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21/09/05(日)00:48:07 No.842688585
8月中旬。夕方。東京都府中市。 夕暮れになずむ街。そんな街の一角にある洋食屋の前にて、サクラバクシンオーは腕を組んで毅然と立っていた。 待っているのはある2人。1人のトレーナーと1人のウマ娘。 今日は彼女たちにとって大事な会食の日だった。他のメンバーは皆会場に揃っている。揃っていないのは彼女たちだけ。そんな2人を待ち続け早10分。 「遅いですねッ…」 ついサクラバクシンオーの口から言葉が漏れる。しかし、予定の時間まであと10分ほどある。決して遅刻というわけではない。ただ待ち続けている彼女にとっては、一刻も早く会食を始めたい彼女にとっては、少しばかり苛つかせるものになっていたようだ。 そんな最中 「あ!」 サクラバクシンオーが思わず叫んだ。 ようやく待っていた2人を乗せた車の姿が見えたからである。 赤色のシエンタが駐車場に入ると、鼻息を鳴らし 「バックシーン!!!」 彼女も車に向けて走り始める。
1 21/09/05(日)00:48:38 No.842688770
停車した車から、一人の若い女性が、運転席より姿を現した。 「すいません、バクシンオーさん!ちょっと道が混んでました!」 そう彼女が話すと 「皆さんお待ちかねですッ!早く行きましょうッ!」 サクラバクシンオーはそう言ってふんぞり返る。 「ご、ごめんなさい!ちょっと待っててください!」 若い女性はそう言うと、ハッチバックドアを開き、慣れた調子でスロープを作った。 そしてスライドドアが開かれ、一人の車椅子に乗ったウマ娘が姿を現した。 「あ、委員長☆マーベラース☆」 そう車椅子に乗ったウマ娘、マーベラスサンデーはにっこり笑い、サクラバクシンオーに手を振って声を掛ける。 「こんばんは!マーベラスサンデーさんッ!」 そう彼女は満面の笑みで応えると、車の中に入り、 「シートベルト!外しますねッ!」 と言い、シートベルトを外し始める。
2 21/09/05(日)00:49:03 No.842688920
「あ、すいません!」 ハッチバックドアから車内に入ったトレーナーがそう言い、彼女は彼女で車椅子を固定したバンドを外す。そしてマーベラスサンデーの車いすを引き、彼女を車の外まで出した。続いてスロープを片付け始める彼女のトレーナー。 そんな最中 「それじゃ行きましょうッ!」 とサクラバクシンオーはマーベラスサンデーの車椅子の取っ手を掴み 「お☆」 マーベラスサンデーはそれに期待をしたような声で答える。 サクラバクシンオーがその顔を見てにっこり笑うと 「いざっ!バクシン!!!」 と言い、猛烈な勢いでマーベラスサンデーの乗った車椅子を押し始めた。 「おおおぉ~~~~☆☆☆」 とてつもないスピード感に興奮の声を上げるマーベラスサンデー。
3 21/09/05(日)00:49:55 No.842689221
「あ!」 トレーナーがそれに気づいて焦った調子で振り向くと、 「待って!待ってください!!!」 追いすがるように彼女も走り出した。 必死に走る人間の姿に目をくれず、車椅子は爆走し、2人のウマ娘は楽しそうに洋食店の入口へと向かっていった。
4 21/09/05(日)00:50:18 No.842689326
マーベラスサンデーがサクラバクシンオーに押され、洋食店の中に入る。そしてそのまま店の奥に車椅子の車輪は転がり続ける。 そしてマーベラスサンデーの視線の先に広がったもの。それは多数のウマ娘と何人かのトレーナーの姿だった。 「マベちん!おそーい!!!」 そう話しかけてきたウマ娘がいる。元気いっぱいに笑う彼女の名前はマヤノトップガン。 「えへへ、ごめんね!」 それにマーベラスサンデーは笑顔で返答した。 今日は大切な食事の日。あるウマ娘のために、様々なウマ娘が集った特別な日である。マーベラスサンデーも招かれたのであるが、合宿地からの帰りの最中、想定以上の渋滞に巻き込まれてしまい、結局会場への到着がギリギリとなってしまった。 今日の主役であるウマ娘の姿をきょろきょろと首を回して探すと 「あ!マベちゃん!」 その彼女の方からマーベラスサンデーに話しかけてきた。
5 21/09/05(日)00:50:36 No.842689440
