虹裏img歴史資料館

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21/08/25(水)00:57:45 1月下旬... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1629820665304.png 21/08/25(水)00:57:45 No.838859831

1月下旬。トレーナー室にて。 マヤノトップガンとそのトレーナーは向かい合って椅子に座り、次走に向けての打ち合わせをしていた。 その最中、彼から語られた言葉。マヤノトップガンは呆気にとられたかのように、その言葉を聞いていた。目は見開かれ、明るい黄色の瞳がただ驚きの色を映す。 「マベちんが…」 その呟きに、マヤノトップガンのトレーナーは深く頷いた。いつもの調子ではない、真剣なトレーナーの顔を見て、これは冗談ではないとマヤノトップガンも自覚する。 マヤノトップガンが聞かされたのは、マーベラスサンデーが次走を阪神大賞典に定めたという話。それは即ち、次のレースで彼女とぶつかり合うことを示していた。 「そっか…」 その言葉を聞いて、マヤノトップガンの口から言葉が漏れた。その顔に映ったのは、喜びも戸惑いもなく、ただ事実を事実として受け入れるかのようなそんな顔。そしてその顔がどこか能面のように、どうとでも彼女の感情を推し量れるような、そのような感覚に彼女のトレーナーは襲われていた。 先日までトレーナーはある言葉を口にしようか、迷いをずっと心中に抱えていた。

1 21/08/25(水)00:58:06 No.838859927

『次のレース、大阪杯に変更しないか?』 という問いである。 有効な策ではあるが、しかしそれは同時にマヤノトップガンに『マーベラスサンデーには勝てるかどうか怪しい』と宣言するようなもの。確実なG1勝ちを取ろうとする甘言は、ウマ娘との絆を破壊せざるを得ないリスクをも孕んでいた。肝心のトレーナーが、担当のウマ娘を信じ切れていないと宣言するのに等しい行為。だから彼はその言葉を口にするのを止めた。そして 「マヤ、次走は変えない」 そう力強い語気で彼は語る。そして 「次の阪神大賞典、一着を取るんだ」 真剣なまなざしで語り掛けるようにゆっくりと、マヤノトップガンにそう告げた。 途端、マヤノトップガンの目じりが緩む。 「うん!!!」 満面の笑顔でそう答えた彼女の顔は、春の暖かさをもたらすような太陽のような笑顔だった。 その光にあてられて、トレーナーの顔にも笑みが零れる。本当にこの言葉を口にして正解だった。そう彼は思った。

2 21/08/25(水)00:58:23 No.838860026

だが現実は何も変わっていない。無冠とはいえG1レースで好走をつづけるマーベラスサンデーを負かすのは至難の業であると彼は思っている。 そこで彼がある一つの策を取ることにした。 ドアをノックする音がした。 「どうぞ」 その音にトレーナーが応えると 「失礼する」 と一人のウマ娘が姿を現した。 そのウマ娘の姿を見て、マヤノトップガンの顔に驚きの色が広がる。彼女の目の前に現れたのは、黒鹿毛の髪をしたウマ娘。長い髪を後ろで束ね、凛とした釣り目の瞳に光が走る。誰もが知るシャドーロールの怪物。 「ブライアンさん!?」 その姿にマヤノトップガンが驚きの声を上げる。彼女の名はナリタブライアン。マヤノトップガンのライバルの一人である。 「久しぶりだな」 そう言った彼女は、いつもの調子で腕を組み、マヤノトップガンの傍で仁王立ち。現在はトゥインクルシリーズに出走していない彼女であるが、体調は万全でいささかの衰えもないようである。

3 21/08/25(水)00:58:45 No.838860139

「ナリタブライアンさん、立ちながら話すのもアレですし…こちらに座ってください」 「あぁ、すまない」 ナリタブライアンがトレーナーの横の椅子に座ると、トレーナーはマヤノトップガンの方を向いてにんまりと笑った。 「これから、阪神大賞典までの間、ナリタブライアンさんにはマヤのトレーニングに付き合ってもらうことになった」 そう宣言するトレーナーの顔を見て 「ホント!?」 目を輝かせるマヤノトップガン。 「そうですよね?」 「あぁ」 トレーナーの言葉に憮然とした表情で答えるナリタブライアンだったが、その瞳の色はやる気で満ちていた。

