トウ... のスレッド詳細
削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。
21/08/22(日)02:09:44 No.837775420
トウカイテイオーがプールでのトレーニングから戻ってきたとき、一足先に『準備があるから』とトレーナー室に戻っていったはずのトレーナーは古びた木製のデスクに突っ伏して舟を漕いでいた。 待たせてしまったことを負い目に思いながら、大きな音を立てないよう彼の傍までゆっくりと歩み寄る。トレーナーの隣に立つと彼の寝息が微かに聞こえてきた。 見れば机の上には、トウカイテイオーのために用意されたのであろういくつも付箋の張られた資料に加え、彼女が好きなお菓子とグラスに注がれたジュースまで置かれていた。グラスはすっかり汗をかいており、運悪く表面に接触していた紙の一部を濡らしてしまっていた。 トウカイテイオーはそれを離れた位置に避難させると、紙を乾かすためにトレーナーの背後にある西向きの、この部屋で一番大きな窓を開けてそこに紙を吊るしておいた。 ――さて、と、テイオーが今度こそトレーナーの肩に手を伸ばしかけて――やめた。
1 21/08/22(日)02:11:48 No.837776014
(起こそうかと思ったけど……昨日も遅くまで仕事してたんだよね) 直接確認したわけではないけれど、今のテイオーにはそれが自身のために費やされた時間なのだとわかった。二年以上の付き合いから来る経験則だ。そして、それは実際その通りだった。 (もう少し寝かせてあげようっと) なにかかけるものでもないかと辺りを見回せば、ちょうど薄手のブランケットがあったのでそれをかけてやる。それからブランケットついでに引っ張ってきた椅子を、トレーナーの座る椅子にぴったりくっつけて腰をおろす。 ふうと一息ついたとき、開けていた窓から吹き込んだ風が薄手のレースカーテンと鹿毛の髪を弄んだ。 「……はやいなぁ」 どこか遠くから聞こえてくる儚げな蝉の声とすっかり過ごしやすくなった気温に夏の終わりを感じながら、トウカイテイオーは顔にかかった一房の髪をかきあげた。
2 21/08/22(日)02:13:20 No.837776422
(……いつもそうだ) いまもって目を覚ます気配のない担当トレーナー。その横顔をぼんやりと眺めながら、彼女は口中でつぶやいた。 いつだってテイオーのことを最優先に考えてくれる。自身のことなど後回し――このトレーナーという人はつまり、そういう人物なのだった。担当ウマ娘のために自分にできることはなにか、どの選択が彼女にとって最も良い選択なのかを模索し、ともすれば本人よりも真剣に悩み、泣き、笑う。 自惚れでも思い上がりでもなく、楽しいときもつらいときも、ほとんど毎日のように一緒の時間を過ごして彼の人となりをみてきた彼女だからこそ、確信をもって言える。 ――これまで出会ってきた誰よりも、テイオーの心に寄り添ってくれる存在。 「トレーナー……」 ――だから、いつからか彼のことを自然と目で追ってしまっている自分に気がついたときも、不思議と心のどこかで"ああ、やっぱりそうなんだ"という納得があった。
3 21/08/22(日)02:15:04 No.837776877
はじめて温かい手に触れられた日を想う。眠っているトレーナーの頬にそっと触れると、胸がきゅっと苦しくなって思わず胸をおさえた。心臓の鼓動がトレーナーに聞こえるのではないかというほどいや増し、言葉にできない感情が沸き立つ。 それは、トレーナーに会うまで知る由もなかった感情だった。 いつだったか……そんな感情を持て余して一度だけシンボリルドルフに相談したことがある。 すると、彼女は一度も見たことがないほど辛そうな表情を浮かべ、 『そういった感情が芽生えるというのは、君が成長しているという証左に他ならない。私も素直に嬉しいよ。――だが。だが、そうか……』 とだけ言って、それきり口を噤んでしまったのだった。結局、その日彼女はそれ以後口を開くことはなかったのだが、それでも聡いテイオーは理解できてしまった。 (この想いは、状況をだめにしてしまうものなんだ)
4 21/08/22(日)02:16:48 No.837777325