「ローレル先輩!」 その顔を見たマーベラスサンデーも満面の笑顔。 特別なウマ娘。それはスリゼローレルのことだった。 「ありがとね、わざわざ来てくれて!」 「全然☆」 2人が話に華を咲かせる中、 「元気そうだな、マーベラスサンデー」 少し遠い席でナリタブライアンがその様子を見て呟いた。 「まぁ、あの通りですよ、マーベラス」 それに答えるのはナイスネイチャ。 「昔から怪我の多い子でしたから、マーベラス」 ナイスネイチャの瞳がやさしく細くなり、 「ふむ…」 それに何とも言えない顔でナリタブライアンは頷く。
6 21/09/05(日)00:50:54 No.842689555
皆がそれぞれに談笑を楽しむうちに、ようやくマーベラスサンデーのトレーナーも合流した。スリゼローレルのトレーナーに挨拶をする中 「さぁ、皆さん!時間です!」 そう声を張り上げたのはサクラバクシンオーである。 「じゃ、バクシンオー。進行お願いできる?」 そう彼女のトレーナーが声を掛けると 「わかりました!」 と笑顔で彼女は返事をした。 「それではッ!」 と一言区切ると 「今日は皆さん!お集まりいただきありがとうございますッ!今日はスリゼローレルさんの凱旋門賞への壮行会にお集まりいただきありがとうございますッ!司会進行はフランスに帯同します、この学級委員長ことサクラバクシンオーが務めさせていただきますッ!」 結局、彼女の帯同ウマ娘は同じトレーナーの元で教えを受けているサクラバクシンオーになった。骨折したマーベラスサンデーはそれをただ穏やかな笑顔で聞いていた。
7 21/09/05(日)00:51:13 No.842689673
「それではッ!ローレルさん!開会の挨拶をお願いしますッ!」 そう彼女がスリゼローレルの方を向くと、少し腰が重そうに、恥ずかしそうに彼女は立ち上がった。 「あ、あの…」 一斉に彼女に集中する視線。それに恥ずかしそうに顔を背けるスリゼローレル。妙なものである。ターフの上では大観衆の前で堂々としているのにも拘わらず、今日の彼女はメイクデビューの時のウマ娘のようであった。 「ス、スリゼローレルです。今日は皆さん、お集まりいただいてありがとうございます…」 そう彼女が頭を下げると拍手が巻き起こる。 「えっと…、フランスは私の故郷です。ですけど…まさか私が凱旋門賞にチャレンジする時が来るなんて思ってもみませんでした。まずは9月のフォア賞からですけど…その…」 口ごもる彼女にウマ娘の優しい視線が降り注ぐ。 言いたいことなどない。精一杯やるだけ。いつも彼女はそうだった。球節炎にかかっても、骨折しても。医師から競技能力喪失と言われても。諦めず諦めず前だけを向いて全力を尽くしてきた。だから 「精一杯、頑張ってきます!よろしくお願いします!!!」 彼女は叫ぶように、決意を口にして頭を下げたのだ。
8 21/09/05(日)00:51:30 No.842689759
巻き起こる拍手。そしてそれを見たサクラバクシンオーは微笑んで頷き 「それでは、ローレルさんの健勝を祈って!!!乾杯!!!」 壮行会の始まりの合図を告げた。 「「「「「乾杯!!!」」」」」」 多くの声がそれに唱和する。ナイスネイチャの、ナリタブライアンの、マヤノトップガンの、そしてマーベラスサンデーの声もそれに混じる。 皆の激励の想いを重ねて、壮行会が始まった。
9 21/09/05(日)00:52:01 No.842689937
壮行会が終わったその夜、トレセン学園美浦寮に帰ってきたスリゼローレルは、フランスにいる彼女の父親にメールを打った。 「お父さんへ」 「ローレルです。今日も元気にしています。 いよいよフランスに行く日が近づいてきました。 私の故郷なのに『行く』っていうのも何か変ですね。
10 21/09/05(日)00:52:17 No.842690045
今日は私のために色んな人が集まって、壮行会を開いてくれました。 怪我の事とレースの事、トレーナーさんの事ばかりで、 あまりこういうことはお父さんにはお話していなかったと思います。 友達ができました。 ライバルができました。 競い合う、大事な仲間ができました。 ちょっぴりエキセントリックだったり ちょっぴり暴走しがちだったり ちょっぴり背伸びしてたり ちょっぴり不器用だったり 皆、少し変わった人ばかりです。
11 21/09/05(日)00:52:38 No.842690196
