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21/09/29(水)18:34:10 スペち... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1632908050548.jpg 21/09/29(水)18:34:10 No.851024065

スペちゃん回の終わりがあまりにも辛いので書きました SS様が50年前に戻った場面です

1 21/09/29(水)18:36:46 No.851024903

湾曲していた空間が徐々に元へ戻り、時計の針は再び正常な時を刻み始めた、視界に映るのはホグワーツ近郊の草原だった、今はもう開発され喪われた筈の景色が過去に来たという事実を己の内に嚥下させていく 最早記憶の中でも薄れた情景の中でゆっくりと息を吸えば、体中に感慨と疲労感が染み渡っていく、50年という例を見ない程の長期間に渡る”逆転時計”の時間遡行の影響か、我が最愛にして最高の教え子との死闘の緊張からか、長らく動いていなかった肉体が予想以上に老いさらばえていたからか 下らないことだ、今この状況における自分の状態なぞ、長きに渡り求めてやまぬ魔法の深奥に比べれば些事にすぎない、私は生きている、我が全盛期をも超える最強の魔法使いとなった彼女から逃走を図れたのはほんの僅かな運、星の巡りにすぎないとしても、まだ全てを諦めるには早すぎる、むしろあの難局を乗り切ったことで私は自分が”向いてきている”とハッキリ認識していた

2 21/09/29(水)18:39:08 No.851025630

あの時咄嗟に手に入れた”時間時計”は魔法省においても類のない、私が知る限りでも最高峰の性能のもの 使用できる回数はあと1回のみだが、100年の跳躍は私にとって無限にも等しい可能性を秘めている、加えてこの時代は……ああ、なぜ私はあの時、逃走を選択した瞬間、反射的に咄嗟にこの時代を思い浮かべたのか 私が丁度ホグワーツの教師として希望に満ちた研究を行っていた時代だからか、肉体的にも精神的にも全盛期を迎えた時代だからか、自分は最高の魔法使いであり、世界の真理に至れる資格を有していると驕り高ぶっていたあの頃の自分を嘲るためか 草原に吹く風が、少女の橙色の髪を揺らした 私は見た、見たくもないほどに嫌悪し、憎悪すら感じ、それと同じだけ憧れ、愛おしく、この胸に刻み込まれてやまぬその顔が、すぐ向こうで無垢な笑みを浮かべている、その少女の名は秋川やよい、私の後任、私の弟子、私の運命、彼女ホグワーツに入学し、私に師事したのがこの時代だとひと時たりとも忘れたことはなかったからか

3 21/09/29(水)18:42:17 No.851026598

入学した当初から彼女は他の追随を許さぬほど優秀であり、向上心に漲っていた、その頃の私は歴代最強の校長と表向きにも言われ崇敬すらされていたが、その権力に曇った瞳からしても彼女は眩しく映った 彼女はよく私に教えを乞い、まるで乾いたスポンジのように私の教えを吸収していった、これが楽しくない教員が居るだろうか、私は自分の全てを彼女に与えた、彼女が望めばホグワーツ校長の立場を使い入手の難しい蔵書を取り寄せ、高価な器具を惜しみなく与えた 時には直接指導をすることもあった、その強大な力故に操作が難しく、練習でも命がけの決闘を熟せるのは私だけだった、彼女に一番近しいのは私だった、だからこそ、その光に目を焼かれてしまったのだ 「先生!」 あの時の彼女が目の前にいる、私の幸福だった時代の象徴、例えそれが後の時代に苦しめるとしても彼女は、私の孤独を埋めた唯一の相手が、あの頃のまま笑っている、敵意ではなく憐憫でもなく殺意でもなく、ただ敬愛を持って見つめてくれる その事実は私の老いて傷ついた心には大変に堪えた、こちらの姿を認めた彼女がその顔を歓喜に染めながら一直線に駆けてくるのに気が付かないほどには

4 21/09/29(水)18:44:00 No.851027141

「先生ッ!SS先生ッ!!」 「……ノーザ、ああ……やよ、い」 「心配ッ!顔色が優れません!すぐにお休みください!」 あんまりにもひどい顔をしていたのだろう、私の顔を見て彼女の顔がそれ以上に青ざめる、そうだ、激務の中にあって体調の優れない私を彼女はいつだって心配していた、それを皮切りに私の中で次から次へと記憶が溢れ、まるで潮騒のように押し寄せた 老いていく自分への焦り、ますます輝く彼女への身勝手な憎悪と嫉妬、道を違えた後で顔も見ていなかったのは、自分が袂を分かった後で合わす顔がないからであり、そしてそれ以上に、彼女をただの脅威として見なければならなかったからだ

