21/10/19(火)01:49:55 11月中... のスレッド詳細
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21/10/19(火)01:49:55 No.857880277
11月中旬。東京都府中市、トレセン学園。 ウマ娘達が栄誉あるトゥインクルシリーズを目指して走る伝統あるこの学園にも、冬の訪れを感じさせるような冷たい空気が流れ始めている。 空に浮かんだ雲は高く、その広さを誇るかのように青く。街路樹も黄色に色づき始めたこの季節、ウマ娘達はジャパンカップや有マ記念といった大舞台を見据える者、ステイヤーズステークスや中日新聞杯、もしくは阪神カップを臨む者。もしくは東京大賞典や名古屋グランプリ、果ては条件戦かオープン戦か。それぞれがそれぞれに、自分の目標を見据えて最後の追い切りに励んでいる、そんな時期である。彼女たちの間に流れる空気は、冬の到来を感じさせるように張り詰め、はたまたたき火より熱い闘志をみなぎらせ。自分だけの勝負の舞台に彼女たちは邁進していく最中であった。
1 21/10/19(火)01:50:28 No.857880368
「ホープフルステークスに出てみないか?」 あるトレーナー室の一室にて。ある一人のトレーナーが目の前のウマ娘にそう問いかけた。 椅子に座って向かいあう、彼女の顔を真っ直ぐに見据えて。 彼の瞳に映るのは、濃い鹿毛の髪の毛をし、ツインテールにしたウマ娘の顔。大きな藍色の瞳に少し濃いめの化粧をした彼女はにっこり微笑んで、 「やだ」 と彼に言い放った。 「頼むよぉ!ジョーダァン!!!」 「うっさい!!!やだって!!!」 すがりつくようにトレーナーが懇願すると、眉を怒らせ彼女、トーセンジョーダンは叫び返した。 「お願いだよぉ・・・!出てくれよぉ!G1レース!!!」 眼鏡越しに哀願するような瞳でトレーナーはそう言うが 「やなもんはイヤ!」 トーセンジョーダンは首を横に振るばかり。 彼女、トーセンジョーダンはメイクデビューこそ1着を取れなかったものの、その後の未勝利戦で1着。先日はプレオープンにも出て1着をとり、ここまで3戦2勝である。ホープフルステークスに出走する予知は十分にあるのだが、本人にはその気が全くないようだ。 そんな彼女の態度を見て、トレーナーは項垂れて深いため息をついた。
2 21/10/19(火)01:51:00 No.857880479
「いいじゃん、ここまでちゃんと勝ってるんだから」 それにいらつくようにトーセンジョーダンは彼に話しかける。 「でもなぁ・・・。ここで勝っとけばさぁ、クラシックも大分楽になるんだけどなぁ・・・」 すねる声でそう言うトレーナー。その言葉に偽りはなかった。G1のホープフルステークスで好成績を収めれば、来たるべきクラシック級の大レースへの参戦に対して、出走権を得るのが容易になる。ウマ娘にとって王道と言える選択肢。しかし、彼の本心は別の所にあった。 実は、このトレーナー、今まで一度も教え子をG1レースで勝たせたことがないのだ。 だから今回の提案は、半分彼の恣意的なものでもあった。嘗ては期待の新人と言われたトレーナーであるが、現実はそううまくはいかず、思ったように成績を残せていない。誰からも言われたことはないにしろ、遠巻きに彼は感じていた。「ヘボトレーナー」と言われるそんな自分自身の事を。 その熱意とも執念とも、わがままとも取れる感情が溢れてくるのだろう。トーセンジョーダンは彼にそう言われる度に、そのG1レースに出る気がなくなっていく。それどころか、絶対に出てやるもんか、という意思が強くなっているようである。
3 21/10/19(火)01:51:28 No.857880566
