 「えっ、こあく……」 ぼんっ。ライスはそこで、自分がやったことに気が付きました。……ふえぇ! ら、ライスなんてことしちゃってるのー?! 「ご、ごめんねお兄さま! 迷惑、だったよね……」 「いや、迷惑なんかじゃなくて、その……」 「その……?」 「……ライスにあんなことされたら、ドキドキしちゃうから……」 ぼんっ。本日2回目。 えっと、えっと……お兄さま、ライスにドキドキしてくれてるの……? そんなの聞いたら、ライスもドキドキしてきちゃうよ……。 「お、お兄さま、今何時?」 「え、えっと午後二時過ぎだな……」 じゃあ、まだまだ時間はあるよね! クレープを食べ終えて立ち上がると、お兄さまもちょうど食べ終えたところでした。
23 21/11/04(木)00:51:38 No.863095412
どうしようかなぁ、どこか遠くに行く時間はないけれど……。 「そうだ、お兄さま」 「ん?」 「あっちにお店が並んでたと思うから、少しウィンドウショッピングしようよ!」 「でも……」 「エスコート、してくれるんだよね……?」 「……仕方ないな」 「やったぁ!」 今日は徹底的に、ライスに付き合ってくれるみたい。 今日という日は、決して長いわけではありません。 そうと決まれば、早速出発、だよ! ******************
24 21/11/04(木)00:51:51 No.863095467
「お兄さま、今シーズンの新作だって!」 「へー、いろんな服があるもんだ」 さっきファンのみんなに囲まれたエリアからは少し離れたショッピング街。その中のブティックの一つで、ライスたちはふらふらしていました。 「綺麗な、大人っぽい服……でも」 こんな綺麗な服、ライスには似合わないんだろうな……。似合う子たちが羨ましいな……。 「いいんじゃないか?」 「え?」 「とりあえず試着してみたらどうだ? 着るだけならタダだよ」 それもそっか。ここで着ても、お兄さましか見てないから……。うぅ、それはそれで、恥ずかしいけど……。 「じゃ、じゃあちょっと待っててね」 「ああ、ゆっくり試着しておいで」 試着室に入ると、正面の鏡にライスが映し出されます。 そうだよね、ここにいるのはこのライスだけなんだ。何を着たって、文句は言われない。はず。 「ふんふんふん♪」 自然と鼻歌が漏れちゃう。やっぱり女の子であるからには、ライスもこういう服、着たいんだよ。
25 21/11/04(木)00:52:20 No.863095610
「うん、ばっちり!」 それじゃあお兄さまにお披露目。……なんて言うかなぁ……背伸びしすぎだって、笑われないかな……。 「ど、どうかな、お兄さま……」 思い切ってカーテンを開けます。ちょっと怖くて目を瞑っていたけれど、ゆっくりと瞼を開けると、呆気に取られたような表情のお兄さまがいました。 「え、えへへ……やっぱり、背伸びし過ぎだよね……」 「……ライス、すごく似合ってるじゃないか!」 「えっ?」 やけにテンションの高いお兄さまが、ライスの手を取って叫びました。わわっ、ちょ、ちょっと声が大きいよ! 「あっと……すまん、ついテンション上がっちゃって」 「う、ううん」 ちらりと周りを見ると、他のお客さんがこっちを見ています。 うぅ……恥ずかしいよ……みんなから変な子って思われちゃったらどうしよう……。 でも。 『可愛いなぁ』 『あの子、モデルさんかな?』
26 21/11/04(木)00:52:55 No.863095793
「えっ……」 聞こえてきた声は、ライスを褒める声ばかりでした。しかも、その声色はお世辞ではなく、誰もが独り言のように、心からの賛辞を送ってくれて。 「ライスは何を着ても似合うけど、これは特にいいよ!」 「そ、そう、かな……?」 大人っぽいモスグリーンの、ミモレ丈のワンピース。ライスみたいな小柄な子には似合わないんじゃないかと思ってたけど……。 「……そうだ! その服、そのまま着ていかないか?」 そ、そんな事したら道行く人たちの目にとまっちゃうよ?! 流石にそうしたら、きっと褒めてくれる人ばかりじゃなくて……。 「は、恥ずかしい、よ……」 「何言ってんの。こういう服は、見せるために着るものだろう?」 「そうだけど……」 「確かに似合ってなかったら恥ずかしいけど……ライスは誰よりも似合ってるよ。掛け値なしに」 「そう……かな?」 試着室の鏡を覗きます。綺麗な、モデルさんが着るような服を纏ったライスが、心配そうな表情で立っていて。 自信を持たなきゃ、と思ってニコっと笑ってみると、本当にまるで、シンデレラのように見えました。
