ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/08/25(水)02:32:45 No.838879733
最初の正面でファンの声援を最初に浴びたのはやはりツインターボであった。 二つ束の青い髪と後ろ十四人のウマ娘をたなびかせるように走るウマ娘は、依然疲れの色を見せずに二バ身ほど離して逃げ続けている。 そしてその二バ身の差にいる同じく大逃げウマ娘のダイタクヘリオスは、奇妙な感覚に数回ほど後ろを確認していた。 「(う~ん、ペースリーダーターボなのに、なんか後ろがアゲアゲで来てる? こういう時トレぴ、ラップタイム見て計算して判断しろって言ってたけど、ターボが先頭じゃちょっとムリよりのムリっぽいし……まいっか、爆逃げかませば問題ないっしょ★!)」 そのヘリオスの疑念は、さらに数バ身後ろのウマ娘の表情を見れば晴れたことだろう。 「三番手はダイタクヘリオス、その後ろに四番手パイレーツシング、五番手ケイツースイサン、そしてその後ろ、メジロマックイーンとメジロライアン、メジロが並んで走っております。その後ろにナイスネイチャ、やはりメジロマークと言った所でございましょうか」 流れるような実況と共に、声援を背に受けながらウマ娘たちが第一コーナーへと入っていく。
1 21/08/25(水)02:33:08 No.838879793
「ネイチャがペースコントロールに入った」 その姿を双眼鏡で覗きながら、イクノディクタスの隣に座る男が言った。 「全力勝負をやる気になったのですね」それにイクノディクタスが答える。 「あぁ、一安心というか、心配の種が一つ増えたというか。ともかく、ネイチャの中で何か心のつっかえが取れたのならそれは喜ぶことだろうな」 「ネイチャさんは勝てますか?」 「マックイーンに? レースに?」 「えっ?」 トレーナーの言葉に丸眼鏡のウマ娘が顔を向けると、男はまた双眼鏡を覗いていた。しかし、それはネイチャではなく、はるか後方最後尾あたりへと向けられていた。
2 21/08/25(水)02:33:29 No.838879839
「(まったく、ペースを合わさずに練習みたいに走れなんて、ウチのトレーナは何を言っているのかしら……しかもアリマという大舞台で……これじゃあ、わざわざ相手の待ち牌へ牌を捨てるみたいなものじゃないの」 男の視線の先にいたのは、ダイサンゲンというウマ娘だった。アリマ記念では十四番人気、注目してるのは元々いたファンぐらいで、それほど注目を浴びてはいなかった。 そんなウマ娘がトレーナーから言われた作戦は一つ、「絶対に自分のペースを保て」それだけである。 「(気軽にトレーナーは言ったけど、このナイスネイチャのプレッシャーの中でマイペースってかなり難しいわよ! 本当についていかなくていいの、このハイに!もう先頭から大分差がついてるんだけど!)」 先に見えるメジロ家のウマ娘と重圧と視線を隙なくこちらへと向けてくるナイスネイチャに、思わず速さを増す心臓の鼓動を抑えながら、ダイサンゲンは後方で自分の脚に集中する。
3 21/08/25(水)02:34:10 No.838879942
「(うぅ、脚が重い……こっからツモるイメージが全く分からない。あ、でもトレーナーは何も考えるなって言ってたわね……ただ第四手前から一気に走れって、本当に何を考えてるんだか……でも優勝するって信じてたし、スーツまでもう着てきちゃってるし……全くもう、笑い者にするわけにはいかないじゃん! 耐えろ……耐えろ……!)」 ふぅっと息を吐いて向こう正面に入る集団の尾の部分で、ダイサンゲンはただ必死に進もうとする脚を何とか抑え、先を見据えた。 「脚が重く感じる……! 筋トレで負荷かけてるみたいに! マックイーンも感じてるよね!」 「あんまりお喋りしますと、体力がなくなりますわよライアン」 その先、並んで走るメジロ家の二人は、後ろからひしひしと感じるナイスネイチャの影に脅威を感じていた。 ピッタリとマックイーンの後ろにマークをするネイチャは後ろは前に出るのを躊躇わせ、前は焦らせるように器用にプレッシャーを与えて、相手のスタミナを奪いに来ている。 「でもっ、興奮しちゃって! これがナイスネイチャの走り方なんだって! こんなハイペース、最後はみんなジリ脚になるかも!」
4 21/08/25(水)02:34:41 No.838880026
「それは私も同感ですわ。とても……競いがいがあります。それに私に徹底マークとは……ふふ……」 ヴルル、と獣のいななきのような吐息がマックイーンの口から洩れて、ライアンは幼馴染の闘争本能が極限までに高まっていることに気づいた。ストレスを爆発力へと持っていくウマ娘はいるものの、マックイーンは度を超していた。花のような優雅さなどではなく、牙をむく獣の美しさ。 いかに獲物を狩るかだけを考える、煮えたぎらんばかりの身体の中に冷めた心を持つ肉食獣。それが今のメジロマックイーンだと。 そしてそれは後ろのネイチャにも感じ取れていた。 「(マックイーンは動揺している素振りは見せてない。ペースは上がってるけど、体もブレない……どんだけスタミナお化けなんだっつの! 付け入る隙間が見えないし、このままプレッシャー与えてちゃ、アタシの方がスタミナが切れる! 前に出て、スパートをためらわせる? でも……)」
5 21/08/25(水)02:35:02 No.838880066