でも、そんな色んな人が私を励ましてくれました。色んな人に助けられました。 日本での生活は楽しいことばかりではありませんでした。 辛いことも、苦しいことも、投げ出したくなるようなこともたくさんありました。 それでも私が日本でやってこれたのは、私一人の力だけでなく、色んな人に支えてもらったからです。 もうすぐフランスへ渡ります。でも家には戻らないつもりです。 その代わり、10月第一日曜日、パリロンシャン競バ場で会いましょう。 その時、私の大切な人の話をいっぱい聞いてください」
12 21/09/05(日)00:52:59 No.842690305
9月中旬、パリロンシャン競バ場、大コース。 日曜日。G3、フォア賞。芝2400m。 天候は晴、バ場は稍良。 『さぁ始まります、凱旋門賞の前哨戦、フォア賞、2400mです。向こう正面からのレースです。遠征しましたスリゼローレル、堂々の一番人気です。パリロンシャンの深い芝。果たしてどうやってこなしていくのでしょうか』 凱旋門賞の前哨戦、フォア賞がもうすぐ始まろうとしていた。 マーベラスサンデーとそのトレーナーは、トレーナー室にてテレビを眺めている。流石にフランスまで行けない彼女たち。今日はテレビの前での応援である。 「パリロンシャン競バ場ってさ、変なコースだね、トレーナーちゃん」 手に持ったタブレットにパリロンシャン競馬場のコース解説のページを映し、マーベラスサンデーはそう問いかけた。 「確かにね。日本にはないコースだよね」 そうトレーナーも同意する。
13 21/09/05(日)00:53:16 No.842690410
パリロンシャン競バ場の大コースの形は日本の競バ場のようなトラックコースではない。U字型のコースに近い形をしている。近い、というのは、第二コーナーを抜けた後に第一コーナーがあるのだが、その第一コーナーも非常に角度が広いものである。そのため正確にはU字型ではなく、一辺が少し内に折れ曲がったようなU字型のコースという方が正確かもしれない。 コースの特徴としては全体的にコーナーが緩く、直線が長い。一見するとスピードが出しやすそうに思えるが、コースの高低差はなんと10m。中山競バ場が高低差5mと言うのを考えると、とてつもない高低差である。しかし、直線が長くコーナーも緩いため、急坂というわけではなく、長い坂が延々と続くというイメージが近い。そして芝の高さも日本の競バ場の約2倍。良バ場とされていても、日本から遠征するウマ娘からすると、『芝が重い』と感じる場合が殆どのようだ。 そしてもう一つの特徴として道幅が狭いことも挙げられる。そのため外差しは基本的に不利。差し切るつもりであれば内側から差すのがセオリーというのも、日本の競バ場と大きく異なる点である。
14 21/09/05(日)00:53:31 No.842690521
「どんなレースになるのかな…」 「まぁ、まだ前哨戦ですから。ローレルさんにとって今日はウォーミングアップってところでしょう」 そうマーベラスサンデーとトレーナーが会話を交わす中 『ゲート開いた!』 一斉に駆けだす8人のウマ娘。フォア賞の幕が切って落とされた。
15 21/09/05(日)00:54:01 No.842690701
『初めに向こう正面の長い直線!1000mの長い直線です!8人のウマ娘たち、一斉に駆けて行きますが!スリゼローレルは四番手から五番手!内側の絶好のポジションです!』 スリゼローレルは冷静に内側につけ好位置をキープした。 (やっぱり…最初はみんなペースが速いな…) 最初の400mは平坦な直線。スピードが乗りやすいのもあるが、それ以上に前半はここでしか良いポジションを取りづらいということもあり、ウマ娘たちのペースやポジション争いは自然と苛烈さを増す。ウマ娘達がけん制しあう中 『さぁ400mを通過しました!ここからは坂です!高低差10mの坂がウマ娘たちに立ちはだかります!!!』 ここからの残り600mの直線は高低差10mの急坂。流石にここでスピードを出すには限りがある。 ペースが緩くなってきたバ群の中で、スリゼローレルは好ポジションを維持し、一息ついた。
16 21/09/05(日)00:54:24 No.842690836
