虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

21/10/13(水)21:24:54 そこは... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

21/10/13(水)21:24:54 No.856036003

そこは色とりどりの綺麗な花畑が見える小さな療養所だった。 その花畑が一望できるテラスには一人の年老いた男が椅子に揺られていて、何処か心がどこかに飛んでいってしまったような面持ちで花畑を眺めている。 男は認知症だった。最早過去さえも何処かに置き忘れていて、ふとすれば昨日のことさえ思い出せず、その抜けてしまった記憶を埋めるようにただ感傷もなく花畑を見つめるのだ。 「お待たせしました」 男がそうしていると、隣で老婆が椅子を盛ってきて座った。綺麗にしわが刻まれた、耳の大きいウマ娘だった。手には本を持っていて、それを見た男は笑顔を見せながら背もたれから体を離した。 「待っていたよ。今度は前の話を忘れてないから最初からにならずに済む。確か……小さな女の子が頑張って大きいレースを開催させたんだったな。えっと、何と言ったかな……」 「宝塚記念ですよ」 老婆はニコリと笑って本を開いた。タイトルを見ると、ライスシャワーという名バの物語らしい。男は時折くる本を読み聞かせてくれる女性職員が好きだった。それにこの女性が聞かせてくれる頑張り屋のウマ娘の話も好きだった。

1 21/10/13(水)21:25:13 No.856036136

「その少女はみんなを幸せしようとして、宝塚記念を走りました。しかし、その時少女はそのレースで転んでしまったのです」 「あぁ、なんてことだ。今まで頑張ってきたのに……この話って最後は辛く終わるのかい?」 「うふふ、どうでしょう? 少女大怪我をしてしまいました。もしかしたらもう一生走れないと聞かされて、今度こそ自分は誰も幸せに出来ないと病室で誰にも会わず、閉じこもってしまったのです」 男は大きくため息をついた。老婆の優しい語りでも、心が痛むようでまた背もたれに身を任せて、続きを聞いた。 「でも次の日から病室には手紙が届きました。その子のトレーナーさんからです。励ましと、諦めないでという言葉が書かれていて、信じるとも書かれていました。それは退院しても毎日送られてきました」 「それでも少女は出てこなかった?」 「はい、でもある日手紙は二通に増えました。彼女の友達からも一通届いたのです、次の日は三通に、その次の日には六通と、友達からの手紙も増え、さらにファンの人たちからの手紙も増え、部屋が満杯になるほどに手紙が送られてくるようになりました」 老婆はくすりと笑いながら続けた。

2 21/10/13(水)21:26:24 No.856036697

「女の子はその手紙を全部読み終えると……自分が変わったように感じました。自分がやってきたことは無駄じゃなったと分かったのです、部屋を出るとトレーナーさんが待っていて、手を伸ばしてくれていました」 「ライスシャワーというウマ娘はまた頑張ろうと思えたわけだ!」 「ええ、これからこの子のもうひと踏ん張りが始まるんです」 自分の事のように喜ぶ老人に、老婆は微笑むとまた続きを読み始めた。辛いリハビリや友人の協力、特訓やアリマ記念への道のりとライバルたち。どれも老人にとっては話を聞くだけでその場を想像できるような興奮と感動が伝わってきて、夢中になればいつの間にやら真上に昇っていた太陽は地平線の向こうへと沈みかけていた。 老婆は最後のページを読み聞かせていた。老人は手を組んで、沈みゆく太陽をじっと見つめていた。 「そうして少女は見事、アリマ記念で優勝しました。少女は多くの歓声を浴びながらトレーナーへと駆け寄り、抱き着き、『幸せの青いバラになれたかな』と聞きました。トレーナーさんは」 「なれたとも、俺にとっては君は出会った時から青いバラだった……」

3 21/10/13(水)21:27:04 No.856036977

老人が太陽を見ながら呟くと、老婆は驚いたように相手を見た。老人は涙によって輝きを取り戻した目で老婆を見つめた。 「これは、俺たちの話。だろう? 俺、俺……どれだけ君を一人ぼっちにしてしまっていた?」 「大丈夫、お兄さま、大丈夫。ちょっぴり遠いところに行ってしまっただけだから、寂しくなんかなかったよ」 「あと、どれくらいなんだ? どれくらいもつ?」 「分からない、前は五分くらい……」 トレーナーだった男はライスシャワーを抱きしめながら、震えた。涙が伝って女の子の頬を濡らした。 「いやだライス……いやだよライス、また君を一人ぼっちにするなんて……どれくらい、どれくらい君は……」 「大丈夫、ライスは寂しくなんかないから、大丈夫……」 ライスシャワーはそっと男の髪を撫でると、優しく抱きしめて背中をさすった。そのまま日が落ちるまで、二人はそうしていた。

4 21/10/13(水)21:27:14 No.856037055

やがて、看護師が夕食の時間だと呼びに来ると、老人はぱっと離れて老女に赤い顔を向けた。 「あ、いや……いつの間にやら貴方になんてことを……年甲斐もなく、どうか許してください」 「うふふ、大丈夫ですよ。さぁ、夕ご飯にしましょう」 老人と老婆が家の中に入ると、やがて空は月が出て、花畑を照らした。青いバラがその光に包まれるように揺れていた。

