21/10/11(月)02:35:59 泥の深夜 のスレッド詳細
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21/10/11(月)02:35:59 No.855139487
泥の深夜
1 21/10/11(月)02:36:59 No.855139622
「脚がっ!俺の脚がぁっ!」 「押さえてください!止血しますから…!」 怒号が飛び交う。駐屯地は急に嵐が訪れたかのような騒がしさだ。 風が強くなる前に飛びそうなものを家の中へ運べ。家が砕かれぬよう補修しろ。そういう切羽詰まった慌ただしさに満ちている。 耳に飛び込んでくる悲鳴を受け流し、パーシヴァルは体を引きずるような思いで天幕が張られた仮の家々を横切っていく。 出くわす騎士たちは皆パーシヴァルの姿を見てぎょっとし、身なりが分かるなり厳かに敬礼していった。 呼吸が荒い。馬を飛ばして帰ってきたばかりなのだ。敵の血も味方の血も鎧にこびり付いていた。 無我夢中だったと───そうとしか言えない。敵は押し寄せた。迎え撃った。味方を守るために槍を振るえば双方の血に塗れた。 疲れ切った気持ちで中央にある天幕を潜る。…途端、視線が一斉に集まった。 彼らはまるで血に汚れていない姿だったけれど、とてもではないがそれを糾弾する気にはなれなかった。 皆、今のパーシヴァルと同じ目をしていたから。つまりは同じ目に違うタイミングで経験した同士だった。 「ああ…お帰りなさい、パーシヴァル卿。ひとまずお寛ぎください」
2 21/10/11(月)02:37:12 No.855139660
最初に声をかけてくれたのはトリスタンだった。 ギリギリ普段の伊達男ぶりを保てていたのはその表情に柔らかな微笑みを残していたからだろう。 「ああ。軍議の前に汚れを落としてくるといい。その姿では騎士らに示しがつくまい」 指を組み、少し俯いた姿勢でいたランスロットがそう言う。 彼の言う通りだった。自分でもどうかというくらい蛮族の血に汚れている。これでは味方をも威圧しかねない。 「はい…あの、ガウェイン卿は」 「別方面で戦を仕掛けているそうです。しかしあちらも血みどろの戦いだそうですが」 トリスタンが言った言葉にランスロットが渋々といった調子で頷いた。 それほどまでに厳しい戦いなのだ、円卓の三強がそれぞれ出向いて難色を示すほどに。 微かに眉を寄せたパーシヴァルの様子に気づいたのか、トリスタンが微かに微笑む。ランスロットは表情を動かさなかった。 彼はこと戦になると金剛石のように不動の心を抱く騎士だった。 「大丈夫です。ガウェイン卿の軍勢の突撃あらば事態も好転しましょう。今は体を休めると良い、パーシヴァル卿」 「…はい」 一礼し、天幕を去る。耳には傷を負った騎士たちの悲鳴がいつまでも響いていた。
3 21/10/11(月)02:43:20 No.855140566
血に濡れた聖騎士は、良い
4 21/10/11(月)02:46:56 No.855141060
みんなレイプ目をしろ…
5 21/10/11(月)02:54:57 No.855142163
ぱっしーの目が曇るとシコれる
6 21/10/11(月)02:59:58 No.855142749
昔は傷口を熱した油で灼いてたらしいからな そりゃ随分痛いだろう
7 21/10/11(月)03:14:46 No.855144422
「俺は」 膝の上の小さな体躯を思わず抱きしめた。ぎゅっと。 手を離せば微かな振動で壊れてしまうような割れ物を扱うように、そっと、優しく。 「嫌だ。ニコが死んじゃうなんて。俺は嫌だ」 ニコの体はとても小さい。俺でさえ腕を回してしまえばすっぽりと包んでしまえるほどだ。 それでも俺は膝の上に乗るニコを抱きしめるのを止められなかった。 ここで離してしまえば、飛び立ったニコは永遠に俺の元へ帰ってくることはないという直感に晒されたから。 抱き寄せた体や髪からは甘い香りがする。ニコがニコである証。 抱きしめる俺の腕を撫でるニコの手触りには最初困惑があったけれど、不意にそれが違うものに変わった。甘えん坊な弟を叱り、それでいてひとつの決意をした声音。 「テンカ。いい加減にしなさい」 びくりと、俺の腕の力が緩む。 「馬鹿にしないで。魔術師なら挑んだ戦は全てを総取り。当然のことでしょう?だから…」 緩んだ俺の腕へ頬ずりするように、ニコは言った。 「あなたもそのつもりで挑みなさい、テンカ。私が許すわ」 表情は見えなかった。けれど間違いなく微笑んでくれていると信じられた。俺にとってニコはそういう人だったから。
