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21/08/22(日)02:29:11 レース... のスレッド詳細

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21/08/22(日)02:29:11 No.837780287

レース。それは何かと定義するとき、人によって、ウマ娘によって、様々な答えがあるだろう。戦いの場。憧れへの目標。通過点。夢。遊び場。ミッション。一生をかけるもの、など。 ウマ娘達の歩む姿を見続けている、ある人は言った。レースは運命の交差点だと。目標や夢、野望や大志。あらゆる想いを抱き、その舞台に立つウマ娘達が走り、そして結果は現れる。誰もが一番にはなれない。誰かは絶対に最下位を取る。そのような無慈悲な結果だけが現れる場所で、ある者は歓喜と祝福を得て、ある者は悔恨や絶望の涙を流す。それでも、彼女たちは前に進むしかない。なぜならば、トレセン学園に所属するウマ娘なのだから。 そしてその栄光と凋落は交わる世界を経て、彼女たちは新たな目標を見る。誰もが栄光を望むために。いつか光を手にするために。そしてその光をたどる道標の乗り替わりが常に生まれる場所、それがレースであり、だからこそその人は、レースのことを運命の交差点と呼んだのだろう。 10月下旬、東京競バ場。 日曜日、第11レース。G1、天皇賞(秋)。芝2000m。 天候は晴、バ場は良。 今日もまた、そんな運命の交差点が訪れようとしていた。

1 21/08/22(日)02:29:51 No.837780443

『東京、府中を渡る風には、秋の匂い、そして初冬の冷たさを同時に感じます。G1ウマ娘が4人、ステークスウィナーが11人。実に豪華な顔ぶれとなりました秋の天皇賞。17人の優駿によりまして、秋の女帝の座を得るための覇が競われます』 秋の匂いは天にまで届くように、雲が遠く、空は広く。そして吹く風はすがすがしくもどこか冷たく。その冷たさは、決して冬の訪れだけがもたらすものではないのは確かだった。ウマ娘の間に漂う緊張感という名の張り詰めた空気。それがどこか肌を刺すように漂うのであり、そしてウマ娘達の心に熱さを灯す。 その舞台に彼女は姿を現す。長い長い地下バ道を通って、栄光の、初めてのG1レースのターフの上に。 『さぁ、姿を現しました!本日の二番人気の登場です!ここまで脅威の9戦8勝!なんとこれまで掲示板を外したことが一度もありません!今回初めてのG1レース!どのようなレースを見せてくれるのでしょうか!驚異の日曜日!マーベラスサンデーの入場です!!!』

2 21/08/22(日)02:30:17 No.837780540

実況の声と観客の声に彩られ、彼女は姿を現した。大きな金色の髪飾り。栃栗色のツインテール。初めての勝負服に身を飾り、瞳の中の星光を輝かせ、 「マァァァベラァァァス☆☆☆」 そして腹の底から声を張り上げる。それに応えるように、観客も雄たけびを上げる。彼女の名はマーベラスサンデー。遂に約束の舞台へと舞い降りた彼女を、世界が祝福するかのようである。 そしてもう一人、ウマ娘が地下バ道から姿を現す。桃色と白色の勝負服。背の高くすらりとした身体。幾とどない挫折を抱え、それでも諦めなかった不屈の体現者。瞳に映ったアクアマリンの瞳に桜の花びらが舞っている。 『そして!皆さんお待ちかねの一番人気のウマ娘!春の天皇賞では見事な一着!前哨戦のオールカマーでも脚色の輝きに衰えは全くありませんでした!今回、天皇賞春秋連覇がかかります!フランスから来た不屈の桜!!!スリゼローレルです!!!』 その姿に観客が大歓声を浴びせる。その歓声に感謝するように、頭のピケ帽を取り、深々と頭を下げる。彼女の名はスリゼローレル。G1ウマ娘の中でも現在最注目を受けるウマ娘。

