21/09/25(土)23:40:08 開かな... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1632580808709.jpg 21/09/25(土)23:40:08 No.849771638
開かない玄関の扉を見て、女は物憂げに何度目かもわからない溜息をついた。 何もせずに待っている時間というのは何度経験しても慣れないものである。遅くなるという連絡と謝罪はもう入っているし、それが本意ではないことも判っているが、それでも今日だけは早く帰ってきてほしかったという気持ちを抑えられなかった。
1 21/09/25(土)23:40:28 No.849771836
ある夏の日の夜のこと。 ふと目を覚ましてテントの外に出てみると、何かに魅入られたように空を見上げる彼がいた。 「何してるんですか。ぽかんって口開けながら上見ちゃって、お馬鹿さんみたいですよ?」 「眠れなくてさ、今日あんなに遊んだのにね」 私に堕ちている証拠に目一杯私を甘やかすと彼が言ったのは、数日前のこと。そのために今日は丸一日時間を取って彼と甘味を食べたり、水中散歩に興じたり、夕暮れの砂浜を一緒に歩いたりしたのだが。 サーヴァントである私はいいとして、それに一日中付き合った彼が疲れて眠っていないというのは、少しだけ心に引っかかった。 「自分でも何ですけど、結構遠慮なく連れ回しましたよね?疲れてないんです?」 「うん、あんまり。はしゃぎすぎて目が覚めちゃってるのかな」 そう言うにしては穏やかな表情で、彼はもう一度空を見上げた。 「そんなに珍しいですかね」 「日本の都会で星空なんてそう見れないからね。ここに来てからは何度か見る機会はあったけど、今でもやっぱり飽きないよ」
2 21/09/25(土)23:40:48 No.849771997
彼といると、随分色々な感情を呼び起こさせられる。いつまでも堕ちない彼に苛立ってみたり、そんな彼と一緒に過ごす時間が、やけに楽しく感じたり。 こんなふうに物思いに耽る彼を見て、穏やかな気持ちになってみたり。 「…マスターさんがマスターになって、一番印象に残ってることって、何ですか?」 「随分色んな所に行ったし、色んなことに気づいたからね…今言えって言われると、ありすぎてパッと出ないなぁ。 あ、でも、星って綺麗なんだなって、改めて思ったよ。都会で暮らしてると全然わかんないけど」 訥々と話す彼の言葉に、そっと耳を傾ける。彼が何を思って、どんなふうに過ごしていたのか、ただ知りたかった。 「フランスとかアメリカとかメソポタミアもそうだったけど、街の灯りがないときは月とか星の光を使うしかないからさ。心細くなったり、ちょっと怖いなって思うときもあるけど、見上げてみたらそんなことも忘れちゃうくらい綺麗だった」
3 21/09/25(土)23:41:04 No.849772141
そんな彼の言葉を裏付けるように、満天の星空は群青の天鵞絨に散りばめられた色とりどりの宝石のように、音もなく静かに輝いていた。 私とは違う。誰もがただ穏やかに尊ぶ、美しい景色。 「…そうですか。 でも、星の光って残酷だと思いません? 空に溢れかえるほどたくさんあるのに、どんなに手を伸ばしてもひとつも手に入らないんですよ?」 そんなものを見ていると、私の心はそれを汚すように、醜い部分を覗かせるのだ。 わかっている。彼が私に堕ちていないことも、それでも私のことを思って、私のそばにいてくれていることも。 子供の姿でいれば、そんなことからも目を背けて、無邪気にはしゃいでいることもできた。けれどふと我に返ってみると、気づかされるのだ。 私のやってきたことの、どうしようもない安っぽさに。
4 21/09/25(土)23:41:25 No.849772320
私に、そんなことができるだろうか。 誰かのことを心から幸せにしたいと願って、そのためにどんな苦難を引き受けることも厭わない、なんてことが。 ずっと愛を否定したくて、チープな偽物をばら撒いてそれに縋る愚か者たちを嗤うことしかできなかった、私に。 「…やっぱり、愛のかたちなんてわかんないですよ。何度やっても。 もう、そう決まっちゃってるんですかね」 彼といると、本当に色々な感情が湧いてくる。 そんなときに何よりも辛いのは、彼が私に靡いてくれないことでも、そんな私の企みをあのお節介焼きたちに邪魔されることでもなくて。 彼の優しさに触れると、自分がどうしようもなく惨めな生き物なのだと、思い知らされることだった。 愛の素晴らしさをわかることなんて、できやしないのだと。 誰かを誰よりも大切に想うことなんて、私には──
5 21/09/25(土)23:41:45 No.849772513