5 21/09/29(水)18:46:22 No.851027887

逢えば分かる、分かってしまう、長い潜伏の期間は彼女に対する蟠りを解消するに十分すぎた、彼女は恐ろしいから、彼女と会えば殺されるからとごまかしていたが、あの決闘の時も結局はお互いに手心を加えてしまったように、今となってはもうお互いに殺意を抱くことはできず、善と悪として、ただお互いの立場としての義務で戦うしかないのだと 「感服ッ!こっそりとこちらに来たつもりだが先生にはお見通しであったようだ!」 改めて、己に問う 今の目の前にいる少女はまだ羽化する前の蛹、手折るにはこれ以上ない瞬間、私のことをただの教師と誤認している今ならば、例え私が杖を向けても無防備だろう、ましてやその先から緑色の光線が踊っても避けることすらできないだろう、将来的には最大の脅威となる存在を葬る絶好にして唯一の好機に他ならない 今ならば殺せる、今ならば出来る、私が杖を向ければ――

6 21/09/29(水)18:47:09 No.851028123

「…………できるわけ……」 「先生?」 「……できる訳が、ないだろうが……」

7 21/09/29(水)18:50:29 No.851029134

逢えば、分かってしまう、分かってしまった、私には、殺せない、殺意を向けられなければ杖を向けることも出来ない。あまりに弱く、あまりに愚かな自分を自覚してしまうから 力なく笑いながら膝をつき、天を見上げる、あまりにも太陽が眩しくて零れ出た涙が頬を伝えば、やよいが何かを差し出した それは、花の冠、この草原に咲く花で作っただろうそれには 「贈呈ッ!あ、いや……粗末で申し訳ないけれど……私は、先生にあまりにも恩を受けすぎていて」 「………」 「何もかもを、貴方に貰った。先生が居なければ、私は機っと何もできなかった。本も、道具も、経験も、知識も、私の持っているものは全て貴方の持っているものだから、私が贈れるものがなくて。だから……私の、今の、精一杯の”愛”を、贈ります」 それには、全てが詰まっていた 私に必要な全てが、彼女の出せる全てが 「先生が泣いているなら、貴方の悲しみの少しでも、私は埋めたい」

8 21/09/29(水)18:54:07 No.851030222

「………ああ」 何かが吹っ切れた気分だった、彼女の差し出した愛が、私の目を覚ました 「やよい、頭を出して」 「了承ッ!」 「その話し方も、今はやらなくていいから」 「……うん」 小さな少女に出せる精一杯の威厳をそっと取り除いてやれば、その差し出される頭に、受け取った花冠を掛ける、厳かに、恭しく、彼女の頭には少し大きい冠をそっと置けば、やはりそれは私の頭には小さすぎた これは戴冠の儀、私から彼女に託す誓約、もはや野望も大望も持たず、お前を支えるという宣言の形、真理探究の旅はここで終わりだ、この時代で私は彼女を陰に支えていこう、私より強く、優しく、聡い愛弟子、長きに渡る潜伏と自問自答と懊悩の日々が、彼女の強さを認めるという最終定理へと繋がったのであれば、今までの遠回りも惜しくはない もう過去に干渉をするつもりはないが、この時代の私がひょっとして闇に堕ちるようであれば、手紙でも出してそっと諭してみようか、その内に彼女が、もしくは彼女の教え子がいつか真理に至るかもしれない

9 21/09/29(水)18:55:13 No.851030541

「先生、これからも私を導いてください」 「そしたら私、誰よりも強くなれます」 そんな未来を想って、愚かなほどに楽観的だが、私は自然に微笑んでいた

10 21/09/29(水)18:57:22 No.851031202

きっと先生はやよいちゃんを殺せないし愛は最強だよと言いたかっただけの話でした

11 21/09/29(水)19:00:08 No.851032003

愛最強!愛最強!

12 21/09/29(水)19:00:21 No.851032068

のっけからSS→やよいちゃんの矢印がゴン太過ぎて3回ぐらい死んだ

13 21/09/29(水)19:03:20 No.851033030

いい・・・

14 21/09/29(水)19:07:53 No.851034541

こういうのが読みたかった… 補完として最良…

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