虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。

  • iOSアプリ 虹ぶら AppStoreで無料配布中
  • とある... のスレッド詳細

    削除依頼やバグ報告はメールフォームにお願いします。 個人情報,名誉毀損,侵害等について積極的に削除しますので、メールフォームより該当URLをご連絡いただけると助かります

    21/10/23(土)17:06:37 No.859288815

    とあるモブのウマ娘の話

    1 21/10/23(土)17:06:47 No.859288877

    バタンっ!深い深いため息とともにロッカーの閉じる音が薄暗い室内に響く ここは、メジロシティのとある雑居ビルの一室、 市長の趣味のイメージプレイを運営を行う部署が居を構えており アタシはそこでの仕事(カップルたちのイメージプレイSEXの準備と後片付け)を終え帰ろうとしていたのだ

    2 21/10/23(土)17:07:09 No.859288979

    「そう…明日から寂しくなるわね、うちでまた働きたくなったらぜひ来てほしいわ」 「はい、いままでありがとうございました」 そんな言葉を重ね、私はこの仕事場に別れを告げようとしていた この仕事場とメジロシティには感謝はしている 中央では、お情けでトレーナーのチームに入れてもらい、そしてまともに指導を受けることも無くおまけ扱いだった 走ればデビューと地方の有力バがいないオープン戦で1勝するのが精々だったアタシ 卒業後、実家に戻り、直後着の身着のまま家を飛び出したそんなアタシを受け入れ、 あまつさえ仕事すらありつけたのだ、感謝しないわけがない

    3 21/10/23(土)17:07:43 No.859289155

    しかし… 仕事で出会うカップルは成功者であり持てる者たちであり、 成功できなく持たざる者であるアタシはその差を常に見せつけられる立場ではあったのだ 学友だった子が利用者として伴侶とともにやって来ることもあった アタシのトレーナーだった男が成功したウマ娘とやって来ることもあった (もっとも向こうはおまけだったアタシを覚えてないだろうし、アタシもヤる前の二人に話しかけるのは気が引けて話しかけなかったが) 給料ははっきり言って破格ではあり、待遇も悪くはなかった だが、自身との対比を見せ続けられて数年もたったころには、アタシの精神はすり減り切ったのだ 契約社員でもあった身でもあり、アタシは契約更新をしないを選択し仕事を辞めることにしたのだ

    4 21/10/23(土)17:08:06 No.859289264

    「ふぅー」雑居ビルをため息とともにアタシは出る これからどうしようという呟きは自然と出るが、すでに決めてある 旅に出るのだ、当てのない旅に、旅の途中で野垂れ死にしてもいいそんな旅だ 家財は引き払い、住居もすでに明け渡す準備はできている だが___ ふと、メジロシティの夜にきらめく建築物を見たアタシはメジロシティでの最後の夜にすこし飲みに出ても良いのでは? そう、なぜか思えたのだ

    5 21/10/23(土)17:08:36 No.859289420

    何かに導かれるようにアタシは一軒の居酒屋に足を踏み入れ、カウンター席に座る、 (こういう時はいい感じのBarなのかもしれないが、アタシにはこっちの方がしっくりくるのだ) ビールやつまみ類を頼み、そして飲む、運ばれてきたつまみも食べ、そして飲む うまい…近海で取れたのを鮮度がいいうちに使っているらしい そんな一人だけの酒宴を楽しんでいると、横から・・・ 「隣、よろしいですか?」 そう声をかけながら、隣に一人の男性が座ったのだ アタシは、周りを見てカップルだらけの席をみて(メジロの日常風景)、 <一人だけだと気まずいから形だけでもペアにしたいんだろう>そう考えて、アタシは快諾したのだ

    6 21/10/23(土)17:09:17 No.859289600

    申し訳なさそうに、座る彼にアタシは話しかける 「もしかして、メジロシティは初めて?」 「ええそうです、仕事で初めて来ました…」 「ここは、カップルの比率が高いんよ、逆におひとりさまは目立つ街ってわけ、まぁアタシは明日旅立つけどね」 「なるほど、そう言えば貴女はここへはレースに?」 「えっ…違うわよ、でもなんで?」 「いえ、貴女がウマ娘なので、レースに来たのかと・・・」 「なるほどね、でも今は引退していのよ、…昔中央で走ってたけどね」 そのアタシの言葉に、男性…彼は表情を変え、そして口を開く 「もしかして、地方の中央主催のレースに遠征してませんでしたか?」