「…つまらないことを言いましたね。忘れてください。 今日はもう寝ます。貴方も休んだほうがいいですよ」 「ちょっと待って」 テントに戻ろうとした私の背中から、引き留めようとする彼の声が聞こえてくる。 「…何ですか?」 「今日は甘やかすって言ったじゃん。もう少しだけ、付き合ってくれるかな」 嫌な顔を隠そうともしない私を宥めるように、彼はそっと私の前に座った。 「手、出してくれる?」 「…これで最後ですよ」 訝しみながら手を出すと、彼は両手で私の手をそっと包んだ。 「何ですか、これ」 「おまじないだよ。 ほら、開けてみて」
6 21/09/25(土)23:42:03 No.849772646
掌をそっと開いてみる。 「…!」 確か、この近くの砂浜の砂は面白い形をしていると聞いたことがある。それが掌の中に握られていた。 星の形をした、小さな砂粒が。 「ごめんね、ちっちゃくて。 でも、今できる全部、そこに込めたから」 気まぐれで空から落ちてきた、小さな星の光。 届かないと思っていたそれが、確かに今、そこにあった。 「大丈夫だよ、ちゃんと堕ちてるから。 ちゃんとカーマのこと、見てるよ。 だから、そんなに悲しいこと、言わないでよ」 「…ばかなんじゃないですか。寂しがってなんて、ないです」 もう、本当に馬鹿だ。ただ与えるのが役割の女神を、こんなに大切にするなんて。
7 21/09/25(土)23:42:21 No.849772770
でも、やられっぱなしは面白くない。 「今日はありがとう、付き合ってくれて。 じゃあ、寝ようか」 「…待ってください。今日はまだ終わってませんよ」 今度は私が引き留めて、手を握ってやる。 「ほら、手くらい繋いでくださいよ。何もしませんから。 堕ちてるんだったら、そのくらいできるでしょう?」 「…そうだね。そうしよう」 掌の中に残る、砂の感触を確かに感じる。 あなたと同じ。 小さくて、みすぼらしくて。でも、離せなくて。 でも、これは私のもの。 彼がくれた、私だけのものだから。
8 21/09/25(土)23:42:42 No.849772920
微睡みの中でそんなことを思い出していた彼女の意識は、玄関の呼び鈴で一気に現実へと引き戻された。 「ただいま。ごめんね、遅くなって」 出迎える彼女の声音には待たされた苛立ちが混じっているが、それよりもなお大きい、待ち人が訪れた喜びは隠せていない。 「…思ったよりは早かったですね」 「できるだけ急いだよ。今日だけは早く帰りたかったからね」 「…ありがとうございます。 ほら、ケーキは買っておきましたから」 「…ん」 不機嫌そうな唸りをあげておずおずと手を広げた彼女を見て、男は何を問うでもなく、ゆっくりと彼女を腕の中に迎え入れた。 「いつもありがとう。結婚してからここまで一年無事に過ごせたのも、カーマのおかげです」 「…当たり前のことを言ったって足りませんよ。 もっと、ちゃんとわかるように行動で示してください」 「…うん」 銀砂の髪が、そっとかき分けられる。そんな彼女の耳飾りには、星の形をした砂粒があしらわれていた。
9 21/09/25(土)23:43:00 No.849773052
「んっ…」 もう、言葉は要らなかった。重ねた唇が、寂しさを埋めてくれるだろうから。 宇宙を満たす愛の獣に与えられた、小さな小さな、星の輝き。 きっと彼女は、いつまでも大切にすることだろう。 彼女だけに与えられた、本当の愛の形を。
10 21/09/25(土)23:43:42 No.849773394
おわり カーマちゃんはちょろいしめんどくさいしかわいいから好きです でもいくら回しても来てくれないからやっぱり嫌いです
11 21/09/25(土)23:45:43 No.849774364
カーマちゃんは幸せ四畳半に放り込まれるのがよく似合う
12 21/09/25(土)23:47:54 No.849775483
(パールさんの生暖かい視線)
13 <a href="mailto:別の休日">21/09/25(土)23:50:01</a> [別の休日] No.849776537
「おはよう」 目覚めた彼は目の前の光景に驚くこともなく、自らの伴侶に朝の挨拶をした。 何一つ身に纏うことなく、その美しい身体を愛する男の前に晒している彼女を見遣りながら。 「ぁう…♡」 そんな彼女は挨拶の代わりに、甘い嬌声をあげた。 「ごめんね。昨日は構ってあげられなくて」 「犬や猫みたいに言わないでください…ぁっ♡」 「そうだね、ワンちゃんやネコちゃんはこんなにえっちじゃないよね」 言えるはずもない。 残業で遅くなった彼への寂しさが募って、泥のように眠る彼の寝床に忍び込んだことも。年相応にたくましい彼の身体に抱かれて、女として愛されることを我慢できなくなってしまったことも。 けれど、うっかり口を滑らせても、今の彼はきっと咎めはしないだろう。 愛するひとの温もりに飢えていたのは、彼も同じなのだから。