3 21/08/22(日)02:30:43 No.837780652

「先輩☆」 スリゼローレルにマーベラスサンデーが話しかけた。 「マベちゃん」 それに微笑んで応えるスリゼローレル。 「一つ目の約束、果たしたよ☆」 笑顔を見せるマーベラスサンデーに 「うん、ありがとう。今日は最高のレースにしようね」 スリゼローレルは右手を差し出した。マーベラスサンデーもその右手を握る。お互いの瞳に光が交わされる。それは約束の舞台に立てたことをお互いに祝福する光であり、ライバル同士最高の戦いをしようと望む光でもあった。 「あー、スリゼローレルさんっスよね」 握手をしあうマーベラスサンデーとスリゼローレルに話しかけてきたウマ娘がいる。ショートウルフの鹿毛の髪。どこかけだるそうな垂れ目。そしてレースの場にも拘わらず、彼女はターフの上でガムを噛んでいた。 「あ、自分、ミスバブルガムって言います。ヨロシク」

4 21/08/22(日)02:31:16 No.837780802

その差し出された手を、スリゼローレルは 「あ、はい!」 ちょっとぎこちない様子で手を取った。何せこのウマ娘と話すのは初めてだったのだ。スリゼローレルが違和感を持つのも無理はない。それにお構いなしでミスバブルガムはどこか満足気である。握手を終えた2人は手を離した。 「あのっスね、アタシ、今クラシッククラスなんですけど」 「あっ、はい」 「皐月賞の前で大ケガしちゃって、全然出られなかったんスよ、レース」 「あら」 スリゼローレルの目が見開かれた。自分も経験してきたことを目の前のウマ娘は経験したらしい。 「そんで…本当はもうガッコ辞めちまおっかなって考えてたンスけど」 そこで少し、ミスバブルガムは照れくさそうに視線を逸らした。 「その…見てたんスよ、テレビで。春の天皇賞」 右手で頭を髪の毛を触りながら彼女は話す。

5 21/08/22(日)02:31:43 No.837780929

「マヤノトップガンさんとナリタブライアンさんに勝ってなんかカッケーなって思ってたら…後からパネェ怪我してるって知って、それで…」 言葉を続けようとしているが、どうも言葉が出てこないらしい。唸りながら視線を泳がせていたミスバブルガムを見て 「今日はいいレースにしましょう」 ふんわりと微笑みかけ、スリゼローレルは話しかけた。その言葉にミスバブルガムは振り返ると 「…あざっス!」 と言い、頭をひょっこり下げてその場を去っていった。 2人の会話が終わるころ、マーベラスサンデーは地下バ道から出てきたウマ娘を見て、思わず目を輝かせた。 「マヤちん!」 そう話しかけた栗毛のウマ娘、マヤノトップガンも駆け足気味に彼女に寄り 「マベちん!」 と手を振る。 「今日はよろしくね☆」 「うん!マヤこそヨロシク!今日こそ一着を取っちゃうんだから!」 そう2人が笑顔で会話をする中、ふとマヤノトップガンの視線が、マーベラスサンデーの近くのウマ娘に向いた。途端、彼女の目に闘志の炎が燃え始める。

6 21/08/22(日)02:32:00 No.837780995

「ローレルさん」 そうマヤノトップガンが話しかけ、スリゼローレルは彼女の方を振り返って微笑んだ。 「マヤノトップガンさん」 「今日はよろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしくね」 軽くお互いが会釈をしたのちに 「今日は、マヤが勝ちます」 と宣戦布告をするマヤノトップガン。それに目を細めて 「私だって負ける気はないわよ」 と穏やかな笑顔を見せるスリゼローレル。しかしその瞳は笑っていなかったのが、すぐにマヤノトップガンにも感じ取れた。二人の視線が交差する中、他のウマ娘たちはその様子を見ていた。エプソムカップ2位のユーヴィクトリー。札幌記念2位のメイヨジョーヌ。同レース3位のタイタクシャージャン。京都大賞典3位のカミノマジシャン。いずれもマーベラスサンデーに負かされた相手である、彼女らの姿もある。誰もかれもが、マーベラスサンデーとスリゼローレルの姿を見て心を尖らせる。このG1の舞台で今度こそ一位を取ると心に決めて。