はまってはいけないピースがある。完成してはいけないパズルがある。 歪だからだ。どうしたって埋めることのできないものが二人の間にはあるからだ。 たとえ受け入れられたとしても、拒絶されても――二人の間に溝を作るか、二人と世界の間に溝を作るかという違いにしかならない。どちらにせよ、悪い大人であるとして糾弾されるのはトレーナーだ。 仮に『待っていてほしい』と伝えたとする。彼のことだから、彼女の為だけに五年でも十年でも待っていてくれるのかもしれない。けれどそれは、他にあったかもしれない幸福の選択肢を――可能性を邪魔することになる。 ――そしてなにより、心根のひどくやさしい彼は、それすらも受け入れた上で隣にいてくれるだろう。しかしそのとき、受けた愛撫で傷付くのは、間違いなくトウカイテイオー自身だ。だからこそ、シンボリルドルフは口を閉じざるをえなくなった。 肩をすくめて力なく笑う。 「みんな……やさしいんだ」
5 21/08/22(日)02:18:23 No.837777691
寝息を立てるトレーナーの唇に震える指先でそっと触れる。 楽しい時間は終わらないのだと思っていたし、トレーナーの傍にずっといられるのだと思っていた。 二人の時間は永遠に続くのだと思っていたし、ずっと続けばいいと思っていた。 ――気づけば、最後の夏が終わろうとしていた。 「イヤだよ…離れたくないよ……」 言ってしまった。 これだけは口にしてはいけなかったのだ。一度でも弱い自分を出したら、もう二度と強いふりはできなくなる。何が絶対だ。何が無敵のトウカイテイオーだ。そう思うとテイオーの視界がじわりと歪んだ。 「う……うぁ……ああ、ぁ……っ……」 必死に押し殺そうとする。 けれど、胸の奥からとめどなく押し寄せる感情が次々と涙になって溢れ出し、机の上にあった紙の染みを際限なく広げていく。 少女が零した誰も知らない想いは、ただ開け放たれたままの窓をくぐって――そうして藍が混じり始めたオレンジの空へと、拡散して消えていった。 さっきまで聞こえていたはずの蝉の声は、もう聞こえなかった。
6 21/08/22(日)02:25:12 No.837779368
理事長!これは!?
7 21/08/22(日)02:29:41 No.837780399
傷心!
8 21/08/22(日)02:32:32 No.837781106
きれいで儚い良い文章だ…続きがあるなら待ってるよ
9 21/08/22(日)02:33:10 No.837781251
初恋の終わりは美しい
10 21/08/22(日)02:34:24 No.837781521
何を諦める必要がある奪い取れ!
11 21/08/22(日)02:35:38 No.837781799
ワガママなテイオー様は最愛の人を守る為に初めて我慢を覚えたんだな…
12 <a href="mailto:s">21/08/22(日)02:37:45</a> [s] No.837782291
年の差や種族の違いがある二人が結ばれる話が好きです
13 21/08/22(日)02:38:23 No.837782400
そうか 結ばれる話を書け 書かなかったら許さんからな
14 21/08/22(日)02:38:43 No.837782461
今結ばれる所まで書くって言った?
15 21/08/22(日)02:38:59 No.837782524
結ばれなかったらコブラを投入するとこだったよ
16 21/08/22(日)02:40:11 No.837782802
続きを書く作業に移れ テイオーを笑わせてから眠りに就け
17 21/08/22(日)02:43:58 No.837783569
寝る前になんてものを… このままではうなされる羽目になってしまいますのでどうか結ばれるお話をお願いいたします
18 21/08/22(日)02:55:27 No.837785643
失恋テイオーもいいよね… 恋が実るのもいいけどたまには苦い思い出でなっちゃうのもいい
19 21/08/22(日)02:58:34 No.837786208
>失恋テイオーもいいよね… >恋が実るのもいいけどたまには苦い思い出でなっちゃうのもいい いたいけな少女が失恋を経て影のある孤高の帝王になっていくんだろうな…
20 21/08/22(日)03:00:07 No.837786516
まだ勝ちの途中!
21 21/08/22(日)03:02:13 No.837786910
レースでの栄光と挫折と復活そして失恋を経たテイオーは確かにどこか影のある美しい大人へと成長しそうだ… しかしそれでも俺は安直なハッピーエンドが見たい
22 21/08/22(日)03:09:24 No.837788209
カイチョーの辛そうな顔と全てのウマ娘の幸福という信念をつなぎ合わせるとこのトウカイテイオーは素晴らしい二代目生徒会長になれそうだな!