4 21/08/25(水)00:59:03 No.838860226

昨年度、マヤノトップガンの成績が芳しくないのはナリタブライアンも知りうることだった。ライバルの一人がこのような調子を見せるのにも苛立っていた彼女である。しかし、マヤノトップガンに不甲斐なさを叱咤したい気持ちを抑え、日々を過ごしていた彼女だったが、つい先日、マヤノトップガンのトレーナーが彼女のもとを訪れ、一緒に練習してほしいと頼み込みに訪れたのだ。最初はその依頼に、首を縦に振らなかったナリタブライアンだったが、トレーナーの懇願に折れた形で今回の依頼を受諾した。最も、彼女にとっても、マヤノトップガンに一言言いたい気持ちは変わっておらず、ある意味、渡りに船の依頼でもあった。最も、そんな彼女自身の気持ちに無自覚であったナリタブライアンである。 「やったやったー!!!じゃ、早速練習しようよ、ブライアンさん!!!」 椅子から立ち上がり、元気一杯にやる気を見せるマヤノトップガンを見て、 「本当にオマエは変わっていないな…ガキめ」 眉をひそめるナリタブライアン。しかし 「だが私も本気でやらせてもらうぞ」 と不敵に笑うと 「アイコピー☆」 マヤノトップガンもそれに元気いっぱいに答えたのだった。

5 21/08/25(水)01:00:34 No.838860678

3月下旬、阪神競バ場。 日曜日、第11レース。G2、阪神大賞典。芝3000m。 天候は曇、バ場は稍重。 『さぁ春の天皇賞に向けて!スタートを切りました!』 レースの幕が切って落とされた。1週1689mの阪神競バ場、向こう正面・第二コーナー出口からのスタートである。 参加したのは8人のウマ娘。最初は坂のない直線であることから、前を競うようにスピードを乗らせていくウマ娘たち。 マーベラスサンデーは四番手に位置しレースを進めるが (…アレ?) その違和感にすぐに彼女は気づいた。マヤノトップガン姿が目の前にない。そしてどよめく会場の雰囲気を感じ取り、すぐにその異常の原因に彼女は気づいた。 『マヤノトップガンは…殿か!?マヤノトップガン、まさかの殿からのスタートです!』 なんとマヤノトップガン最下位。今回のマヤノトップガン、まさかの追い込み策である。 レースを始めたマヤノトップガンの脳裏に思い出されたのは、練習中、ターフの上にて行った、トレーナーとの打ち合わせの記憶だった。

6 21/08/25(水)01:00:55 No.838860796

「今回、ライバルとなるのは勿論マーベラスサンデーだ」 「うん!」 「今まで好走を続けるマーベラスサンデーだが、彼女には致命的な欠点がある」 そう含みを持たせて話すトレーナーに 「それって、物見のクセのこと?」 とマヤノトップガンは首をかしげて答えた。 「…気づいてたのか」 「えっへん!マヤすごいでしょ!」 そう胸を張る彼女に、トレーナーは歯を見せて笑い 「よーし!偉いじゃないかマヤ~!!!」 と頭をわしゃわしゃと撫でる。その反面、まさか気づいていたとは、とマヤノトップガンの才覚にトレーナーは驚いていた。 じゃれあう2人を傍に佇むナリタブライアンはただ見ていた。顔を顰めて無言で圧力をかけるが、依然としてじゃれあうのを止めない2人を見て 「おい」 と一声。2人の視線がナリタブライアンに向き、お互いふざけるのを止めて向き直った。

7 21/08/25(水)01:01:26 No.838860956

「そこで、だ」 仕切りなおすようにトレーナーが声をかけ 「阪神大賞典では追い込みでレースを進めてくれ」 と提案する。 「追い込みを取ったお前をマーベラスサンデーが見ようとすれば、自然とその順位を下げざるを得ない。しかしマーベラスサンデーが今まで追い込みを行ったことは無い。…トップスピードで分が悪いと考えているのかもな」 「うん」 「だが追い込みでレースを進めれば、マヤ以外のウマ娘に意識が向かざるを得ない。マークを外れたマヤは足をじっくり溜めて、最後の直線で先頭に躍り出たあの子を大まくりする」 「うん」 一通り話したトレーナーの顔は自信に満ちていた。 「どうだ?」 と問いかけるトレーナーに 「アイコピー☆」 と彼女は満面の笑みで答えたのである。

