21/08/22(日)22:14:55 前回ま... のスレッド詳細
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21/08/22(日)22:14:55 No.838113288
前回までです sp93797.txt
1 21/08/22(日)22:15:14 No.838113439
【東京 エアグルーヴ達が出発した後】 生徒会室で一人、席に座りながら窓の空を見上げる。決戦の時は刻一刻と近づいている事を、ハルウララ─シンボリルドルフは感じ取っていた。 黒服の男が何を目的に行動しているのかは、まだ分からない。だが、これ以上あの男に好きにさせる訳にもいかなかった。 だからこそ、エアグルーヴ達が何か情報を掴んでこなければ厳しい戦いになるのは明白だった。 「…頼んだぞ、エアグルーヴ、ブライアン。」 組んだ手に力が籠る。目に宿る闘志は、更に深く燃え上がっていた。 「ねーっ、るどるふちゃん!きょうはなにすればいいのっ?」 生徒会室のソファにかけながら無邪気に声を上げるシンボリルドルフ─ハルウララは、ばたばたと足をせわしなく動かした。
2 21/08/22(日)22:15:33 No.838113595
「…そうだな、今日の為に先行でエアグルーヴ達には仕事を片付けてもらったし、一緒に学園の見回りでもしようか。」 「うんっ!るどるふちゃん、いっしょにいこーっ!」 ハルウララが立ち上がった瞬間、扉が叩かれる。咄嗟に机の下にハルウララが隠れると、シンボリルドルフが返事を返した。 「…っ、はあい!だれですかっ!」 このコンビネーションにも手慣れたもので、シンボリルドルフもそつなくこなす。扉の奥から、ノックの主の声がした。 「駿川たづなです。理事長から、シンボリルドルフさんへお話があるそうです。直ぐに来ていただけますか?」 「…うん、わかった。まってて!」 扉の前から足音が遠ざかると、すっとハルウララが机の下から外に出る。不安そうなシンボリルドルフと目が合った。
3 21/08/22(日)22:15:51 No.838113750
「るどるふちゃん、おはなしってなんだろう…?」 「うむ、理事長に伺わなければ分からんが…何か急ぎの用件の様だ。すぐに向かおう。」 ~~~ 【理事長室】 「よく来たッ!席にかけたまえッ!!」 小さな少女─秋川やよいが待ち受けていたようにソファに座る。シンボリルドルフは目の前のソファに座り込んだ。 「それで…おはなしって、なあに?」 「うむッ!実は…君にはとあるコンツェルンの総帥と会って欲しいッ!!」 「こん…えっ?な、なんで?」 「うむ…我々が新たなレースとしてURAファイナルズの計画を進めていることは把握しているな?だが、レースの新設には多大な費用が掛かる。今回はさらに全レース場の全距離を対象レースにしているため、会場の手配などにも多額の出費が発生する。」
4 21/08/22(日)22:16:07 No.838113889
