虹裏img歴史資料館

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21/10/27(水)23:01:40 前半(1... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1635343300692.jpg 21/10/27(水)23:01:40 No.860776691

前半(1~2話) fu471628.txt

1 21/10/27(水)23:01:52 No.860776758

………あれから少しばかり経った。ディープインパクトとわたしの関係は今日まで続いていた。 「いつもありがとうございます」 「ううん。このくらいお安いご用だよ」 日もとっぷりと暮れてナイター照明がグラウンドを照らす中、その一角で彼女をベンチに座らせてわたしはその前に跪く。 彼女の細っこい足を手にとって丁寧に洗った後、爪先に爪の補強材を塗る。 同時に指や踵などに腫れている部分が無いか入念にチェックをした。 予想通り、身体の末端をこちらでケアをしてあげることでディープインパクトは少しずつ全力疾走ができるようになっていた。 もともと餅のように柔らかい身体と筋肉を持っているのだ。負荷のかかりやすい部分さえ保つなら怪我しにくい肉体だ。 けれどそれだけが理由ではないだろう。走るのが好きなのにレースにも出ず、思い切り走らず………。 コツコツと彼女が身体作りに励んで培ってきた基礎がここにきてようやく花開いた、というのが真実ではないかと思える。 「今日はラストスパートをかけても足が全然痛くなりませんでした」 「そっか! それならきっとレースデビューも間近だね!」

2 21/10/27(水)23:02:06 No.860776821

つい嬉しくなってそう言うとディープインパクトも控えめながらゆったりと微笑んだ。 変わったのは彼女の足の具合だけではない。わたしたちの関係も変化していた。 最初はおっかなびっくりという様子だったディープインパクトだが、今ではこんな風に薄っすらとだがよく笑ってくれる。 意外だったのは彼女がこちらの想像以上に人懐こい性格であったことだった。 怜悧な姿や態度に惑わされていたわたしにとって嬉しい誤算だ。 警戒されていたのは最初だけですぐに彼女は自分のことを打ち明けてくれるようになった。 やはりと言うべきか、わたしが抱いたような第一印象や黙々と独自のメニューに打ち込む姿で誤解されて話しかけてくれるウマ娘は少ないらしい。 「自分から話しかけて友達を作ればいいのに」 それを聞いたわたしがそう言うと、彼女は白い頬をほんのりと朱に染め、もじもじと体を揺すりながら言った。 「私から話しかけるのは、ちょっと………恥ずかしくて………」 ………勿体のない話だ。本当はこんな子なんだと知られれば話しかけてくるウマ娘はたくさんいるだろうに。

3 21/10/27(水)23:02:19 No.860776883

会話の内容は彼女の足のことやレースのことについてが多かったが、多少は雑談もするようになった。 主なテーマとしてはディープインパクトの好きなものについてのことである。 「そういえば………ランニング中、河原で鳶が魚を突いているのを見ました。  警戒心の強い鳥なので近寄れませんでしたが」 「へえ。川を泳いでいたのを空から降りてきて捕まえたのかな?」 「いえ。鳶は猛禽類ですが、食事は狩猟ではなく死骸を見つけて漁ることが多いです。  ですから河原に打ち上がっていた魚を食べていたんだと思います。視力が優れていて、地上のどんなものも見落とさないくらいですから。  狩りをせず、死肉を漁る。鳶が鷹を産むということわざはそんな習性から生まれました。  優れてない親から優れた子が生まれる………という意味ですね。  でも、私は鳶だって小さくても猛禽類らしい姿をしていて素敵だと思います」 そんな感想を述べてディープインパクトは微かに微笑む。 表に出にくいだけで彼女は喜怒哀楽のはっきりとした少女だった。 行儀がよく、穏やかで優しい。接すれば接するほど様々な顔を見せてくれるのが信頼の証のようで嬉しかった。