「(ネイチャさんが前に出るにはライアンを超えて外に出なければならない。しかしそれはもう内に入り込むチャンスを逃がすということ。ネイチャさんのスタミナではそれは厳しいでしょう、さぁどうします。第三コーナー、ターボさんが落ちればそれが……)」 「(マックイーンはわざとネイチャの作戦に載せられてる……その上で真正面から叩き潰すつもりなんだ。スパートをミスればあたしごと喰われる……!)」 「た、ターボ……ぜ、全開~……」 第三コーナーを超えて、ついにツインターボが息を切らしてスピードを落とし始める。 そして中山の直線は短い、直線だけでのスパートでは前にあがりきれない可能性がある。つまり、ここからが勝負どころとなるのだ。 誰が最初に脚に火を入れるか、たった数秒未満の心理戦がウマ娘たちの中で複雑に絡み合う。誰かひとりの動きで自分の動きも変わる。出来れば後の先を取りたい、だが一つ見誤ると、追い付けなくなる。 ネイチャのペースコントロールのせいで、誰もがギリギリのスタミナをやりくりするしかない。一瞬の判断が勝敗を分ける。 ウマ娘たちの耳と目が、せわしなく情報を捉えようとする。その時だった。
6 21/08/25(水)02:35:32 No.838880155
「――そこを退いて、ライアン先輩」 ライアンの耳にネイチャのささやき声と、大きく踏みしめた足音が入ってきた。ライアンごと追い抜くには誰もが加速していない今が確実なタイミングではある。 「(ネイチャが仕掛けてきた! スタミナがあるうちに、アタシの前に出る気だ! まずい、外から前に出られたらもう、あたしには差し返す体力がないっ! 何とか内に入られないようにスピードを上げて……?)」 ライアンも慌てて、脚に力を入れて前へと出ていく。だが彼女のレース経験が一瞬で違和感を感知した、ネイチャの気配がしない。 「(なんでネイチャの……まさかッ!)」 慌てて後ろに顔を向けるとネイチャはいまだ、マックイーンの後ろにいた。仕掛けるの気配もない。いやライアンを見て一気に脚を入れる準備に入っている。次に起こるであろう展開に備えているのだ。 「(謀られた――ッ! 不味いっ、マックイーンの横が開いたことよりも……もう速度を落とせないことの方が不味い、アタシがスタートを切ってしまった!)」
7 21/08/25(水)02:36:12 No.838880257
駆けだしたライアンを追うように、他のウマ娘たちも少ない燃料を使って速度を上げていく。全員がスパートをかけて、上がり始めたバ群に実況とファンの声にも熱がこもってきた。 「さぁ、わずかにツインターボ先頭! ツインターボ先頭! かなり速いペースとなっております! マラジェッツが横を交わして先頭に躍り出た! すぐ後ろにダイタクヘリオス、ツインターボは此処までだ!」 「(やりますわねネイチャさん、あのライアンが図らずも火蓋を切るとは。ハイペースにしては速すぎるスパートという最悪の展開に入っていきますわね。たった数秒、その数秒が何と私たちとっては致命的か。私もいよいよスタミナが切れてきましたわ。よもや私が抜かれなどしたら……抜かれる?)」 「(上手くいったっ、あとは……マックイーンに勝つ……なに?)」 近づいてくる第四コーナーに備えて、開いたマックイーンの隣に並んだネイチャの毛が逆立つような感覚に襲われる。思わず隣のウマ娘に顔を向けると、その目が片方だけネイチャの方にぐりんと向いた。 その瞳は怒りにも興奮にも、果てには殺意さえも感じられるようにどす黒い。
8 21/08/25(水)02:37:29 No.838880445
「(なっ……にっ、これ……ウマ娘ができる目なの……?)」 「(私に、ほんの一瞬でも敗北のイメージを沸かせるなんて、許せない)」 がん、という蹄鉄が割れんばかりに踏みしめた脚がネイチャの耳にも届いた。全身から闇が噴出せんばかりのイメージがネイチャの瞳に映る。 ネイチャのプレッシャーでさえも塗りつぶされて、真っ黒に染め上げられていく。トウカイテイオーの真っ白な純粋さとは真逆の純心、相手を踏み潰す以外興味がない傍若無人の黒の思考。 ネイチャは理解した、自分は猛獣の尻尾を踏みつけたのだと。 「さぁ、此処からなのでしょう。ネイチャさん、勝負ですわ! 木っ端に踏み潰して差し上げますっ! 真正面から貴方の自信を一つ残らずッ!」 「くっ……勝負……だ!」 第四コーナーへと入り、観客の熱狂はピークへと達しようとしていた。
9 21/08/25(水)02:38:25 [s] No.838880595
遅くなったし長くなったしお休みも三日もいただいてもういろいろと危ないですが全てはスリーゴッデスのせいなので私は悪くありません許してくださいフォーギブミー
10 21/08/25(水)02:58:55 No.838883289
後が怖い展開だ…
11 21/08/25(水)03:05:16 No.838883974
原作みたいな誰に向かってケンカ売ってるんだ感出してくるマックイーン怖あ…
12 21/08/25(水)03:22:46 No.838885696
マックにスタミナ勝負は悪手だよなあ
13 21/08/25(水)03:46:37 No.838887623
綿密な駆け引き良いね...
14 21/08/25(水)04:16:25 No.838889461
レース中のマックイーンはかっこいいなあ ライブはきっとかわいいんだろうか
15 21/08/25(水)05:40:59 No.838893247
先頭ターボの2バ身後ろのヘリオスが三番手で混乱する パーマー?
16 21/08/25(水)06:49:56 No.838897028
でもレースは2人だけのものじゃない 終盤で誰が突っ込んでくるか…