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    21/09/15(水)12:23:43 No.846288872

    目が覚めると、そこは見知った天井だった────それもそのはず。ここはトレセン学園内の一室、我々が普段拠点としている、トレーナー室だからだ。 朝から行動した日はここで昼寝をする事だって珍しくはなく、基本的には毎日この部屋に顔を出す我々にとってみれば、天井の板一枚だって相棒に等しいほど見慣れたもので、そんな場所で目を覚ましてしまえば、なんで眠っていたかは特に疑問にも思わなかった。 ひとまず身体を起こしてみれば、眠っていたのは完全に床の上で、流石に自分の事が少し心配になる。 まぁ最近は担当ウマ娘のマヤノトップガンとその愉快な仲間たちにしばしば振り回されていたから、昼寝の時間も取らずに行動していて、疲れていたという事はあるかもしれない。 相当に疲れていたのか、眠る前の記憶は曖昧で、なんといっても視界がちょっとばかり眩しく感じるし、なんだか周りの物が大きく見えたりする。 そういえば、子供の頃もこんな感じで物が小さく見えたり、大きく見えたりする事が何度かあったような気がする。アリス症候群などと名付けられていたかなと思い出しながら目を何度か擦っても、その視覚効果は改善しない。

    1 21/09/15(水)12:24:02 No.846288958

    段々と怖くなって、マヤが用意するようせがんで来たのでわざわざ備品として注文した姿見に向けて歩いて、顔色でも見てやろうかとした時、思わず小さな悲鳴を上げる。 その悲鳴はなんとも可愛らしく、そして悲鳴と同時にぞわりと背筋に走った悪寒はそのまま、尾骶骨から伸びた何本もの骨の連結体を通って、毛束を大きく天へ震わし、耳はつんと天辺へと向けられた。 姿見に映っていたのは二十歳をいくらか過ぎた男の姿ではなく────栗毛の、小柄なウマ娘。 担当ウマ娘の、マヤノトップガンであったからだ。 「……ひっ。うわ、嘘じゃない」 思わず態度まで乙女じみた事をしながら、ぺちぺちと頬を叩く。 優しく叩けばそのように衝撃が返ってきて、柔らかな頬を揺らしながら、脳に現実である事の証を示す。 そして、思い出したかのようにびりびりと来た額の痛みと、姿見越しに見える、背後のソファで伸びた男の姿で、ようやく直前の出来事を思い出す。 ────いつものように、飛びつく彼女を座ったまま受け止めようとした事。 ほんの僅か、普段より勢いとジャンプ高度が高く、掴み切れずにぶつけた事。

    2 21/09/15(水)12:24:24 No.846289067

    「まさか、本当に入れ替わって」 慌ててソファで伸びたままの男のもとへパタパタと駆けると、男の身体は未だ眠ったまま、背もたれに身体をすっかり預けて鎮座している。 本当に意識が入れ替わっているのか、男の様子からは皆目見当も付かなかったが、しかし今の自分の意識は間違いなく、あの頭一個と半分ほど大きな男の身体のもとではなく、マヤの身体に宿っているのだ。 あり得るとしたら、もう一度────そう思って、ソファに膝を突く。ゆっくりと男の膝上に跨るように膝立ちになり、ぐったりと眠る男の頭を、小さな手指でしっかりと掴んだ。 「……3秒後のマヤと俺、ごめんっ!」 そう呟いて目を閉じると、大きく上体を逸らして、頭同士の距離を取る。 閉じた瞼にぎゅっと力が入り、歯を食い縛ってお腹から息を抜いて、一思いに──── 「へぅ゙っ!!」 「っぐぁ────!!」 ごぉん、と寺の鐘でも撞いたような音が頭中に鳴り響いて、視界にばちばちと火花が散る。

