21/09/17(金)18:53:52 「こん... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1631872432685.png 21/09/17(金)18:53:52 No.847042074
「こんにちは……あら、蛍光灯切れちゃったんですか？」 スーパークリークがトレーナー室に来ると、脚立を据えて天井に向かい腕を伸ばすトレーナーの姿があった。 手の先では今まさに軽い音を立てて一本の蛍光灯が外れ、ゆっくりと下ろされていく。 「ちょうどよかった。これそこの箱に入れて、替えのやつ取ってもらえる？」 「はーい。どうぞ」 鞄を傍らに置いて脚立のふもとで蛍光灯を受け渡す。 もう一本ある替えを見つけて取りに行く途中で、机の上に積もった書類やつけっぱなしのパソコンを見つけ、昨夜の彼の様子を察したのだった。 「トレーナーさん、ちゃんと寝ましたか？」 「提出予定の書類に不備があってね、これが終わったら仮眠を取るよ」 ややむくれた声音で咎められるトレーナーに大人の威厳らしいものは感じられない。 叱る叱られるの関係も年齢からみればあべこべだが、当人らからすればこれが自然である。
1 21/09/17(金)18:54:10 No.847042198
「もう！仮眠じゃなくてちゃんと寝て下さい！そんなにわるいこだと、めっ、ですよ」 「はは、反省して───あ」 「トレーナーさん！」 寝不足の反動でくらりと立ち暗む。 脚立の上でバランスを崩し倒れる一瞬にウマ娘の瞬発力で割り込み体を受け止めようと飛び込んだ。 ぶれる視界の中、必死の形相で抱きとめにかかる彼女を見てトレーナーは思った。 (その位置だと頭が───) 瞼の裏で、大きな星が二つ散った。
2 21/09/17(金)18:54:48 No.847042406
ずきずきと痛む頭を抱えて目を覚ます。 最後の一瞬、自分の為に身を呈した彼女の姿がよぎり、その安否に体が跳ね上がり、 「いてて……そうだ！クリーク！大じょ……へぶっ」 立ち上がろうとして前にずっこけた。 こけた際に胸が潰れてクッションとなり顔面からの激突は免れたが、潰された胸は結局痛い。 そんな状況を把握することにすら少しのラグが生じていた。 「あ、あれ！？なにこれ、胸超デカい！？」 重心を大きく偏らせるそれに、どうもトレセンの制服らしい衣装越しに振れる。 確かに触られている感触と触っている感触があって、強く握ると少し痛みが走った。 「あ、あれ、あれ？」 視界で操る手も見慣れたものより随分細くて白く、困惑する声もどこか優しさを感じる高めの物になっていた。
3 21/09/17(金)18:55:03 No.847042488
取り分け違和感を感じるのは、頭頂と腰の後ろ。 意のままに動く棒が足されているような感覚で、その先をふさふさとした毛が覆っている。 紛れもなく『自分』の物のそれは…… 「ウマ娘になってるー！？」 「ん……トレーナーさんは……あ、あら？私……？」 大きな声で起こしてしまったのか、傍らで倒れていた男が起き上がる。 その、鏡で見るよりもう少し冴えない印象の面には強烈に見覚えがあった。 「俺……じゃない……？」 「えっと、私、ですか……？」 互いに顔を突き合わせて一緒になって混乱する。 ふとこの前見た金ローの内容が重なって、口からぽつりとつぶやかれる。 「「入れ替わってる……」」
4 21/09/17(金)18:55:23 No.847042605
再度ぶつけて見て二重に痛む頭を俺たちは抱えていた。 問答の末、俺の体に入っているのはクリークで確からしいと結論が出たのは救いかもしれない。 「これからどうしましょうか……」 と女言葉で頭をさする自分の姿を見るのは精神的にクるものがあるが、この際仕方ない。 「……とりあえず今日と、大事を取って明日スーパークリークは休みということにして、その間に解決とできなかった時の身の振り方を考えよう」 「そうですね。寮には……」 「俺の覚悟が出来てない。看病の名目で外泊届を出そう」 「タイシンちゃんに心配かけちゃいますね……」
5 21/09/17(金)18:55:43 No.847042731
二日後。 あるトレーナー寮の一部屋から登校するウマ娘の姿があった。 「……え、えっと、それじゃあ行ってきますね。と、『トレーナーさん』……」 「はい、行ってらっしゃい。く、『クリーク』……なんだかこれ、すっごく恥ずかしいですね……」 解決法を探ると言ったものの、前例なんかあるわけも無く、糸口すら見つからないので早々に切り上げた。 代わりに今後の過ごし方……俺はなるべく『スーパークリーク』として、彼女は『クリークのトレーナー』として過ごすための情報交換に費やした。 「学生に戻りたいと思ったことはある……ありますけど、こういう形は御免被りたかった……ですね……」 「が、頑張ってください……！」 「はい……」
6 21/09/17(金)18:56:14 No.847042901
『トレーナー』の方はカマっ気が出たということにして負担を減らせるが、『スーパークリーク』はそうも行かない。 俺と違って横のつながりも結構広く、世話焼きがちなため人との関わりが非常に多い。 その為、口調の徹底や行動の癖付け、寮の私物の配置や服の着替え方などを叩き込み、借りたスマホにもびっしりメモが詰まっている。 多少の失敗は病み上がりで誤魔化すが、あまり違和感があると元に戻ったときに彼女に恥をかかせてしまう。 「そこまで気張らなくてもいいですからね……！無理のない範囲で！」 「分かっ、て、ますよ～……」 ……今からでも三女神に祈ってこようか。元に戻してくれって。 ……一日みっちり『スーパークリーク』としての研修を受け、実践でもう数日過ごしてみて分かった。 「これ頭おかしくなる……」 「お疲れ様です。いい子いい子～」
