虹裏img歴史資料館

1 21/09/28(火)06:29:33 No.850563368

少し眩しさを覚えて目を開くと、遮光カーテンの隙間からにわかに日光が降り注いでいた。 背中からは小さな寝息と暖かな温もりを感じて、徐々に目が覚めていく。 どうやらこの小さな少女に抱きしめられたまま、昨夜は眠ってしまったらしい。 少し逡巡した後に体を起こそうとしたが、体に巻き付いていた腕が私を起き上がるのを引き止めた。 「……ゆかりさん？」 起きていたのだろうか、そう思い背後の少女に声をかけたが動き出す気配はない。 寝ぼけているのか、そう思って身をよじって何とか彼女の方に顔を向けると、彼女の瞳から涙が滲んでいた。 ……もう少し、寝ていてもいいのかもしれない。

2 21/09/28(火)06:30:28 No.850563425

幼いうちに家族を無くした、恐らく物心もそれとなくついていた頃だったのか。 それとも、もっと幼い頃に居なくなってしまったのか。 彼女について知らないことが沢山ある、だが何時も今聞くべきなのかを逡巡しては止めている。 今はまだ早いのかもしれない、相手のことを知りたいならば私の事を色々知って貰う必要があった。 信頼というのは相互関係性のように思えて、実際には一方的な感情だ。 そして信頼されたいと思うならば、出来るだけ自分の事を知って貰うことが重要だ……と思う。 「……おやすみなさい」 私はまだ眠りについている彼女に語りかけて、自分のパジャマで彼女の瞳の周りを優しく拭った後、また枕に頭を預け直した。 ───

3 21/09/28(火)06:31:00 No.850563454

それから大して時間も経っていないだろう頃、背中から温もりがなくなっている事に気がついた。 彼女はもう起きているのだろう。 何とも言い難い感傷にひたりながら、私は布団からゆっくりと体を起こした。 リビングの方からはパンの焼ける匂いがしていて、少し急がないとなんて気持ちになりながら顔と歯を洗ってしまう。 「おはようございます」 そう言ってリビングに入ると、少女が本から顔をあげてこちらを見返した。 「おはようございます、きりたんさん」 私がいそいそと机に腰掛けると、彼女は手に持っていた本に少し表面の掠れたアネモネ柄の栞を挟み込んで机の上に置いた。

4 21/09/28(火)06:32:25 No.850563540

「少し寝坊してしまいましたかね」 「いえ、少し前に作ったばかりです」 そう言ってぶっきらぼうとも取れそうな言葉で、彼女は膜の張ったホットミルクを一口すする。 少し苦笑いをして、私も少し熱の抜けたホットミルクを一口飲み、食パンにジャムを塗り拡げた。 パンの匂いが押しやられて、苺の匂いが微かに広がっていくのを感じながら、私はふと口を開く。 「そ、そういえば……昨日のあれって、どういう意味だったの？」 私はふと、昨夜の事について訪ねてみることにした。 少女は一瞬目を見開いた後、目を細めながら口を開く。 「……別に、妹が居たらと思っただけです」 「……そ、そっか……」

5 21/09/28(火)06:33:34 No.850563608

怒ったほうがいいのだろうか？ との考えも過ぎったが、あまり気にしないようにする。 多分本人も悪気があってやっているわけではないし、外見が小さな母というものに対して整理がついていないだろうと思うから。 ……それにしても妹か……小学生などと言われるよりはいいのだろうか。 そんな事を考えながらパンを齧りつつ、ふと少女の読んでいる本の栞の位置が物語の終わりに近づいている事に気がついた。 「本は面白い？」 そう言って尋ねると、彼女は齧っていたパンから顔を上げ、飲み下した後口を開いた。 「……普通」 「そ、そうですか……」 会話の内容を間違えちゃったかな、なんて少し考えた後もう一度口を開く。

6 21/09/28(火)06:34:35 No.850563664

「ゆかりさんはどうして本が好きなの？」 「……何となく」 「何となくか……けど、読みたい理由はあるんだよね」 「ある」 そこだけはっきりと答えた彼女は、またパンを齧った。 ……読書に関してあんまり触れないほうが良いのかな、私はそんな事を考えつつ食パンを口に運ぶ。 昔からの優柔不断さは、この歳になっても相変わらずだが、私はふとまた口を開いた。 「おすすめの本とか、あった？」 彼女はパンを咀嚼しながら、少し考え込むように視線を動かした後、口の中のものを飲み込んだ後、一口ミルクを飲んでから口を開く。