    3 21/09/15(水)12:24:46 No.846289170

    思い切りが良すぎたか、うっかりすれば後頭部から倒れ込みそうな身体をぎゅっと押さえつけて、前に倒れ込む。そうすれば自分の身体をクッションに、最低でもずり落ちるくらいで済むと踏んだ。 次に覚める時は意識の在り処が元の通りである事を願って────願っていると、すぐさま頭上から、声がした。 「いっ、だぁい……誰ぇ、叩いたの」 「……俺ぇ……」 悲しいかな、意識が途切れる事もなく、ずきずきと痛む額を抱えて、互いの目が合う。 自分ではまずしないようなぱっちりと目を開いた表情に、緩んだ口元をした男と、少ししかめた表情の栗毛のウマ娘が、その顔を見合わせて、 「……あ、あ、あ────」 「待てっ、話せばわかる────!!」 快晴の日光が差し込むトレーナー室。窓も開けっ放したそこに、大声がふたつ、こだました。

    4 21/09/15(水)12:25:09 No.846289282

    「────うん、大丈夫。寝ぼけたトレーナーちゃんをうっかり踏んじゃって」 「俺もこっちも、怪我とかは特にしてないから、大丈夫。騒がせてごめんね」 近場で叫声を聞きつけた3人ほどの生徒とトレーナーを、演技と愛想笑いで追い返すと、即座にぴしゃりと部屋の扉を閉めて、鍵をかけてしまう。 先に慌てて閉じた窓にはカーテンも被せてしまって、とにかく今は秘密を守らねば、という意識が2人の間を支配している。 実際、意識だけが入れ替わったなどと説明したところで理解する者はそう多くないだろうし、迂闊に話せば面白がる馬鹿者が一部には居るのも問題だった。 「……はぁ。どうしよう」 「……ねえ、トレーナーちゃん。ひとつ聞きたいんだけど」 扉を閉めた先でがっくりと項垂れるこちらに向けて、彼女がやけに不思議そうな声色で、頭上から語りかけてくる。 はっきりと自分の声なのに、どこか子供っぽくも聞こえるその声が、なんだか不思議な、しかして違和感のないものに聞こえる。 「質問なら、今の俺に答えられそうなものに────」 「……マヤって、普段そんな内股で立ってるの?」

    5 21/09/15(水)12:25:32 No.846289421

    「あん?」 はたと気付いて自分の身体を見下ろすと、意識的にそうしたとはいえ、やたらに内股に立つ足元と、コンパクトに肘を身体につけて内旋させた腕が見える。 気付かれまいと無理矢理女の子っぽい振る舞いをしようとした結果、無理なく身体を動かしたらこうなっていたらしい。 「……いや、わからん。ただ、がっしり立つのを避けたらこうなってた」 「ふーん。じゃあ、マヤって普段からそんな、もじもじゆらゆら、可愛い格好してるんだ」 そう言われてみれば、自分はさっきから、脚も手もどこか不安げにぴったりと内側に寄せて、どこか落ち着きなく、ゆらゆらとしている。 他の生徒と話している間もそうだったのだろうか、だとしたら、ますます怪しかったりしたかもしれない。 そもそも、何故こんなに不安げな態度を取ってしまうものだろうか。そう思ってぴたりと直立しようとしたが、やはりどこか、なよなよとした立ち方になってしまう。気持ちの上では、やはり慣れていないせいだろうか。 今の身体には合っていたとしても、ニュートラルな姿勢がそれでは、なにかまずい気もする。

    6 21/09/15(水)12:25:52 No.846289524

    「……ま、まぁ、マヤはずっと可愛いよ」 「うん。すっごく……可愛いと思う……」 ごまかすように苦笑いを浮かべて、少し姿勢を崩す。 違和感のないような仕草を真似てみながらそう言ってはみたが、返ってきたのは、どこか上の空な生返事。 「なぁマヤ……どうしたんだ……?」 「トレーナーちゃん、靴のカカト」 「えっ」 そんなぼんやりとした彼女がゆらりとこちらに身体を揺らしたので、不安になって声をかけた時、こちらにそんな指摘をしてきて、意識が思わず、そちらに向く。 靴のカカトを確認しようと上半身をひねって後ろを向いた時、彼女の──元は自分の──大きな手が、肩をしっかりと掴んだ。 それに思わず肩を跳ねさせて、尻尾も大きく一振りすると、今度は両の手でしっかりと両肩を掴まれて、こちらをホールドしてしまう。 身体を思い切り振れば振り解けそうな力加減にも、しかして動かし方、力み方が、今が今ではしっかりと分からないせいか、言う事をなかなか聞いてくれない。

