虹裏img歴史資料館

1 21/10/25(月)01:17:02 No.859872642

そう言えばこんな事がありました。 薙刀の先生に尋ねたことがあるんです。 「どうしてこの技は教えていただけないのでしょう」と。 マ斬りという技でした。 お弟子さんが読んでいらっしゃった本に、 載っていたんですけれど。 先生は困った顔をした後、 お弟子さんを呼んで、その技を披露してくださいました。 お弟子さんが走ると、先生は横にステップしながら そのまましゃがんで、薙刀を薙いだんです。 はい。 すぐに気付きました。 ウマ娘用の薙刀技です。

2 21/10/25(月)01:17:29 No.859872742

「戦国時代に編み出された技や。 　今は使わんけど、一応修めてはいる」 ちょっと気まずそうに先生は仰いました。 ウマ娘の突進は戦国時代から恐れられてきたもの。 だから横に回避しつつ、薙刀を振るって足を膝裏から斬り捨てる。 私、思うのですけど。 「本気になったウマ娘に人間はかなわない」って たまに言われると思うんですけど。 あれ、逆ですよね。 「本気になった人間にウマ娘はかなわない」んです。 だって、ウマ娘が戦争から縁遠くなって七十年。 戦争に薙刀が使われなくなって幾星霜。 なのに「一応修めている」の一言で、あのウマ娘を一刀で台無しにする技が継承されてるんですから。

3 21/10/25(月)01:17:56 No.859872838

すみません、話がずれました。 その日は快晴でしたが、練習場は生徒会に貸し切られてました。 シンボリルドルフ先輩……生徒会長はいつもと同じ、泰然自若としたご様子でした。 副会長……エアグルーヴ先輩は、妙に緊張していたなって覚えてます。 それから、勝負服を着たマルゼンスキー先輩が入念なウォームアップをしてました。 その眼光は、今からレースに挑むウマ娘そのものでした。 はい。 渋川先生がスペちゃん……スペシャルウィークと一緒にいらっしゃった時はびっくりしましたとも。 スペちゃんに道案内をしていただいたそうです。 渋川先生の姿を認めると生徒会の皆さんが一斉に駆け寄りました。

4 21/10/25(月)01:18:11 No.859872890

「本日はよろしくお願いいたします、渋川先生」 「ホッ、ホッ。こちらこそよろしくお願いします」 深々と頭を下げあう、生徒会長と渋川先生。 隣のエル……エルコンドルパサーが 「あのお爺ちゃん、お偉いさんデス？」 と言っていましたが、私は気が遠くなりそうでした。 伝説の達人。 触れただけで人を転がせる、近代武道の最高峰。 もっと驚いたのは、渋川先生が道着だったことです。 渋川先生は懐から紙を取り出すと、会長に差し出しました。 会長が恭しくそれを受け取り、確認して頷いてました。 後で見せてもらいましたが。 「この練習で負傷しても一切責任を問わない」 という誓約書でした。

5 21/10/25(月)01:18:27 No.859872953

ストレッチを終えたマルゼンスキー先輩が 「お爺ちゃん、久しぶり～」 といつもの笑顔で気さくに挨拶なさってました。 「マルちゃんも久しぶりですなあ」 と返す渋川先生。 ただ、どちらも。 目が笑ってませんでした。 マルゼンスキー先輩に憧れているスペちゃんはぽかんとしてました。 レース直前のウマ娘同士のような、 いえもしかしたらそれ以上の闘気が、練習用のレース場に満ち満ちてました。 「それでは準備を」 会長と副会長はそう言って、大きなエアクッションを広げました。

6 21/10/25(月)01:18:44 No.859873014

はい。 飛び降りた人間を受け止める、あの救助マットです。 お二人がそれを渋川先生の後ろに立てたんです。 「もう少し後ろでお願いします」 渋川先生の言葉に、お二人が少し後ろにずれました。 ５メートルくらいだったと思います。 この頃になると、ただ事じゃないと感付いた 皆が固唾を呑んで見守っていました。 マルゼンスキー先輩は、スタート地点に。 あの方がもっとも得意とする１６００ｍ。 ヒシアマゾン先輩が強張った表情でスタートフラッグを掲げて。 「スタート！」