7 21/09/28(火)06:35:11 No.850563699

「……きまぐれロボット」 「あー……私あまり本を読まないから、どんな本か教えてもらってもいいかな？」 そう尋ねると、少女は少し目を細めながら口を開いた。 「……複数のお話をまとめた本で、きまぐれロボットはあくまでその中の一つ、だけど簡単に読めてわかりやすい」 「そうなんだ……おすすめな理由は？」 「内容が分かりすいのもあるけど……結末を見た時、なるほどとなるのが良い」 「じゃあ、ショートストーリーで納得がいくのが面白いんだ」 そう言って私が口を開くと、彼女は小さく頷いた後またパンを咀嚼した。 よしよし、今日は何時もより上手に会話できたかもしれない。 内心そんな事を自画自賛していると、彼女はあっという間に食事を食べ終えてしまっていた。 ……お喋りに夢中になっちゃったな、そんな事を思いながらパンをまた一口食べると彼女が何時ものように食器を流しへと運んでいった。

8 21/09/28(火)06:35:53 No.850563745

少し遠くから聞こえてくるお湯の流れる音と、微かに香る洗剤の匂いを嗅ぎながら、私も一口ずつパンを食べ進めていく。 そうして私がご飯を食べ終えた後、少女が私の前に何時ものように湯呑とお茶を運んできた。 「……それで、今日は何をするの」 そう言って私を見る少女は、やはり私をじっと見つめていた。 それでも彼女と過ごしているうちに、段々と慣れてきた私は彼女に対して淀みなく今日の予定を口にするのだった。 ─── 朝ごはんを食べた後、私達は洗濯物を干して、日用品の買い足しのために買い物に行った。 ただ彼女はお菓子を欲しがらない。

9 21/09/28(火)06:36:36 No.850563787

『幾つか持ってきても良いんですよ』 そう言ったけれど、彼女は特に要らないと返すのが何時もの流れだった。 とはいえ、たまに食べるおやつだって美味しいものだと、今日はお茶請けにどら焼きを買った。 欲しがらないが、食べないわけではない彼女は、何時もお昼の後に私が買ったお菓子を一緒に食べる。 別段不味いと思っている訳ではないらしく、私がおやつを買おうとしても嫌がる素振りを見せるわけでもない。 ならばたまには自分で選んでも良いのに、そんな事を時々考える。 年頃の子供ならば、わがままを言う子供だっているだろうに。 「本当に欲しいものがあったなら、欲しいって言ってもいいんですよ」 そんな事を言っても、別段彼女は何かをねだるわけでもなく、ただ静かに頷いた。 「……まあ、わかってくれているならいいんですけど……」

10 21/09/28(火)06:36:53 No.850563803

私はそれでいいのか判断しかねたまま、彼女とまたリビングで湯呑のお茶を飲み終えた。 ……そして、最近一つ分かったことがある。 彼女は私が居る部屋に、大体の時間一緒にいる。 これも思春期前の子供がただ親と一緒にいたいだけなのか、それともすることも無いのでそこにいるだけなのか、判断がつきかねていた。 「……ところで、欲しい物は……」 「特に今はない」 「……そうですか」 ……やはりまだ私に遠慮しているのでしょうか、この年頃の子供というのは分からないことが多い。 ───

11 21/09/28(火)06:41:31 No.850564070

今日はここまで 今日の続き：sp94745.txt 今日までのまとめ：sp94746.txt 正式な養子になった瞬間きりたんを手篭めにする予定だったけど、もう少し時間を掛けてもいいなと思い始めたこの頃

12 21/09/28(火)07:00:04 No.850565213

>正式な養子になった瞬間きりたんを手篭めにする予定だったけど、もう少し時間を掛けてもいいなと思い始めたこの頃 最高だと思う でも蔵書100選で御両親の愛が分かって少し泣きそうになる…そんな真っ当な女の子がここからきりたんとろっとろにしちゃうってなると …恐らくきりたんが全面的に悪いのでは？

13 21/09/28(火)07:06:33 No.850565667

不定期…？いやありがたいんだけどさ！ ゆかきりでしか摂取出来ない栄養素助かる

14 21/09/28(火)07:19:40 No.850566631

ゆかきりいいよね

15 21/09/28(火)08:12:45 No.850572511

微笑ましい

16 21/09/28(火)08:31:17 No.850575198

良いですよね、ゆかきり でもこのきりたんは情愛と家族愛の差がわからないので、そこにちゃっかり付け込むゆかりさんという方針なんだ 娘に抱かれて撫で撫でされてるのが普通の親なわけないだろ!

17 21/09/28(火)08:32:13 No.850575331

それがいいんだ 悪いゆかりさんに手篭めにされるきりたんが見たいの！