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    21/09/15(水)18:58:34 No.846386274

    ペイジンたちが運営する孤児院…通称「秘密基地」では、明日催される誕生会の用意が着々と進められていた。 主役は10歳になる男の子。特に接点があるわけでは無かったのだが、準備を手伝って欲しいと頼まれれば断る理由もない。 快く了承し、ペイジンたちと部屋の飾り付けに勤しんでいた。 「う~ん…うぅぅぅぅん? 」 すると、隣で絵を描いていたテンシンから呻き声のような吐息が聞こえてきた。 絵を描いていた、とはいっても決してサボっている訳ではない。 誕生日プレゼントとしてイラストを渡すことにしたのだが、直前に任務が入ってしまい描く時間が確保できなかったのだ。 そのため前日の今になって完成させようとしていたようなのだが…あの様子ではどうやら行き詰まってしまったらしい。

    1 21/09/15(水)19:00:03 No.846386759

    「どうした? テンシン。イラストで悩むなんて珍しい」 あまりにも長考するテンシンを見かねたペイジンが背後から声をかけるが…極まった集中が周囲の音を遮断しているのか、一向に気づく気配がない。 ペイジンの呼びかけが聞こえないほど集中しているところは初めて見た。体を叩くなどして物理的な刺激を加えれば解けるかもしれないが、そこまでしても良いものなのか逡巡する。 「う~ッ。ここは…こうでぇ… 」 「…こら、テンシン」 ―――しかしペイジンはこちらの躊躇いを吹き飛ばすように、両手でテンシンの頭を掴み取りぐりんぐりんと左右に揺さぶった。 「ぐわぁぁぁぁっ!? な、なんでしょうか!? 」 冷や水をかけられた猫のように飛び上がるテンシン。

    2 21/09/15(水)19:01:09 No.846387188

    さすがというか…2人の遠慮のないこの距離感はまだまだ真似できそうにない。 「そうやって机を睨んでいてもシワが増えるだけだ。行き詰まったら遠慮なく周りの人に相談しなさい」 …ペイジンもよく資料を睨みつけながら唸っているところを目撃するのだが。ここで口を出すのは野暮というやつだろうか。 「あ…そ、そうですね。これは失礼しました!」 「それで、どうしたの?」 「実は…イラストの線画までは上がったんですけど、色塗りに難儀してまして」 いつも勢いに任せ、猛スピードで傑作を仕上げてしまうテンシンとしては非常に珍しい。

    3 21/09/15(水)19:02:25 No.846387685

    「オリジナルのロボットだとかヒーローを描いてみたんですけど…男の子が喜びそうな色合いというものがイマイチ思いつかなくて」 中々に難しい質問だ。絵のことなど到底分からないし、色に関しても素人同然だ。 今まで感覚で描いてきたテンシンの筆が止まるようなイラストに対して、的確なアドバイスなどできそうにない。 ペイジンも絵のことは専門外だろう…そう思って彼女の方に目を向けるが、顎に手を当てて少しの間思考を巡らせたのち、小さく口を開いた。 「ふむ、色か…。それなら『補色』を意識してみると良い」 「補色…ですか?」 聞き慣れない単語に首を傾げるテンシン。 かくいう自分も、全く意味は分からないのだが。

    4 21/09/15(水)19:03:38 No.846388145

    「そうだ。色の組み合わせの中には、互いの色を引き立て高め合う相乗効果が期待できるものもある」 「そ、そんな組み合わせがあるんですか!? 知りませんでした…」 むしろ、知らずに自身のセンスだけであそこまで綺麗な画を仕上げていたことに驚愕するのだが…。 「例えばほら、こうやって黄色と紫色を足してみると…」 ペイジンが筆を手に取り白紙の紙に思い思いの線を塗りたくる。 すると、少し薄められた紫と黄のコントラストが上手く調和し、印象に残る不思議なレールの画が浮かび上がってきた。 「今までは自分のインスピレーションに任せて描いていたんだな…。勢いも大切だけど、こういった知識も蓄えて自分の中に理論と理屈を持てば表現の幅も広がるし、もっと自由に絵が描けるようになると思うよ」 「な、なるほど」