    7 21/09/15(水)12:26:11 No.846289629

    「……マヤね、わかっちゃったんだ。トレーナーちゃんから見たマヤは、すっごく可愛いみたい」 「あ、ああ。可愛いし、格好良いよ」 やけにうっとりとした声が、発達した感覚器にはっきりと届く。 それに対して、少しばかり引きつった顔でそう答えると、彼女の目が一層こちらをじっと見つめて、また一言、語り始める。 「ずっと聞いてきたけど、やっとわかった。トレーナーちゃんは、マヤにずっと夢中だったんだね」 「……そうだな」 「なら、今はきっと、トレーナーちゃんも────」 そう言って彼女の顔が、こちらにアプローチしてくる。 意外に自分の顔が整ってるなとか、睫毛長いんだなとか、そんな感想が湧くのは、マヤが俺の身体に居るように、俺がマヤを通して見ているからだろうか。 言われた通りに普段からリップクリーム塗ってて良かったなとか、前髪がちょっと伸びてきたなとか、そんな感想ごと唇を重ねた事で遮られながら目を閉じた時、舌先からコーヒーの苦い味が、ひどく苦く伝わった。

    8 21/09/15(水)12:26:27 No.846289710

    ────盛夏を控えた阪神レース場が、大きく沸き立つ。 一番人気の期待に応えた小さな栗毛のウマ娘が、ファンの前でくるりと一回転しながら手を振って、その声援に感謝を示す。 ウイニングサークルから小走りで去りながら、最後まで観客たちに手を振って地下道へと向かう小さなシルエットが、ある一人の姿をその目に捉えた時、レース中のような反応速度で耳をツンと立てて、はっきりと喜びを表すように尾が振られる。 「トレーナーちゃん!」 「……おかえり、マヤ」 「ちゃんと見ててくれた?トレーナーちゃんの言う事、今日はちゃんと聞いたんだよ」 「一番近くで見てたって」 そう言ってにっこりと笑う彼女の頭に、男の節くれ立った手がかかると、彼女の耳が丁寧に垂れていって、その手に撫でられる事を受け入れていく。 通り掛かりのスタッフやウマ娘たちもそんな光景には慣れっこなのか特に気にもしない様子で、2人きりの世界には、まるで誰も立ち入らぬかのようである。 その時、しばらくそんな褒美を受け取っていたウマ娘の耳が、またぴくりと震えて、男の手の甲をひと叩きした。

    9 21/09/15(水)12:26:45 No.846289825

    「もう良い?」 「ねぇ、『トレーナーちゃん』────今日、お泊まりしていい?」 「……ちゃんと、フジ先輩とテイオーちゃんに言うんだぞ?」 「うん。それでね……ご褒美、欲しいんだけどな」 そう少女が呟いた時、男の動きが、僅かにぎこちなくなった。 小柄なウマ娘の目はうっとりとしたものを湛えて、男になにかを、訴えかけている。 それに対してどこか覚悟を決めたような、あるいは最初からそのつもりだったかのような笑みを浮かべながら、男は彼女の頭を胸に抱いて、背中をひと撫でする。 しおらしくも嬉しそうな彼女の尾がひとつ揺れて、その腕が、男に縋っていく。

    10 21/09/15(水)12:27:00 No.846289900

    「いつから『マヤ』はそんな、悪いオンナになったのかな」 「……『トレーナーちゃん』が、わからせちゃったから」 「ふーん。ヒトのせいにシちゃうんだ?」 「……っ♡」 そう言って、男は彼女の肩を抱いて、控室へと捌けていった。 ────あの日止まってしまった時計は、新たな動力を得て、動き出すに至った。 戻らぬものを悔やむより、新たな道を行かんと、その男女は、振り向くのをやめたのだ。 決して帰れぬ川を渡った事から、目を逸らすかのように────

    11 21/09/15(水)12:27:10 [s] No.846289952

    入れ替わり好き

    12 21/09/15(水)12:30:00 No.846290894

    乗り替わり好き

    13 21/09/15(水)12:31:54 No.846291534

    ウワーッ!?また戻れなくなってる!

