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  • 君の役... のスレッド詳細

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    21/08/21(土)22:30:00 No.837684248

    君の役に立ちたい。 機械の身体を得て君のパートナーになった時から、その思いは変わらない。 君は賢く、優しく、強い正義の心を持っている。 そんな君のパートナーになれたことを心から誇りに思う。 そして気付かされる。ぼくという存在が、如何に役立たずかということを。

    1 21/08/21(土)22:30:18 No.837684376

    研究のお手伝いをしたくても、図鑑(ぼく)はその研究成果を反映したもの。 未知の存在を前にしては、『データがありません』を通知する箱でしかない。 目の前に酷く疲れ切った君がいるのに、ぼくはただ身を案じて声を掛けることしかできない。 大切な時に役に立たない自分を何度恨めしく思ったか。 ジュナイパーのように君を守ってあげることも ヒドイデのように君を抱きしめてあげることも この貧弱で小さな身体では叶えることができない。 それでもぼくは、君を―

    2 21/08/21(土)22:30:35 No.837684530

    1. 痴話げんかの翌日、研究所でサンくんは正座をしていた。 わたしたち三人に取り囲まれながら。 「サンくん。」 「ハイ…。」 「なんで正座させられてるか分かっていますか?」 「…ワ、ワカリマセン。」 バトルモードのスイレンに睨まれ、小さく縮こまっているサンくん。 「なんで分からないんですか?」 「す、すみません…。」 「折角ムーンちゃんが歩み寄ってくれてたのに、どうしてあんなこと言っちゃったの?」 「博士が自分らしさのままで良いって…」 「そうなんだがそうじゃないというか…色々タイミングが悪かったな…。」 深いため息をつく博士は負い目があるのかあまり発言をしない。

    3 21/08/21(土)22:30:45 No.837684629

    「だとしてもねサンくん、例え興味なくたって大切なものを“そんなの”とか言ったら誰だって傷つくよ?」 「う…。」 「あーあ、あそこでハイって言っておけば今頃ムーンちゃんはサンくんに色々教えようって向こうから会いに来てくれてただろうに。」 「ッ!……お客さんに嫌われちまったかな…?」 「少なくとも、株は大暴落したと思うねー。」 「はぅう…。」 涙目で反省するサンくんに若干憐みを感じるものの、身から出た錆というか、今後もあんなことを繰り返していたら本気で脈なしになっちゃうかもしれない。 「とりあえず、その言葉選びを直すところとか、相手を思い遣ることとかから取り組んでいこっか。まずは仲直りしないとね。」

    4 21/08/21(土)22:30:56 No.837684725

    早速ムーンちゃんへ電話をさせる。 「…あ、お客さん?あのさ…」 『ごめんなさい、いま忙しいから至急の要件以外は後にして。』 「あ、ハイ…。」 ピッと通話を切るサンくん。 「こらこら!そんな簡単に切っちゃダメでしょ!」 「で、でも支給のようかん?じゃねえとダメだって………三日後くらいに電話してみっか。」 あたしたちが散々脅したせいもあるかもだけど、サンくんビビりになってるな。 ムーンちゃんも電話の感じ、もしかして本気で怒ってるのかな?だとしたら… 「サンくん、もう電話じゃダメだ。こうなったら――」 「へ?」

    5 21/08/21(土)22:31:16 No.837684898

    2. \ピンポーン/ 玄関先での十数分にわたる葛藤の末、お客さん家のインターホンを押した。 あの日、マオさんたちから受けた提案は二つ。 ①お客さんに直接会ってしっかり謝ること ②その上で仲直りデートに誘うこと だ。 ①はいいとして②はハードルが高くねえか?というかそもそも許してくれっかな…? 3日経ったから大丈夫だよな…?もう一回電話すんの怖くてアポ取ってねえのマズかったかな…? インターホンを前にして不安がどんどん湧き出てくら。 持参した羊羹を眺めながら、今すぐ逃げ出したい気持ちを必死に押し殺す。だぁー!早く出てきてくれお客さんー!