    5 21/09/15(水)19:05:12 No.846388775

    「もちろん補色は、ただ使えば良いというものでもない。「反対色」とも呼ばれるくらい、本来真逆の要素を持つ色同士の組み合わせだからね」 「でも、色の具体例がいくつかあるだけでもかなり作業が捗りますね! 組み合わせは他にどんなものがあるんですか?」 「そうだね…て、こっちも時間が押してるんだった。資料を渡すから自分で調べなさい」 そういうとペイジンは、自室から一冊の本を持ってきてテンシンに手渡した。 「ありがとうございます! 頑張って完成させますね!」 「うん、頑張って。さて、車掌。そろそろ準備に戻ろう」 早足で部屋を去るペイジンの後を追いかけ、こちらも出入り口のドアをくぐり抜ける。 去る間際テンシンのほうに目を向けると、また先程のように目の前の画用紙に夢中になっていた。

    6 21/09/15(水)19:06:15 No.846389221

    パーティの準備もいよいよ大詰めを迎え、残すところ天井に貼り付けるリースだけとなった。 「ふぅ…思ったより時間がかかってしまったな。しかしこれで最後だ」 大きく息を吐いたペイジンは手に持った派手なリースをこちらに見せつけながら、膝を少し曲げしゃがむようなジェスチャーを向けてきた。 「すまないが、私を肩車してくれないか。このままでは天井に届かない」 ああ…確かに。この部屋には脚立がないので、どちらかが台代わりにならなければならない。 ペイジンの指示に従い、その場にしゃがもうと膝に手をつくと――― 「完成しましたよーッ!!!」

    7 21/09/15(水)19:07:22 No.846389701

    ―――そこに、興奮した様子のテンシンが大きな画用紙を持ちながら突っ込んできた。 「うわっ!? 急に大きな声を出さないでくれ!」 「すみません! でもほら、見てください! とってもキレイに仕上がりました!」 そう言ってテンシンが広げた画用紙には、赤と緑を基調とした彩り豊かな世界が広がっていた。 「…む、綺麗に仕上がってるじゃないか。頑張ったね、テンシン」 「はい! ハカセのおかげですよ! 補色、奥が深いものですがなんとか形にできたと思います!」 いつにも増して自信ありげにイラストを見せびらかすテンシンの表情は、年相応の無邪気な笑顔になっていた。 どうやら、スランプからは完全に脱することが出来たようだ。

    8 21/09/15(水)19:08:18 No.846390071

    「これであの子も喜んでくれると良いのですが…」 「クオリティも高いけど、それだけじゃない。テンシンの真心が籠っていることが伝わってくる。きっと喜んでくれるよ」 そう言ってペイジンが眺めるイラストを改めて見てみると、ふととある既視感が意識の奥底から湧いてきた。 この淡い赤と緑の色相の組み合わせ…どこかで見たことがある気がするのだが…どこだったか。 「さて、プレゼントの用意も終わったことだし、テンシンも手伝ってくれ。天井にリースを付けるから、肩車を頼むよ」 「え? あ、はい! お任せください!」 2人が手を触れ合えるほどの距離に近づいた瞬間、既視感の正体に気づいた。 この赤と緑の配合は…ペイジンとテンシン、2人の髪の色と同じ色相なのだ。

    9 21/09/15(水)19:09:16 No.846390432

    「ちょ、テンシン! そんな力任せに持ち上げないでくれ!」 「えへへへ…ハカセを持ち上げるの、すごく久しぶりな気がして。ちょっと嬉しくなってしまいまして」 …なるほど。正反対の性質を持つからこそ、その組み合わせは互いを強調し、支え合い、高め合う。 この2人の関係性こそがまさに「補色」。コンプレメンタリーカラーと言えるのかもしれない。 「車掌! 君も見ていないで支えてくれ。テンシン1人ではやっぱり不安だ」 「そんな~」

    10 21/09/15(水)19:09:51 No.846390621

    生まれも才能も性格も、なにもかもが正反対と言える2人。 デコボコで、歪で、不安定。 しかしそれでも、躊躇いなく手を繋げる。笑い合える。命を預けられる。 信頼。そのたった一つのピースが揃えば、例え世界の反対側にいる人間とも繋がることができる。 目の前にいるたった2人の小さな少女から…そんな無限の可能性を感じ取ることができた。 完

    11 21/09/15(水)19:20:14 No.846394258

    ハカセの誕生日にあえて誕生会の主役じゃなく準備役の風景書いてるところが好き

    12 21/09/15(水)19:33:11 No.846399054

    ハ カ セ お 誕 生 日 お め で と う

    13 21/09/15(水)19:49:49 No.846405683

    保存ヨシ!

    14 21/09/15(水)19:50:45 No.846406057

    多分書いた本人がうどんに投げ込んでくれると思うからとくに保存とかしなくて良いな

    15 21/09/15(水)19:54:33 No.846407629

    ごめん赤いメモ帳だからちょっと警戒した