虹裏img歴史資料館

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

21/10/03(日)21:57:27 今一番... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

画像ファイル名:1633265847578.png 21/10/03(日)21:57:27 No.852552660

今一番勝利を伝えたい相手は? との質問にディープボンド選手は 「育ててくれたトレーナーとチームメイト、同室の子と……あ、たくさん居るプボ~」 快活な笑顔で答えてくれた。また凱旋門賞への意気込みも―――― 「……ふむ」 手元の記事を最後まで読み終えて、思わず鼻息が漏れた。 本番前だというにも関わらず、随分な持ち上げようだと思う。 だけど同時に、それだけの走りをフォワ賞で見せたのも事実だ。 おかげでチーム内だけでなく、学園内でも快挙の話題で持ちきりになっている。 後発のクロノ君が変なプレッシャーを感じていなければ良いけど。 まぁ日本にいるボクが心配するのは余計なお世話だろう。

1 21/10/03(日)21:59:10 No.852553531

『オペラオー先輩? もしも~し? 聞いてるプボ~?』 「勿論聞いているとも!」 電話口の先から響く間延びした声は話題の主にしてボクの後輩。 うーん本当にレース以外ではズブいというかマイペースだ。 軽く咳ばらいを挟み、口を開く。 「それで何だったかな?」 『もー出立前に先輩が言ってたことですよー』 「確か『無事ヴェーヌスベルクより帰還し給え!』だったかな?」 海外遠征では体調を崩し、まともにレースを走れない者も多い。 激励と祈願のつもりでポンド君に送った餞別の挨拶。 もっとも現地でフランス料理をモリモリ食べているらしく杞憂に終わったが。

2 21/10/03(日)22:00:04 No.852554023

のんびり屋でタフな後輩の食事姿を幻視し、苦笑が漏れる。 と、電話口から『違いますよー』と忍び笑いが耳に届いた。 『忘れたんですか? 先輩はこう言ったんですプボ』 ――――ボクはトレーナーとグランドスラムを達成したけど君は? って 「――――」 『勝ちましたよ先輩。トレーナーさんに教わった走りで、海外重賞を』 電話からの声に鋭さはない、だが普段の間延びした空気も消し飛んでいた。 レースの際に見せる勝負師としての重圧。 通話口の先にいるであろうポンド君からヒシヒシと伝わる。 ズブいとは言われるが、決してロシナンテなわけじゃない。

3 21/10/03(日)22:01:31 No.852554817

むしろ春の天皇賞で見せた喰らいつく粘り強さが本質だろう。 そうチームのリーダーにして世紀末覇王たるボクに挑みかかる位には。 後輩の宣戦布告に笑みを湛えつつ言葉を紡ぐ。 「その言葉は日本に帰って来てから直接聞かせて欲しいね!」 『そうですね~分かりましたプボ~』 先程までの戦意が嘘だったかのように、ポンド君も間延びした口調に戻る。 お互いにクスクスとひとしきり笑い合った後、 「それじゃあ頑張り給え! トレーナーと皆で応援しているよ!」 『はーい、頑張ってきまーす』 そうして通話を終え、ツーツーとなる受話器をしばし眺める。

4 21/10/03(日)22:02:49 No.852555501

息を吐き顔を上げれば、チームメイト達が顔を揃えていた。 「プボ君なんか言ってた?」 「みんながボクに言い返してきた事を言ってきたよ」 その一言で得心がいったのか、全員が苦笑した。 ボクらのチーム、というかトレーナーの下にはズブ達が集まる。 だけど勝負根性がない事を意味しない。 『初勝利を捧げたのは私だが?』 『ヘッヘッヘ――――50戦以上しましたよ~』 『重賞七つ獲って来たけど、文句ある?』 『ハハッ君より速いスピードで宝塚を制覇したよ!』 『それが何ですの?! それより私を見て下さいましトレーナー!』ガッシャンガッシャン

5 21/10/03(日)22:03:52 No.852556077

全員が重賞を勝ち取るだけの闘争心をしっかり持ち合わせている。 そして誰もが誰とは言わないがある人物の隣、伴侶の座を狙っていた。 それが遠いフランスの地にいる後輩にも受け継がれているというだけの話。 新しいライバルの登場に胸を高鳴らせながら、手を叩く。 「さあ向こうに負けないよう、ボクらもやれる事をしようか」 レースは孤独で、未来は誰にも分からない? かもしれない。 だが何もせず奇跡を待つだけなのは性に合わない。 思い思いに今後の予定を口にしながら、仲間たちと歩き出す。 部室の外では練習の準備をしていたトレーナー君の姿があった。

6 21/10/03(日)22:04:07 No.852556205

「ん? なんかあったか?」 「――――いいや別に。凱旋門も制覇すると意気込んでいたよ」 そうかとトレーナー君は朗らかに笑い、空を見上げた。 つられてボクらも視線を上へと向ける。 どこまでも広がる青い空はフランスまで続いていそうだ。 勝てなくてもいい? 負けてもいい? そんな二択を受け入れられるウマ娘はいない筈だ。 あっさりと諦められるような性格であれば、さっさと引退してしている。 世間からどのような格付けをされようと、勝ちを目指して走り続ける。 (そして他人を魅了して振り向かせるのさ)

7 21/10/03(日)22:05:22 No.852556843

全力を出してこれるとええな、と呟くトレーナー君をそっと盗み見る。 どうせ潔いマルグリットではいられない、ならば全てをなぎ倒すサロメの様に。 欲しい物を勝ち取るのがボクらウマ娘の生き方だろう。 (またライバルが増えてしまったね! それならば勝ってきたまえ!) 遠い空の先に居るであろう後輩へ、激励の念を送る。 風が吹き髪を撫でると、蒼穹の向こうへと飛んで行った。      ・ ・ ✈ ・ ・     朝一番の電話を終え、のんびり背伸びをする。 フランスと日本の時差だと、今くらいが電話に出やすい、らしい。

8 21/10/03(日)22:06:24 No.852557411

この前フォワ賞に勝った時、電話を皆にかけていたら 『今日本が何時か分かってるのボンド?!』 と同室のお嬢様にかなり怒られてしまった。 そういえば時差があるんだっけとぼんやり思いつつ (皆ワンコールで出たって事は、起きててくれたんだー……) となんだか嬉しくなったのも良い思い出だろう。 お説教はされたけど、おめでとうと言ってもらえるのは嬉しい。 そう嬉しい。 勝てば嬉しく、負ければ悔しいという当然の感情。

9 21/10/03(日)22:07:04 No.852557759

確かに自分は皆よりのんびり屋かもしれない。 けれども走る事をいい加減に考えた事などなかった。 レース自体も楽しいけれど、もっと勝利を積み重ねないと。 (じゃないとグランドスラムには届かないし) まずは目の前の大勝負に集中しよう。 勝てば先輩達に勝るとも劣らない偉業になる筈だ。 グラウンドの先に目を向ければ、こちらのトレーナーが手を振っている。 「“電話は終わった? そろそろ朝練を始めようか”」 「“は~い、よろしくお願いしますプボ~”」 こちらもフランス語で返して、空を見上げる。 何処までも広がる蒼穹に、一筋の飛行機雲が流れていた。

↑Top