4 21/10/27(水)23:02:30 No.860776940

鳥のことになるとディープインパクトはいつもより少しだけ饒舌になる。 かなり詳しく、様々な鳥の習性や豆知識を彼女は知っていた。小さい頃から図鑑を眺めるのが趣味だったのだという。 曰く、気が赴くままに森の中へ分け入って鳥の声に耳を澄ませ、帰ってこないせいで両親をやきもきさせたのは一度や二度じゃないそうな。 まだ打ち解けきってない頃、それを途中まで言ってから遠慮したように「なんでもない」と意気消沈する彼女へわたしはつい告げていた。 好きなもの、憧れるものを持つのは素晴らしいことだ。 それになりたい、近づきたいと思うのも自然なことだ。 速く走るために何もかも捨て去りたいというのは少し寂しいけれど、それを誰にも馬鹿にはできない。 その全てを理解できるかは分からないけれど、気持ち悪いなんて決して思わない─── そう伝えてから彼女はちょくちょく鳥のことについてわたしに話すようになった。 あの時のディープインパクトの表情はうまく言葉にしきれない。 ただ、驚いたような、切ないような、嬉しいような、照れくさいような、色んなものが入り混じった表情だったのを覚えている。 ただ言って良かったとだけ思った。

5 21/10/27(水)23:02:40 No.860776993

まだ新人のくせに自分が担当するかも分からないウマ娘の世話をしているというのは変なことかもしれない。 でもトレーナーとして、この輝かんばかりの凄烈な才能がトゥインクルシリーズへと羽撃いていく手助けをするのは奇妙な充実感があった。 もちろんあわよくばディープインパクトのトレーナーになりたい。彼女と歩んでいけるのならばトレーナー冥利に尽きる。 けれど、彼女が史上に名を刻む手伝いができるならここでトレーナー人生が終わっても惜しくないとも思える。 あの神がかった末脚を見せられてはもうそれくらいに惚れ込むより他に無かった。まさしく魔性の脚だ。 「……………」 「あれ? ディープ?」 フットケアの終わりに彼女の脚をマッサージしていたのだが、ふと気がつくとディープインパクトが座ったまま俯いていた。 船を漕ぎすらしない。耳を澄ますと寝息さえ聞こえる。すっかり夢の中へと旅立っている。 こういうふとした時のマイペースなところが彼女にはある。 そんな愛らしさに思わず苦笑したわたしはディープインパクトを起こそうと肩に手を伸ばそうとした。 わたしの背後から声がかかったのはちょうどそんな頃合いだった。

6 21/10/27(水)23:02:51 No.860777062

「トレーナーに足のケアをしてもらうのが気持ちよくてつい眠ってしまった、か。  仙才鬼才たる能力を持ちながらまるであどけない子供のようだ。いや、まったく末恐ろしいよ」 まったく意識していなかったところからの声にぎょっとして思わず振り向く。 そこに立っていた鹿毛のウマ娘は大声を出しそうになったわたしへ向けて、人差し指を唇に当ててジェスチャーをした。 「うん、なるべく静かに頼む。せっかく眠ったんだ。今すぐ起こすのも酷だろう。  私は美浦寮だが栗東寮まで送る程度は造作もない。何なら背負って届けても構いはしないんだ」 ………そうは言うが、本当に彼女がそうしたらきっとちょっとした騒ぎになってしまうだろう。 立っていたのはそれほどの器のウマ娘だった。このトレセン学園で“皇帝”の二つ名を持つ者などひとりしかいない。 絶対的王者。トレセン学園の生徒会長でもあるシンボリルドルフが腕組みをし優しい微笑みを浮かべてディープインパクトを見つめていた。 「どうしてここに………」 「驚かせてすまない。ただ、ディープインパクト………彼女のことは前から注目していたんだ」

7 21/10/27(水)23:03:04 No.860777140

制服姿のシンボリルドルフはそう言ってディープインパクトを見た後、私の方へ視線を向けた。 普段“皇帝”であり生徒会長としてウマ娘たちと接する時とは少し様子が違う。どことなく視線に稚気が宿っているような。 そう、まるで同志を見るような目をしていた。 「知っていたの? ディープのことを」 「ああ。最初からそれほど注目していたわけでは無かったがね。  身体は小さかったし、特に目立つ存在ではなかった。考えが変わったのは彼女の走りを見てしまったからだよ。  たった一度だけ。生徒会というのは放課後を過ぎても担う仕事が多いものでね。  帰りが遅くなったある日、誰も見ていない夜のグラウンドで彼女が全力疾走するところを偶然見てしまった。  その時胸に去来したものについては………きっと君にも分かると思うんだが」 流し目を私に送るシンボリルドルフ。わたしは共感をもって間髪入れずに頷いた。 そうだろう。感動してしまうだろう。それが例えかの“皇帝”であろうと感じ入ってしまうだろう。 どうしようもないのだ。ディープインパクトの走りとは、そういうものなのだ。一目惚れしてしまうのだ。

