21/08/29(日)01:57:00 レース... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1630169820545.jpg 21/08/29(日)01:57:00 No.840286719
レースに絶対はない。どんな強いウマ娘だろうと、ミスを起こすし、想定通りの走りを行えるわけはない。 そこをどう見つけ、チャンスを生かすかで勝敗は決まるのだ。 少なくともナイスネイチャはそう信じていた。それが届かない星に手を伸ばす唯一の方法だと。 しかし、 「マラジェツ先頭! マラジェッツ先頭! ダイタク二番手! 黒い勝負服、マックイーンが来ているマックイーンが来ているもう四番手! 上がってくる上がってくるもう四番手! ナイスネイチャも来ている!」 「(徹底マークして、さんざんスタミナ使わせたはずなのに……!)」 届かない。力強く踏みしめるマックイーンの脚はさらに回転を増している。必死に追いかけるナイスネイチャだが、決定的な差が縮まらない。 「(まだ脚を残していたなんて……化物にも程がある! 追い付けない……この、タイミングも状況もこれ以上なくアタシが有利なのに……!)」 「(誰の影に脚を踏み入れたのか、後悔させて差し上げますナイスネイチャ! さぁ、もっと脚に力を入れなさい、もっと、もっと! 全てをぶつけなさい!)」
1 21/08/29(日)01:58:13 No.840286960
半バ身差、さらにそこから広がって行く絶望的な距離。マックイーンが脚を踏み込むごとに、彼女の影から怪物の口がのぞくようでネイチャは思うように脚が動かなくなっている。 最後の最後で、ネイチャはマックイーンに飲み込まれていた。 ついに直線に入って、観客の熱狂の波にのまれながらウマ娘たちはゴールを目指す。 「(くそっ……! くそっ、くそっ、どうして勝ってやるじゃなくて、負けてしまうって言葉が出てくんの……! どうして……! くそーーっ! まだだ、まだだ!)」 「(そうまだです! まだレースは終わっていません、私に諦めの表情を見せるのは許さない! 最後の一瞬まで全力で走って、そして敗北を悟りなさい! それが……これは?)」 マックイーンの耳に、全く色の違う足音が聞こえて後ろを確認する。まさかネイチャが足を残していたのかと思ったが、違う。バ群から自分達が抜けだした穴を通って内側から来ている。 誰だ? とマックイーンは思った。その足跡の主はマックイーンでさえマークしていなかったウマ娘だった。誰もがこのウマ娘がここで来るとは思っていなかった。
2 21/08/29(日)01:58:48 No.840287095
「だあああああああ! ツモるならここしかないぃぃぃぃぃ!」 「ダイサンゲン! ダイサンゲンが伸びてくる! ダイサンゲンが内から、マックイーン外だ!」 そのウマ娘はダイサンゲン。必死にペースも、スパートも抑え、第四コーナー終わりからというかなりの遅い脚の入りから、スタミナ切れで落ち込んできたウマ娘を追い抜きいつの間にか十四番手から差してきていた。 「(本当にトレーナーの言う通りだった! 待って待って待って! 最後の最後、オーラスで役満のアガリ牌が来た! もうマックイーンが横にいる!)」 「(アタシの走り方に、飲み込まれてない娘がいた!? それじゃアタシはこの子に勝たせるように走ってしまってたみたいなもんじゃん! テイオー……テイオーの言った通りだ、アタシの走り方は幾らでも対策が出来た!)」 「(漁夫の利というわけですか。ですが、そうやすやすと勝たせるほど私を甘く見るならば……そのまま踏み潰して差し上げま……!)」 マックイーンの横にダイサンゲンが並ぶ。もはや二人の一位争いだ。
3 21/08/29(日)02:00:45 No.840287511
マックイーンが追い越そうとする突如現れた刺客に、プレッシャーを浴びせかけながらさらに先に進もうとするが、そこで呼吸が荒くなった。 「(ここでっ……! このタイミングで……! 私としたことが!)」 ついにマックイーンのスタミナが切れたのだ。ナイスネイチャとの真っ向勝負は確実に怪物の力を削っていた。 脚が回らなくなる、それでも脚を踏みしめるマックイーンだが距離が足りなかった。 その時点ですでにゴールは目の前、スピードを増していたダイサンゲンが勢いのまま前に出てそれが決着となった。 たった十秒での決着。しかし、誰もが思わぬ勝利だった。 「ダイサンゲンだ! ダイサンゲンだ! これはビックリダイサンゲンーーー!」 興奮に塗れた実況が声を張り上げる。観客の驚きと熱狂を聞きながらネイチャは三着で芝の上に転がった。立つ気力もない。 「ハァ……っ! ハァ……! くそーーー! くそくそくそーー!」
4 21/08/29(日)02:01:57 No.840287751
汗が口に入るのも構わずに、空に向かって叫ぶ。遠い、マックイーンは遠かった。そしてダイサンゲン、自分の走りを攻略する者が現れた。 悔しい、悔しい、悔しいが。 「(走るのって、楽しかったんだ)」 何処か心が喜びで満たされていた。レース前までにあった、あの足裏から伝わる感触が何処にもない。 ぶつかって、胸を借りて、そして全力を出し切って、負けた。 それなのに何処か嬉しい。ネイチャの目の端から悲しみではない涙が一滴こぼれて、ターフをほんの少しだけ濡らした。 「ネイチャさん、良いレースでしたわ」 ふと声にネイチャが顔を向けると、メジロマックイーンが近くで手を伸ばしていた。レース中に見たあの荒々しい獣のようなウマ娘は何処にもいない、高貴なお嬢様へと戻っている。 「ダイサンゲンさんにはやられましたわ。あそこで伸びてくるなんて」 「あはは……マックイーンさ、なんでアタシと真っ向から勝負してくれたの? アタシのマークなんてなんとでも出来ただろうに」
