ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/09/25(土)03:03:58 No.849439267
「本旅館の温泉は『単純温泉』────つまり、一般適応症、いわゆる神経痛、筋肉痛、健康増進などに有効です」 「んー……あんまり私には縁が無さそうかな?あ、でも健康増進はいいかも」 「その他マッサージ、アロマサロンなど全9種類のリラクゼーション施設が……」 「凄いねぇ、いっぱい調べたの」 某温泉旅館の一室。 引き当てた温泉旅行券を使って遊びに来た二人組が施設について談笑していた。 「はい、この旅行はマスターへの感謝を伝えるもの。下調べは当然です」 「ありがとね。でもブルボンが引き当てた旅行券だし、貴女も楽しんだらいいんだよ」 そう言ってトレーナーは荷物から入浴セットを取り出し立ち上がる。 そのまま温泉に向かおうと襖に手を掛けたところで、彼女が微動だにしていないことに気が付いた。
1 21/09/25(土)03:04:22 No.849439307
「……あれぇ、ブルボン温泉行かないの?」 「必要ありません。部屋の浴室で十分です」 「えぇ~行こうよぉ。せっかくの温泉だよ?あんまり来る機会無いよ?」 「ですが……」 尚も渋る彼女の手をトレーナーは握り、目を輝かせながら食い下がる。 「どっちかというと頑張ったのはブルボンだし、ブルボンも楽しまないと意味ないよ!」 「……そ、それが命令なら」 「よし行こう!ほらほら早く準備して!」 「お、オーダー受理。入浴の準備をするので少々お待ちください」
2 21/09/25(土)03:04:34 No.849439341
~⌚~ 「あれ、誰もいないや。流石にシーズン外れてるからか」 「ステータス『貸し切り』に近い状態と判断。……不満、でしょうか」 「とんでもない!二人占めなんていいじゃん!ほら早く体洗っちゃお!」」 年甲斐も無くはしゃぐトレーナーに背を押され、二人並んで体の洗い場に向かうのだった。 「ふぇ~……あったかい……」 「……これが、『いいお湯』という感覚なのでしょうか。確かに寮での入浴では得られない感覚です」 「あ、そういえばウマ娘って尻尾あるじゃん」 「……?それがどうかしましたか」 岩の縁に身を預けていたトレーナーが起き上がり、目線を下……湯に浸かり切った下半身に向けた。
3 21/09/25(土)03:04:53 No.849439375
「温泉は髪の毛浸けちゃいけないけどさ、尻尾の毛ってノーカンなの?」 「……そ、れは……」 今まで全く意識しなかった問いかけに、彼女の脳がオーバーヒートを起こす。 どんどん遠ざかる目の焦点で藪蛇を察したトレーナーが慌てて話を切り上げた。 「わーわー!ごめんごめん!よく考えればダメなら尻尾カバーとか売ってるもんね!この話やめやめ!」 「……すみません、下調べが不足していたようです。温泉の歴史についてもリサーチを入れておくべきでした」 「いや変なこと聞いたのはこっちだし、今は何も考えずゆっくりしよう、ね」 「はい、オーダー『ゆっくりする』を実行します……ふぅ……」 ひと悶着終え、湯に浸かりながら二人ゆっくりと月を仰ぐ。 夜風が優しく頬を撫で、地から湧き上がる熱が体を芯からじっくりと温めていく。
4 21/09/25(土)03:05:12 No.849439416
贅沢な沈黙に浸っていた中、なんとは無しにトレーナーが口を開いた。 「三冠、取ったねぇ」 「はい、マスターのおかげです」 「天春も、JCも、有馬も、勝ったねぇ」 「はい、どれもマスター無しでは勝ち得なかったものと認識しています」 整然とトレーナーへの感謝を伝えるブルボン。 しかし、当の本人の視線は遠く、月よりも向こうに何かを透かし見ているようであった。 「……私、新人でさ、もう3年も経ったけど。なのにこんな偉業達成しちゃって……」 そこまで言って、恥ずかしいような苦しいような表情で視線を落とす。 「……いや、達成したのはブルボンか。私は何もしてないな、バカ」
5 21/09/25(土)03:05:30 No.849439447
「そんなことはありません」 自虐に走るトレーナーの手を今度はブルボンが取り、しっかり顔を見据える。 青い瞳が真っすぐ視線を埋め尽くして、トレーナーは何も言えなくなった。 「貴女が信じてくれなければ、私は中距離以上の路線に進むことは無かったかもしれない。 貴女が私の為にハードトレーニングの管理をしてくれなければ、無理が祟っていたかもしれません」 「……」 「貴女が居なければ、今の私はありません。ですから、この栄光は二人のものだと認識しています」 そうハッキリと断じた。
6 21/09/25(土)03:05:52 No.849439492