    6 21/08/21(土)22:31:42 No.837685121

    堪えきれずにもう一度インターホンを押すも返事がねえ。 あ、留守なのかな?仕方ねえ帰るか…。ガッカリ(正直ホッと)しながら帰ろうすると、ガチャっと扉が開いた。 「お客さ…」 『しーッ!!』 いきなりロトムに口を押さえこまれる。 「…プハッ!あにすんだよ!」 『(いま眠ったところロト!ちょっと静かにするロト!)』 眠ったぁ?今もう11時だぜ。夜更かしでもしてたのか。 『(…今朝まで三日三晩ネクロズマの共同研究所に缶詰状態だったロト。本人は大丈夫って言うけれども、もう心身共にヘトヘトのはずロト…。)』 申し訳なさそうな様子でお客さんの近況を教えてくれた。 電話でお客さんが忙しいって言ってたのは本当だったんだな…どうやら間が悪いときに来ちまったようだ。

    7 21/08/21(土)22:32:10 No.837685344

    「(そういうことなら明日また出直すよ。)」 「待って。」 帰ろうとした矢先、奥の部屋からお客さんがやってきた。 「あ、起こしちまったか…。」 『ムーン寝てた方が…』 「大丈夫。それより何?」 「え?いや、でもよ……」 いまは謝るよりもお客さんを寝かせてあげた方が良いんじゃねえか…?とアタフタしてたら「…とりあえず中に入って。」と催促され、言われるがままに玄関をくぐる。 「お邪魔しまーす…。」 玄関の扉を閉めると、お客さんがオレっちの胸へもたれかかってきた。 ……???

    8 21/08/21(土)22:32:47 No.837685698

    「お、お客さん…?オレっちはベッドじゃねえぞ?」 急な出来事に戸惑うオレっちへ追い打ちをかけるように、ほっぺを火照らせながら上目遣いでオレっちをじっと眺めてくるお客さん。 「…ごめんなさい、いま退くね。」 一度は胸から顔を離すも、「…んぅ…」と吐息と一緒に再度ダイブしてきた。 その吐息の色っぽさに腰が抜けて仰向けに倒れ込んでしまい、そのままベッド役に。 「…運び屋さん」 オレっちに重なるように跨るお客さんの息遣いや感触、体温が全身に伝わってくる。 fu267936.jpg 「ほっ…ほっ…ほきゃっ……ほきゃぁ…っ!?」 こころも体も過去最高に動転して言葉にならない声が口から漏れ出す。 真っ赤な顔と潤んだ瞳、汗ばんだ肌はしっとりしてて、少し呼吸が乱れている様子は、まるで―― 風邪だコレ。

    9 21/08/21(土)22:33:11 No.837685893

    3. 『ムーン!!』 「オイッしっかりしろ!」 額に手を当てるまでもなく、見るからに具合が悪そうだ。 「…ごめんなさい、ちょっと疲れが…溜まってた、みたいで。」 「なんでもいいけどとりあえず病院に…!」 「大丈夫、わたしは薬剤師…。解熱…剤は自分でつくれる…から。」 とにかく部屋へ連れてってという希望を叶えるため、ベッド役から運び屋に転職して急ぎベッドへ搬送した。 「ロトム、水と濡れタオル用意してくれ!」 『了解ロト!』 「不覚ね…。風邪をこじらせ、ちゃうなんて。」 悔しそうに語るお客さん。 「気にすんな!エイパムも木から落ちるってヤツだ。」

    10 21/08/21(土)22:33:23 No.837685994

    「…ロトムに、悪いこと…しちゃった。あの子の忠告……無茶したの、はわたし…ら。」 渾身の励ましはスルーしつつ、苦しそうに息をしながらロトムのことを気遣う。 「とにかく早く薬を…。」 そうね、と相槌を打ってむくりと起き上がろうとするお客さんを引き留める。 「オイオイあにする気だよ!?」 「…そこの材料棚で、すぐに…つくれるわ…。」 「そんな状態で無理すんな!やっぱ医者呼ばねえと…。」 「症状は自分がよく…分かってる。…薬の調合くらい…直ぐよ。」 「けどよ…」 「たいした風邪じゃない…から気に…しないで。」 そう言ってまだ動こうとするお客さんをグッと抱きしめて、強引にベッドへ寝かしつけた。 「…そんな苦しそうにしてんのに、放っとけねえよ。」 観念したのか、起き上がろうとするのをやめて、目を細めてオレっちを見てくる。 「じゃあ、ちょっとお願い…しようかしら。」

