21/10/20(水)17:39:02 「さて... のスレッド詳細
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21/10/20(水)17:39:02 No.858344900
「さて、酒はみな注いだな。乾杯の音頭はせっかくだから、新入りに頼もうか。アーセナル?」 「では僭越ながら。今宵はお招きいただきありがたく思う。乾杯!」 ロイヤル・アーセナルの、彼女らしい簡潔なかけ声とともに、五つのグラスがチン、と鳴った。
1 21/10/20(水)17:39:21 No.858344993
迅速のカーンの個室には物が少ない。 かといって殺風景というわけでもない。わずかな生活用品と、長い戦歴をしのばせるいくつかの記念品、そして上等の酒のボトルが少し。それらの品々が無造作に、しかしセンス良く並べられた、大人の隠れ家、とでも言いたくなるような居心地のいい部屋だ。 そしてその部屋はまさに今、大人達の隠れ家として利用されていた。
2 21/10/20(水)17:39:37 No.858345044
「噂に聞くブラックリバー将校会に、ようやく参加できて光栄だ」 「そんな大げさなものじゃない。ただの飲み会さ」 バーボンのグラスをあっという間に空にして二杯目を注ぐカーン。 「たまにこうして親睦を深めておけば、いざという時役に立つものだ。下の者相手では言えないこともあるしな」 ワイングラスを呷り、満足そうに息をつくマリー。 「いつから始まったんだったかしらね、これ」 ウォッカのソーダ割りを優雅に傾けるレオナ。 「後輩ができて嬉しいです。階級は私の方が下ですが……」 ビールを小さいコップできゅーっと空け、口元の泡をぬぐうブラッディパンサー。 「ははは! よろしくご鞭撻を頼む、先輩」 今日が初参加のロイヤル・アーセナルは、生のブランデーがなみなみ注がれたグラスをこともなげに飲み干し、カラカラと笑った。
3 21/10/20(水)17:39:50 No.858345102
「いい飲みっぷりだ。酒は強いのか?」 「さあ、わからん。心ゆくまで呑んだという経験はあまりないのでな」 二杯目のブランデーを、今度はチェイサーのビールと共に品良く傾けながらアーセナルは上機嫌に答える。「部下どもが止めるんだ。エミリーの教育に悪いと言って」 「ライバル登場ですね、カーン隊長」 「できた部下で羨ましいことだ。うちは人が呑んでいたら自分も呑み出す連中しかいない」 「最近、サンドガールが貴女をまねてバーボンを飲み始めたのよ。それこそ教育に悪いから、大酒は控えてほしいわね」 「そこまで面倒をみきれるか」 「レオナの部屋では、定期的にパジャマパーティとやらを開いているそうだな? 最近、うちの兵卒どもがヴァルハラがいい、ヴァルハラがいいと騒いでかなわない」 「私達は姉妹の絆が強いの。羨ましかったら貴女も部下達と仲良くなさい」 「こいつは部下に怖がられる一方なのさ」カーンがニヤニヤ笑いながら、マリーの肩に手を置いた。「だから飲み友達がほしくて、こんな会を始めたんだ」
4 21/10/20(水)17:40:04 No.858345169
「人聞きの悪いことを言うな。お前、もう酔っているな?」 「さっきレオナ殿も言っていたが、いつから始まったのだ、この会は?」 「……」 「夏だな。去年の夏だ」ふいに黙ったブラッディパンサーに気づかず、マリーが眉間に手を当てて記憶をたどった。「アンヘル・リオボロスの墓というか、金庫というか、そういうものを見つけたんだ。保存状態のいい酒が大量にあってな。それでほら、そうだ、あの時パンサーがひどい目にあって、慰めようとみんなで」 「思い出させないで下さい。泣きますよ」 「ほう、何が」 「やめて下さいってば」 ブラッディパンサーが立ち上がりかけたので、身を乗り出したアーセナルも笑って引っ込んだ。 「失敬、失敬。詫びにこいつをどうぞ」 笑いながら、アーセナルは長い包みを取り出す。ずっしりと重いそれを開くと、きつね色に焼き上がったスパイスフルーツケーキが現れた。 「ソワンに酒に合う菓子を頼んだら焼いてくれた。手土産だ」 「ナイフありますか?」パンサーがまだ眉根を寄せながら、それでも嬉しそうに言った。
5 21/10/20(水)17:40:28 No.858345275
