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21/09/08(水)00:43:58 大歓声... のスレッド詳細

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21/09/08(水)00:43:58 No.843722610

大歓声と拍手に彩られ、選ばれた16人の優駿がスタートを切る。 一部出遅れがあったものの全員まずまずの出足である。 『今年も出てきましたフェーズクロス!やはり逃げウマの彼女がレースを引っ張ります!』 先頭に立った逃げウマ。それを追いかけるようにウマ娘たちが第三コーナーに入っていく。 (最初はこんなものだろう…) エアグルーヴは中団に位置し、前の様子を伺う。最初のコーナーで順位を上げても意味がない。まずは様子見の体制のようだ。 (まだまだこれから…!) そしてエアグルーヴより後ろにつけたメジロドーベルも同様である。九番手に位置し、前を伺う体制。 (そういえばマーベラスサンデーさんは…) と、メジロドーベルが前を見渡すが、そこに彼女の姿はない。 (まさか…) と後ろを振り向くと、大きな金色の瞳を輝かせて走るウマ娘がそこにいた。マーベラスサンデー十二番手。バ群後方からのスタートである。十一番手のシルクジャスミンと外目をついて平行に走っている。

1 21/09/08(水)00:44:17 No.843722708

(あんな後ろから…) とメジロドーベルは思ったが、それもつかの間の話。すぐに意識を切り替え前を向くことだけに集中する。 そして第四コーナーを抜け、最初のホームストレッチにウマ娘たちが姿を現そうとしていた。 『さぁ正面スタンド前!ファンの大声援を受けながら選ばれた16人のウマ娘が通過していこうとしています!』 実況の声に呼応するかのように、会場からあがる大歓声。しかしウマ娘たちは順位をそのままに、各ポジションを維持して走り抜けていく。 展開は第一コーナー・そして第二コーナーを抜けても変わらなかった。そしてあっという間に向こう正面に16人のウマ娘たちが駆けていく。 観客席にてマヤノトップガンはレース展開をぼんやりと眺める。 「どうだ」 そう彼女に話しかけてきたのはナリタブライアン。マヤノトップガンの隣に仁王立ちし、レースの様子を眺める。 「うん、なんかね。みんなけん制しあってる感じ」 そうマヤノトップガンは展開を見て呟いた。

2 21/09/08(水)00:44:41 No.843722813

「マーベラスサンデーか」 ターフを見たままでナリタブライアンはそう話す。 その短い言葉にマヤノトップガンは頷いた。 レースの展開。どのウマ娘もけん制しあい、ペースや順位を上げようと中々しない。 それは一番人気のマーベラスサンデーを警戒してのことかもしれない。 最後の直線。末脚が伸びることに定評のあるマーベラスサンデー。それが今回は差しでのポジションであり、当然田力は有り余っているはず。それを鑑みると、序盤・中盤で体力を無駄に消耗するわけにはいかない。最後の直線で差し切ろうとするその脚を止めるため、ある程度の余力は残さねば、といった雰囲気がウマ娘の間に漂っているようである。 「だが、実際どこまで伸びるんだろうな」 ナリタブライアンのいうことにも一理あった。何せ休養明けで骨折の跡が色濃く残る彼女である。そのトップスピードは現状未知数。

3 21/09/08(水)00:45:00 No.843722893

「もしかしたら。マベちん、そこまで読んでの戦略なのかも」 マヤノトップガンは考えていた。レース前のあの派手なパフォーマンスは、満身創痍でまだ十全でない彼女自身を隠すためのものではないか、と。 2人が目の前のレースに思いをはせる中、ウマ娘たちが第三コーナーに入ろうとしていた。 『さぁ、第三コーナーに入りまして!ダイヤモンドダストが僅かに先頭に立った!』 遂に先頭が入れ替わった。それは即ち勝負の合図。他のウマ娘も脚色を輝かせ始める。 『しかしエアグルーヴも来ているぞ!』 (そろそろ…行くぞ!!!) 順位を上げ始めるエアグルーヴ。女帝のプライドを賭け加速の度を深めていく。 『そしてメジロドーベルも続いている!』 (私も行きます…!!!) それに続くのはメジロドーベル。憧れのエアグルーヴの後ろを追いかけるように、彼女も足を延ばし始めた。 その後ろから、大外から一人のウマ娘が、大まくりをしようとしていた。