「出ようよぉ~、なぁ~出ようよぉ~~~。ホープフルステークスぅ~」 「うっわ、きっも!にじり寄ってくんなぁ!!!」 椅子から立ち上がり、当惑と嫌悪の表情を浮かべ、トーセンジョーダンは彼から離れる。 「あ!待って!」 と彼も立ち上がるが 「おい」 途端、トーセンジョーダンが声を低くした。 「お前、これ以上近づいたら蹴り飛ばすから」 ドスの低い声と、怒りに燃えた瞳の色に、彼の顔が真っ青に染まる。 (あ・・・これ本気だ・・・) そう思った彼は、引きつった笑いを浮かべて、2,3歩後ずさりした。ウマ娘に蹴られたらタダでは済まない。骨折覚悟の上で彼女の懐に飛び込む程、彼の覚悟は決まっては居なかった。 すっかりしょぼくれた様子で彼は椅子に座り直すと、こうべを垂れて膝に手を置く。
4 21/10/19(火)01:51:53 No.857880667
(うっわ・・・マジでへこんでるよ・・・) それを軽蔑するかのようにトーセンジョーダンは眺めていた。 決して悪い奴ではない、と彼女も彼の事を評価してはいる。指導も理にかなっており、かつ熱心だ。それはスカウトされた時から半年経ち、彼女自身実感していることである。 しかし、彼にはどこか焦り気味というか、空回りしがちな所があり、かつ内向的で妙にこだわる所がある。 彼女の言葉を借りるとすると (マジでなんなのこの陰キャ・・・) という事だった。 どこか諦めたようにトーセンジョーダンも椅子に座り直すと、机に頬杖をついて 「エリカ賞」 と一言。 「あたし、エリカ賞なら出てもいい」 と、彼に視線を合わせずそう言った。 エリカ賞。12月上旬、阪神レース場、芝2000m。中山レース場とは異なるが、同距離を走る、ジュニア級のプレオープン戦である。
5 21/10/19(火)01:52:09 No.857880733
「エリカ賞・・・か・・・」 トレーナーはその言葉を聞いて、天井に視線を移した。 「エリカ賞・・・。たかだかジュニア級のプレオープン戦だけど、このレースを1位通過したウマ娘達は日本ダービーをはじめとするG1レースに縁があることで知られており『出世レース』とも言われている・・・。阪神のホームストレッチにはゴール板手前200mに高低差2mの坂があり、2000mを走る場合、最初と最後にこれを2回通過しなければならないから、単純な速さだけでなくパワーも求められ総合的な力が試される・・・!」 そうぶつぶつと早口で言った直後、 「・・・うん!」 と言い彼はトーセンジョーダンに向き直った。 びくっと眉間に皺を寄せて彼の顔を見るトーセンジョーダン。 「よし!出よう!エリカ賞」 途端満面の笑みになった彼の顔を見て 「お、おう」 引きつった笑いを浮かべて彼女は返事をした。 独り言はキモいからやめてよね、と脳裏にて毒づきながら。
6 21/10/19(火)01:52:32 No.857880819
12月上旬。阪神レース場。 第9レース、プレオープン、エリカ賞。 天候は晴。バ場は良。 エリカ賞、最終局面。 『さぁ、第四コーナーを抜けて!14人のウマ娘達が躍り出ます!この出世レースで栄冠をつかむのは誰なのか!?』 興奮する実況の声が阪神レース場に響き渡る。 バ群は一段となり、各々が最後の直線を意識したライン取りを意識する中で、トーセンジョーダンは、先団3番手・外側に位置していた。 『先頭に躍り出たのはグリーンティ!』 逃げウマの彼女が内側から脚色を輝かせる中で 『おおっと、トーセンジョーダンも伸びてきた!』 トーセンジョーダンも抜け出し始める。 残りの直線は350m。必死に前を向いて最後の加速をしていく彼女の脚色。 『トーセンジョーダン!先頭!!!先頭に躍り出た!!!』 あっという間にハナを切り、風のごとく駆け進む。
7 21/10/19(火)01:53:45 No.857881044
(よゆーっしょ!!!) まだまだ体力には自信がある。このまま先頭を維持してゴール板を駆け抜けてやる。そう想いを強くし前を向く。吹きすさぶは身を切るような阪神の冷たい風。 そして残り200m。 『トーセンジョーダン先頭!差は2バ身から3バ身!!!』 十分な差を付けている彼女の前に立ち塞がるのは、高低差2mの急坂である。 (うわきっつ・・・!!!) 途端、彼女は歯を食いしばり始めた。最後の最後で2mの急坂。体力を振り絞るように坂を駆け上がっていく彼女。 『後ろはどうだ!?後ろも必死だ!!!二番手にウッドドライバー!!!三番手はブルーシザーズ!!!』 後ろから伸びてくるウマ娘のプレッシャー。それを背に感じながらトーセンジョーダンは坂を駆け進み、そして 『トーセンジョーダン!!!一着でゴールイン!!!』 見事、トーセンジョーダンはエリカ賞を一着で終えた。二番手との差は1と1/2バ身差だった。