8 21/10/27(水)23:03:16 No.860777210

「確信したよ。麒麟児とは彼女のような者を指して言うのだと。  私をも打ち倒し、トレセン学園に新しい風を吹き込むのは彼女のような脚の持ち主ではないかと」 「ルドルフ………」 「いいんだ。消長盛衰。古きは新しきに打ち倒されるのが世の習いだよ。  もちろんただで倒されるつもりはない。彼女とターフの上で鎬を削り合うのが今から楽しみでならない。  相まみえるならば全力で受けて立つ。ああ、それは私へ挑む者への義務でさえある」 シンボリルドルフが笑う。いや違う。ただ笑ったんじゃない。猛々しく微笑んだのだ。 あの“皇帝”ともあろうものが、打倒すべき獲物を見つけて残忍に笑う肉食獣のように麗しく微笑んだ。 それはつまり、まだデビューさえ迎えていないディープインパクトをどれだけ注目しているかという証だった。 起きる気配なくゆったりと眠り続けるディープインパクトを見ながらシンボリルドルフが言う。 「けれどその才能に反して彼女の身体は脆く壊れやすかった。  我慢強く基礎トレーニングを重ねる彼女のことを陰ながら見守っていたんだ。  そう。そこに君が現れた。彼女を見つけ、共に歩んでくれるトレーナーが」

9 21/10/27(水)23:03:26 No.860777277

そう言ってシンボリルドルフはじっと私の目を見つめた。 ディープインパクトの月夜の湖面のようにどこか儚さを孕んだ瞳と違い、凛とした気高さに満ちた眼差し。 「……………まだディープのトレーナーになると決まったわけじゃないよ」 「そうかな。うん、それについては彼女が決めることだ。私からこれ以上は言うまい。  けれどもひとつ、憂慮していることがある。  ディープインパクト。彼女の脚はあまりにも魅力的すぎる。見た者の心を奪う脚だ。  それが呼び寄せるのは必ずしも味方だけではないだろう。時には彼女を苦しめるものも訪れるかもしれない。  もちろん力になれることであればトレセン学園や生徒会たる私たちも然るべき処置を取る。  だが結局のところ最も親身になって彼女のことを守ってやれるのはパートナーであるトレーナーだ。  いつでもディープインパクトの最善を考え寄り添えるような、そんな覚悟を持ったトレーナーと彼女が巡り会えることを祈ろう」 シンボリルドルフの目の中には暗に訴えかけるものがあった。 わたしはその意味を考えながら、眠りこけるディープインパクトの寝顔を見つめたのだった………。

10 21/10/27(水)23:03:36 No.860777336

───そうして、選抜レースの日がやってきた。 「いよいよ始まるわね。結局どの子に声をかけるかは決めたの?」 「うん」 同僚の問いにしっかりと頷きながら観客席の一角に陣取る。 そこからグラウンドの中にディープインパクトの姿を探した。───いた。 出走予定のウマ娘たちが控えているあたり、その隅っこにぽつんと一際小さな人影があった。 相変わらずのマイペースさでのんびりと柔軟体操をしている。開脚すれば身体がべったり地面についてしまうくらい柔らかい。 今日までできる限りのことをしてきた。爪先のケアをし、蹄鉄もふたりで相談して特に脚へ負担の少ないものに変更した。 だが何よりも怪我なく最後まで走り切ることのみを重視したせいで他のことはやっていない。 全てはこの選抜レースに間に合わせるため、レースのイロハなど普通のウマ娘なら最低限身につけることも一切教えていなかった。 スタートダッシュなんて最たるものだ。きっと最初から大きく出遅れるだろう。 後はもう、ディープインパクトの天性の才能を信じるより他にない。 わたしはここに来る前にディープインパクトと交わした遣り取りを思い出していた。