4 21/09/08(水)00:45:18 No.843722965

『さらにその後ろから!マーベラスサンデー!』 後方から一気に順位を上げてきたマーベラスサンデー。 「マァーーーベラァーーーァァス☆☆☆」 はじけるように彼女は叫び、コーナーを鋭く回っていく。 (来たな…!!!) エアグルーヴは彼女のプレッシャーを浴びて、誇り高く笑う。 (負けられない!!!) メジロドーベルはその叫びを聞いて、強く歯ぎしりをし前だけを見る。 第四コーナーが遂に終わりを迎え、遂に最後の直線が目の前に現れようとしていた。

5 21/09/08(水)00:45:42 No.843723080

時は戻る。 一週目のホームストレッチに差し掛かる際に、マーベラスサンデーはあることに気づいた。 (あれ…?) それは自分の脚の事。いつもならぐんぐんと伸びるはずの加速度がないことに。 そこで位置をあたかも狙っていたように、後方につけ、差しを取るような構えをし、第一コーナー。第二コーナーを抜けていく。 向こう正面に入ってもそれは変わらなかった。いつも以上に脚色が伸びない。 (これは…代償だ) ふと彼女はそう思った。ただそれが、何の代償か分からないまま。 汗を全身にかきながらも、まだ彼女は冷静である。土壇場の調整を経て、ターフの上にたったものの、やはり本調子とはいかないことに気づくと、すぐさま出来ることは何か彼女は考える。

6 21/09/08(水)00:46:08 No.843723183

第三コーナーに差し掛かり、前のウマ娘達の様子はどうだろうとその視点を向ける。 (逃げウマの子たちは結構限界かも…) と思い、少し後ろに視線をずらす。 (副会長は…まだ余裕がありそう) と一瞬思うが、すぐにさらに視線をずらし (ドーベルちゃんは…ちょっと掛かり気味かな…) 彼女の顔色を伺いそう彼女は思った。 第三コーナーから第四コーナーに抜けて 「マァーーーベラァーーーァァス☆☆☆」 と彼女は叫ぶ。しかしその叫びはいつもの興奮から来るものではない。 自分が本調子であるかのように錯覚させるための、必死の虚仮威し。 徐々にだが膝が震え始める。それに伴い嫌な汗が体中に張り付いてくる。肺も心臓もまだまだ余裕があるのに、両足だけが張り裂けそうな痛みを発し始める。 それでもなお、彼女は諦めようとしなかった。

7 21/09/08(水)00:46:36 No.843723332

(アタシは…何度も何度もぶつかってきた…) 思い出すのは数々の骨折の記憶。 (それでも諦めずにここまで来られた…!) 甦るのは、ライバルとの激戦。 (ローレル先輩がいたから…!マヤノがいたから…!最高にマーベラスなレースができた…!!!) 初めてのG1、天皇賞(秋)。 初めてのグランプリ、昨年の有マ記念。 そして伝説となった、天皇賞(春) (まだ…終わらせたくない…!!!) 彼女は思った。まだ始まったばかりだと。

8 21/09/08(水)00:46:49 No.843723399

(まだ…これからが…!!!) この先には未来が輝いていると。 震える足を必死に支えて、砕けそうな腰に張りを入れ、転びそうになるくらいに前傾の姿勢を取り。 「これからが!!!最っ高の世界になるんだぁぁぁぁあああ!!!!!1」 叫んだのはホームストレッチの手前。 師走の風が吹きすさぶ。前を遮るブリザードのような強い風。そして短い中山の直線と心臓破りの急坂。すべてを出し切る覚悟で 「アタシが勝つんだぁぁぁああああ!!!!!」 マーベラスサンデーがゴール版目指して一直線に駆けだし始めた。

9 21/09/08(水)00:47:30 No.843723614

『さぁ第四コーナーを抜けて!!!中山の直線は短い!!!』 一斉に直線に向きを変え始めるウマ娘たち、そんな中 『メジロドーベルが来ている!!!メジロドーベルが来ている!!!』 真っ先に差し切り体制を整えたのはメジロドーベル。 しかし 「甘いッ!!!!!」 そのタイミングが早すぎることにすぐに気づき、エアグルーヴが中から加速する。 「なっ!?」 戸惑ったのも一瞬の事。 『エアグルーヴ先頭に立った!エアグルーヴ先頭に立った!』 あっという間に先頭に立ったのはエアグルーヴ。 「負けません!!!」 とメジロドーベルが必死に彼女を追おうとするが、 『外の方からマーベラスサンデー!外の方からマーベラスサンデー!』 一文字に駆けていくマーベラスサンデーにさらに抜かれた。

