21/08/21(土)02:12:56 アリマ... のスレッド詳細
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21/08/21(土)02:12:56 No.837384486
アリマ記念、それはトゥインクルシリーズに興味がない人間でさえそのレースの名前を知っており、生中継を眺めるほどのレースの中では最高峰の知名度を持つ一年を締めくくるレースである。 ファン投票によって選ばれたウマ娘たちが並ぶさまは、それに投票した者達の熱狂の色で彩られ、鮮やかなファンファーレの音色がそれに続く。 ナイスネイチャはその中で、静かに深呼吸をしながらゲート前で芝の匂いをめい一杯に吸い込んだ。 初めてのアリマ記念、テレビで見た舞台に自分がいる。此処にきた経緯も、理由も灰色の意味のないものだが、それでも熱狂が体の臓腑を打つと体に熱いものが走るのを止められなかった。 「ふふーん! ネイチャ、今日はこのターボがかーつ!」 「おいっす★ 今日はターボと爆逃げかますから、よろぴ!」
1 21/08/21(土)02:13:18 No.837384563
そこに後ろから、ツインターボとダイタクヘリオスがナイスネイチャの肩を叩いてゲートの方へと歩いて行く。 ツインターボは元々は出走予定ではなかったが、直前になって強豪たちが怪我を理由でアリマ記念を辞退したため、繰り上がりで出走となったのだった。 「おーお手柔らかにお願いしますよっと」 大舞台で走れるとなってツインターボの気合は十分、ダイタクヘリオスもいつも以上に気分をアゲている。プレッシャーを高揚感に変えることができるウマ娘は少ない。 そんな二人を見習うように笑顔を送った後、ネイチャは自分の頬を一つ叩いた。 「気合十分ですわね、ナイスネイチャさん」 そして、自身にかかる重圧を純粋な闘争心でひき潰すウマ娘もいる。それがいつものルーティンとしてレース前のあいさつ回りにきたマックイーンだった。
2 21/08/21(土)02:13:46 No.837384634
勝負服も相まって、お淑やかで優雅な立ち姿だが獲物を見つけたように目は煌々として、一つでも動けばとびかかる肉食獣のような雰囲気を纏っている。 「そっちも、もう待ってられないって感じみたいじゃん」 「えぇ、この日が楽しみで仕方がありませんでした。テイオーの説得が功を奏したのか、それは分かりませんが……私もライアンも大いに期待しています。貴方の走りがどれだけ心を滾らせてくれるのか」 「……胸を貸してもらいます」 ネイチャの言葉に黒い勝負服のウマ娘は微笑むとゲートの中へと入っていった。続々とメジロライアンや、他のウマ娘もゲートに入っていく。 そして自身もゲートに入ろうとするとき、風がネイチャの頬を撫でて、誘われるようにその視線をスタンドに動かしたかと思うと、今日の二番人気は飛び込むようにゲートの中に入った。 その中でレースはまだ始まっていないというのに、少しだけ息を荒くして下向きに息を吐く。
3 21/08/21(土)02:14:52 No.837384845
「……兄貴」 ネイチャが見たもの、もういない自分のトレーナーと瓜二つの男だった。隣にはイクノディクタスもいた。 バレないように、遠い席に座っていたのだろう。だがハッキリと分かってしまった。 「ダメだ、ダメだダメだダメだ……もう会わない、何も思わないって。そう決めたじゃん……!」 最悪だ、とネイチャは心の中で悪態をつく。だが彼の顔を思い出すたびに、色んな思い出がよみがえってくるようで心にいろんな感情が入り込んで破裂せんばかりに膨らんでしまう。最悪のタイミングだ。 「全員ゲートイン完了」 「ネイチャさん、何をやっているんですか! レースに集中!」 「――ッ!」 ゲートが開く数秒前、息を飲む静寂に包まれたレース場の中で、二つ隣のマックイーンが上げた声に、慌ててネイチャは脚を踏み込んだ姿勢へと変える。それと同時にゲートが一斉にオープンした。
4 21/08/21(土)02:15:43 No.837385014
「さぁ、十五人綺麗なスタートを切りました。やはり逃げ宣言のツインターボが出てくるのか、青い髪が出てまいりました。その後ろにダイタクヘリオス、注目のメジロマックイーンは七番手!」 「ちょっ、ターボいきなりそのペースはヤバたんじゃない? 2500もつん!?」 「ターボ全開ーーー!!」 「(ネイチャさんが仕掛けてこない。このままではペースリードはツインターボさんが握ることになります。わざとなのかそれとも……)」 期待を裏切らない、ターボの逃げが繰り出されて会場は一瞬でヒートアップした。ただしついていくのはヘリオスのみで、そのペースを基準としながら各自が速度を抑えてターボへとついていく。 ナイスネイチャはその中で、ただマックイーンの後方で脚を進めていた。 「八番手ナイスネイチャ、これはマックイーンマークか!」 「(なるほど、私の後ろ。それでも何も感じない……先ほどのギリギリのスタートといい、直前で何かがあったのでしょうか。どちらにせよこのままではまったく手ごたえがありません。やれやれ……こういうのはキャラじゃないのですけれど……)」