7 21/08/22(日)02:32:22 No.837781071

(おーおー…皆さんやる気満々じゃん) それを少し離れたところで見ているのはナイスネイチャ。マーベラスサンデーに話しかけようと思ったものの、思いのほか、マーベラスサンデーに注目が集まっており、すこしためらってしまった彼女である。 そんな彼女の後ろでため息をついているウマ娘がいた。皐月賞ウマ娘のジュラルミンである。どうも調子が優れないらしく、その顔にはどんよりとした雰囲気が漂っている。 そんな彼女に 「おい、ジュラルミン」 と話しかけたウマ娘がいた。 「ベストプレジャー…」 ジュラルミンがそう返事をする。 「お前なんて顔してるんだよ」 と言うベストプレジャーに 「なんか…緊張して」 と答えるジュラルミン。

8 21/08/22(日)02:32:43 No.837781147

「はぁ?」 とあきれた調子でベストプレジャーは首を傾け 「あのな、レースなんてテキトーにやっときゃいいんだよ」 と答えるが 「そうもいかないだろ…全力を尽くして最高の結果を出さないと…」 とジュラルミンは返す。 (コイツ、相変わらずのマジメちゃんだな…) そうベストプレジャーは思い、ため息をついた。ジュラルミンと同じトレーナーのもとで教えを受けているベストプレジャーだが、真面目すぎる彼女の心根を心配していた。真面目すぎることは、かえって気持ちばかりが先行し、最良の結果を生まないと彼女は考えている。特に今年のジュラルミンの成績は芳しくない。それが反映されてか、この天皇賞に臨む彼女の顔色は不必要に張り詰めすぎたものとなっていた。

9 21/08/22(日)02:33:01 No.837781221

「ほーれ」 と言って両手をジュラルミンの顔に当て押しやるベストプレジャー。 「ふぁふぃふふんふぁよ…」 何するんだよ、と言いたかったのだろう、不満そうな顔でジュラルミンは言葉を漏らす。 「ちったぁリラックスしろよお前」 そう言って手を離すナイスプレジャー。その悪戯じみた子供のような笑顔を見て 「…うん」 とジュラルミンは答えた。 その様子の一部始終を見ていたナイスネイチャは苦笑する。 (いいコンビだね…あんたら) そう彼女が想いを巡らすうちに 「あ!ネイチャ!!!」 マーベラスサンデーが彼女の名を呼びつけた。

10 21/08/22(日)02:33:17 No.837781277

途端、視線がナイスネイチャの方を向き、他のウマ娘の視線が彼女の方を向く。それから逃げるようにナイスネイチャはマーベラスサンデーのもとに歩み寄ると 「ネイチャ☆今日はマーベラスなレースにしようね☆」 とマーベラスサンデーが満面の笑顔で彼女に話しかけた。 「ハイハイ…せいぜい頑張りますよ」 そう飄々とかわすナイスネイチャだが、実のところ、彼女の心は躍っていた。 かつては3度の骨折、そして生死を彷徨う疝痛を経た目の前のウマ娘。まさか同じレースに走れるようになるとは思ってもみなかった。 だからだろう、彼女はやさしく微笑みこう言ったのだ。 「マーベラス、いいレースにしようね」 と。

11 21/08/22(日)02:33:48 No.837781389

東京競バ場にファンファーレが鳴り響く。 ゲートの中から、初めてのG1のファンファーレを、清々しい気持ちでマーベラスサンデーは聞いていた。 約束の舞台だというのに、初めてのG1レースだというのに、彼女の心は落ち着き払っていた。いつものレースと変わらない心の水面。ただいつもと違うのは、周りにいるウマ娘が、皆が皆、才能と個性が溢れるウマ娘であるということ。 (どんなマーベラスなレースになるのかな…) そう彼女が胸に期待を膨らませている最中 『さぁ秋の天皇賞!今スタートを切りました!』 ゲートが開かれ、天皇賞(秋)がついに始まった。

12 21/08/22(日)02:34:48 No.837781601

ゲートが開き、一斉に駆けだすウマ娘達。 東京競バ場の1周は2083m。対して、秋の天皇賞は芝2000m。スタートするのは、第一コーナー付近に設けられた「スポット」と呼ばれる直線コースからである。そしてすぐに第二コーナーにあたるため、自然とその直線距離は短くなる。だからこそ、このレース、一般的には内枠有利・外枠不利と言われている。外枠は短い直線で、最短距離を取れる内側のポジションをとるにはスタートダッシュが重要とならざるを得ないからだ。 内枠のウマ娘は2番ナイスネイチャ・4番ミスバブルガム。8番のマヤノトップガンはどっちつかず。そして11番のマーベラスサンデーと16番のスリゼローレルは不利な位置からのスタートとなった。 先頭に駆けだしたウマ娘の後ろに続々とウマ娘が続き、一段となりレースが始まる。 『注目の一番人気スリゼローレル!現在、後方から二番手から三番手!ゆっくりゆっくりと上がっていきますが!果たしてこれからどのような位置取りをしていくのでしょうか!!!』