8 21/10/11(月)03:17:53 No.855144765
気高い…
9 21/10/11(月)03:19:18 No.855144934
ニコルートはよ
10 21/10/11(月)03:23:41 No.855145399
どうしようてんかくんの当たり前な感じがやっぱり好き
11 21/10/11(月)03:29:35 No.855145999
典ニコが急にキテル
12 <a href="mailto:1/3">21/10/11(月)04:09:13</a> [1/3] No.855149687
今更ながらにパーシヴァルはイテールの鎧が何故赤いのか漸く理解した。 赤が高貴で優雅だからでも、戦場で目立つからでもない、返り血が目立たないからだ。 宛がわれた天幕の中でパーシヴァルは鎧を外し自身の鎧を脱ぎ、それを眺める。 「……サーコートがボロボロですね」 そうだろうとは思っていたが、こうなっては仕方ない。 もはやボロ切れと化したサーコートで鎧の汚れを拭って体裁を整える。 もう一度出なければならないだろうと、半ば確信じみた感覚があった。 何年か前まで獣の血にまみれていたが、人の血とは。嫌悪感を胸の奥底にしまい、首を振る。……いや、騎士としての教えを師グルネマンツに受けた時点で分かっていた事だ。 「おお、パーシヴァル卿!ご無事であったか!」 天幕を出ると、知り合いがいた。 トリスタンに並んでも遜色ない巨駆とどこにいても分かる大きな声。ガレスの部下である赤の騎士、アイアンサイドだ。 「アイアンサイド卿! 卿が戻ってきたという事は…」 アイアンサイドはガレス、つまりガウェイン率いる軍勢の一角だ。ガウェイン達が首級を取ったのかとパーシヴァルは声をあげる。
13 <a href="mailto:2/3">21/10/11(月)04:12:35</a> [2/3] No.855149938
「いや、我輩は負傷者の護衛で一旦下がっただけである。……すぐにガレス卿に合流しなければ」 アイアンサイドは静かに首を振ると真剣な眼差しで言った。 「はい、私も軍議が終わり次第後を追います」 口から息を吐き出し、槍を強く握るパーシヴァル。 そのパーシヴァルの様子を目にしたアイアンサイドはふっ、と表情を柔らかくして口を開く。 「いや、こんな真剣な空気は我輩らしくないであるな。我輩は何しろ三枚目なのでこう言うのは苦手である」 大袈裟な身ぶりで肩を竦めるアイアンサイド。 「……アイアンサイド卿にも苦手なものがあったのですね」 アイアンサイドの態度の豹変にきょとんとしていたが、やがて目を丸くするパーシヴァル。 「うむ、実は何を隠そう一番苦手なのはトリスタン卿である。男前で我輩より赤が似合う時があるのでな」 「ぷっ……そうですね、トリスタン卿は洒落ていますから」 アイアンサイドの冗談にパーシヴァルの頬が緩む。 自分の中で張り詰めていたものが緩んだと感じていた。
14 <a href="mailto:3/3">21/10/11(月)04:12:57</a> [3/3] No.855149970
「ありがとうございます、アイアンサイド卿。気を張り過ぎていたようです」 パーシヴァルは表情を整え、アイアンサイドに頭を下げる。 「リラックスしろ、とは言わんが気を張り過ぎていてもレッドアラートであるからな」 アイアンサイドはパーシヴァルに大きく頷く事で答えた。 「では我輩はガレス卿の元へと戻るのである!」 馬へと跨がるアイアンサイド。 「軍議にトリスタン卿がいたなら赤い服はキャラが被るから止めるように言っておいて欲しいである」 「はい、その余裕があったなら伝えておきます」 アイアンサイドとパーシヴァルはお互いに口元を歪める。 アイアンサイドが去った後、パーシヴァルは改めて表情を引き締め直す。 臆した訳ではない、怯えた訳ではない。 だが、気負いすぎていた。 今も端々から聞こえる悲鳴が耳を撫でる。 全ての兵や騎士を救える訳ではない。それでもあの悲鳴を少しでも減らすために戦うのが私の役目だ。 槍を握り直したパーシヴァルは中央の天幕へと足を向けるのだった。
15 21/10/11(月)06:54:36 No.855158763
泥は次の機会に投げるか