「甘いケーキなのにどの酒にも合うのは、流石ソワンだな。しかし、彼女も随分丸くなってくれて助かる」 「丸くなった? 厨房では寄らば斬るという風情に見えるが」 「あんなものじゃない。あいつ、オルカに来るなり司令官に一服盛ったんだ」 「叛逆じゃないか!」 「そうよ。当時は戦いもまだまだ厳しくてね。私達は外征で留守がちだったから、詳しくは知らないのだけれど。コンスタンツァやペロは今でも彼女を警戒していると聞くわ」 「よく解体処分されなかったな」 「……まあ公平に言って、当時は司令官も今より未熟だった。突然『ブラウニーが可哀想だから食堂を拡充する』なんて言い出したのもあの頃だったろう」 「あったな、そんなことが」 「それで思い出したけれど」レオナが、カーンとマリーの二人へ向けてグラスを突き出した。「昔の貴女達二人は、司令官にずいぶん冷淡だったわね?」 「ん、そうかな」 「そうよ。食堂の話、貴女達は頭から馬鹿にして取り合わなかったでしょうが。何か理由があったの?」
6 21/10/20(水)17:41:04 No.858345413
「ああ、うん、そういう話か。理由というか……」 マリーとカーンは目を見交わした。何かあると察したパンサーが、ビールを半分ほどグラスに注いで差し出したのを、カーンが礼を言って受け取り、ぐっと一口で空にする。 「……昔の時代にな、結構いたんだ。一時の感傷や気まぐれで、我々にむやみに優しくしてくれる人間様というのがな。正直、あの頃は司令官も、その手合いだと思っていた」 「長生きすると、そういうことに意固地になってしまっていかんな」 マリーもワインから切り替えたウイスキーを飲み干して、フーッと長い息を吐く。 「……今は二人とも司令官に首ったけなのにね」 レオナがわざと茶化すように言うと、マリーは眉を跳ね上げる。 「よりによってお前にそんなことを言われる筋合いはないぞ」 「封印施設の護衛部隊の件、私はまだ忘れていないわよ」 「あのあとディナーを二回譲ったろうが!」 「理念の話をしているのよ!」
7 21/10/20(水)17:41:23 No.858345504
「まあまあ、お二人とも」 パンサーが慌てて止めに入る。「今日はアーセナルさんの歓迎会なんですから、それくらいに」 「痴話喧嘩なぞできるのは風通しがいい証拠だ。もっとやれ、もっとやれ」 「煽らないで!」 「この会のことだが」 マリーとレオナを止めるのに力を使い果たしたブラッディパンサーがぐったりと寝入ってしまった頃、アーセナルがふと言った。 「陸軍だけを集めているのか?」 「いや、たまたまだ。龍にはいつか声をかけたが、遠慮された」 「彼女は私達全員の上官のようなものだから、気兼ねもするんでしょう。スレイプニルも一度招いたのだけど、あの子はもう……」 「あっという間に潰れて、あっという間に復活して、真っ先に飽きて出ていったな」 「棚をいくつか壊された……もう呼ばん」珍しくむっつりとした顔になってカーンが言う。
8 21/10/20(水)17:41:39 No.858345564
「あとはドゥームブリンガーだが、あそこは……」 「そういえば、滅亡のメイはいまだに司令官に抱かれていないというのは本当なのか?」 アーセナルの言葉に、全員がぴたりと黙り込んだ。 「メイはなー……あいつはなあ……」 「あの人はねえ……」 「決して悪い奴ではないんだがな……」 マリー、レオナ、カーンがそろって額に手を当ててため息をつく。眠りかけていたパンサーまでが、むっくり起き出して頭をかかえた。 「信じられんな。どう見てもベタ惚れじゃないか」 「そうなんですが、あの人はなんというか、極端に恥ずかしがりで」 「ムキになる質だから、爆発すると何をするかわからない。ここへ呼ばないのも、それが理由だ」 「惚れた男の子種をもらうのに、恥ずかしいも何もなかろう。一晩食べてくれとひとこと言えば済む話じゃないか」 「貴女みたいに考えられたら話が早いのだけどね……」
9 21/10/20(水)17:41:58 No.858345634
「この前フェニックスにも相談されたよ。本人もだが、律儀に順番待ちをしている部下達が気の毒でな」 「出し抜いたりしないだけ、いい部下を持ったわね」 「お前、部下の仕込みで寝室に放り込まれたことがあるそうじゃないか。同じようにやったらどうだ?」 「もう言った。ナイトエンジェルが言うには、そんなことをしたら逆上して司令官をぶん殴って逃げ出しかねないと」 「核の鍵を預かる者が、そんな厄介な性格では困るだろうが」 「一言もない」 「まあ、すぐに答えが出る問題でもない。メイのことは次回の課題にしておこう」 マリーがグラスに残った氷を噛み砕いて、大きく伸びをした。 「明日はうちの小隊が探索担当だ。そろそろ休むよ」 「メイだけど、一度思い切ってここに呼ぶ? このメンバーなら、暴れて逃げ出しもしないでしょう」 「やってみるか……」 「六人だと、さすがにちょっと手狭になりますね。別の部屋を取りますか?」
10 21/10/20(水)17:42:18 No.858345713