11 21/10/27(水)23:03:47 No.860777391

「なんとかここまで辿り着けたね。本当によく頑張ったよ、ディープ」 「はい」 労いの言葉への返事はごく短い。緊張しているのではなくこれがディープインパクトの素だ。 それでもジャージ姿の上からゼッケンをつけた姿は誇らしい気分がどこかにあった。 彼女は新調した蹄鉄の具合を確かめるように軽く飛び跳ねたり地面を踏みしめたりして集中していた。 もうすぐ選抜レースが始まってしまう。そうすればわたしは観客席だしディープインパクトは出走を待つためにグラウンドの上に立つ。 話ができる時間はそう多くはない。何を言うべきか迷ったわたしはその末にこんなことを口にしていた。 「鳥にはなれそう?」 「……………」 動いていたディープインパクトの身体がぴたりと止まる。 あの静謐な瞳がゆらりとあらぬ方向を向き、ほんのりと考える間を一瞬作った後にぴたりと私の方へと視線が定まった。

12 21/10/27(水)23:04:00 No.860777476

「分かりません」 「そっか、分からないか………」 「でも」 ディープインパクトは小柄だ───首を傾げてわたしの顔を見上げる目が宝石のようにきらきら輝いている。 その眼差しには今まで見たことのない色合いの感情が宿ってゆらゆらと陽炎のように揺蕩っていた。 「私がこうして選抜レースに出られるのはトレーナーさんのお陰です。  あなたが私のためにしてくれたことの成果は見せたい。少なくともあなたを落胆させない走りはしてきたいと思っています」 「ありがとう。でも、何の心配もしていないよ」 「………?」 「わたしはあなたを信じてる。ディープインパクトは誰よりも速いウマ娘だって」 じっと私を見つめるディープインパクトの瞳の深さが急にぐっと増したように感じた。 選抜レース開始を告げるアナウンスが響いてくる。彼女は一瞬くすりと微笑んだ後、ぺこりと一礼してグラウンドに向かっていった。

13 21/10/27(水)23:04:10 No.860777554

「───各ウマ娘、ゲートに入りました。今一斉に───スタート! 始まりました!」 重い。重い。重い。 私にまつわるあらゆるものが重い。重くて重くて堪えきれない。 重力という鎖を断ち切り、大空へと舞い上がるにはあまりにも重すぎる。私はなんて鈍重なんだろうと嘆きたくなる。 自分で言うのもなんだが、私はレースを走らなければごく普通のウマ娘だ。 名家に生まれ、その令嬢として丁寧に育てられてきた自覚はあるが、感性について他のウマ娘たちと大差ない。 お腹が空けば美味しいご飯が食べたくなる。食べ方が行儀良すぎると人は言うが、一口ずつ味わっているのだから文句をつけないで欲しい。 眠たくなれば瞼を閉じて寝入ってしまう。どこでもついそうしてしまうので危なっかしいと両親は困っていた。申し訳ない。 人並みに寂しさだって感じる。友人を作るのは苦手だが友人と共にいることは大好きだ。故郷の彼らは元気だろうか。 そういうようなことを当たり前に感じる、当たり前のウマ娘だ。変わったところなんて何もない。 けれど、ひとたびレースになると私は人が変わってしまう。 全く違う生き物になって、価値観さえ変化してしまうのだ。

14 21/10/27(水)23:04:20 No.860777607

重い。重い。重い。重い。重い。 普段の私が普通に受け取っていること。普通に好ましいと思い、普通に嫌だなと感じていること。 その普通がどれもこれも何もかも、重くて重くてしょうがなくなる。 要らない。全部要らない。削り落としてしまえ。無くなってしまえ。綺麗さっぱり消えてしまえ。 常識、肩書、両親、友人、環境に対戦相手、好きなもの嫌いなもの、過去、現在、未来───そして、私自身。 こんなものがいちいちくっついているから私はいつまで経っても飛ぶことができないんだ。 そう考えるというそれさえ余分な重みだ。ただでさえ私の身体は宙に浮けないほど重いのにそれ以外の重りを抱えて走る余裕はない。 鳥のように空を飛ぶには私の翼はあまりにも不要なもので汚れきっている。こんな羽では決して空へと飛び立つことなんて叶うまい。 ああ、だから私は鳥に生まれたかった。飛ぶことが第一義の彼らに余計な重さなんて存在しないから。 「──────ッ!」 ───けれど。今は少しだけ違う。 最終コーナーに差し掛かって、私はぐっと脚に力を込めた。