7 21/09/17(金)18:56:48 No.847043092
今はトレーナー室で二人っきり。 彼女の真似に意識を割くのは疲れるので今だけは素に戻っている。 というか戻らないと自分が自分じゃなくなる気がする。 「……うふふ」 「どうしたの」 「自分で自分を甘やかすのって、不思議な感じがするな、って」 「ああうん、そっか」 こっちからすれば、自分の顔が慈愛に満ちた表情で頭を撫でてくるのが気味悪い。 だけど止めてとも言えず、為すがまま撫でられるままである。 「邪魔するで。クリークおるか？」 「たっ、タマちゃん！？」 「……なんやトレーナーさんえらい慣れ慣れしいな」 「あっ……！」
8 21/09/17(金)18:57:18 No.847043249
「たたっ、タマちゃん！何か用があるんですよね？ね？」 「そんな驚くことないやろ……？ほい、忘れもん」 「あ、ありがとうございます……えーっと、いい子、いい子～」 「こんなことで頭撫でんなや！」 「ふぅ……」 「あ、ありがとうございますトレ、く、クリーク……」 こうした急な来客への対応も今後避けては通れないだろう。 その度にスイッチの切り替えを強いられると思うと本当に気が重い。 「ごめん膝借りる……俺のだけど……」 「わわ」 糸が切れた人形のように自分の物だった膝に倒れこむ。 うつ伏せだと呼吸ができないので横向きになって、少々硬い太腿に頭を預ける。 そういえば、恥も外聞も捨てて甘えるのはある意味初めてかもしれない。それほどまでに今日は気疲れしてしまった。
9 21/09/17(金)18:57:58 No.847043456
「うぅ……気が重い……早く元に戻りたい……」 「……」 「『クリーク』、今日も一日お疲れ様」 突然、頭上から聞こえていた女々しい声色が芯の入ったものに変わる。 「！？……へっ、あっ、クリ───」 「『トレーナーさん』、だろ？ほら、ちゃんと呼んで」 見上げたその表情には慈しみもそうだが、どことなく有無を言わせなさがあった。 まるで聞き分けの無い子供を躾けるときのような…… 「……と、トレーナー、さん……」 「はい、よく言えました。クリークはいい子だね」 打って変わって優しい、けれど男らしい声に変わって、優しく頭を撫でられる。 確かに安らぎはあるが、それ以上に、急に俺の体の中身が変わってしまったような、言いようのない不安が心を満たす。
10 21/09/17(金)18:58:14 No.847043544
「く、クリーク、だよな……？」 「……『私』はちゃんと『私』だよ。でも、ちゃんと俺に言い換えないと駄目かもしれないね」 「きゅ、急にどうして……」 普段の彼女の話し方で、普段の自分の声が『自分』を甘やかす。 異常極まる状態に悪寒が止まらない。 「……『クリーク』は、『クリーク』のままでいいんだよ。無理して俺みたいに振る舞わなくていいんだ」 「何を、言って……」 「一々切り替えるのは疲れるでしょう？だから、その体ならそのままいればいい」 「や、やだ……それじゃあ『私』は……」 穏やかに頭を撫でながら、諭すように『トレーナー』は呟いた。
11 21/09/17(金)18:58:30 No.847043628
「『俺』は、ずっと覚えているから」 「あ……」 「だから、今は、ゆっくりお休み」 微睡んでいく。 自我のカクテルに二人きりで沈んでいく。 (ああ……もう……) 抱き合って、曖昧になって、誰からも分からなくなる。 だけど、暗い皆底に二人きりでも、 それでも、二人だけは覚えていよう。
12 21/09/17(金)18:58:53 No.847043749
こっちかぁ
13 <a href="mailto:s">21/09/17(金)18:58:55</a> [s] No.847043755
こういうのが読みたいが距離適性の継承に失敗したので失礼する
14 21/09/17(金)19:02:25 No.847044897
おい待てェ
15 21/09/17(金)19:04:01 No.847045503
ク…クリークパパ…
16 21/09/17(金)19:04:50 No.847045745
入れ替わり戻らないのが多すぎるよぉ...
17 <a href="mailto:s">21/09/17(金)19:07:33</a> [s] No.847046642
fu351181.txt 後日付き全文 貼るのめんどいからこっちで読んでね
18 21/09/17(金)19:37:36 No.847056559
いい…とてもいい… 短すぎず長すぎずいい塩梅の怪文書だった 両親からの他人扱いはしょうがないけど悲しいよね…
19 21/09/17(金)19:39:38 No.847057320
気軽に川を渡るなぁ
20 21/09/17(金)19:44:46 No.847059336
渡河どころか本当に行くところまで行ってしまった… でもこういうのもいい…
21 21/09/17(金)19:46:17 No.847059968
クリークの甘やかし方正反対になっちゃった