「うーん…とにかく、いーっぱいおかねがひつよう、ってこと?」 「端的ッ!だが、おおむねその通りだッ!そのため我々はかねてから出資者を探し、交渉を行ってきたのだ。そして、今回君が会ってもらうのは、是非とも力を貸してほしいコンツェルンの総帥なのだッ!」 「…なんで、ウラ…わたしがあうの?」 「それに関しては…我々も、困惑ッ!だが、先方が指名をされたのだ。『もし本当に出資をしてほしいのなら、トレセン学園生徒会長のシンボリルドルフと話をさせてくれ。』と。我々としてもこのままでは、URAファイナルズの開催は極めて難しい…。 どうか、私達のため、そしてウマ娘達の未来のため、協力してほしいッ!!」 秋川やよいが、ばっと大きく頭を下げる。シンボリルドルフには話の内容は半分とも分からなかった。だが、それでも自分に助けを求められている事、そして自分の力でそれを解決できることは理解した。 「…わかった!その、そうすいさんとおはなししてくるよっ!」 「おおっ…か、感謝ッ!!それでは準備ッ!出発は直ぐだッ!!」 「…えっ?」
5 21/08/22(日)22:16:30 No.838114076
~~~ 【総帥宅】 「…それにしても、大分急な話だったな。」 「うん…でも、ウララがんばるっ!!」 シンボリルドルフの屈託のない笑顔を見て、ハルウララもふっ、と僅かに笑みを零した。 使用人の案内の元、2人が歩く廊下は総帥宅の長い廊下だった。あきれ返るような豪華絢爛なインテリアに、夏の合宿で泊まる宿泊所よりも広い部屋。これで本宅ではなく別荘だというのだから、この総帥が如何に巨大な資産を持っているのかが分かった。 「…ねっ、るどるふちゃん。そのうでにつけてるのって、なにー?」 使用人に聞かれないように、シンボリルドルフは小声でハルウララへ語り掛ける。 「これか?生徒会の庶務の腕章だ。これがあれば生徒会と装えるからな。」
6 21/08/22(日)22:16:55 No.838114314
「でも、るどるふちゃん…かってについてきてだいじょうぶなの…?」 「…まあ、隠れて着いてきたから誰にもバレていないだろう。それに、ウララ一人で行かせる訳にはいかなかったからな。…あっ、これは別に…ウララが頼りないと言っている訳ではないぞ!?」 「うん、わかってるよっ。…あ、あそこかな?」 廊下の突き当り、扉が見える。目の前まで来ると、使用人がぴたりと止まり、回れ右をする。 「ここが、総帥のお部屋にございます。私の案内はここまででございます。」 「うんっ!ありがとーっ!」 シンボリルドルフが扉に手を掛ける。分厚い扉を開くと、中の照明が差し込んできた。 意外にも、中は外の廊下ほど豪華な意匠ではなかった。シンプルな、しかしそれでいて高い質を感じさせる優雅な空間。その奥に、大きなデスクと椅子、そしてそこに鎮座する小さな姿があった。 「ホッホッホ…君が、シンボリルドルフ君だね。」 小さな老人が笑みを浮かべる。ハルウララは無意識のうちに背筋を伸ばし姿勢を正していた。
7 21/08/22(日)22:17:17 No.838114501
世界長者番付にも名を連ねるその老人は、ハルウララが今まで出会ってきたどの人物よりも文句なくNo1の大物だった。姿勢も自然と正されるというものである。 ちら、とシンボリルドルフの方を見る。彼女も背筋を伸ばし、極限の緊張のせいか両腕にはガチガチに力が入っていた。 「さあ、ソファにかけたまえ。そこの小さな君もね。」 「…ッ、は、はいっ!!」 ブリキのロボットのように、腕を真っすぐ振りながら歩いていくシンボリルドルフをハルウララが支えながら、2人は何とかソファに座り込んだ。 「うむ、いいオーラだ。人の上に立つ器を持つ者の纏う雰囲気だ。些か未熟な部分もあるがね。」 「そ、それでっ、おは、おはなしって、なんでしょうかっ!?」 「ああ、そうだそうだ。君の所の、トレセン学園だったかね。そこから出資をしてほしいと言われたんだ。だがね…私は無駄な事はしない主義なんだ。」 「えっ?」 「現在のトレセン学園には出資する程の価値はない、そう言っているんだ。」