15 21/10/27(水)23:04:31 No.860777668

あの人を思う。私に出会い、私の走りを見て、私のために今日まで多くを尽くしてくれた人。 これまで私の『鳥になりたい』という夢を伝えた多くの人たちは冗談だと流してきた。 わざわざ笑いこそせずとも荒唐無稽であり得ないと思っている態度はひしひしと伝わってきた。そのたびに落ち込んだ。 これは所詮私の幼稚な幻想で、目指すこと自体が烏滸がましく、憧れることさえ一笑に付される程度のことなのかと。 あの人は笑わなかった。 よく分からないのはいい。そう簡単に他の人に理解できるようなことではないのは自分でも分かっている。 それでもあの人は決して馬鹿にせず、真剣に取り合ってくれた。私が夢を目指せるよう、熱心に付き合ってくれた。 それがどれだけ嬉しかったか。口下手な私は彼女に上手く伝えるすべがない。 だからせめて、この走りでそれを伝えなきゃ。 不思議だ。 これまで私は私に絡みつくあらゆるものに重いと感じていたはず。 私の身を案じてくれる思いやりなどでさえも全部が煩わしい重りだとレース中は厭っていたはず。 なのにあの人───トレーナーさんのことを思うと、何故か少しだけ身体が軽くなる───。

16 21/10/27(水)23:04:41 No.860777736

それは産声だったのだろう。 ウマ娘ではない怪物の誕生か。あるいは───英雄の旅の始まりだったのか。 最終コーナー終了。最後の直線に差し掛かったその時、集団の中程にいたディープインパクトは脚に鞭を入れた。 たった一呼吸で集団の先頭へ。次の一呼吸で一気に突き放した。 唖然とする競争相手を尻目に後塵さえ拝ませない。はっきり言って次元がひとつ違うどころの騒ぎではなかった。 差があっという間に開いていく。3バ身、5バ身、7バ身、いや、もう測れない。 終盤にスパートをかける典型的な追い込み型のスタイルでありながらゴール板の前を駆け抜ける姿は大逃げを成功させた逃げウマ娘の如し。 見る者へあまりにも鮮やかで、強烈で、凄まじい衝撃を叩き込む圧巻の大勝だった。 実況が押し黙った。レース会場が静まり返った。トレセン学園がその一瞬だけ静止した。 トレセン学園の校訓へ最初に刻まれている文句がある。“唯一抜きん出て並ぶ者なし”。 ディープインパクトはその瞬間、その最も重要な校訓を完全に成し遂げてみせた。 レース後にこぞって群がるトレーナーたちの全ての誘いを丁重に断り、ディープインパクトはレース場を去っていった。

17 21/10/27(水)23:04:51 No.860777829

「─────。………幼い頃のことです」 あの凄まじい熱狂に包まれたレース場となっていたグラウンドにはもうその面影もなく、夜闇の帳が静かに降りている。 いつもならば共に過ごしていた秘密の特訓の時間と場所。ナイター照明を浴びるディープインパクトはスポットライトを浴びる主役のようだった。 普段通りわたしを待っていたディープインパクトはわたしが訪れるなり、ぽつりとそう語りだした。 「渡り鳥という生き物について学んだ時、心底不思議に思いました。  彼らはその種の生存のため、遠い遥か彼方まで旅をする。決して空の道を間違えず、生まれ育った故郷へと帰ってくる。  曰く、彼らは独自のコンパスを持っているそうです。星の巡り、地球の磁場、目的地の環境や地形………。  当時の私には分かりませんでした。そんな些細なことで微動しそうなものを頼りに辿り着けるかも分からない果てを目指す。  そんな暗夜行路を進んでよくも目的地へと到れるものだと。………でも、今は違います」 ディープインパクトが振り返り、わたしの方を毅然と見た。 今日の選抜レースを勝ったからだろうか。それともレースの中で何かを掴んだからだろうか。