『第三コーナーに入りました!ここからは緩いコーナー!そしてここが坂の頂!』 第三コーナーというが、向こう正面からレースが始まったため最初のコーナーである。登山家と評される健脚で坂の頂上へ苦も無く登るスリゼローレル。だが前のウマ娘を抜くことはしない。何故ならばここが頂点ならばそれからは下り坂。高低差10mの下り坂がコーナーで待ち構えているからだ。 『第二コーナー!下り坂が始まります!』 (うわ…) 走り始めてスリゼローレルはすぐに気づいた。長い坂のコーナー。これは危険だ、と。スピードが伸びやすい分、外に膨らみやすい。そしてコーナーが緩く坂が長い分、襲ってくるのは恐怖心。だが (ここでビビったら…ビビったら抜かれる…!) 彼女が意識するのは後続のウマ娘達。ここで減速すれば折角のポジションを受け渡すことになる。 (負けられない…!) と意思を強く持つと、そのままの勢いで、内側に体重をかけて綺麗にコーナーをこなしていく。フランスのバ場でも弧線のプロフェッサーと呼ばれた脚色は健在だった。
17 21/09/05(日)00:54:49 No.842690966
『第二コーナーを抜けて!スリゼローレル内側三番手!ここからは偽りの直線、フォルスストレート!』 そして第二コーナーを抜けたスリゼローレルの目に映ったのは直線だった。坂道を抜け、乗りに乗ったスピード。このまま駆けだしたくなる気持ちがよぎるが (まだまだ…足を溜めて…!) 尚彼女は冷静だった。ここは最後の直線ではない。最後に緩いコーナーがあり、そこが最後のホームストレッチ。ここは第二コーナーと第一コーナーの間にある偽りの直線、フォルスストレート、その距離650m。 自然と周りのスピードも上がっていくが、最高の脚色を輝かせるのはここではない。そう何度も自分に言い聞かせ、スリゼローレルはターフを走り抜ける。 「いい感じね、ローレル」 観客席にて。スリゼローレルのトレーナーは彼女の様子を見て、満足そうに頷いた。 「そうなのですか?」 それにサクラバクシンオーは尋ねかける。 「えぇ。初めてのコースなのに、要点をちゃんと抑えてレースに挑んでる。貴方のお陰かしら」 「そうですねッ!!!私が併せウマの相手でしたから!!!」 自信満々に胸を張るサクラバクシンオーを見てトレーナーはやさしく微笑んだ。
18 21/09/05(日)00:55:14 No.842691115
『さぁフォルスストレートを抜けて、第一コーナーを曲がります!最後のホームストレート!!!平坦な533mの長い直線!!!スリゼローレル果たしてどんなレースを繰り広げてくれるのか!?』 そしてようやく長い偽りの直線が終わり、最後のホームストレート。 (来た…!ここで…!!!) 全身全霊の脚色を輝かせるときが来たと悟り、スリゼローレルのアクアマリンの瞳に、青い情熱の炎が宿る。 凱旋門賞への最初の第一歩。そのレースの最終局面がついにそこまで迫っていた。 『先頭は依然としてカワサキ!アメリカから来たカワサキが逃げ切る体制!!!』 最初からレースをリードしていた逃げウマ。粘り強い調子でなおもレースを引っ張っていく。 しかし 『しかしローレル前を伺う!!!順位を上げるか?!前を狙っています!!!』 (ここで…抜け出す…!!!) 内側から加速し順位を上げ始めるスリゼローレル。抜け出し準備を整えた彼女についてこれるウマ娘などいないようだった。
19 21/09/05(日)00:55:32 No.842691223
『上がってきた!!!上がってきた!!!ローレル二番手!!!ローレル二番手!!!残り200!!!』 遂にスリゼローレルは二番手まで順位を上げる。 「いっけぇ!!!ローレル先輩!!!」 テレビの前で興奮した様子でマーベラスサンデーが叫ぶ。 「いける!!!いける!!!」 マーベラスサンデーのトレーナーも興奮したようにそう目を輝かせる。 「抜くんです!抜きましょうッ!!!」 観客席でサクラバクシンオーが大声を張り上げ 「行きなさい!!!」 その熱にあてられて、スリゼローレルのトレーナーもつい叫んだ。 (よし…!このまま!!!) 元よりスリゼローレルもそのつもりだった。 繰り出すのは十八番の全身全霊の末脚。ナリタブライアンを春の天皇賞で破り、有マ記念ではマーベラスサンデーを寄せ付けなかったその脚色が今日も輝く。 逃げウマにその脚が迫る。その背中を完全に捉え、内側から差すためルートを確認する。ライン取りは完璧。あとは差し切るだけ。そう一層の加速をしようとした、その時だった。
20 21/09/05(日)00:55:52 No.842691339
