虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。

  • iOSアプリ 虹ぶら AppStoreで無料配布中
  • 漣の音... のスレッド詳細

    削除依頼やバグ報告はメールフォームにお願いします。 個人情報,名誉毀損,侵害等について積極的に削除しますので、メールフォームより該当URLをご連絡いただけると助かります

    21/09/29(水)23:19:20 No.851142442

    漣の音が、ウマ耳をくすぐっては通り過ぎていく。 合宿が始まって、二週間が経った頃のこと。 蓄積された疲労を一気に回復する目的で、今日は休養日。 割り当てられた部屋の、備え付けられた椅子に深く腰掛けて、重苦しいため息を吐き出すのを、私は堪えきれなかった。 無論、疲労のせいではある。環境がガラッと変わった中でのハードなトレーニングは大きな成果を実感できるけれど、その分負荷も強い。 でも、それだけでもない、ずっと引きずり続けている重しのせいだ。 また、負けた、日本ダービーで、ハナ差で二着。 会心の走りを出来たと思ったレースでの負け、流石に、こたえた。 (あんなにみっともなく、泣き散らすなんて) レースが終わった帰りに、ごめんなさいごめんなさいと聞き分けのない幼児のように泣き喚いて、トレーナーさんを困らせてしまった。 諸々あって、最悪と言ってもいい1日だった……嫌な思い出だ。

    1 21/09/29(水)23:20:17 No.851142767

    アスリートとして、敗北を引きずらず気持ちを切り替えるのは絶対に必要な心構えだとは分かっているけれど、そう簡単に忘れることができない悔しさと羞恥は、厳しいトレーニングを課せられていない今だからこそ、胸の奥を蝕みじわじわと表層に這い上がってきている。 このままではダメだと、分かってはいるのだけれど。 みっともなく物思いに耽っていると、端末が着信音を鳴らした。 開いてみるとトレーナーさんからのメッセージだ。 『今日は息抜きに近くに遊びにでも行かないか?』 いいかもしれない、と素直に思った。 こんな気持ちを引きずったままトレーニングをしていては、いずれ大きな怪我につながってしまうかもしれない。 この辺りで一度、しっかりと気分を切り替える必要がある。 わかりました、私も行きたいです。そう返事を返してから、ひとまずは寝起きからそのままだった寝巻きを着替えることにした。

    2 21/09/29(水)23:20:57 No.851143006

    「ついた、ここだよ」 お昼前の頃に迎えにきてくれたトレーナーさんの車に乗って、小一時間ほど走り、海沿いの繁華街に到着しました。 「事前にチェックしておいてね、この辺りはいい感じの喫茶店が多いらしいんだ。 よければ巡ってみないかい?」 「それは……楽しそうですね」 人が行き交う賑やかな街並み、それが好きと言うわけではないけれど。 頼りになるトレーナーさんがいるのなら、きっと大丈夫。 『友達』に、大丈夫と言う意思を込めてウインクをしてから、先導するように歩き始めるトレーナーさんの後を静かについていく。 「カフェはまず、どこか行きたいところとかあるか?」 「では……まずは、食べそびれてたお昼ご飯にしませんか?」

    3 21/09/29(水)23:21:26 No.851143174

    それからしばらくの間、トレーナーさんと街中を探検して、思う存分に気晴らしをした。 コーヒーを飲み過ぎるとまずいことになるのはトラウマとして胸に刻まれているので、お水で我慢してケーキを堪能したり、気になる服屋さんを冷やかしたり、2人してゲームショップを物珍しげに眺めたり(トレーナーさんはテレビゲームをやったことがないらしい)。 そうこうしていると時間は意外なほど早く過ぎて、夏の長い日差しも陰りの兆候を見せ始めていた。 「そろそろ帰りましょうか」 「うん、そうしようか」 買っていただいた麦わら帽子(ウマ耳用の穴付き)を被った私を見て微笑ましげなトレーナーさんに引かれて、車へと向かう。 今日は、いい気分転換になった。

    4 21/09/29(水)23:21:57 No.851143363

    その帰り道、ふと窓の外に目を向けると、薄紫色の空に大きな花が咲き誇った。 「花火……」 「あ、ホントだ」 近くの駐車場に思わず車を止めて、外に出ると。 海の奥から大きな火の玉が打ち上げられて、輝かしい花火がたくさん打ち上げられていた。 光の大輪が広がって、その数瞬後に体を震わすような、大気の振動。 「花火なんて、久しぶりに見たな」 「はい、私も、です」 大海に美しく咲いては散って落ちるその姿が眩しくて、私は思わず目を細める。 あの一瞬に全てを賭けて精一杯の光を放つ花火のことが、なんだか少し、羨ましくなった。

    5 21/09/29(水)23:22:21 No.851143494

    ふと、トレーナーさんをみる。 隣に立つトレーナーさんは私が視線を向けたことも気が付かず、キラキラと空を彩る炎の華に目を奪われて、その瞳を輝かせていた。 ああなりたい、と、素直に思った。 まだ、不甲斐ない結果しか出せてない私で無理かもしれないけど、でも。 「私、頑張りますから」 気がつけば、口が開いていた。 「私、あの花火みたいに、輝いてみせますから。 もっとずっと早くなっていい結果を出してみせますから、だから」 だから、見ててくださいね。 そう言った決意を込めて告げてみれば、トレーナーさんはなんだか驚いたような顔をしていて、それが少し間抜けで、私は思わず笑ってしまった。

    6 21/09/29(水)23:22:54 No.851143686

    次は、次こそは、必ず勝って、輝いてみせますから。 ……俺も、カフェを必ず勝たせて見せるよ。 そんな、夏の合宿の最中の、他愛もない思い出。 菊花賞まで、後少し。

    7 21/09/29(水)23:24:25 No.851144233

    君と夏の終わり…いい…

    8 21/09/29(水)23:24:27 No.851144243

    他愛もない逢引をして麦わら帽子を被るカフェを見たかった いよいよ本格的にイチャイチャさせたくなってきたので失礼する

    9 21/09/29(水)23:25:03 No.851144474

    カフェストーリー助かる........

    10 21/09/29(水)23:25:42 No.851144722

    上がってもらっていいぞ 次も待ってる

    11 21/09/29(水)23:27:07 No.851145215

    これからもカフェトレを供給してくれるなら失礼しても許すが…

    12 21/09/29(水)23:36:06 No.851148191

    いい……

    13 21/09/29(水)23:38:05 No.851148888

    (夏)祭りだから許すが…

    14 21/09/29(水)23:40:25 No.851149628

    コーヒーの香りなのに清涼感がある文章

    15 21/09/29(水)23:51:06 No.851153146

    カフェに白いワンピース着せたい…