18 21/10/27(水)23:05:02 No.860777892

彼女の眼差しには今までに無かった強い光が湛えられている。 「確かに彼らにはしるべがあったのです。はっきりと、決して違うことのないしるべが。  それを心が赴くままに信じ追い求める。暗夜行路ではない。彼らには光が灯った道が見えていた。  そういうことが今日分かりました。しるべは示すのです。そこに光があると。  例え逆風が吹こうと耐え忍び、そして言うのです。見ろ、光はそこにあったと。  ───私にとってはあなたのことです。トレーナーさん。あなたがここまで私へ光を投げかけ、導いてくれた」 わたしを見つめてくるものの正体はよく分からなかった。 ディープインパクト本人なのか。それとも彼女の奥底に潜む怪物なのか。あるいはその両方なのか。 けれども本当は何だって良かったんだ。彼女がわたしを求めてくれたという、それが大事なことだった。 「トレーナーさん。こんな私でいいのならば………。  私のしるべになってくれませんか。あなたが光を照らしてくれるなら、私はどこまでも飛んでいける気がするのです。  いいえ。あなたというしるべでなければ、私は彼方へ飛んでいける自信がないのです」

19 21/10/27(水)23:05:17 No.860777978

答えるまでもないことだ。だが、答えなければならないことだ。 ディープインパクトに向き合う。いつもマイペースな彼女らしくなく、緊張を帯びた強張った面持ちだ。 シャイな彼女にとって“あなたが欲しい”という宣言は一世一代であるほどの挑戦だったのだろう。 応えなければならない。わたしはにっこりと微笑んで、とてもシンプルに告げた。 「あなたをスカウトしたい! わたしのウマ娘になって!  誰よりも速く、自由に、まるで鳥のように………ううん、鳥よりも自由に駆けるウマ娘を目指そう!  あなたが鳥になるというのなら、わたしもあなたの翼になる!」 勢いよく告げたわたしの言葉に最初ディープインパクトは瞼をぱちぱちと瞬かせて驚いていた。 だが、やがて───………。 「………………──────、はい」 初めて見る、本当に華やかな大輪の笑顔でわたしの言葉に頷いてくれたのだった。

20 21/10/27(水)23:05:32 No.860778075

それが“ディープインパクト”の始まり。 シンボリルドルフが懸念した通り決して綺麗事ばかりではなかった旅の開始点。 それでも彼女はここを起点にゆっくりと、だがはっきりと走り出した。わたしというパートナーを横に置いて。 走りを見るあらゆる人々の心を狂わせ、あらゆる人々の視線を釘付けにし、あらゆる人々の心を虜にする、魔性の末脚。 彼女は言った───私は、鳥になりたかった。 【称号獲得:ディープインパクトとの出会い】

21 <a href="mailto:s">21/10/27(水)23:06:17</a> [s] No.860778355

アプリのディープインパクトメインストーリーの3話と4話っって大体こんな感じだったような気がする このあと距離感バグり気味のプイプイとイチャイチャするシナリオする

22 21/10/27(水)23:07:04 No.860778643

濃い!恐ろしく濃い!!

23 21/10/27(水)23:09:21 No.860779519

読んでてなんか泣いちゃった いい話をありがとう

24 21/10/27(水)23:12:09 No.860780586

続き…続きが見たい…

25 21/10/27(水)23:13:43 No.860781176

羽が生えたような走りのウマ娘が自由に舞う鳥に憧れるって素敵だな...

26 21/10/27(水)23:14:14 No.860781387

ディープインパクト登場!

27 21/10/27(水)23:14:29 No.860781488

この子はディープインパクトのままで生きそう でも何か間違うとプイプイになりそう

28 21/10/27(水)23:14:42 No.860781574

原作ディープも食い方綺麗だったんだっけか

29 21/10/27(水)23:14:59 No.860781679

こんなストーリー公開されたら引きたくなっちゃうじゃん…

30 21/10/27(水)23:15:15 No.860781767

URAはこんな娘に過度な重圧をかけたの反省して!

31 21/10/27(水)23:15:32 No.860781871

>URAはこんな娘に過度な重圧をかけたの反省して! マスコミもだよ!

32 21/10/27(水)23:18:53 No.860783048

1着至上主義

33 21/10/27(水)23:19:47 No.860783352

固有称号はなんだろうな……「一着至上主義」はやめてくれよな!