5 21/08/29(日)02:04:22 No.840288284
伸ばされた手を掴んで立ち上がると、ネイチャは息を何とか落ち着かせてそういった。 「約束したでしょう? 貴方を打ち負かすと。それに私そんなに器用じゃありませんの、レースになるともう勝つことしか考えられなくて」 「ははは……確かに怖かったです……」 ネイチャの言葉に、マックイーンはくすりと笑うとライアンの元へと向かっていた。同じく挨拶に向かうのだろう。 ウィナーズサークルでは、ダイサンゲンのトレーナーらしい男が大号泣しながら愛バの頭を撫でていて、それで実感がわいたのだろう、ダイサンゲンもまた大粒の涙でインタビューに答えることになった。 近くのスタンドでは、ネイチャの友人やチーム仲間が手を振っている。勝てなかったとしても優シュンたちが集まるアリマ記念のでの三位はかなり大きい。 ネイチャは軽く手を振りながら、最初に自身の兄貴分がいた場所に目を向けた。 そこにはもう男はいなかったが、自分の走りを見てくれたのだろうかと考えると、少しばかりの嬉しさと未練が襲ってきて、それを消すようにネイチャは仲間の方へと走っていった。
6 21/08/29(日)02:04:55 No.840288389
「あれが、ネイチャさんの走り方の対策ですか? 弱点だと?」 その頃、スタンドの階段を下りていく男の背についていきながら、イクノディクタスは問いかけていた。 「いや、違う。対策としてはあってるが、花丸というわけじゃない。あれは周りに惑わされない走り方をするダイサンゲンだから勝てた。あの中じゃ一番勝率が高かったってだけだ」 「しかし、兄さんはネイチャさんの弱点が見れると言いました。ダイサンゲンさんのことではないのですか? では、一体誰が?」 「ヒント、最初から誰かのペースなんて関係ない子はだーれだ」 男はそう言いながら、近くでツインターボとダイタクヘリオスが映されている画面を見た。ネイチャがプレッシャーをかけたレースでは誰もが疲労困憊の様子を見せるが、この二人だけはすぐに持ち直しているようだった。 同じくその画面を見て、大きな眼鏡の奥でイクノは目を丸くする。 「……まさか、大逃げですか!」
7 21/08/29(日)02:07:21 No.840288890
「ダイタクヘリオスはツインターボについていってしまって、後半落ち込んでしまった、それでも五位だ。ネイチャのペースコントロールは二人はお構いなしだった。これがもし最後まで持って、誰もが追いかけるスタミナもなかったら? ダイサンゲンの差せるか差せないかの博打もいいが、こっちの方が確実にネイチャの弱点になる。そして、俺たちはその弱点を無くそうってわけだ、行けるかいイクノさん」 「お任せください、私の二つ名はご存じでしょう」 眼鏡を光らせながら、イクノディクタスは答え、手を伸ばす。男はそっと心臓の場所に手を当てると、少しだけ微笑んでその手を取った。 新しい時代が始まる予感が、会場のどの人間の心にもあった、いやそのレースを見たどの場所の生物にも。当たり前だ、最後のレースが終わったのだ。 そしてまた新しいレースが始まる。新しいスタートが始まる。 風が吹いて、またネイチャの頬を撫でながら、空に消えた。 そしてその空が戻ってくる頃にはもう、時は四月となっていた。
8 <a href="mailto:s">21/08/29(日)02:08:21</a> [s] No.840289112
第一部終了! 遅くなったし長くなったしながーいお休みをいただきましたがこれらは全てスリーゴッデスのせいなので自分は悪くありません許してください
9 21/08/29(日)02:14:04 No.840290303
>第一部終了! 第一部かーこれで第一部なのか… そしてまた気になることを言い残しよって
10 21/08/29(日)02:16:46 No.840290895
ネイチャさんが走る喜びを取り戻せたみたいで嬉しいよ…
11 21/08/29(日)02:19:08 No.840291393
曇ったまま一部完じゃなくて良かった… 二部開始は急かさないけど早めだと嬉しいが夜ふかしの頻度が落ちず日中の仕事に影響が出るから悩ましい
12 21/08/29(日)02:27:02 No.840293004
第二部…第二部!?
13 21/08/29(日)02:30:26 No.840293755
長距離適正はおろかエンデュランス並の大長編になるのか…
14 21/08/29(日)02:43:24 No.840296320
第二部は他トレの動向も期待したい主にヘリオスパーマートレの関係が気になる
15 21/08/29(日)02:44:24 No.840296502
ここまでが第一部かよ!? ギャル二人にもスポットライトが当たったあたりでクソ長そうな群像劇の様相を呈したなとは思ったけど... いやまあテイオー復活までやるならまたまだ劇中の期間は必要か
16 21/08/29(日)02:45:17 No.840296700
おっと忘れてた 一部完結おめでとー 二部にも期待して待ってます
17 21/08/29(日)02:47:07 No.840297083
ネイチャさんこれでようやく前を向けるようになったかな…?