(……え?) スリゼローレルの脚に衝撃が走った。 「……あれ?」 テレビを見ていたマーベラスサンデーの声援が止まった。 『先頭はカワサキ!!!先頭はカワサキ!!!ローレルどうした!?ローレル伸びない!!!ずるずると下がっていく!!!』 テレビに映ったのは、脚色が途切れ順位を下げていくスリゼローレルの姿。 「嘘…」 ひきつった顔でマーベラスサンデーのトレーナーが力なく呟く。 「トレーナーさん!!!ローレルさんが!!!ローレルさんが変ですッ!!!」 気が動転したように、サクラバクシンオーがトレーナーに叫ぶ。まるで縋りつくかのように。 目の前のスリゼローレルの走り方がおかしいのだ。まるで縺れるかのように足をバタつかせている。いつもの綺麗なフォームではない。タイヤがパンクした車のようにターフを進む彼女。何かが起きたのは、観客席にいる2人の目にも、テレビの前いる2人の目にも。ウマ娘とトレーナーであれば誰でもわかるレベルで明らかだった。 「……バクシンオー」 トレーナーはうなだれて 「レースが終わったら……ローレルのところにすぐに走って、お願い」 静かにそう彼女に言い、顔を両手で覆いかくした。
21 21/09/05(日)00:56:36 No.842691584
『先頭カワサキ!!!逃げる逃げる!!!』 (なんで…脚が…!どうして…どうして…!!!) 痛みを抱えて必死に走るスリゼローレル。しかし無情にも一人、また一人とウマ娘が抜き去っていく。 懸命に粘るが、三番手に落ち、四番手に落ち、五番手に落ち、六番手、七番手。 そして 『そのままカワサキ!ゴールイン!!!スリゼローレル、まさかの最下位…!!!』 ゴール板を駆け抜けた時、彼女の心に映ったのは、悔しさと怒り。そして絶望。 壊れたような足を引きずり、どうにか直線を減速し、彼女はそのままターフの上に崩れこむ。 長いフランスの芝でさえ、悲しみに沈む背の高い彼女の姿を覆い隠すことはできなかった。
22 21/09/05(日)00:56:53 No.842691687
「どいて!!!どいてくださいッ!!!」 観客席から飛び出したサクラバクシンオーを警備員が必死に止めようと前に立ちふさがってくる。 「邪魔をしないでくださいッ!!!ローレルさんを殺す気ですか!?」 鬼気迫った表情で、目の前の言葉の通じない外国人に、問答無用で怒気を発する。 そのひるんだ一瞬をついて、サクラバクシンオーはターフを駆けだした。 (重い…!!!) パリロンシャン競バ場の重いバ場を鬱陶しく思いながら、サクラバクシンオーはターフを切り進める。 そして、腰をついて泣き崩れるスリゼローレルのもとに辿り着いた。 「バクシンオー…さん…。私…、私……!」 両手で顔を覆い、悲しみの雫をとめどなく流し続けるスリゼローレル。 「肩をどうぞ。行きましょう。ゆっくりでいいですから」 そんな彼女に、膝をついたサクラバクシンオーは優しく語り掛け、スリゼローレルの左肩に自身の右肩を入れ、ゆっくりと立ち上がらせたのだった。
23 21/09/05(日)00:57:36 No.842691906
こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があってないのでこれにて失礼する fu312588.txt いままでのやつ
24 21/09/05(日)00:58:29 No.842692210
おつらい…
25 21/09/05(日)00:59:57 No.842692725
おい待てェ どうしてェ...
26 21/09/05(日)01:03:35 No.842693961
とにかく怪我が多いな今回は…
27 21/09/05(日)01:16:10 No.842698404
どうして… どうして…
28 21/09/05(日)01:17:23 No.842698817
3年から6年くらい在籍する中で 自分も含めて周囲の人がほぼ1回は車椅子生活に陥る日常がハードすぎる 野戦病院か
29 21/09/05(日)01:18:48 No.842699389
マベちゃんのレースも終わってるしそろそろ幕だと思うけど 全員が満身創痍すぎる
30 21/09/05(日)01:28:57 No.842702780
>3年から6年くらい在籍する中で >自分も含めて周囲の人がほぼ1回は車椅子生活に陥る日常がハードすぎる >野戦病院か どちらかというと あんだけボキボキ折ってなお完走したマベちんが出鱈目に凄くて 異国の地でぎりぎり安楽死免れたローレルも幸運な方で 彼らの下には名さえ語られぬ無数の屍があるのだよ…