言いながら、皆てんでにグラスと酒瓶を片付け、帰り支度を始める。ケーキを包んでいたクロスをたたんで懐にしまったアーセナルが、ふと笑みをこぼした。 「一人の男の寵を巡って争うというのは、厳しくも愉快なものだな」 「なんだ、唐突に」 「少なくとも私の同型機は、かつて抱かれたくてたまらない主人などというものを持った記憶はない。そういうたった一人の男のもとに、我々全軍がつどって戦うというのは、考えただけで心が奮い立つと思わないか」 「まあ、同意しないでもないけど」 「三安のメイド達はよくそういう争いをしたというが、こんな気分だったのかな。礼を言うついでに、ソワンに聞いてみるか」 「いや、あの人たちはまた、ものが違うのでは……」
11 21/10/20(水)17:42:30 No.858345764
四人が口々におやすみを言って出て行き、誰もいなくなった室内を、カーンは見回す。 酒臭さと、人いきれのなごり。潜水艦の悲しさで、換気はどうしても悪い。においがすっかり抜けきるには丸一日かかるだろう。 だが、カーンはこのにおいが嫌いではない。砂漠をひとり駆けている時には決して嗅ぐことのない、人と宴のにおいが。 髪留めを外し、さっきまでアーセナルとマリーが座っていたベッドにごろんと横になって、部屋の明かりを消す。 静かな寝息が聞こえ始めたころ、ドアの外の廊下を、夜直のブラウニーの足音がコツコツと通り過ぎていった。 End
12 21/10/20(水)17:45:57 No.858346611
まとめ fu449188.txt
13 21/10/20(水)17:46:29 No.858346739
いいね… ふいんきがいいよ…
14 21/10/20(水)17:53:17 No.858348516
mayちゃん絶対よくない酔い方するタイプ
15 21/10/20(水)17:53:40 No.858348636
部下だけでなく同僚にも心配されてるmayちゃん
16 21/10/20(水)17:53:57 No.858348721
プニルは確かに酒のイメージ無いな
17 21/10/20(水)17:54:01 No.858348737
もうメイちゃんは酔い潰して司令官の部屋に放り込みゃ良いんじゃない? 一回やったと思えばシラフでもムード作れば行けるでしょう
18 21/10/20(水)17:57:10 No.858349569
司令官は紳士だから酔いつぶれてたら開放して仕事してそう…
19 21/10/20(水)17:58:11 No.858349863
>もうメイちゃんは酔い潰して司令官の部屋に放り込みゃ良いんじゃない? >一回やったと思えばシラフでもムード作れば行けるでしょう ヘタレのくせに恋愛脳だから 初めてはロマンチックじゃないとやだとか絶対思ってるし…
20 21/10/20(水)18:02:09 No.858350939
指揮官クラスでこういう横のつながりあるのいいよね…
21 21/10/20(水)18:02:56 No.858351133
ちょっとだけ箍をはずす大人の飲み会いいよね… とりとめのない馬鹿話しててほしい
22 21/10/20(水)18:07:12 No.858352215
未熟な司令官への対応をからかわれるマリーとカーンいいよね… 二人とも滅亡前から生き残ってるわけだし色々人類との付き合いはあったんだろうな
23 21/10/20(水)18:25:39 No.858357111
>未熟な司令官への対応をからかわれるマリーとカーンいいよね… ありがとう… 晩餐イベやり直してこの頃やたら塩対応だったのはこんな理由があったのかな…とか妄想してみた いやラストおぺにすに惚れたのかもしれないけど
24 21/10/20(水)18:36:28 No.858360075
まああれは実際司令官も未熟だったからな…
25 21/10/20(水)18:37:10 No.858360273
仕事終わりにこのスレ見つけると嬉しくなる
26 21/10/20(水)18:38:36 No.858360661
mayちゃん呼ぶと絶対雰囲気が崩れると思う!
27 21/10/20(水)18:41:56 No.858361607
偉い子同士で気兼ねなく話せるのは貴重だろうな
28 21/10/20(水)18:45:49 No.858362702
>まああれは実際司令官も未熟だったからな… バニラの金蘭さんへのマウント良いよね… 私は司令官が未熟だった頃から知ってますがあなたは?的な
29 21/10/20(水)18:46:39 No.858362930
かー!毒かー!
30 21/10/20(水)18:47:42 No.858363243
>mayちゃん呼ぶと絶対雰囲気が崩れると思う! 遺産でちょっと飲んだらすぐ泣き上戸してたから周りが宥める感じになりそう