13 21/08/22(日)02:35:42 No.837781821

スリゼローレルは無理をせず、後方に待機するポジションでレースを始めた。もとより彼女の得意戦法は差しである。レース序盤から無理をしなくてもいいと踏んだのだろう。 一方でマヤノトップガンは五番手、先行策。マーベラスサンデーは七番手。ナイスネイチャは十二番手。早くもレースは第二コーナーを抜けて向こう正面に入った。 『さぁ、早くも向こう正面!先頭を行くのはムギノホマレ!しかし同じく逃げウマのダーバンサイドも競り合っている!しかし後続は一団となり、その様子をじっくり眺めている構えです!』 (まぁ、序盤はこんなもんかな…) と、ナイスネイチャは十二番手のポジションから前をうかがっていた。

14 21/08/22(日)02:36:11 No.837781959

幾度となく様々なレースに出走してきた彼女である。東京競バ場の芝2000mの感覚はつかめているようであった。 東京競バ場の特徴。それは長く坂のあるホームストレッチである。直線距離は約525m。そして残り400m手前から300mまでの間、高低差2mの坂がある。つまり最後の直線は非常に体力を使う反面、坂道さえどうにかできれば、あとはスピードが乗りやすいため瞬発力勝負となるのが一般的。だからこそ、第四コーナーまでは、体力を温存することを考えるため、スローペースにどうしてもなりやすいのだ。 ナイスネイチャが周りを確認すると、どうも他のウマ娘たちも大体の要領はつかんでいるようである。

15 21/08/22(日)02:36:57 No.837782128

(マーベラスは…) と前を走るマーベラスサンデーを見ると、レース経験が少ないにも拘わらず、他のウマ娘と調子をあわせて外側を走っている。 (へぇ…やるじゃん…) とナイスネイチャは思ったが、それが彼女の物見のクセがもたらしていたものであることまでは、流石に気づけていなかった。 『さぁ、ウマ娘たち、第三コーナーに差し掛かります!大きな順位変動はなく、先頭は相変わらずムギノホマレ!その横にダーバンサイド!マヤノトップガンは先団五番手位!G1初挑戦のマーベラスサンデーは七番手!そして注目のスリゼローレルは十二番手といった所!』 いつの間にか横に並んできていたスリゼローレルをナイスネイチャは確認する。鋭い眼光でその様子を見ると、どうもまだまだ余裕がありそうな感じである。 (さっすが春の天皇賞ウマ娘…まだまだ足を溜めてるのかね…) と彼女が思ったその瞬間だった。 じわりとスリゼローレルが位置取りを押し上げ始める。 (あ…もう行くの…!?) ナイスネイチャがそう思ったポイントは、第三コーナーを抜け、第四コーナーへと差し掛かろうとしていた頃合いだった。

16 21/08/22(日)02:37:20 No.837782211

そしてスパートをかけ始めたのはスリゼローレルだけではない。先頭の2人の逃げウマもスパートをかけ始める。後続が足をためているのが分かった以上、先頭を引っ張る逃げウマからすれば、少しでもアドバンテージを作っておきたいのだろう。バ群が2人の逃げウマと離れはじめ、自然と縦長の展開になっていく。 しかし (そろそろアタシも行くかァ!) 三番手に付けていたミスバブルガム、自然とバ群を引っ張る立場になっていた彼女もコーナー加速をし始める。それに応じて (マヤも!) マヤノトップガンが加速し (マーベラース☆) マーべラスサンデーもそれに続く。 第四コーナーに差し掛かり、ふと後続の様子を逃げウマのムギノホマレが確認すると、すぐ後ろにバ群が錐状に固まっているのがすぐに分かった。 もうこれはまずい、どうにかしようもない。バ身差が開けられないのならば、最短の位置取りをしていくよりほかにない。焦る彼女の脳裏とは裏腹に第四コーナーがついに終点に向かい始める。