8 21/08/22(日)22:17:42 No.838114716
老人がこちらの反応を見定めるように静かに語る。ハルウララが咄嗟に反論を返した。 「お待ちください。新たなるレースであるURAファイナルズはこれまでのどのレースよりも大規模なものになります。動く金額も莫大、それでも出資する価値はないと?」 「そう思っているのは君達だけだ。今現在、トレセン学園のイメージは急落している。理由は…そう、シンボリルドルフ。君だよ。」 「えっ!?」 「感謝祭のあの事件、そして先日の春の天皇賞でのトウカイテイオーによる糾弾。今や君を前の様に清廉潔白な人物として見るものはそう多くない。」 「お待ちください!あれは雑誌の記者が書いたでたらめのものです!」 「真実かどうかが重要ではない。真に重要なのは世の中がそれをどう捉えているかだ。マイナスイメージが大きい今、君達へ私の大事な金を渡してどれだけの意味があるのかな?」 企業の論理を淡々と語る老人。だが、そうならばなぜシンボリルドルフをここに呼んだのかが、ハルウララには理解できなかった。 結局のところ断る算段なら、そう伝えさえすればいい。わざわざ名指しで呼び出したという事は、何かしら取引をする心積もりがあるはずだ。
9 21/08/22(日)22:17:55 No.838114838
「…それでは、我々に出資していただくつもりは一切ないと?」 「ふむ…そこなんだ。今回シンボリルドルフ君を呼んだのは。ここからは大事な話なのでね、君は退室して貰うがよろしいかね?」 老人の嫌に圧の強い視線に、ハルウララは従う他無い。一人立ち上がり、部屋の外に出た。 ばたんと扉が閉まると、ハルウララは周りを見回す。人気が無いことを確認すると、扉に耳をぴたりとつけた。 (せめて話の内容だけでも聞かなければ…くそっ、扉の厚さのせいで聞こえにくい!) 部屋の中に一人きりになったシンボリルドルフに向かって、老人は目線を向ける。 「確かに今のトレセン学園には価値はない。だが…君そのものには価値がある。」 「…どういうこと、ですか?」 「ふふ…私は所謂『蒐集家』と言う奴でね。珍しいもの、唯一無二のもの、至高のもの…そういったものを集めずにはいられないのだ。」 「…??」
10 21/08/22(日)22:18:17 No.838115027
「シンボリルドルフ君。どうやら伝わっていないようだからハッキリ言わせてもらおう。私は君が欲しいんだ。」 「…えっ!?え~~~~っ!?!?そ、そんなこときゅうにいわれても…っ!」 「いやいや、別にこれは愛人になれなどという意味ではない。私が欲しいのは、シンボリルドルフというウマ娘そのものだ。君の比類なき走力が欲しい。」 老人は立ち上がり、窓に近寄り外を眺める。庭園に植えられた色とりどりの花が日の光を反射し目に映える。 「私は今までずっと様々なものを集めてきた。金はもちろん、美術品は絵画に始まり彫刻や陶磁器、果ては彗星まで買って集めた。」 「…えっ?い、いま“すいせい”っていった?」 「うん?ああ、この間買ったのだよ。確か、ウマレー彗星とかいう75年周期で地球に接近する貴重な彗星だと言っていたな。いや、これを手に入れるのには大分苦労したよ…金も」 (ッ…!?!?!?!?) 扉越しに聞き耳を立てる身体に衝撃が走る、うっかり叫び出しそうになった口を急いで手で塞いだ。 (ま…まさか、私達の入れ替わりの原因かつ、唯一の解決方法であるウマレー彗星が…こんなところで出てくるとは!!)