8 21/10/19(火)01:54:10 No.857881126
「あー・・・しんど・・・・・・」 レースを終えたトーセンジョーダンは第一コーナーまで走り抜け、ふと自分の走ってきたコースを振り返る。 そして掲示板に上った自分の一等星の輝きを確認し 「あはっ・・・!」 少しだけ嬉しそうに微笑んだ。 なんだかんだで一着って嬉しいな、と心の中のときめきをそのままに、観客席に向かって手を振り、クールダウンを済ませていく。 汗ばんだ身体に、火照った熱を冷ますような、冬の空気が心地よく感じられる、12月の午後だった。
9 21/10/19(火)01:54:37 No.857881231
「おめでとう、ジョーダン」 控え室に帰ってきたトーセンジョーダンを出迎えたのは、自信に満ちあふれたようなトレーナーの顔だった。 仁王立ちして腕を組み、その瞳には強い光が宿っている。 「・・・ハイ、どーも」 その顔を見て、苦笑いを浮かべるトーセンジョーダン。 「お前ほどの実力があればこの位のレースなんてたいしたことないな!」 「あ、そっスか・・・」 その自信はどこから来てるんだ、と彼女はいらだちを抱えながらそう思った。 レースに出る前は、大丈夫か大丈夫かとおろおろしていたトレーナーであるが、優勝したかと思えばこの手のひらの返しよう。ある種の潔さを感じる程に清々しいものに彼女は感じた。 「今日はお祝いだ!何でもおごるぞ!」 「お、マジ!?」 流石にその言葉にはトーセンジョーダンも眼を輝かせた。 折角、兵庫まで来たんだ。夜は美味しいものでも食べたいと思っていた矢先にこの言葉。素直に彼女にとっても嬉しい事だった。
10 21/10/19(火)01:55:22 No.857881384
「あぁ!それとな!!!」 「何だよ」 「次のレースも登録するからな!!!」 その言葉にトーセンジョーダンの顔が固まった。 「・・・・・・はァ?」 まだ今日のレースが終わったばかりだろ、と脳内で突っ込みを入れる彼女を余所に 「次は2月!共同通信杯だ!!!皐月賞めざしで頑張ろうな!!!」 無邪気にトレーナーはそう言い放つ。 子どものような笑顔を見せて笑う彼を見て、全身に疲れを感じつつも (仕方ねーなぁ・・・・・・) と、脳内で愚痴を言いながらも、まんざらでもない笑みを浮かべたトーセンジョーダンだった。 こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する
11 21/10/19(火)01:56:40 No.857881609
今度はジョーダンで書くのか
12 21/10/19(火)02:03:48 No.857882919
とてもいいすごくいい
13 21/10/19(火)02:05:34 No.857883238
ということは最終的にジョーダンとへぼトレーナーがうまぴょいするのか…
14 21/10/19(火)02:06:46 No.857883407
途中でヘボトレーナーが何か大チョンボやらかしそう
15 21/10/19(火)02:20:43 No.857885830
>今度はジョーダンで書くのか もしかして前回あんの?
16 21/10/19(火)02:41:01 No.857888575
>もしかして前回あんの? これの前にアイネスフウジンとカフェとマーベラスサンデーを書いてた
17 21/10/19(火)05:33:06 No.857898572
>>今度はジョーダンで書くのか >もしかして前回あんの? これは毎回距離適正が合ってないと言って長編書く「」だと思う アプリにないレーススケジュールとかネームドウマ娘を原作から引っ張ってくるタイプかと