5 <a href="mailto:s">21/10/13(水)21:29:04</a> [s] No.856037798

ライスはこういうのも似合うんじゃないかと魔が差しました

6 21/10/13(水)21:29:33 No.856038011

運命のせいか子供は…

7 21/10/13(水)21:30:21 No.856038347

いい…

8 21/10/13(水)21:30:28 No.856038401

少しだけお兄様と会えるのいいね…

9 21/10/13(水)21:31:53 No.856039060

おつらい…けどいい…

10 21/10/13(水)21:33:44 No.856039968

あれか君に読む物語か…ライスはお兄さまに会うために同じことをずっと繰り返してたんだろうな…

11 21/10/13(水)21:38:04 No.856042029

つらい…似合うのも分かる…でもつらい…

12 21/10/13(水)21:43:25 No.856044737

美しい…

13 21/10/13(水)22:00:23 No.856052671

一瞬だけ2人のビジュアルが当時に戻って見えるやつだ

14 <a href="mailto:s">21/10/13(水)22:01:13</a> [s] No.856053123

それからまた時が流れた頃だった。ライスシャワーが療養所にやってくると、看護師が慌てて彼女の物へとやってきた。 「大変なんです! つい先ほどテラスに行くと何処にもいなくて、確かに椅子に座っていたはずなのに!」 それを聞いてライスは駆けだした。ついに自分さえも分からなくなってどこかに彷徨い出てしまったかと思った。 テラスに駆けつけるとトレーナーだった自分の夫は影も形もない。 「あなた……どこなの…お兄さま!」 さけべど返事は帰ってこない。必死になって周りを見渡すと、ふと花畑の遠くで何かが動くのが見えた。 「お兄さま……!」 老体に鞭打ちながらライスシャワーは花畑の中を駆け出す。彼女の動きに合わせて花が揺れ動き蝶が舞った。

15 <a href="mailto:s">21/10/13(水)22:06:08</a> [s] No.856055617

「お兄さま!」 ライスが駆けつけると、確かにトレーナーはそこにいた。 ただぼうと立って目の前の青いバラを見つめている。 「はぁ……はぁ……よかった……」 無事だった。そのことに胸をなでおろして息を整えると、老女となって静かに隣に立った。 「皆さん心配していますよ、帰りましょう。御本を差し上げないと」 「ふと、思い出したんだ。青いバラ……話を聞いた気がするんだよ」 老人は青いバラを1つ摘み取ると、じっとその目で覗き込んだ。

16 <a href="mailto:s">21/10/13(水)22:14:15</a> [s] No.856059657

「昔に教えてもらったんだ。『小さな青いバラ』……そう、そんなタイトルだった。その女の子は、その絵本が好きだった……」 「えっ……?」 老人の眼が太陽を浴びて輝きを取り戻したように見えた。 そうするとその薔薇の花びらをそっとライスシャワーの髪へと持っていくとその目を細めた。そっと端から涙が零れ墜ちた。 「ライスシャワー……」 トレーナーだった男はそう言った。それだけで、その瞬間、ライスは自分の背が縮んだようだった。 二人とも若返って、若々しいあの頃が戻ってきたような気がした。あの頃のままの笑顔を二人は向き合った。 「お兄さま」 ライスが呟くと、そっとトレーナーの手を握った。 向こうで、看護師たちが走ってきている。また微笑み合うと踊るように風に舞う花に押されるように二人は歩きだした。 テラスに置かれた本が風で開いて「めでたしめでたし」という文字に青いバラの花びらがそっと乗った。

17 21/10/13(水)22:14:15 No.856059659

切ない…でも良い…

18 <a href="mailto:s">21/10/13(水)22:15:32</a> [s] No.856060285

自分はこっそりと雑でもハッピーエンドを入れなくてはならない弱い人間……

19 21/10/13(水)22:15:52 No.856060436

分かるよ…

20 21/10/13(水)22:16:41 No.856060834

いいんだよ…

21 21/10/13(水)22:17:05 No.856061020

ディ・モールトベネ…

22 21/10/13(水)22:17:25 No.856061185

いつでも雑でもハッピーエンド 物語なんかそれでいいんだよ…

23 21/10/13(水)22:17:59 No.856061474

ライスは年を取るほどに綺麗になりそうだな

24 21/10/13(水)22:18:40 No.856061791

雑でも許すよ許せるよ…

25 21/10/13(水)22:18:47 No.856061843

ハッピーエンド厨め…ありがとう…

26 21/10/13(水)22:19:01 No.856061943

一瞬2人で一緒に旅立ったのかと思っちゃったよ ハッピーエンドありがたい…

27 21/10/13(水)22:21:34 No.856063089

ライスの青いバラが花言葉通り奇跡を起こした…いい…

28 21/10/13(水)22:23:24 No.856063909

最後に愛が勝つ...ハッピーエンドなんてそれで良いんだ...

↑Top