    11 21/08/21(土)22:33:57 No.837686260

    ====== 「次に、三番棚の…きのみを。」 「この赤くて丸っこいのか?」 「そう、それ。それとさっき…の4つを一緒に磨り…潰して。」 お客さんの指示に従いながら、薬の調合をはじめる。 「ロトム、運び屋さんを見て…てあげて。」 『了解ロト。』 待ってろよ、今つくってやっからな。 必死に記憶の中のお客さんの調合する姿を思い出しながら、見様見真似で磨り潰していく。 「飲めるかい、お客さん。」 粉末を口の中に入れた後、ぬるま湯で流し込んでやった。 すると、さっきまで眉間に皺を寄せていたお客さんの顔に、安らぎの色が見え始めた。 「…ふーっ。あとはぐっすり眠れば…回復できるわ。ありがとう運び屋さん。」 ほっぺはまだ赤いけど、さっきまでよか大分マシになってんのが一目瞭然だ。 流石お客さんの薬だな。とはいえ今日一日はしっかり休ませねえと。おかゆをつくりに向かいながら、マオさんに応援を要請することにした。

    12 21/08/21(土)22:34:11 No.837686377

    4. まさかこのわたしが体調不良になるとは…色々と不覚だった。 普段から健康維持を心掛けてたつもりだったけど、慣れない環境での共同研究で思った以上に負荷が身体にかかっていたのかも。 しかも運び屋さんのお世話になるなんて…。いつもと関係が逆転ね。 そもそもどうして運び屋さんやってきたのかしら?何か用があったのにわたしの看病をさせちゃった…。 「お客さんメシできたぜ。」 熱が下がった頭で猛省しているわたしに、お粥を運んできてくれた。 「ありがとう。じゃあそこに置いておいて。」 「食べさせてやっから、口開けておくれ。」

    13 21/08/21(土)22:34:23 No.837686486

    「フーフー、はい、あーん。」 とジェスチャーまでつけてスプーンを近づけてくる運び屋さん。 わたしは子どもか。 「良いから。自分で食べるから。」 と拒絶するも「病人なんだから無茶すんな」とどんどんスプーンを近づけてくる。 …なんというか、このシチュエーション…すごくドキドキする。 何故なら、凄く怖いから。 看病してもらっておいて大変失礼な話だけど、だって運び屋さんだもの!熱々の鍋をこぼしたりとか事故起こしそうじゃない。 そう、決して運び屋さんのあーんに照れている訳ではない。顔が火照っているのは熱のせいだし、鼓動の高鳴りは事故らないかという緊張感から。 そう自分に言い聞かせつつ、お粥を口に含む。 「どうだい?」 普通に美味しい。運び屋さん料理上手なのね…。

    14 21/08/21(土)22:34:35 No.837686576

    食べ終わって一息つくと、何やら神妙な面持ちでこちらを見つめている。 「…まずいな。」 なにが?美味しかったよ? 「お客さん、服も布団も汗だくだからよ、一度着替えねえとな。」 着替え…ああそうね、確かにべたついてて気持ち悪いかも。 「ついでに身体も拭いとかなきゃな。」 「そうね、風邪がぶり返さないようにしないとね。」 「おっし、じゃあいま着替えさせてやっからな。」 ……え? 着替えさせて“やる”って、……誰が?…………運び屋さん?? ちょ、ちょっと待って!それは流石に…っ  そう思うけど体がまだ言うことをきかないし、衝撃で言葉が出てこない。 そのまま布団を捲り上げられ、運び屋さんに担ぎ上げられ…… ~~~~~~~~~~~~~ッ!!!??

    15 21/08/21(土)22:34:49 No.837686707

    「よし!頼むぞお前ら!」 運び屋さんはわたしをエンに託して部屋の外に出ていき、エンたちがわたしとベッドの着替えと身体拭きをしてくれた。 「どうだい?スッキリしたろ。…ってさっきより顔真っ赤じゃねぇか大丈夫か!?」 「…ダイジョウブ気ニシナイデ…。」 そう言って制止するわたしのおでこを触って体温を確認してくる。 「…うん、熱はだいぶ下がったみたいだな。良かった良かった。」 今すぐ布団の中に潜り込みたいわたしに対して、安心した様子で笑顔を見せる運び屋さん。 本当にわたしの心配をしてくれてたのが伝わってきて、感謝の気持ちと罪悪感が交互に襲ってくる。ごめんなさい、色々失礼なこと考えちゃって…。 「ありがとう。お粥も美味しかったし、おかげさまで気持ちよく寝られそう。」 「感謝ならコイツ等に言ってあげておくれ。あとお粥はマオさんにレシピ聞いたからさ、マオさんにお礼してやってくれ。後でこっち来てくれるってよ。」 そんな、そこまでしなくて良いのに…。でもみんなに心配されちゃうことをしたわたしの責任ね。 マオさんにも今度しっかりお礼しなきゃ。