34 21/10/27(水)23:21:04 No.860783786

実際アプリ世界で会長が会長なのは「無敗の三冠バにしてG1最多勝ち」だからだけど同じ条件のディープインパクト現れたらどうなるのか気になります

35 21/10/27(水)23:21:29 No.860783957

>この子はディープインパクトのままで生きそう >でも何か間違うとプイプイになりそう そこに何か間違えてる感じの三冠馬がおるじゃろ? 朱に交われば赤くなるじゃろ? そういうことじゃ

36 21/10/27(水)23:21:34 No.860783982

>固有称号はなんだろうな 「翼の生えたウマ娘」とか

37 21/10/27(水)23:21:38 No.860784004

>固有称号はなんだろうな……「一着至上主義」はやめてくれよな! 英雄だと思う 無敗で三冠と有馬連覇だ!

38 21/10/27(水)23:22:00 No.860784145

でした。が言ってたらしい「英雄」でいいんでない?

39 21/10/27(水)23:22:20 No.860784256

>そこに何か間違えてる感じの三冠馬がおるじゃろ? >朱に交われば赤くなるじゃろ? >そういうことじゃ マジッスか とんでもない三冠バがいるんスね コワ~

40 21/10/27(水)23:22:43 No.860784384

有馬連覇したら固有実況で「間違いなく飛んだ!」って言うのいいよね

41 21/10/27(水)23:22:45 No.860784401

>>そこに何か間違えてる感じの三冠馬がおるじゃろ? >>朱に交われば赤くなるじゃろ? >>そういうことじゃ >マジッスか >とんでもない三冠バがいるんスね >コワ~ 鏡見ろ鏡

42 21/10/27(水)23:23:06 No.860784545

芝AダートG 短GマイルD中A長A 逃G先行C差しA追込A スピ20スタ10 こんな感じ?

43 21/10/27(水)23:23:56 No.860784861

なんか凄そうな子プイね〜

44 21/10/27(水)23:24:13 No.860784944

>芝AダートG >短GマイルD中A長A >逃G先行C差しA追込A >スピ20スタ10 >こんな感じ? 1つのステに30が解禁されたからスピ30もあり得るけどディープと言ったらスタミナオバケだからなあ

45 21/10/27(水)23:24:30 No.860785033

>有馬連覇したら固有実況で「間違いなく飛んだ!」って言うのいいよね ブルボンと同じレース中に固有実況がかかるパターンだと思う 最終直線で固有スキル発動して突っ込むと「間違いなく飛んだ!」になりそう

46 21/10/27(水)23:24:59 No.860785203

>芝AダートG >短GマイルD中A長A >逃G先行C差しA追込A >スピ20スタ10 >こんな感じ? 固有は凄く加速かな?覚醒に迫る影かそれに近い金スキルはあるだろうな

47 21/10/27(水)23:25:00 No.860785213

友達と待ち合わせしてたら先に帰られてやる気ダウンするイベントあるよね

48 21/10/27(水)23:26:28 No.860785703

どうしてこのウマ娘はダービー開始前に居眠りしているんです

49 21/10/27(水)23:27:01 No.860785893

>どうしてこのウマ娘はダービー開始前に居眠りしているんです 控室で熟睡かましてトレーナーに起こされるのかわいい

50 21/10/27(水)23:27:35 No.860786088

>なんか凄そうな子プイね〜 >鏡見ろ鏡

51 21/10/27(水)23:28:12 No.860786301

とても良い物を読んだ

52 21/10/27(水)23:30:04 No.860786916

鳥になってこい!って言ってみたくなる

53 21/10/27(水)23:30:14 No.860786972

空飛ぶのはテイオーの固有があるしやっぱ背中に羽でも生えてくるのだろうか

54 21/10/27(水)23:31:04 No.860787263

固有演出終わっても翼が生えたまま…だとなんか変な感じだな…

55 21/10/27(水)23:31:43 No.860787479

目を離したらどこかに飛んでいって消えてしまいそうなのいいよねよくない

56 21/10/27(水)23:31:48 No.860787504

>>どうしてこのウマ娘はダービー開始前に居眠りしているんです >控室で熟睡かましてトレーナーに起こされるのかわいい 鳥になる夢とか見てそう

57 21/10/27(水)23:33:31 No.860788072

グッドエンド後絶対両親に会わせようとしてくるタイプだ!

58 21/10/27(水)23:33:50 No.860788189

>空飛ぶのはテイオーの固有があるしやっぱ背中に羽でも生えてくるのだろうか ああいう生え方ではなくもっとこう…WカスタムゼロEW版みたいな…

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