    7 21/10/23(土)17:10:04 No.859289821

    ・・・ 男性は言葉をつづけ、アタシは男性の言葉に言葉を失う 何故ならば、彼はアタシが唯一の勝利した競バ場もいい当て、そしてあたしの名前も当てたのだ 「よく・・・わかりましたね」アタシは声を失いながらも、何とか答え彼に続きを促す 彼は、アタシが勝利した競バ場のある地方に生まれ、育ち、生活していたという しかし、かつて病弱だった彼は、余り外で遊べず、 外で楽しめていた思い出はほんの一握り、そしてその一つがアタシが走ったレースなのだという

    8 21/10/23(土)17:10:37 No.859289951

    「貴女の走る姿に、外には楽しいことがある、そう思えるようになり、手術を受ける決心ができました」 ありがとうございました、そう言いながら頭を下げる彼 アタシは、彼の手を取りながら自然と涙が出ていたのだ 意味があったのだ… つらく苦しいだけだった、トゥインクルシリーズや学園生活、そしてその後の実家でかけられた期待外れだったという母の声 そんな、薄暗い青春時代も目の前にいる人には意味がある物だったのだ

    9 21/10/23(土)17:11:02 No.859290076

    <意味があった>その事実は、アタシの十代後半から溜まりに溜まったものに突き刺さり、そして___ 「ひっぐ…ひっぐ、うええええええええええんんん」 決壊した アタシは、年甲斐もなく泣き、彼に感謝し、そして残っていた酒を呷った 酒の勢いもあったのだろうが一度決壊したものは止まらない アタシは、学生の頃の事や実家に帰ったころの事、そしてメジロシティに来てからの事も彼に話したのだ 聞いてもらいたかったのか共感してもらいたかったのかは、後から振り返ってもアタシにはわからない でも、その時だけはどうしても止まらなかったのだ

    10 21/10/23(土)17:11:41 No.859290271

    ・・・ 次にアタシが気づいた時、アタシは店員さんに起こされて目覚めた 隣の席を見る そこには、アタシがすべてを吐き出していた相手は既に痕跡すらなく消えていた 「…、はぁ~・・・よしっ」アタシは、一抹の寂しさと悲しさを息とともに吐きだし、席を立つ 店員さんに迷惑をかけた事への謝罪と、隣の人がまた来たら有難うと言っておいてほしいとの言葉を残し、店を出る 外はとっくに、朝もやが立ち込めるそんな時間になっていた アタシは、そんな動き始めたメジロシティの街を歩き始めたのだった…

    11 21/10/23(土)17:12:17 No.859290433

    ___十数時間後、メジロシティバスターミナル いよいよ家を引き払い、旅に出発するために深夜高速バスを待つアタシの姿はそこにあった 結局、アタシは旅に出ることをやめるつもりはなかったし、この街を出ていくことも変わらなかった しかし、一つだけ違うことは、旅に対するアタシの感情が変わったことだ アタシは、この旅をアタシを見つめなおして前に進むための旅にしたい、そう思うようになった ・・・アタシが勝利したあのレースの場所へ行ってもいいかもしれない、そう考えるぐらいには前向きになったのだ そんなことを考えていると、バスがやってきた

    12 21/10/23(土)17:12:46 No.859290571

    バスに乗り込み、座席に座りあの出会いをことを考える あの出会いは幻だったのかそれとも現実だったのか、今となっては分からない それでも、彼に出会えたことは、アタシの薄暗い青春というよどんだ水に、清水が流れ始めたそんな気分になれた ___バスが走り始める 動き出したバスの車窓からは、きらめく建物が見える アタシはあの出会いに感謝しながら呟く 「さようなら、メジロシティ」 バスは闇夜を切り裂きながらメジロシティを背に走り去った