    16 21/08/21(土)22:35:00 No.837686802

    「そういや、マオさんが今度みんなで料理会しようって言ってたぜ。マオさんが先生になって、色んな料理のつくり方教えてくれるってよ。」 「そうなんだ。」 そういえば、最近マオさんやスイレンさんと一緒にいるところを見かけたけど、運び屋さんはマオさんと仲が良いのかしら。 ふたりともカラッとした明るいタイプだから、結構気が合うのかもね。 …………。 「わたしも参加していいの?」 「あったし前だろ?あに言ってんだよ。」 「そっか…。お誘いありがとう、楽しみね。」 「だろ?…だからさ、早く元気になっておくれよ。」 「ええ、約束です。」 布団の中から小指を差し出して、指きりを交わした。

    17 21/08/21(土)22:35:13 No.837686901

    5. 食器洗いから戻ってくると、お客さんは眠りについたようだった。 まだ少し顔は赤いけど、スゥースゥーと気持ち良さそうに眠ってら。 その様子をみて、ひとまずホッとする。 そのままじっと眺めていると、どんどん吸い込まれそうになっていく。 そっと顔を近づけてみると、睫毛の長さがよく分かる。 黒い癖毛に白い肌。赤味がかったほっぺはプニプニしてそうだ。 可愛いな。 好きだって自覚してから、お客さんが可愛く見えて仕方ない。 なんでもできて、優しくて、とてもキレイで可愛い。 この子と将来付き合えるようになったら、どんなに幸せだろうか。 難儀なもんで、そうやって高嶺の花だと意識するほど、心がビビっちまって告白ができなくなっちまう。 いつになったらできるんだか………… 「運び屋さん」

    18 21/08/21(土)22:35:32 No.837687037

    急なお客さんの呟きに仰天して後退りをする。 ヤ、ヤベェ…近づきすぎたか!? 「な、なんだい?」 問いかけてみるも、返事はない。 …あり? 「…お客さん?」 (スゥー…スゥー…) やはり返事はない。なんだ寝言か。…と、いうことは、お客さんはいまオレっちの夢をみてる? どんな夢を見てんだろう。夢の中のオレっちは怒られてんのかな?褒められてんのかな?それとも…… 「お客さん。」 もう一度呼びかけるも、返事はない。 ……今なら言えるかな?

    19 21/08/21(土)22:35:48 No.837687175

    寝てるよな…けど実は意識があってほしいなんてどこか願いつつ、耳元に顔を近づけていく。 「なあ、お客さん。オレっちさ…オレっちは、お客さんのことが…」 ガチャっと背後で扉が開き、思わず背筋をピンッと伸ばしてしまう。 後ろを振り返ると、新しい濡れタオルを持ってきたロトムだった。 『洗濯物は干しといたロト。』 「あ、ああ。サンキューな。こっちは何の異常もありません。」 『サン。』 「…あんだよ。」 『お前、ムーンのことが好きロト。』

    20 21/08/21(土)22:36:03 No.837687302

    6. コイツとはとにかく馬が合わない。 散々助けてやってるのにぼくのことをポンコツだの役立たずだの好き勝手言ってくれる。 本当、コイツの図鑑にならなくて良かったと心から思う。 仮にそうだったなら、それはそれでぼくはこんな悩みを抱えずに済んだのだろうけど…。ベッドに横たわるムーンを見て、己の不甲斐なさに憤慨する。 せめて昨夜、無理矢理にでも休ませておけば―そんな後悔が拭えない。 だけど、目に大きな隈をつくりながら研究に打ち込む姿に心を痛めながらも、彼女の覚悟も彼女の背負っているものを知っているから強く止めることができなかった。 その点に関しては、コイツに感謝しなきゃいけない。たまたまとはいえコイツのおかげですぐに対処できて、今こうしてムーンが安眠できているのだから。 ただし、ひとつだけ看過できないことがある。 前々から―それこそ再会した時から薄々気付いていたけれども。 『お前、ムーンのことが好きロト。』 ぼくの問いかけに、サンは顔を真っ赤にしながらも黙って頷く。 …ここではぐらかさなかったのは褒めてやる。それにムーンに惚れたのも見る目があることを認めてやる。だけどお前には―