そこまで言って、彼女はトレーナーの視線がやや下にズレていることに気が付いた。 つられて視線を落としてみると、そこにはタオルも巻かず宙で重力に身を任せる、自分の…… 「……マスター」 「いや、間近でみるの初めてだし……ごめんて」 「……ステータス『脱力』を確認。……大丈夫です」 そのままゆっくりと、先ほどよりも深くお湯に浸かった。 ……少々胸を隠し、咎めるような視線を送りながら。 「いやね、散々見てきたけどやっぱり生の迫力って凄いねって」 「言葉に余計な意味が含まれているように感じます」
7 21/09/25(土)03:06:05 No.849439510
先ほどの熱血さはどこへやら、気の抜け切った雰囲気が月夜を満たす。 「……うん」 「マスターは十分魅力的な女性だと」 「何も言ってないじゃん!おばか!」 ぺたぺたと自分の胸を触って確かめるトレーナーに、余計な一言が突き刺さる。 何か余計な線が切れたのか、まくし立てるようにトレーナーが続けた。 「そういえばさ、出会った頃に私のことお父さんって呼びかけたよね!あれ結構ショックだったんだよ!?私そんなに男っぽかったかなぁ……って」 「そういう意味ではなく、私の夢に対する向き合い方が……」 「それは分かってるけどさぁ……うぐぐ、ウマ娘の美貌が憎い……羨ましい……」 「大丈夫です。きっとマスターにもいつか……」
8 21/09/25(土)03:06:23 No.849439540
(いつか、素敵な男性が、……?) そう続けようとした口が閉じる。 貴女は素敵だから、きっと伴侶にも恵まれる。 自分の言いたいことは完全に把握しているのに、どうしても口が動かない。 「ふーん、いいもんだ。私の代わりにブルボンが可愛いからいいもーん」 「……!?」 そんな内心の揺れなど露知らず、情緒の揺れ切ったいい大人が年下の少女にしなだれかかる。 突然触れる肌の柔らかさ、温かさにまた新たな感情がブルボンの中で芽生える。 しかしそれは全く未知で、類似したものが見つからないことに彼女は大いに戸惑った。 温かくも、胸を締めつける。荒れ狂うようで、静かに降り積もるそれは…… (この、気持ちは……)
9 21/09/25(土)03:06:35 No.849439557
「はぁ、ごめん。みっともないところ見せちゃった」 「い、いえ……」 「そういえば私これからどうするんだろう。このままブルボンの担当続けるのか、それとも新しいウマ娘スカウトするのかな」 「……マスター」 「んー……後はチームの結成とか?そういえば近々チームレースどうのこうの……」 「マスター」 「ん、ごめんごめん。何かな?」 少し考えても結論は出なかった。 しかし、この感情は彼女に問うてはいけない気がする。 ならば、自分で確かめなくてはいけない。
10 21/09/25(土)03:06:46 No.849439575
「私の実家に来ませんか」 「わぁ凄い急。いつにする?」 「日時は……」 ひとまず、一番近い父と比べてみよう。 バレたらまた彼女は憤るだろうかと思いながら、次の帰省の段取りを話し合うのだった。
11 21/09/25(土)03:07:16 [s] No.849439634
さっき初回育成で温泉引き当てたので書きました
12 21/09/25(土)03:09:24 No.849439835
このミホっとした……
13 21/09/25(土)03:12:29 No.849440138
貴重なナイスメストレ怪文書ありがたい…
14 21/09/25(土)03:14:58 No.849440373
しっとりしていいね…
15 21/09/25(土)03:15:39 [s] No.849440459
デジたん追ってる時にあの靴だ……できたしアオハルじゃないので10冠取れたりして色々と思い出深い子になりました なんでスプリング負けたの……
16 21/09/25(土)03:16:46 No.849440559
ミホッとした中に秘めた独占欲いい… オペレーション実家挨拶成功させてもっと深い関係になってほしい…
17 21/09/25(土)03:31:36 No.849441982
>ミホッとした中に秘めた独占欲いい… >オペレーション実家挨拶成功させてもっと深い関係になってほしい… 肉体関係まで踏み込むのかそれともプラトニックに付き合い続けるのかは議論の余地あり
18 21/09/25(土)04:47:21 No.849446817
スプリングはマイルBだと時々事故る マイルAだと極稀に事故る
19 21/09/25(土)06:24:09 No.849451105
>「温泉は髪の毛浸けちゃいけないけどさ、尻尾の毛ってノーカンなの?」 >「……そ、れは……」 >今まで全く意識しなかった問いかけに、彼女の脳がオーバーヒートを起こす。 >どんどん遠ざかる目の焦点 この辺が完全にブルボン