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21/10/01(金)18:02:45  日課... のスレッド詳細

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21/10/01(金)18:02:45 No.851671316

 日課のジョギングを終えてブリッジに戻る途中、コンスタンツァを見かけた俺は思わず声をかけた。 「お早うございます、ご主人様。ご用は何でしょうか?」 「いや、ご用というほどのものじゃないんだが」

1 21/10/01(金)18:03:00 No.851671378

 用はない。声をかけてしまったのは、何とも言えぬ違和感を感じたからだ。  どことはっきり言えないが、いつものコンスタンツァと何かが違う。髪型ではない。香水でもない……。  じろじろ見つめられて、コンスタンツァは恥ずかしそうにうなじの後れ毛をととのえた。その手首のカフスを見て、俺はようやく気がついた。 「君は、いつもブリッジにいるコンスタンツァじゃないな?」  目の前のコンスタンツァはぱっと顔を赤らめ、それから嬉しそうに両手を顔の前で合わせた。 「おわかりになるのですか? はい、私はコンスタンツァS2・290です」

2 21/10/01(金)18:03:16 No.851671467

 気づいてみれば簡単なことだ。オルカに所属しているコンスタンツァは一人だけではない。俺が来る前からレジスタンスには百人近いコンスタンツァ型がいたらしいし、俺が来てからも何十人か再生されたり、新たに合流したりしている。 「もしかして、『俺』を探してくれた探索隊の一人?」  俺は彼女のカフスを見ながら言った。勘違いでなければ、それはグリフォンのゴーグルの部品だ。 「はい」コンスタンツァ290はほんの少し寂しげに微笑んで、カフスに指をそえた。「私達の分隊は、残念ながら成果がないまま鉄虫に遭遇してしまいました。私は逃げ延びたのですが、グリフォン達は……」 「……すまなかったな」  以前マリーに聞いたところでは、俺を探すために98個の分隊が派遣され、そしてそのほとんどが帰ってこなかったという。謝ってどうなることでもないが、俺はそう言わずにいられなかった。

3 21/10/01(金)18:03:41 No.851671565

「とんでもないことです。ご主人様の探索に加わったことは、コンスタンツァ型全員の誇りです」  コンスタンツァがまた、ほんの少し微笑んだ。  嘘をつかぬよう、しかし自分の感情が決して相手の重荷になることのないよう、完璧に調整された、ほんの少しの笑顔。なるほど、彼女は間違いなくコンスタンツァだ。「俺の」コンスタンツァは、最近あまりそういう顔をしなくなったけれども。 「君は、ヨアンナ島から来たのか? オルカにいるコンスタンツァは一人のはずだよな」俺は話題を変えようと、強いて朗らかな声を出した。 「あ、はい。常勤しているコンスタンツァは416だけです」  彼女も少しほっとした顔で、胸元へ手を当てる。

4 21/10/01(金)18:03:52 No.851671610

「私は物資搬入の付き添いで参りました。原則として、各モデル一人ずつだけがオルカに勤務することになっていますので」  それは知っている。というか、俺がそう決めたのだ。日々どんどん増えていくバイオロイドの誰をオルカに残し、誰を後方支援に回すかは、俺がオルカに来てそう経たないうちに問題になった。議論は紛糾したが、最終的には全隊員が「自分たちのモデルのうち誰か一人はオルカに置いてほしい」という意見にまとまったので、それに従うことにした。操艦・雑務スタッフや、特殊な役割を持った一部の戦闘員を除いて、オルカにはレジスタンスにいる全機種から一人ずつが集まっている。 「そういえば、その一人はどうやって決めてるんだ」 「基本的には先任優先ですが……持ち回りのこともあります。半月か一月くらいで、定期的に交代している子達が結構いるそうですよ」 「そうだったの!?」  全然気がつかなかった。みんないつも同じ個体だと思っていたのに。