    21 21/08/21(土)22:36:28 No.837687500

    「…お前はさ、どう思ってんだ?」 今度はサンがぼくに問いかけてきた。 『お前にムーンは勿体ない相手ロト。』 正直な気持ちをアイツに伝える。 『ムーンは将来、今より凄い学者になって世界中の人やポケモンを助けようとしているロト。そのために毎日研究をして自分の才能を磨いているロト。ポケリゾートを作るって夢も素晴らしいことだけど、ムーンはこれからの世界にとって必要な存在ロト。』 だからぼくは、彼女の夢の邪魔をしたくない。手助けをしたい。そして、何もできない自分を恨めしく思うのだ。 「…やっぱ、そう思うよな。」 いつもなら反抗的な態度を取って来てもおかしくないのに、妙に聞き分けが良い。 髪をわしゃわしゃと片手で触りながら、自分を納得させようとしている。 それがなんとも気持ちが悪い。 そんなに聞き分け良くあろうとするなら、さっさと諦めるのが…… 「けどよ、それでもオレっちはお客さんが好きなんだ。」

    22 21/08/21(土)22:36:42 No.837687621

    「今日もそうだけどさ、お客さんは何でも自分でやっちまおうとするだろ?なまじっか一人でやれちまうってのもあるが、くにでの一件もあるから尚更背負い込んじまうんだろうな。たまに危なっかしいんだよ、オレっちを追いかけて危険な目に遭ったりとか…。」 俯きながら語るサンのこぶしは、強く握りしめられていた。 「だから決めたんだ。この子の支えになれる男になるって。」 『………。』 「今のオレっちがお客さんに勿体ないってんなら、お客さんに見合う男になってみせる。そん時は、オレっちのことを認めてくれよな。」 真っ直ぐな目で、ぼくにそう訴えるサン。 『…どうしてぼくに認可を求めるロト?』 「お前がイチバンお客さんとの付き合い長いからな。イチバン近くにいて、イチバンこの子のことを分かってるだろうし、羨ましいぜ。」 『……本当にそんな日が来たら、まあ考えてやるロト。』 「ああ、約束だぜ。」

    23 21/08/21(土)22:37:19 No.837687921

    ぼくが羨ましい、か。 ぼくはお前の方が羨ましい。 彼女を守る力も、彼女を包み込める身体も、お前は持っているのだから。 だけど、お前の言う通り、ぼくが一番彼女の傍にいて、彼女のことを理解しているつもり。それだけは譲れない。 だからこそ、お前にもっと沢山言いたいことはあったけど、これ以上ぼくが言えることなんて何もない。 だって、ぼくもサンと変わらないから。 どれだけ役立たずだと自覚しても、それでも彼女のパートナーでありたいと願うのは、お前と同じ理由。 彼女のことが好きだという一心だけだから。 『…精々頑張るロト。』 部屋を出る際におくった言葉は、そのまま自分に向けた叱咤激励でもあった。

    24 21/08/21(土)22:37:32 No.837688035

    7. ロトムがタオルの交換に出てった後、フゥー…とため息をつく。 あいつにもバレちまってんだな。まあ隠してるつもりもないけど。しっかし、緊張したっていうか色んな汗が噴き出してきたな…。 そういや、汗ばんだお客さんはなんだか色っぽかっ……… (ブンブンブンブン) い、いけねえ… ほっぺをパンパンと二度強くぶちながら、変な感情を外に追いやろうとする。 こんなに穏やかに眠ってるお客さんに変な気を…ほっぺが赤みがかった表情って、妙に色っぽ…… だからやめろ!ほっぺを両側に大きくつねる。 この子はさっきまで熱と戦っててようやく寝れたんだ、変なこと考えるんじゃ…オレっち、いま好きな子の部屋で看病してんだよな。