8 21/08/25(水)01:02:06 No.838861136

そして阪神大賞典に場面は戻る。 『先頭に躍り出たのはサージウェルチ!メガトン!シンボルロックの3人!!!お互いに牽制をしあってレースを進めます!』 直線を駆ける3人のウマ娘。 『そしてもう一人の注目のウマ娘!マーベラスサンデーは四番手!逃げウマ3人とは少し離れて後続を引っ張ります!』 3人のペースに巻き込まれることなく、前を向いて走り続けるマーベラスサンデー。 『ぽつーんと離れた殿にマヤノトップガン!マヤノトップガン、思い切った作戦に出ました!』 追い込み策を取り、全体を見渡すマヤノトップガン。 第3コーナーに入り、シンボルロックが先頭争いから身を引いた以外、レースの展開は大きく変わらず、そのまま第四コーナーをウマ娘たちが抜けていった。 大歓声が巻き起こるホームストレッチ。バ群は縦長となり、逃げウマ2人、マーベラスサンデーらバ群5人、そしてそこから離れてマヤノトップガンという展開でレースは進む。 『先頭はメガトン!外にサージウェルチ!この2人が引き離して逃げています!そして三番手にはシンボルロック!その横にマーベラスサンデー!』 実況の声が響き渡る。

9 21/08/25(水)01:02:45 No.838861299

観客席にて、依然として最下位のマヤノトップガンの様子を見て、トレーナーは強い手ごたえを感じていた。マーベラスサンデーが見ているのは恐らく三番手のシンボルロック。そして恐らくマヤノトップガンの手の内は、彼女にはまだ明らかになっていない。なおかつホームストレッチに至った時点でのウマ娘たちの走りは平均ペース。マヤノトップガンにはまだまだ余力が十分残っている。 「いけるな、今年の阪神大賞典」 トレーナーの隣にいたナリタブライアンがそう声をかける。 「えぇ…。ですが、まだ1000m。あと三分の二、残ってますからね」 そう応えるトレーナーだが、その言葉とは裏腹に、その言葉尻には自信が垣間見えていた。

10 21/08/25(水)01:03:18 No.838861455

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11 21/08/25(水)01:03:53 No.838861620

そして2周目に入り、状況は徐々に変化し始めた。 『第一コーナーに入りまして、先頭の2人、依然として並走しています!マヤノトップガン、依然として殿ですが!現在は段々前に迫ってきています!』 第一コーナーと第二コーナー。マヤノトップガンはこの平坦な曲線で加速し少しずつだが差を縮め始めた、 そして向こう正面に至ったウマ娘たち。逃げウマ2人が体力温存のため、徐々にペースを落とし始める。 (そろそろかな…☆) 逃げウマとの差が縮まってきたことを感じ取り、マーベラスサンデーは3番手に順位を上げた。見ているのは2人の逃げウマ。しかしどちらを見ているというわけでもなく、2人を塊として捉えているようである。 そして (いっくよー!) マヤノトップガンも遂にウマ群に追いつき、徐々に順位を上げ始めた。第3コーナー手前で外側を走り六番手まで順位を上げる。

12 21/08/25(水)01:04:42 No.838861837

マヤノトップガンも遂にウマ群に追いつき、徐々に順位を上げ始めた。第3コーナー手前で外側を走り六番手まで順位を上げる。 そして第3コーナー。ここから第4コーナーまで下り坂。他のウマ娘たちがスピードが出すぎる事に躊躇する中、 (曲がれる!!!マヤなら曲がれる!!!) 外から他のウマ娘たちを捲り始めるマヤノトップガン。レース中、何度も見せた十八番の動き。内に体重をかけてトップスピードを乗せる、円弧のマエストロと言って差し支えのない動きである。 『さぁ第4コーナーに入りました!マーベラスサンデーが内側!マヤノトップガンが外側で並びました!』 そして遂に、マーベラスサンデーにマヤノトップガンは追いついた。マーベラスサンデー三番手、マヤノトップガン四番手。マヤノトップガンの方が前半飛ばしていない分、体力が有り余っており、そしてマーベラスサンデーのマークを完全に離れている。

13 21/08/25(水)01:05:18 No.838862018

(マベちん…!今日はマヤの勝ちだよ…!!!) 強い信念をもって目の前のマーベラスサンデーの背中を見るマヤノトップガン。本当の勝負に向けて、迫る最後の直線に賭けて、胸をときめかせる、その刹那だった。 マーベラスサンデーの顔が少しだけ横を向いた。 (え…?) そしてマヤノトップガンは彼女と目が合う。 その顔を見て、マヤノトップガンは悪寒を覚える。 マーベラスサンデーの顔は、まるで自分を待っていたかのように妖しく笑っていたのだ。そして瞳に輝く金星が、悪魔のような色合いを帯びていた。勘のいい彼女は、聡い彼女は、その時唇をかみしめた。絶対に負けられないという意思をもって。