5 21/10/01(金)18:04:02 No.851671662

「オルカ勤務は皆の憧れなんです」コンスタンツァがあわてた様子で付け加える。 「誰もがご主人様のお側に仕えたいと思っています。指揮に支障が出ないよう、戦闘データなどは入念に引き継ぎを行っています。どうか、お目こぼしいただければ……」 「ああいや、責めてるわけじゃないが……うん? じゃあもしかして、コンスタンツァも?」 「いえ、21分隊の隊員は特別です。ご主人様を発見した功績がありますので、交代したりはしません」  よかった。俺の目もそこまで節穴ではなかったようだ。  しかし、俺は自分で思っているよりもはるかに、バイオロイド達の献身と気遣いに支えられて暮らしているのだ。そのことをあらためて思い知る。

6 21/10/01(金)18:04:13 No.851671700

「じゃあ、他のコンスタンツァやグリフォンはオルカに来る機会がないんだな」 「はい。その分、こうして仕事がある時には優先的に……あら、いけない!」  コンスタンツァは眼鏡のつるに手を当てた。「申し訳ありません、もう行かなくては」 「仕事の邪魔をしてしまったな。ありがとう、ためになる話が聞けた」 「いいえ、ご主人様とお話できて、嬉しかったです」  深々と頭を下げて、優雅にスカートのすそをひるがえしたコンスタンツァが、ふと足を止めて振り返った。 「私達を見分けて下さったこと、416にも話して差し上げて下さい。きっと飛び上がって喜びます」

7 21/10/01(金)18:04:27 No.851671769

 290の言う通りで、ブリッジに戻った俺が、コンスタンツァ416(当然、彼女は最初からそこで俺を待っていたのだ)にその話をすると、彼女は飛び上がって喜んだ。比喩でなく、本当に飛び上がった。 「嬉しいものなのか?」 「これが嬉しくないバイオロイドなんていません!」コンスタンツァは勢いよくうなずいた。 「個体としての私達には、本当にわずかな違いしかありません。それを見分けるほど私達をよく見て下さる人間様は、かつての時代にもほとんどいませんでした。それは、私達一人一人を一個の人格として見て下さるということですから」 「そんな大層なものじゃないが」俺はなんだか照れくさくなってしまった。「ただなんとなく、違和感があったというだけだ。それと、カフスが違ったし」 「なおさらです。小さな装いの違いに気づいてもらえるのって、とても嬉しいんですよ」

8 21/10/01(金)18:04:38 No.851671817

 コンスタンツァはますますニコニコと幸せそうに笑う。その笑顔があまりに眩しくて、俺はずっと以前から心の隅に引っかかっていたことを、つい口に出していた。 「……なあ。聞いてもいいだろうか。俺を探し出すために、何人くらいのバイオロイドが犠牲になったんだ?」 「……」  コンスタンツァの笑顔がふっと消える。彼女を傷つけてしまっただろうか。  しばらく目を伏せてから、コンスタンツァは顔を上げた。 「私達の戦いは、はじめからずっと不確かなものでした。あるかどうかもわからないものに手を伸ばして、多くの犠牲を払うのは、私達はずっとずっとしてきたことです。そして、私達が初めて手にした本当の勝利が、ご主人様を見つけたことです」  いつもかけている眼鏡を外し、コンスタンツァは俺の目をまっすぐのぞき込んできた。

9 21/10/01(金)18:04:51 No.851671875

「ご主人様を見つけるために命を落としたことを、後悔しているコンスタンツァ型は一人もいません。同型機として、これだけは自信を持って言えます。グリフォンも、他のスチールラインの皆さんだって、きっと同じだと思います。どうか、お気に病んだりなさいませんよう」  主人に嘘はつかず誠実に、しかし感情が主人の重荷になることはないように。久々に見るコンスタンツァのその笑顔は、けれど完璧ではなくて、あふれて伝わってくるその感情に、俺はただ黙ってうなずくことしかできなかった。  と、それで終わっていればよかったのだが。  翌日、訓練で見かけたレプリコンが珍しく大きな花のブローチをつけていた。  そのまた翌日、ニンフがスカーフを巻いていた。  次の週にはダークエルブンが三つ編みに、ダフネがサイドテールに髪型を変えていて、さらにレプリコンのブローチは星形になっていた。