17 21/08/22(日)02:38:13 No.837782370

(絶対にマヤが勝つんだから!) マヤノトップガンが闘志を燃やす。 (天皇賞春秋連覇…!絶対に達成して見せる!) スリゼローレルの脚色が輝き始める。 (アタシだって…アタシだって一番になりたいんだ…!) ナイスネイチャの鋭い眼光が前を向く。 (最高のレース…☆最高の直線…☆☆☆) マーベラスサンデーが心をときめかせる。 レースはついに終盤を迎える。観客たちの大歓声が響き渡る。彼女たちのすぐ目の前に、秋風吹きすさぶ東京競バ場の長い直線が姿を現した。

18 21/08/22(日)02:38:42 No.837782458

『ムギノホマレ先頭か!?いや!ダーバンサイド先頭に変わった!!!』 内々を走る逃げ馬たち。だが直線を向いた鋭い末脚が彼女たちをとらえにかかる。 『外からはミスバブルガム!そしてその後ろにはマヤノトップガンも来ている!ローレルはまだか!?ローレルはまだか!?』 「行くぞぉぉぉおお!!!」 鋭い脚色で大捲りにかかるミスバブルガム。しかし 「マヤだってぇぇぇえええ!!!」 マヤノトップガンもそれに食らいつく。 2人が逃げウマを捲った瞬間 『マーベラスサンデーも来ているぞ!!!』 「マーーァァァアベラァァーーアス☆☆」 抜け出し準備を整えたマーベラスサンデーも加速し始める。

19 21/08/22(日)02:39:05 No.837782550

『残り400!!!残り400!!!ここからは坂!!!ここからは坂がある!!!』 坂道を懸命に上るウマ娘たち。ここが勝負の分かれ目。心臓破りの坂道を登り切れるかがレースの勝敗を分かつ最大のポイントである。汗をふきだし、懸命に坂を上るウマ娘たち。そんな最中、ついに彼女が躍り出る。 『スリゼローレル!!!スリゼローレル!!!中を割ってものすごい末脚!!!』 後方十番手から、坂道をもろともせず、スリゼローレルがウマ娘たちを躱して前に前に順位を上げていく。 『そしてもう一人来ている!ベストプレジャーだ!!!』 「ああぁぁああ!!!きついいいいい!!!」 そのスリゼローレルに食らいつくようにベストプレジャーが彼女のすぐ内側から並走する。 『残り300!!!残り300!!!』 先頭はミスバブルガム。そのすぐ右後ろにマヤノトップガン。そして外側にマーベラスサンデー。そしてミスバブルガムの後ろに迫ってきたのがスリゼローレル。彼女の内側にはベストプレジャー。

20 21/08/22(日)02:39:27 No.837782631

(ここから差し切る!!!) スリゼローレルの脚色が輝きを増し、なおも加速する。そしてついにマーベラスサンデーと肩を並べた。 (先輩…!!!) マーベラスサンデーの瞳がスリゼローレルをとらえた。そこに在ったのは真剣な顔。前だけを向いて走るその顔は、かつて彼女が一緒に練習したあの時よりも精悍で、そして逞しくて。 そして 「マァーーーーァアベラッァァアアアス☆☆☆」 それを見た彼女の脚色も輝き始める。一緒に走る喜びを爆発させるかのように、一文字に直線を駆けていくマーベラスサンデー。 その雰囲気を感じ取ってか、 「負けるかぁぁあああ!!!!!」 「マヤだってぇえええ!!!!!」 ミスバブルガムとマヤノトップガンの末脚も冴えわたる。 だが、スリゼローレルにはまだ余裕があった。残り200mの看板を過ぎ、さらに一段階の加速を残していた。

21 21/08/22(日)02:39:48 No.837782704

(このまま…差し切って…!!!) と思い、彼女が視線を前に向けたその時だった。 「うぉぉおおおお!!!!早く来いよ糞マジメ!!!!!」 スリゼローレルの左を走るベストプレジャーがなおも粘っていることに気づいたのは。 そしてその瞬間、スリゼローレルの頭に、冷や水を浴びせたような感覚が全身に走る。 前には2人のウマ娘。右に粘り続けるウマ娘。そして左には彼女自身をガン見するウマ娘。 その状況に気づいたときに (やらかした……) スリゼローレルはようやく気付いた。足があってもルートが一切ないことに。 右のマーベラスサンデーは余裕のスタミナ。絶対に粘ってくるから抜くことはできない。 左のベストプレジャーは抜けるかもしれないが、その前にはマヤノトップガンがいるから壁になる。 そのことにようやく気付いたのだった。