14 21/09/25(土)23:52:06 No.849777567
「ぁぁぁああっ…♡」 今や逆に組み敷かれて、愛する男の熱い想いを受け止める彼女に、愛欲の獣の面影はない。 ただ愛し合うことを全身で謳歌している、ただの恋する女そのものだった。 「俺も、もう…!」 「…ください…マスターさんので、いっぱいに、してください…♡」 限界が近づく彼の腰に、彼女はそっと脚を絡めた。愛する伴侶の遺伝子と情熱を受け入れるために。 「好きだよ…う…んっ」 「…わたしも、すき、だいすき…♡ …ぁ、ぁぁぁああっ…♡」 胎に熱いものが注がれるのを感じながら、それでもなお足りないというように、彼と彼女は唇を重ねて、想いを交わし合うのだった。
15 21/09/25(土)23:53:24 No.849778188
えっちには強いけどラブには弱いのでいちゃらぶえっちにはよわよわになる説を提唱したい
16 21/09/25(土)23:54:29 No.849778693
いい… 与えるカーマちゃんが受け取ることだけでおさまらないから沢山与えてくれるだろう そうやって互いに積み重ねていく…まるで夫婦ですね
17 21/09/25(土)23:55:17 No.849779045
>いい… >与えるカーマちゃんが受け取ることだけでおさまらないから沢山与えてくれるだろう >そうやって互いに積み重ねていく…まるで夫婦ですね まるでじゃなくてほんとの夫婦なんですけどー?
18 21/09/25(土)23:57:25 No.849780121
イチャイチャの延長線上でえっちするなら絶対抱き心地もいいし気遣いもできるし なんていい女神なんだ…
19 21/09/26(日)00:05:59 No.849784250
深夜になんてものを……ありがとう……
20 21/09/26(日)00:08:11 No.849785314
思ってたより7倍くらい長かったありがとう
21 21/09/26(日)00:13:20 No.849787590
「…どうしたの?」 抱きしめられた感触で目を覚ました彼に、彼女は何も答えなかった。 「…いいから、黙って抱いてください」 胸元に埋められた彼女の声はくぐもっている。涙ぐんでいるのを誤魔化すような声だった。 「マスターさんは、ずっとここにいますよね。 私のこと置いて、いなくなったりしませんよね」 そんな彼女に彼は問い返すこともせず、ただ黙ってそっと抱きしめた。 「カーマを置いてなんて行けないよ」
22 21/09/26(日)00:13:25 No.849787632
>確か、この近くの砂浜の砂は面白い形をしていると聞いたことがある。それが掌の中に握られていた。 >星の形をした、小さな砂粒が。 >「ごめんね、ちっちゃくて。 >でも、今できる全部、そこに込めたから」 カーマの宇宙は綺麗って言ったお前ならそういうことするよな
23 21/09/26(日)00:14:45 No.849788223
「…そう、ですか。 …朝になるまで、こうしていてくれますか。もう今日は、眠りたくないんです」 「うん。君が望むなら、いつまでも」
24 21/09/26(日)00:15:49 No.849788700
朝も昼も夜も一緒だから悪い夢を見てもすぐ慰めてもらえるのである
25 21/09/26(日)00:17:20 No.849789410
おかわり来た?
26 21/09/26(日)00:25:37 No.849793336
色んな特異点や異聞帯に行っても星が綺麗って言えるマスターいいよね… 星を手渡すマスターいいよね…
27 21/09/26(日)00:26:02 No.849793527
何が凄いって最終再臨しただけであのイチャツキだからな絆0でもあれだ
28 21/09/26(日)00:27:50 No.849794362
「あ、それ」 部屋の中に入った彼の目に飛び込んできたのは、どこか懐かしい装いだった。 「女神ですから。体型の維持くらい、できて当然です。 それよりどうです?久しぶりにカーマちゃんの水着を見た感想は」 今度はもう一度、彼女の艶姿を見遣る。 美しさを崩さない完璧なスタイルに、女性的な魅力を現出するふくらみは、男なら誰しもが振り向いてしまうような代物だった。 「綺麗だよ。今も。昔も。 でも、俺の前以外でこの格好はしないで」 抱きしめられて、独り占めにしたいと囁かれた彼女に、拒絶の意思はまるで見えない。 「…わかってますよ。 着せていいのも脱がせていいのも、あなただけですから」
29 21/09/26(日)00:30:24 No.849795443
やめないか砂糖まみれの文章を投げかけるのは