    25 21/08/21(土)22:37:50 No.837688160

    あ、ヤベェ。 色々ひと段落したことで、お客さんの容態しか考えてなかった頭に現状を冷静に把握する余裕が生まれちまった。 途端、色んな五感情報とその記憶が洪水のように流れ込んでくる。 潤んだ瞳、吐息、抱きしめたときの感触、体温、おかゆを食べる顔、汗ばんだ身体―さっきまでそいつを間近で見て触ってた訳で…… このままだとマズイと思ってお客さんから目を逸らすも、どこを眺めてもお客さんのもので溢れていて、部屋中お客さんに包み込まれてる気がしてきて、頭がくらくらしてきた。 …だめだ、周囲を見回してる方が変なこと考えちまう。お客さんだけを見てよう……可愛い。可愛すぎる。……だぁーーーー!!!早く来てくれマオさんーーー!!!! ………もう限界だ。

    26 21/08/21(土)22:38:27 No.837688471

    心が昂ってるのもあって、今度はお客さんに覆いかぶさるように上から見つめながら、少しずつ顔を近づけていく。 このままチューできそうなくらいの距離まで近づくと、お客さんの吐息が聞こえてくる。 fu267973.jpg 堪えきれない感情を言葉に乗せて、ゆっくりと囁いた。 「お客さん。…オレっちは、お客さんのことが…」 「(サンくんお待たせー!色々準備してき…)」 『「「………」」』 「(サンくん、いまチュー…)」 「(違う違う違う!!)」 『(お前…病人相手に何してるロト……)』 「(そうじゃないんだってば!確かにちょっとしたくなったけど…あ、いやけどそうじゃねくてよ!)」 この後ロトムとマオさんの誤解を解くのに小一時間かかった。

    27 21/08/21(土)22:38:43 No.837688574

    8. 目を覚ますと、マオさんがわたしの顔を覗き込んでいた。 「おっ、ムーンちゃんおはよう!具合はどう?」 頭はまだ少しぽやんとしているけれど、熱も倦怠感もすっかりなくなっていた。 「お越しいただきありがとうございます。おかげさまでだいぶ元気になりました。…運び屋さんは?」 「サンくんはもう帰ったよ。女の子の看病は女の子に任せるって。意外とそーゆー気遣いできるんだねえあの子。」 時計を見ると、時刻は19時を回っていた。 「お忙しいところすみません…。」 「いいのいいの。困った時はお互い様だよ!」 相変わらずテンションの高いマオさんに圧倒されながらも、その溌剌さがこちらの後ろめたさを吹き飛ばしてくれてありがたかった。

    28 21/08/21(土)22:38:54 No.837688645

    「そうそう。元気になったらさ、クッキングパーティーをしようよ!」 「ええ、是非参加させてください。楽しみです。」 「あ、もう聞いてた?」 「運び屋さんが教えてくれました。だから早く元気になってくれって。」 「サンくんなりの励ましだねえ。交替するときも凄く心配してたっていうか気遣ってたし。」 そんなことが。今日一日本当に運び屋さんのお世話になっちゃった…。 「運び屋さんには色々と助けてもらいました。無償でここまでやってくれるなんて、ちょっとビックリです。」 「アハハ!あの子ムーンちゃんのこと好きすぎるからねー。……」 「「………。」」 「い、今のは人間的にって意味ね!」 「え、ええ。」 変な沈黙があったものの、大丈夫です。それは分かっています。 運び屋さんに、そういう感情はない。 今日だって、ひたすら献身的に看病してくれた。わたしのことなんて、そんな風に考えていない。 それくらい、分かっていますから。

    29 21/08/21(土)22:39:08 No.837688754

    「いずれにせよ、運び屋さんには何かお礼をしないと………あっ。」 『どうしたロト?』 お礼…プレゼント…と連想したところで気付いてしまった。今が8月下旬だということに。 「運び屋さんの誕生日、もうすぐだよね。…プレゼント、何にも考えてなかった。」 「あ~~~。」 『商品券でもあげとけば喜ぶロト。』 「そうでしょうけど、今日もお世話になったし…。」 お礼と誕生日祝いを兼ねた、何かいい物はないかしら。 『普段さんざんお世話してるのはこっちロト。ムーンはアイツを甘やかしすぎロト。』 相変わらず運び屋さんに厳しいロトム。にしても今日は厳しめね…? 「(さっきのサンくんの行動に相当オカンムリだったからなー…)あたしは良いと思うよ!サンくんも絶対喜ぶだろうし!何が良いかなー?」 マオさんとふたりでう~~~んと首を捻って悩むも、お金以外に運び屋さんが欲しそうなものが見当たらない。 そんなわたしたちの様子を見かねたのか、ロトムが口を開いた。