27 21/11/04(木)00:53:10 No.863095870
「……わ、笑われないかな……?」 「笑う理由がないよ。もし笑うやつがいたら、そいつの感性がおかしい」 お兄さまの目、本気だ……ライスも、こういう服、着ていいんだ。 「お、お兄さまがそこまで言うなら……」 「よし! 店員さん、この服、お願いします!」 早速、買った服を着て外を出歩きます。心なしか、道行く人の視線を集めてる気が……。 というか、ちょっと見回せば分かる。気がするんじゃなくて、実際に集めてるよ! 「お兄さま……」 「どうした?」 「や、やっぱりこの服は……周りの人も……」 「相変わらず謙遜するなあ、ライスは。周りの目をよく見てみなよ」 「目?」 視線が向いてることしか考えてなかったけれど、お兄さまに言われて見てみると……。 ……え、これって奇異の視線じゃなくて……羨望の、眼差し……? みんな、見惚れたように、羨ましそうに、ライスのことを見てる。
28 21/11/04(木)00:53:26 No.863095964
「こ、この服……そんなに、似合ってるかな?」 「何度も言ってるだろう? そうでなければ、わざわざ買ったりしないって」 そ、そうだよ、ね。自信持っても良いんだよね。 うん! ライスだって綺麗なんだ! 負い目なんて感じないで! 「ライスだって、咲けるんだ!」 そう言ってガッツポーズを決めた時、通りすがりのウマ娘さんとぶつかってしまって。 「あっ……ご、ごめんなさい!」 謝ると、イラッとした表情で言われました。 「いい年して舞い上がってんじゃねえよ……ったく……」 「す、すみません……」 ライス、ちょっとはしゃぎ過ぎてたかな……。ウマ娘さんは、ため息をつくとそのまま歩き去ってしまいました。 トレセン学園の制服に見えるけど……見覚えがない子……。 後ろ髪を細く束ねたその姿からは、百戦錬磨、といった風格を感じて。 こんな強そうな人なら、どこかで見かけてると思ったけど……。
29 21/11/04(木)00:53:47 No.863096056
「おいおいライス、少し落ち着こう」 「う、うん……」 「まぁそう落ち込むなよ。さ、気を取り直して!」 お兄さまに励まされて。そうだよね、折角お兄さまがエスコートしてくれてるのに、いつまでも暗くちゃ駄目だよね。 「うんっ、お兄さまっ! 行こう!」 「やっぱり元気なライスが一番だ。じゃ、行こうか」 もう一度、お店の窓ガラスに映った、新しい服に身を包んだ自分を眺めて。 お兄さまにも、みんなにも褒められた、この格好を。 こっそりとお兄さまの手を握ると、お兄さまも握り返してくれて。 ふふっ、幸せだなぁ。 ******************
30 21/11/04(木)00:55:19 No.863096471
長いねぇ!今日はここまでだよ あと1~2回で完結だからまた見かけたらよろしく頼むよ 今日みたいに0時半過ぎに投下するから暇があったら探してみてくれたまえ 週末には終わらせたいねぇ!
31 21/11/04(木)00:56:49 No.863096909
オイ待てェ 続きを今か今かと待機していたら明日だと? 待ってる
32 21/11/04(木)00:56:54 No.863096930
幸せって何だろうな…先が気になりすぎて心臓が痛いよ
33 21/11/04(木)00:57:13 No.863097017
合いの手が入れられないねえ!力作すぎるねえ!
34 21/11/04(木)01:01:56 No.863098361
>オイ待てェ >続きを今か今かと待機していたら明日だと? >待ってる 明日とは約束できないねぇ! 内容は決まってるけどまだ全然書けてないからねぇ!