10 21/10/01(金)18:05:04 No.851671935

「はい、レプリコン10889です!」 「私、ダークエルブン966だけど」 「ダフネ3301でございます」  どこから話が広がったものか。声をかけるとみな嬉々として自分のIDを名乗るので、きっと俺に見分けてほしいのだろう。せっかくの努力なのだからと、ひそかにメモをとったりしてできるだけ覚えるように努めたが、延べ300人を超えたあたりで頭がパンクした。退役組も含めるとすでに数万人のバイオロイドがいるのだから、どだい無理ではあったのだ。  見かねたコンスタンツァとマリーが自粛令を出してくれて、髪型やアクセサリの違いに毎夜うなされる日々はどうにか終わったのだった。

11 21/10/01(金)18:05:21 No.851672008

 バイオロイド達は皆、ひたすらに献身的だ。それが単に、そのように造られているからに過ぎないとして、それに俺が引け目を感じても、何にもならない。俺が彼女達の上に立つのは彼女達自身の望みであり、人類としての義務でもある。これからの日々の中で、人類が彼女達に作った途方もない負債の、その億分の一でも、少しずつ返そうと努めていくこと。俺にできるのはそのくらいだ。 「グリフォン、ブーツ替えたのか?」 「な、なによ! こないだの戦闘で壊れちゃったから、新しいのができるまで儀礼服のをはいてるだけよ! 悪い?」  バイオロイド達のファッションの細部に目をとめる癖だけは残った。たまに気づいた時には、できるだけ口に出すようにしている。  コンスタンツァの言った通り、彼女達は本当に嬉しそうな顔をするのだ。 End

12 21/10/01(金)18:06:05 No.851672196

お疲れでした

13 21/10/01(金)18:07:44 No.851672628

公募バイオロイドとりあえず二人考えてどっちを投稿するか決めあぐねてたら えっ虚淵……? まとめ sp94792.txt

14 21/10/01(金)18:08:00 No.851672695

良い話だ

15 21/10/01(金)18:08:31 No.851672828

相変わらず良い話書くな…

16 21/10/01(金)18:09:09 No.851673024

いい話だ キャラクタが量産品って明言されてる設定はこの手のゲームだと珍しいけど俺は好きだな

17 21/10/01(金)18:14:03 No.851674352

確かに考えてみりゃ21分隊も結構危なかったしな

18 21/10/01(金)18:22:36 No.851676885

やはりワンオフ機…ワンオフ機はすべてを解決する…

19 21/10/01(金)18:22:53 No.851676976

司令官も各機種一人ずつでもオルカに軽く百人以上いる各人の細かいとこちゃんと気付けるの好き

20 21/10/01(金)18:26:13 No.851677892

仮に普段の立ち絵と微妙に違ったら気付いてやれるかもしれん

21 21/10/01(金)18:33:36 No.851679991

虚淵が急に するから驚くよね…すごい旧人類な設定だし

22 21/10/01(金)18:38:25 No.851681280

どこかでほら来たかピョンテに移行するのかと思ったら本当にいい話でしかなかった…

23 21/10/01(金)18:41:47 No.851682199

ゲーム内時間軸だから幸せでハッピーハッピーでいいんだ ほら来た!は旧人類におまかせだ

24 21/10/01(金)18:46:14 No.851683441

入れ替わってピョンテして中の具合が違うなぁって気が付いたりもするのかな…

25 21/10/01(金)18:48:04 No.851683995

98分隊とか細かい裏設定拾ってるから毎回感心するわ

26 21/10/01(金)18:49:39 No.851684475

人間発見する前に力尽きた分隊も結構あったんだろうね

27 21/10/01(金)18:57:40 No.851686864

>人間発見する前に力尽きた分隊も結構あったんだろうね 21スクワッド以外全滅もあると思ってたから アイシャ公開設定によると基本的に散り散りになってて生きてる場合は司令官に救出されてるとなって少し安心した

28 21/10/01(金)19:07:43 No.851690128

ラスオリコス合わせとかあって、同モデルが沢山集まっても原作準拠なんだよな、そういえば…

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