10 21/09/08(水)00:47:53 No.843723713

「嘘…!!!」 その瞬間、彼女の脚がためらいを見せた。驚くほどの末脚。後方からのごぼう抜き。心が驚きで支配される中、メジロドーベルの前に2人のウマ娘の背中が映る。 それは 「勝負だッ!!!」 女帝、エアグルーヴと。 「アタシが勝つ!!!」 不屈の日曜日の使者、マーベラスサンデー。 『200を切った!200を切った!』 遂に坂道に差し掛かる2人のウマ娘。 『エアグルーヴ!!!マーベラスサンデー!!!エアグルーヴ!!!マーベラスサンデー!!! 内にエアグルーヴ。外にマーベラスサンデー。肩を並べて必死にターフを掛け進める。 『シルクジャスミンもやってきた!!!シルクジャスミンもやってきた!!!』 後ろから一人のウマ娘がやってきていたが、そんなこと、マーベラスサンデーには関係のないことだった。

11 21/09/08(水)00:48:14 No.843723816

(こんなもんじゃない…!!!) 目の前には桜の花びらが見える。昨年のスリゼローレルの影が映る。 (こんなもんじゃない…!!!) そして後ろから感じるのは、ジェットエンジンのように迫る、規格外の脚色のマヤノトップガンのプレッシャー。 (こんなもんじゃなかった…!!!アタシが!!!レースをしてきた相手は!!!アタシが一緒に走ってきたのは!!!) いつの間にか、彼女の瞳には涙があふれていた。 涙が後ろに流れ、それでもなお彼女は脚色を輝かせるのを止めようとしない。 脚の震えが大きくなる。振動は腰から全身に伝い、身体をバラバラにするがごとく、全身を痛めつける。 それでも、なお 「あぁぁぁぁあぁあああああああ!!!!!!!」 マーベラスサンデーは叫ぶ。繰り出すのは全身全霊の末脚。 「このぉぉぉぉぉぉお!!!!!!」 それに必死に追いすがるエアグルーヴ。しかしその差は縮まらない。たった半バ身程度の差が埋められない。

12 21/09/08(水)00:48:37 No.843723920

『エアグルーヴか!?マーベラスサンデーか!?エアグルーヴか!?マーベラスサンデーか!?』 実況の声に熱がこもる中、ゴール板までの距離が近づく。あと100m。80m。50m。 栄光の舞台まであとほんの少し。 心臓が高鳴る。崩壊寸前の身体を必死に支えてマーベラスサンデーは走り抜ける。 その刹那だった。 彼女の脚に、鈍い痛みが走り始めた。今までの骨折とは違う痛み。筋肉が悲鳴を上げて断絶するような感覚。 (アタシが……!!!!アタシが………!!!!!!) それでもなお彼女の脚は止まらなかった。 何度となく思い出した顔がそうさせる。スリゼローレルの笑顔と涙、失望に沈む彼女の最後の顔。 マヤノトップガンのはじける瞳と、悔しさをバネにした逞しい顔、春の天皇賞での歓喜の涙。 ありとあらゆる記憶が走馬灯のように彼女の頭をめぐる。どうなっても絶対に勝つという思いが台風のように胸に吹き荒れる。

13 21/09/08(水)00:48:54 No.843724027

そんな中、感情の台風の目の奥に、何かが残っていた。暗い暗い風の中心から巻き起こってきたもの、それは 「無事に帰ってきて…」 涙を流しながら見送るトレーナーの顔だった。 その瞬間だった。 (トレーナー…ちゃん…) ほんの一瞬だった。マーベラスサンデーの脚色に陰りが見えた、その一瞬。ゴール板まで残り20mのほんのわずかな時。 『シルクジャスミン!!!シルクジャスミン!!!シルクジャスミン!!!』 後ろから迫ってきたウマ娘の全身全霊の末脚が 『シルクジャスミンの末脚が炸裂したかぁぁぁぁぁ!!??』 マーベラスサンデーを抜いて、ゴール板を駆け抜けたのは。