7 21/10/25(月)01:18:59 No.859873075

走り出しました。 全力です。 「あ……本気だ」 スペちゃんがぼそりと呟きます。 練習場では絶対に見ることのない、マルゼンスキー先輩の本気の走りでした。 はい。 ゴール間際の真正面に、渋川先生が立っています。 体幹に一切のぶれはなく。両手は下げて、拳は握っていて。 スペちゃんが悲鳴を上げたそうですが、 隣にいた私はまったく気付きませんでした。 瞬きもせず、その凄まじい走りと、 その走りを真っ向で見据える老人から、目が離せなかったんです。

8 21/10/25(月)01:19:17 No.859873141

激突する寸前、渋川先生が一歩前に出て、 マルゼンスキー先輩はほんの少し横にぶれた気がします。 気がします、とは後から思い出して気付いただけで、 覚えていた訳ではないのですが。 「チェリャァ！」 雄叫びが響き渡ると同時、マルゼンスキー先輩が…… こう、前方へ回転しながら吹き飛んでいきました。 それからドッ、という凄い音。 悲鳴を上げていた皆は、声も失ったようでした。 渋川先生は変わらず、そこに佇んでいます。 生徒の大半は「先輩が直前で横に躱したんだ」と 思ったそうです。 目の良い、一部の生徒は 「ぶつかる寸前で、老人が何かしたら先輩が ひっくり返った」と気付いてました。

9 21/10/25(月)01:19:32 No.859873196

原理的には私が学んだ薙刀技と同じです。 走って上がった膝の膝裏に手を合わせて、加速の方向を変化させる。 回転した先輩の背中を強く押して、吹き飛ばす。 でも、あれは戦国時代のウマ娘だから成立する技です。 今のウマ娘は、速度に特化しています。 多分、戦国時代の三倍……いえ、マルゼンスキー先輩なら 四倍はあるはずなんです。 時速７０ｋｍ以上で走ってくる先輩を正面から迎え撃って、技を繰り出す。 有り得ません。 異常です。 でも、やったんです。渋川先生は。

10 21/10/25(月)01:19:46 No.859873260

「マルゼンスキー！　大丈夫か！？」 会長の声に 「あったった～大丈夫よ♪」 エアクッションに衝突したマルゼンスキー先輩が、立ち上がりました。 怪我一つ、なかったそうですよ。 「また速くなったのう、マルちゃん」 「お爺ちゃんも、また技の切れ味上がってない？」 渋川先生とマルゼンスキー先輩が、 まるで何事もなかったかのように雑談を始めました。 「でも、どうして一歩前に出たの？」 「出なきゃマルちゃんに躱されたやろ」 そんな会話が聞こえて、私は茫然自失としていました。

11 21/10/25(月)01:20:00 No.859873315

ええ。 コンマ数秒でその判断ができたのもとんでもないですけど、 「躱されるから前に出た」んですよ。 あの人は、そのままであれば普通に回避できたのに、 前に出てマルゼンスキー先輩の走りを受け止めたんです。 「よく気付いたわね」 「マルちゃん、目線が少し横向いたからな」 茫然自失二回目です。 あの状況で、目線を横に向けることに気付きますか普通。 トップレベルのウマ娘と、トップレベルの達人の雑談に。 私は失神しないのが精一杯でした。

12 21/10/25(月)01:20:12 No.859873361

え？　あ、はい。 カノープスのトレーナーさんはコレが終わった頃にいらっしゃいました。 それで一言。 「あ、渋川先生もしかして負けました？」 「言うな、ボロクソに負けたわい」 私はここで失神したので、後は覚えていません。 はい。 怖いですよね、極まった人間って。

13 21/10/25(月)01:21:02 No.859873561

オチが書きたかっただけかもしれないので失礼する ウマ娘世界の武田信玄はただのドスケベなのでは

14 21/10/25(月)01:23:07 No.859874038

マルゼンさんどんな縁で知り合ったんだろう…

15 21/10/25(月)01:25:39 No.859874637

>マルゼンさんどんな縁で知り合ったんだろう… 渋川流の看板揚げるときに立ち会ったとかかな…

16 21/10/25(月)01:27:15 No.859874989

まあ人間以上の生き物がいたら立ち合って試してみるだろうな…

17 21/10/25(月)01:31:56 No.859876095

なんかこの二人普段は朗らかだけど好戦的なところちょっと似てるな

18 21/10/25(月)01:35:05 No.859876815

なんでグラスが失神したんだ…

19 21/10/25(月)01:39:09 No.859877687

なんで南坂ちゃん普通に分析出来てんの…？君もいける口なの…？

20 21/10/25(月)01:53:31 No.859880552

南坂トレーナーはガイア辺りと親交がありそう