    30 21/08/21(土)22:39:20 No.837688845

    『…ムーンは、どうしてもサンにお礼をしたいロト?』 「ええ。どうしても。」 『……分かったロト。じゃあ、――――。いかがロト。』 「うん、いいじゃん!そうしなよムーンちゃん。」 ロトムの提案にマオさんも強く賛同し、わたしも了解する。 「ロトムさっすがー!ムーンちゃんのことよく分かってるー!!」 『ぼくもたまには役に立たないとロト。』 「いいえ、いつも助けてもらってるわ。今日もありがとう、ロトム。」 わたしの言葉に、ロトムは恥ずかしそうにスィーッと飛んでいく。その様子をみて、マオさんと顔を見合わせてクスっと微笑むのだった。

    31 21/08/21(土)22:40:59 No.837689677

    9. 『昨日はありがとうね、運び屋さん。』 翌朝お客さんから電話がかかってきた。電話越しだが、元気そうな様子が伝わってくる。 「お~~、元気になって良かったじゃねえか!」 もう無茶すんなよ、と言うと、心配かけてごめんなさい、と返してくる。 あ、そういやこっちの謝罪の件忘れてた…。いま電話越しでも謝っても良いかな? 「お『運び屋さん、31日の予定は?』 「予定?えーっと、その日はまだ仕事も入ってねえな。」 『じゃあ、その日は一緒に出掛けましょ。』 オレっち史上空前の誕生日が幕を開けようとしていた。 (つづく)

    32 21/08/21(土)22:41:31 [s] No.837689952

    以上です ラスト急に通信回線悪くなって焦った…

    33 21/08/21(土)22:43:02 No.837690723

    お疲れ様です よく考えるとムーンとアローラで初めて出会ってそのまま行動しているのはロトム図鑑でそれ故サンとは絶妙にお互いを埋めあえる関係になっていると気づかされました

    34 21/08/21(土)22:46:52 [s] No.837692678

    挿絵です 毎度無駄に長くなってしまいすみません… こんな話書いてたせいか今日は一日ワクチン副反応出た家族の看病してました 着替えのくだりは過去作を再利用しています

    35 21/08/21(土)22:48:58 No.837693709

    >1629553612543.png デジャヴだと思ったら本当に再利用だったのね 因みにこのお乗も両親共々ワクチン二回接種でワクワクチンチンになる事が出来ました

    36 21/08/21(土)22:57:31 No.837698305

    あれ 運び屋さんの誕生日って今日だっけ?

    37 21/08/21(土)22:58:18 No.837698664

    >あれ >運び屋さんの誕生日って今日だっけ? 10日後の31日だったはず

    38 21/08/21(土)23:00:02 No.837699637

    サン8月31日
 邪教徒9月16日 サファイア9月20日 近い誕生日はこんくらいか

    39 21/08/21(土)23:01:18 [s] No.837700291

    >>あれ >>運び屋さんの誕生日って今日だっけ? >10日後の31日だったはず 左様 ということで次回は30日23時半に奉納します

    40 21/08/21(土)23:11:06 No.837705498

    月曜深夜か…

    41 21/08/21(土)23:11:35 [s] No.837705728

    最近内容が過積載になってるなーと思うのでもう少しシェイプアップしていきたいです 続きものにしちゃうとアレコレ入れたくなっちゃって結果冗長に…

    42 21/08/21(土)23:15:49 No.837707905

    書きたいものは全部ぶっこんじゃっていいんだよ 自分の欲望や妄想つっこんでなんぼなんだから

    43 21/08/21(土)23:20:06 [s] No.837710300

    >書きたいものは全部ぶっこんじゃっていいんだよ >自分の欲望や妄想つっこんでなんぼなんだから ありがとうございます 以前はもうとにかくおっ勃ったら書くの精神でやってたんですが最近読みやすさとか色々考えるようになってくると一気に執筆難易度が上がってきました… 運ムン最高!だけで突っ走ってた頃の精神に戻りたい…