22 21/08/22(日)02:41:28 No.837783084

途端、彼女は泣き笑いのような形相になり 「トレーナーさん…ごめんなさぁああああい!!!!」 と叫んだ。そして 『バブルだ!!!バブルだ!!!ミスバブルガムだぁぁああ!!!!』 ゴール版を駆け抜けるウマ娘たち。 今年の秋の天皇賞、一着を取ったのは、なんとクラシック戦線のウマ娘、ミスバブルガムだった。 マヤノトップガンは二着。スリゼローレルは三着。そしてマーベラスサンデーは四着で、初めてのG1レースを終えた。

23 21/08/22(日)02:41:50 No.837783152

天皇賞(秋)を終え、三着だったスリゼローレルと四着だったマーベラスサンデーは仲良く地下バ道を歩いていた。しかしその足取りは非常に重いようである。 そんな最中 「ローレル?」 スリゼローレルのもとに歩み寄る女性がいた。 「ト、トレーナーさん…」 ひきつった笑いを浮かべてスリゼローレルは彼女に向き直った。 スリゼローレルを指導するベテラントレーナーは手に持ったクリップボードをスリゼローレルの頭に軽くあてると 「やらかしたわね」 と一言。 それに 「はい…すいません…。やらかしました…」 としょぼくれた顔で謝罪の言葉を口にした。

24 21/08/22(日)02:42:08 No.837783222

その様子を見てへらへら笑っていたマーベラスサンデーだったが 「マベちゃん!!」 と、自分を呼ぶ声に身を震わせる彼女である。 早足で近寄ってきたその若い女性、マーベラスサンデーのトレーナーは 「マベちゃん、最後の直線、ローレルさんばっかり見てたでしょ!!!」 と叱りつけた。 「はい…」 「ダメじゃないの!!!前を向いて走らないと!!!」 「ごめんなさい…」 そう叱られたマーベラスサンデーは両手で頭を抱え込む。 反省の様子を見せた2人のウマ娘。その様子を見た、2人のトレーナーはお互いに顔を見合わせると、目を合わせて苦笑しあう。 そして 「「本当に仕方のない子」ですね」 と声をそろえてそれぞれの教え子に微笑みかけた。 2人のウマ娘は一瞬視線を合わせ、申し訳なさそうに頭を下げるのだった。

25 21/08/22(日)02:43:39 No.837783507

そんな様子を見ているウマ娘がいた。ナイスネイチャである。 今回の天皇賞は十着。掲示板にも乗れなかった大敗だった彼女だが、自然とその汗だくの顔には優しい微笑みが宿っていた。 (よかったね…マーベラス) 決して四着がよかったという訳ではない。目の前にいる同室のウマ娘が、ちゃんとG1レースの舞台で走り切れたことを、そしていいライバルに恵まれていることを、どこか懐かしく、そして嬉しく思ったナイスネイチャなのだった。 こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があってないのでこれにて失礼する fu268762.txt

26 <a href="mailto:sage">21/08/22(日)02:46:57</a> [sage] No.837784091

余談 皐月賞ウマ娘のジュラルミンは十四着の大敗でした お友達のベストプレジャーにこの後激励されてマイルCSで一着を取りますがこれはまた別のお話

27 21/08/22(日)02:53:56 No.837785368

>文章の距離適性があってないのでこれにて失礼する >おい待てェ

28 21/08/22(日)02:55:28 No.837785644

ネイチャさんはいい子だね

29 21/08/22(日)03:00:56 No.837786665

バチバチに熱くてよかった 夜ふかししてたらいいもん読めたわ こういうの好きだからまた書いてくれ

30 21/08/22(日)04:09:46 No.837796934

バブルガムとネイチャの結果をどう表現するのかと思っていたけどよかった… ローレルとマーベラスも後を引く敗戦といった感じではなくてよかった…

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