11 21/08/22(日)22:18:45 No.838115248
跳ね上がる心拍数を落ちつけながら、深呼吸をしてハルウララは再び聞き耳を立てる。 「金に糸目を付けず様々なものを集めてきた。だが、それでもまだ手に入れていなかったのがウマ娘ということだ。だから、私は…。うおっ!?」 そこまで言うと老人がシンボリルドルフの方を振り返る。と、自分の目の前に現れた大きな影に驚き後ずさる。 影の正体─シンボリルドルフが、ふんふんと鼻を鳴らしながら大仰にお辞儀をした。 「おねがいしますっ!!そのすいせい、わたしにくださいっ!!それはっ、るど…わたしが、ずっとさがしてたもので…!ほんのすこしでいいですからっ!!」 早口に願い申し上げ、お辞儀をしたまま固まる。いや、それはもう『願い』というよりも、一方的な要求だった。 しかし、それはシンボリルドルフなりの”入れ替わり”を解決するための行動だったことは、ハルウララには痛いほど理解できた。 「…その彗星は苦労して手に入れたモノだと、先程話したはずだね?」 「わかってますっ!すこしだけでいいんですっ!!」 「ふむ…いや、むしろ好都合か…。」
12 21/08/22(日)22:19:09 No.838115478
老人の一言に、シンボリルドルフが顔を上げる。それを見た老人が、にやっとまた笑みを浮かべた。 「そこまで言うならば、この彗星を君に売ってもいい。」 「えっ!!ほ、ほんとですかっ!!!」 「ただし、それなりの金額だがね。400億で良い。」 「えっ…そ、そんなおかね、もってない…です…。」 「ホッホッホ…心配は要らない。私が君を400億で買ってあげよう。そのお金で買うが良い。」 「…??」 「つまりだ、まず私が君を400億を貸し付ける。そして、その金で君は私から彗星を買うんだ。ただし、この時点で君は私の所有物なのだから、君に彗星を与えるかどうかの権利は私が持っている。」 「えっと…それって、いみがないんじゃ…?」 「そう思うなら、君が私にURAファイナルズの筆頭出資者の権利を売ればよい。もし本当にURAファイナルズが出資に値するイベントだと私が認めれば、その権利を400億で買ってあげよう。その金で、自分自身を買い戻すが良い。」 「…でも、おじいさんはしゅっしするかちはない、って…。」
13 21/08/22(日)22:19:24 No.838115624
「今のところは、という事だ。要するに、世間における君の汚名を返上出来たなら出資する価値もあるだろう。ならば、話は簡単だ。来る宝塚記念で、君を糾弾したトウカイテイオーを打ち破ればよい。」 「…!!」 シンボリルドルフと、扉越しのハルウララが同時に息を飲む。 悪魔の悪戯か、天使の戯れか。運命は既にトウカイテイオーと戦う事に収束しているかの様に感じた。 「無論、君が負ければ出資する意味もない。君は私の物になる。 言っておくが、私の所有物になった場合には、君には一切の自由を与えない。私が勝てと言ったレースには必ず勝ってもらうし、君の身体を利用した研究に強制で参加してもらう。400億という金額は君でさえ一生かかっても返すことは出来ない借金なのだ。その生涯を全て私に捧げてもらう事になる。 …それでも良いなら、ウマレー彗星とやらを君に譲ってあげてもいい。」 つうと汗がハルウララ─シンボリルドルフの頬を伝う。息をひそめ、耳をピンと立てる。 (ウララ…ダメだ!そんな条件を飲んではいけない…!!) しかし、シンボリルドルフは即答だった。
14 21/08/22(日)22:19:41 No.838115771
「うんっ!わかった!!」 そして、シンボリルドルフの前で、老人が妖しくにやりと笑う。 「それでは、シンボリルドルフ─あなたのこれからの人生、400億で買い上げましょう。」 老人が机の引き出しから紙を取り出し、さらさらと何かを書きつけるとシンボリルドルフへペンと共に手渡した。それは借用書であり、貸付金額には400億の数字が書き込まれていた。 シンボリルドルフもそこへ自分の名前を書く。まるでその行為の重さを理解していないかの如く、筆の運びは軽やかだった。 「…よろしい。それでは、宝塚記念を楽しみに待っているよ。ホッホッホ…!」 老人の笑い声は、別荘中に響き渡っていた。
15 <a href="mailto:s">21/08/22(日)22:19:51</a> [s] No.838115860
次回に続く
16 21/08/22(日)22:21:44 No.838116694
えらいこっちゃ...!
17 21/08/22(日)22:26:38 No.838119023
その言葉が聞きたかった…