    14 21/09/15(水)12:39:26 No.846293978

    ウマ娘とトレーナールビコン川渡りすぎ!!!

    15 21/09/15(水)12:42:42 No.846295008

    戻れなくなってるの多くない?

    16 21/09/15(水)12:44:36 No.846295591

    戻ってる方が少ない...

    17 21/09/15(水)12:46:48 No.846296271

    いいね…

    18 21/09/15(水)12:49:44 No.846297125

    ちゃんと戻れてる奴の方が多いよ!? 川渡ってる奴は毎回インパクトが凄いだけで…

    19 21/09/15(水)12:51:46 No.846297694

    ウワーッ!?

    20 21/09/15(水)12:52:17 No.846297843

    なんつーか戻れない奴は背徳感より喪失感みたいなものを大きく感じてしまうな どれもまた乙だけど

    21 21/09/15(水)12:54:34 No.846298528

    やっぱりトレーナー側は鋼の意志を標準スキルとして持ってるよね…

    22 21/09/15(水)12:55:02 No.846298671

    そんなホイホイ渡っていい川じゃないんだそれは

    23 21/09/15(水)13:02:25 No.846300724

    >ちゃんと戻れてる奴の方が多いよ!? >川渡ってる奴は毎回インパクトが凄いだけで… でも戻れるパターンだと危険日の自分の身体渡して妊娠させようとする奴とかいるしどっちもヤバくない?

    24 21/09/15(水)13:03:25 No.846300973

    ウワーッ!こいつら順応性が高い!

    25 21/09/15(水)13:04:08 No.846301194

    >でも戻れるパターンだと危険日の自分の身体渡して妊娠させようとする奴とかいるしどっちもヤバくない? アレは本人が嘘だけどって言ってただろ!! まあ日常的に入れ替わって致してる時点で異常だが…

    26 21/09/15(水)13:04:25 No.846301267

    わかっちゃうからな…

    27 21/09/15(水)13:13:32 No.846303568

    アイコピーってそういう

    28 21/09/15(水)13:15:00 No.846303920

    >「……ちゃんと、フジ先輩とテイオーちゃんに言うんだぞ?」 ここにマヤ本人が滲んでて取り返しのつかなさを感じるのが好き

    29 21/09/15(水)13:15:59 No.846304120

    肉体の認識に魂が引きづられているの背徳的で好き

    30 21/09/15(水)13:17:58 No.846304593

    ドトウとかアヤべさんとかメス堕ちして戻ってこれないトレーナーの方が多い気がしてきた

    31 21/09/15(水)13:18:37 No.846304753

    また戻ってないー!?

    32 21/09/15(水)13:23:17 No.846305923

    賽は投げられた ユリウス・カエサルがTSしてルビコン川を渡ったときに言った言葉である

    33 21/09/15(水)13:23:49 No.846306060

    ルビコン川は浅瀬の穏やかな川じゃねえんだぞ

    34 21/09/15(水)13:26:19 No.846306619

    これ以降完全に天才型になってしまったトレーナーとそんな天才の言葉でより走りの才を高めた一人のウマ娘…

    35 21/09/15(水)13:26:30 No.846306666

    アヤベさんのは帰ってきてるやつもあったし...

    36 21/09/15(水)13:30:29 No.846307563

    ネイチャ辺りが雰囲気の違いに気付くけどその正体が掴める訳でもなくモヤモヤしてそう

    37 21/09/15(水)13:31:55 No.846307903

    パパノトップガンが卒倒してしまうー!

    38 21/09/15(水)13:32:02 No.846307933

    お互い体に眠っていた思いと戻れなくなったという状況が渡河を実現させてしまうんだ…

    39 21/09/15(水)13:34:25 No.846308463

    もしもし渡し船?ルビコン川往復っていくら?

    40 21/09/15(水)13:34:31 No.846308489

    戻れてない同士で何かを感じ取ってほしい そしてお互い気づかないふりをしていつも通り接してほしい