14 21/09/08(水)00:49:18 No.843724167

有マ記念が終わった。 マーベラスサンデーは2着。1着のシルクジャスミンとの差はなんとアタマ。ほんの僅かな差ではあったが、彼女は1着を取れなかった。 呆けたようにターフを走り抜けると、今までにないレベルの疲労と震えがマーベラスサンデーを襲う。 しかしそれよりも衝撃だったのは、1着を取れなかったこと。あれだけスリゼローレルと約束したのにも拘わらず。なりふり構わず全てを捧げたのにも拘わらず、果たせなかったこと。 第一コーナーのあたりでへたれこむマーベラスサンデーは、何度も掲示板を確認した。しかし自分の背番号は何度確認しても2着を示している。 「あぁ……」 大粒の涙があふれだす。 「あぁ…ぁぁあ……!!!」 それはダムを決壊させるように、ぼろぼろと流れ落ちる。 そして 「あぁーーーあぁぁぁぁぁあああ…!!!!あぁぁああぁぁぁあああ……!!!!!」 その場で彼女は悔しさの叫びをあげ続けた。師走の空に、悲しみと悔しさの声が響き渡る。

15 21/09/08(水)00:49:46 No.843724317

「マベちん……!!!」 それを観客席で見ていたマヤノトップガンの顔も涙で溢れていた。大きな瞳からとめどなく流れる雫。 それを見て 「行ってやれ」 とナリタブライアンが声をかけた。 マヤノトップガンは無言でそれに頷くと、すぐさまターフに向かって駆けだした。警備員の止めるのを振り切って、第一コーナーに向かおうとする中、一人の女性がマーベラスサンデーを目指して走っていくのが目に入る。 お世辞にも早いとは言えない脚。か弱い小さな身体。彼女こそが 「マベちゃん!!!」 マーベラスサンデーのトレーナーだった。

16 21/09/08(水)00:50:02 No.843724406

「と、トレ、トレーナーちゃん…!!!トレーナーちゃん!!!!!」 縋るように涙を流す彼女をトレーナーは抱き留め、 「よく…、よく頑張ったね……!マベちゃん…よく頑張ったね…!!!」 汗まみれの身体などお構いなしで、彼女の頭を撫でる。 「勝てなかった…!!!やくそくしたのに…!!!アタシ…アタシ……!!!う”ぁぁぁぁぁぁああ……!!!!う”ぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」 大号泣するマーベラスサンデー。胸の中で叫びをあげる彼女をいつまでもトレーナーは撫で続ける。 「まべ…ちん……」 そしてようやく追いついたマヤノトップガンも 「えらいよ…!!!えらいよぉ…!!!まべちんはすごいよぉぉぉおお!!!!」 と涙を流し2人に抱き着いた。 涙を流す二人のウマ娘、そして一人のトレーナー。 師走の中山競バ場に、3人の声が何時までも響き続けていた。

17 21/09/08(水)00:52:14 No.843725085

こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があってないのでこれにて失礼する 遅くなりまして申し訳ございません 後日談は明日の0時目標でがんばります これまでのやつ fu321699.txt

18 21/09/08(水)00:58:59 No.843726848

待っていたぞ… 原作再現は辛えな…

19 21/09/08(水)01:00:32 No.843727263

おい待てェラストも楽しみにしてるけど無理はするんじゃねェ マベちん...おつらい

20 21/09/08(水)01:08:56 No.843729431

よくやったよマベちゃん…

21 21/09/08(水)01:09:40 No.843729613

当時小学生でリアルタイムで観てたレースだ…

22 <a href="mailto:s">21/09/08(水)01:16:33</a> [s] No.843731348

マベちゃんを勝たせるか最後まで悩んだんですけどね シルクジャスミン(仮)がこの後すごく辛いことになるって知っちゃったから…

23 21/09/08(水)01:17:07 No.843731495

気持ちが強い奴が勝つなんて言ったら 全員勝たなきゃおかしいからな… 残酷なくらい平等だ

24 21/09/08(水)01:42:19 No.843737354

>気持ちが強い奴が勝つなんて言ったら >全員勝たなきゃおかしいからな… >残酷なくらい平等だ じゃあ負けたやつは気持ちが弱かったのかって話になるからね…

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