35 21/11/04(木)01:02:41 No.863098587
>内容は決まってるけどまだ全然書けてないからねぇ! いつか出してくれたらそれでいいねぇ!
36 21/11/04(木)01:04:33 No.863099141
ライスの幸せか…
37 21/11/04(木)01:04:41 No.863099182
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
38 21/11/04(木)01:09:26 No.863100391
>1635955481559.png これは三女……神々のトライフォースだねぇ! 感謝するよ!
39 21/11/04(木)01:10:18 No.863100625
結局夢の世界なのかそうじゃないのかどっちだよ!
40 21/11/04(木)01:19:36 No.863102816
>結局夢の世界なのかそうじゃないのかどっちだよ! 改めて読み直したら序盤の三人が割と自己矛盾してるねぇ! 宝塚は夢ではない今いるのは夢の世界と思ってくれたまえ
41 21/11/04(木)01:25:55 No.863104359
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
42 21/11/04(木)01:29:23 No.863105195
>No.863104359 ライスの幸せを問う話なはずなのにライスに幸せか問われてるようにしか見えない!
43 21/11/04(木)01:30:25 No.863105456
>改めて読み直したら序盤の三人が割と自己矛盾してるねぇ! 真実と虚構が混じり合ってる演出かと思ってた!
44 21/11/04(木)01:30:55 No.863105581
>1635956755047.png ライス君煽り力高いねぇ! でもこの後の内容を考えると考えさせられる一枚だねぇありがとう!
45 21/11/04(木)01:31:39 No.863105754
明日…明日!?
46 <a href="mailto:絵「」">21/11/04(木)01:32:01</a> [絵「」] No.863105849
>ライス君煽り力高いねぇ! >でもこの後の内容を考えると考えさせられる一枚だねぇありがとう! (別にセリフではなくてライスの幸せそうな顔と不穏さを対比しようとしてたとか言えない)
47 21/11/04(木)01:33:45 No.863106214
>>改めて読み直したら序盤の三人が割と自己矛盾してるねぇ! >真実と虚構が混じり合ってる演出かと思ってた! それも意図してなくはないが『これは夢ではありません』→『この夢の世界』は色々と疑わざるを得ないねぇ! 夢の世界というか『世界を越えて交わる場所』で補完しておいてくれたまえ 次回投下時はtxt添付するから修正しておくよ
48 21/11/04(木)01:35:12 No.863106513
>(別にセリフではなくてライスの幸せそうな顔と不穏さを対比しようとしてたとか言えない) えーっ!? ごめんよーッ!
49 21/11/04(木)01:37:21 No.863106946
足が折れてごめんなさいしてるライスはかわいいねえ それでも死を選ばず幸せになろうとするライスは本当にかわいいねえ
50 21/11/04(木)01:43:07 No.863108119
(題意が伝わるよう描き直しました)
51 21/11/04(木)01:43:10 No.863108130
>(別にセリフではなくてライスの幸せそうな顔と不穏さを対比しようとしてたとか言えない) 幸せそうな顔に不穏要素足すと幸せそうな顔が逆にヤンデレとかサイコパスとかの顔に見えてくるからな…
52 21/11/04(木)01:45:12 No.863108521
>(題意が伝わるよう描き直しました) だいぶ分かりやすくなった マギアレコードでこういう表現あったな
53 21/11/04(木)01:45:46 No.863108637
>1635957787673.png しかしこのライスかわいいな…
54 21/11/04(木)01:51:22 No.863109637
>(題意が伝わるよう描き直しました>(題意が伝わるよう描き直しました) 「目を覚ませ」が怖い… 絶対最後に心折れかける感じがする
55 21/11/04(木)01:53:19 No.863109984
>(題意が伝わるよう描き直しました) ウワーッライスめっちゃ笑顔で脅かされてるーッ! 雰囲気見覚えある絵だがカフェ怪文書でも描いてくれたかな……? ありがとうねぇ
56 21/11/04(木)01:59:05 No.863110934
最近ライス育てた俺にはタイムリーだ
57 21/11/04(木)02:05:05 No.863111804
0時半はちょっと遅いかもだからもしかしたら23:30くらいに立てるかもしれないねぇ その頃にもよかったら探してみてくれたまえ