14 21/08/25(水)01:05:39 No.838862115

『第4コーナーを抜けて!!!先頭に立ったのはマーベラスサンデー!!!第四コーナーから直線にかけて先頭!!!』 「マァァーーーベラァーーーァス☆」 マーベラスサンデーが直線を向き抜け出し準備を整え、一気に加速する。 「マヤだって!!!」 それに追いすがるマヤノトップガン。一陣の風となり彼女に並びかける。 『中にマーベラスサンデー!!!外にマヤノトップガン!!!内にシンボルロック!!!』 阪神大賞典の最後の最後。ついに先頭争いは3人のウマ娘に絞られた。そして 『マーベラスサンデー!!!先頭で直線の坂に入っていく!!!それに追いすがるマヤノトップガン!!!残り400m!!!』 「もっともっと!!!マーベラァァァーーーァス!!!」 一文字に駆けだすマーベラスサンデー。トップスピードを上げ抜け出しはじめるが 「負けないんだから!!!」 マヤノトップガンも全身全霊の末脚で伸び始める。

15 21/08/25(水)01:06:22 No.838862318

『200を切った!!!マーベラスサンデーが逃げる!!!マヤノトップガン抜けるのか!!?』 阪神競バ場、最後の急坂。ここでマヤノトップガンの脚色が輝く。登山家の異名を持つ坂道匠者の彼女の本領発揮である。 『マーベラス逃げる!!!しかしその差はわずか!!!マヤノ差し切るか!!?マヤノ差し切るか!?』 徐々に縮まるバ身の差。その差はほんの1/2バ身。 (あと少し…!!!あと少しで抜けるんだ…!!!) マヤノトップガンがゴール板を目指して一層の加速をする。 もう二度と負けたくない。有マ記念のような悔しい思いはもう二度としたくない。その信念を脚色に伝え、前へ前へ、最後の根性を振り絞るマヤノトップガン。顔中に汗を拭きださせ、すべての力を、振り絞るように走り切る。

16 21/08/25(水)01:08:12 No.838862838

だが 『マーベラスサンデー!!!僅差で一着!!!』 現実は無情な結果を突き付けた。 『マーベラスサンデー!!!春の盾への関門を一着で駆け抜けました!!!』 一着を取ったのはマーベラスサンデーだった。二着となったマヤノトップガンとの差はアタマ。最後の最後に、マヤノトップガンは彼女を抜ききることができなかった。 「マジかよ…」 観客席にて半ば放心状態となるトレーナー。 「クソっ…」 そして、僅差とはいえ敗北したことに歯をくいしばるナリタブライアン。 観客席から見た2人の視線の先には、第一コーナー付近で佇むマヤノトップガンの姿がいつまで経っても瞳に焼き付いて離れなかった。

17 21/08/25(水)01:10:09 No.838863377

レースが終わり、ターフにて 「マヤノ」 そうマーベラスサンデーはマヤノトップガンに話しかけた。 「マベ…ちん…」 動揺した瞳を隠すことなく、マヤノトップガンに笑顔を見せる。そして 「マーベラスなレースだったね☆春の天皇賞も頑張ろうね☆☆☆」 屈託のない声色で、彼女はそう声をかけた。なんの曇りもない、表裏の全くない声色で。 「あ……」 その言葉を耳に入れた瞬間、マヤノトップガンの心の中で、何かが砕ける音がした。 こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があってないのでこれにて失礼する fu278080.txt

18 21/08/25(水)01:12:11 No.838863934

おい待てェ いい加減適性抜群な事を認めれェ マヤノ...

19 <a href="mailto:sage">21/08/25(水)01:15:06</a> [sage] No.838864690

>動揺した瞳を隠すことなく、マヤノトップガンに笑顔を見せる。そして 〇動揺した瞳を隠すことなく佇むマヤノトップガンに、マーベラスサンデーは笑顔を見せる。

20 21/08/25(水)01:36:02 No.838869632

負けたけどマヤノかっこいいじゃん それを上回ったマーベラスの底知れなさ レース描写好きだから再戦まで書き切るんだよほら

21 21/08/25(水)02:02:23 No.838874672

毎回レース描写が濃密で凄いカロリー食う マベちんの話なのにマヤにめっちゃ感情移入してしまう…

22 21/08/25(水)02:03:20 No.838874834

砕けた心を組み直してまた戦うことがあれば…マーベラスじゃない?

23 21/08/25(水)02:13:01 No.838876592

誰よりも悔しい思いをしたルームメイトの登場はまだですか?

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